読書感想文・蔵出し (26)
読書感想文です。 この前文を書いているのは、8月10日の夜なのですが、私は、明日11日に、施餓鬼を控えていまして、あまりの嫌さに、気もそぞろ。 正直言って、ブログ記事の準備なんかできる精神状態ではないのです。 どーして、家を継いだわけでもない私が、施餓鬼に行かねばならないのか、筋が通らぬ。 それ以前の問題として、あんな拷問みたいなイベント、今時、誰が好き好んで参加したがるのか、気が知れません。 馬鹿じゃないの?
≪顔のない告発者≫
創元推理文庫
東京創元社 1985年初版
ブリス・ペルマン 著
いくぶん、短かめですが、長編推理小説です。 作者は、フランス人。 この作品は、1983年に発表されたもの。 巻末の訳者あとがきから分かる情報は、その程度です。 海外の推理小説というと、ほとんど、イギリス製ですが、80年代に、フランスでも、推理小説を書いていた人がいたんですねえ。 母が買った本に違いないのですが、なぜ、これを選んだのかは、もはや、当人に訊いても、思い出せますまい。 32年も前ではねえ。
知人の催したパーティーからの帰り、深夜の高速道路で、カーブを曲がりきれずに交通事故死した夫人について、「事故ではない」という投書が、警察に届き、車に細工の跡があった事から、クレマン警部が関係者を調べ始める。 捜査が進む内に、夫人を巡る複雑な人物相関が浮かび上がって来る話。
特につまらないわけではないが、特に面白くもないという、中途半端な小説です。 謎とトリックへの興味で、どうにかこうにか先へ引っ張って行くものの、ストーリーに緊張感がなくて、ただ、事実を羅列されているだけという感じ。 読んでいるこちらに、80年代のフランスへの興味が、全くないというのも、問題なんでしょうけど。
微妙にネタバレになってしまいますが、トリックの方は、「はあ? あー、そーですか」という程度のものです。 これでも、推理小説の分類としては、「本格」に入るのだから、本格という言葉も、安っぽく使われているものです。 だけど、大抵の本格推理小説は、今の感覚で読むと、子供騙しっぽく感じられますから、この作品だけ貶すのも、酷ですな。
内容とは無関係ですが、このカバー・イラストは、なんなんですかね? これ、ほんとに、プロが描いたんでしょうか? とても、報酬が発生するような絵には見えませんが。 それから、帯の宣伝コピー、「死にいたる失踪」ですが、確かに、その通りではあるものの、失踪が終わって、死に至った後から、話が始まるので、作品の内容に、疾走感は、全くありません。
≪イレブン殺人事件≫
角川文庫
角川書店 1986年初版
西村京太郎 著
86年というと、私が、ひきこもりから脱して、植木屋見習いで働き始めた年ですなあ。 86という数字を聞いただけで、懐かしい。 きつい仕事で、私は、毎日、地獄を見ていたけれど、母は、その頃、こういう本を読んでいたわけだ。
西村京太郎さんの、短編集です。 西村さんの代表作に、≪消えた巨人軍≫や、≪消えたエース≫という、野球チームに関わるものがあるので、「イレブン」というから、てっきり、サッカー・チームに絡んだ殺人事件が起こる長編かと思いきや、全然違うんですな、これが。 ただ、11作の短編が収録されているから、「イレブン」なのです。 カバー・イラストも、紛らわしい。 てっきり、高校サッカー部のマネージャーか何かだと思うじゃありませんか。
【ホテルの鍵は死への鍵】
【歌を忘れたカナリヤは】
【ピンク・カード】
【仮面の欲望】
【優しい悪魔たち】
【受験地獄】
【危険なサイドビジネス】
【水の上の殺人】
【危険な道づれ】
【モーツァルトの罠】
【死体の値段】
並びは、発表順で、一番古いのが、1972年、一番新しいのが、1981年です。 足かけ10年間ですが、西村さんは、作家歴が長いですから、ほぼ、同時期に書かれた作品群と見てもよいと思います。 どれを読んでも、そんなに古い感じはしません。 70年代は、携帯電話やインターネットの存在を除けば、自家用車が行き渡るほど、そこそこ豊かになっていて、すでに、現代とあまり変わらない社会になっていたわけですな。
推理小説といっても、短編なので、読者の方で推理する暇もなく、終わってしまいます。 アイデアは、いずれも、レベルが高くて、長編の中に織り込んでも通用するものばかり。 ストーリーは、皮肉な結末が付いたものが多く、松本清張さんの短編に、読後感が似ています。 こちらの方が、現代風ですけど。
【受験地獄】は、確か、初期の2時間サスペンスで、ドラマ化されていたと思いますが、30ページにも満たない短編を、2時間に引き延ばしたのだから、驚きます。 それができるなら、残りの10作全て、2時間ドラマに、できそうです。 もう、なっているのかも知れませんが、調べる気力がないです。
≪ミステリー列車が消えた≫
新潮文庫
新潮社 1985年初版
西村京太郎 著
1981年から、82年にかけて、週刊新潮に連載された、長編推理小説。 文庫版で、400ページくらいある、そこそこ長い部類の長編です。 ≪消えたエース≫を先に読んでいたお陰で、「長めの長編には、力が入っている」という、西村京太郎作品の傾向が僅かながら掴めていたのですが、読み始めたら、その通りでした。
「ミステリー列車」と銘打たれたイベントで、400人の乗客を乗せて、東京駅を出発したブルー・トレインが、行方不明になり、列車ごと誘拐したという犯人から、身代金10億円が要求される。 十津川警部とその部下たちが、国鉄職員の強力を得ながら、消えた列車を捜し、犯人を特定して行く話。
面白いです。 列車が、丸ごと消えたトリックも面白いし、僅かな手がかりから、犯人を炙り出して行く過程も、緊迫感が漲っていて、背中がゾクゾクします。 列車ごとの誘拐というアイデアは、常識以前に、感覚的なレベルで、荒唐無稽なはずなのに、この小説を読んでいると、実際にできると思わせられてしまうところが、凄い。
つまり、西村京太郎さんは、生み出すアイデアが奇抜なのもさる事ながら、物語の語り方が、飛び抜けて、巧いんですなあ。 こんなトンデモなアイデアを、傑作級の小説に書き上げられる人は、そうそう、いないのではありますまいか。 人気作家になったのも、全然、不思議ではないです。
犯人が、最後まで登場しないのも、変わってますねえ。 当然の事ながら、犯人逮捕後のダラダラと長い因縁話などという、鬱陶しいものも、存在しません。 緊迫したサスペンスをたっぷり堪能させた後、スパッと幕を引くところが、実に清々しいです。
とにかく、本が手に入るようなら、読んでみる事を、強力にお薦めします。
≪赤い帆船(クルーザー)≫
角川文庫
角川書店 1982年初版 1985年9版
西村京太郎 著
1973年の発表。 西村京太郎さんが、まだトラベル・ミステリーを書き始める前に、海洋ミステリーを書いていた時期があったらしいのですが、その中の一作で、十津川警部が、初めて登場した作品だとの事。 これといった前触れもなく出て来る点は、後の登場作品と変わりないので、この作品だけ読んだのでは、そうと気づきませんけど。
ヨットによる単独無寄港世界一周を成し遂げた青年が、交通事故死するが、それが殺人であった事が分かり、捜査を任された十津川警部補が、青年を殺す動機がある者達を調べ始める。 交通事故が起きた時に行なわれていた、東京-タヒチ間のヨット・レースに参加していた選手達は、当初、容疑者から外されていたが、その中に、最も動機が強い男が入っている事が分かり、鉄壁のアリバイを崩す為に、十津川警部補が苦闘する話。
文庫で、440ページ、あります。 もし、90年代以降に出版されたとしたら、二冊に分けられたかも知れないページ数ですな。 西村京太郎さんの長めの長編は、読み応えがあると決まっていまして、この作品も、その例に漏れず、面白いです。 ただ、≪消えたエース≫や、≪ミステリー列車が消えた≫など、後々の長編と比べると、少し、長過ぎる感じもします。 書きたい事が多過ぎたんじゃないかと思われます。
松本清張さんに、≪火と汐≫という作品があるのですが、そのトリックを、犯人による警察への目晦ましとして使ってあります。 本当に使われたトリックは、他にあるという、凝った構成。 そちらのトリックは、「これ、本当にできるのかな?」と思わせるところがありますが、私も含めて、船乗りの経験がない読者が相手なら、文句を言わせないだけのリアリティーは保っていると思います。
この作品で、少し残念なのは、理屈っぽ過ぎる点ですかね。 簡単に、「これは、こうだ」と書いてしまえば、読者は、そのまま受け入れるのに、「これは、こうだから、こうだ」と、書かなくてもいい理由を書いているので、その分、長く感じられるのです。 西村京太郎さんのその後の作品では、見られなくなる特徴ですな。
以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2017年の
≪顔のない告発者≫が、5月初め。
≪イレブン殺人事件≫が、5月中旬前半。
≪ミステリー列車が消えた≫が、5月半ば。
≪赤い帆船≫が、5月中旬後半。
その後、≪ミステリー列車が消えた≫のドラマを、渡瀬恒彦版・十津川警部シリーズで見たのですが、原作の良さを、台なしにしていて、ガッカリしました。 翻案のし過ぎ。 これだけ、ドライな原作を、お涙頂戴にしてしまう、その最低のセンスには、呆れ返ります。 つまり、原作のどこが面白いのか、全く、読み取れてないわけだ。
≪顔のない告発者≫
創元推理文庫
東京創元社 1985年初版
ブリス・ペルマン 著
いくぶん、短かめですが、長編推理小説です。 作者は、フランス人。 この作品は、1983年に発表されたもの。 巻末の訳者あとがきから分かる情報は、その程度です。 海外の推理小説というと、ほとんど、イギリス製ですが、80年代に、フランスでも、推理小説を書いていた人がいたんですねえ。 母が買った本に違いないのですが、なぜ、これを選んだのかは、もはや、当人に訊いても、思い出せますまい。 32年も前ではねえ。
知人の催したパーティーからの帰り、深夜の高速道路で、カーブを曲がりきれずに交通事故死した夫人について、「事故ではない」という投書が、警察に届き、車に細工の跡があった事から、クレマン警部が関係者を調べ始める。 捜査が進む内に、夫人を巡る複雑な人物相関が浮かび上がって来る話。
特につまらないわけではないが、特に面白くもないという、中途半端な小説です。 謎とトリックへの興味で、どうにかこうにか先へ引っ張って行くものの、ストーリーに緊張感がなくて、ただ、事実を羅列されているだけという感じ。 読んでいるこちらに、80年代のフランスへの興味が、全くないというのも、問題なんでしょうけど。
微妙にネタバレになってしまいますが、トリックの方は、「はあ? あー、そーですか」という程度のものです。 これでも、推理小説の分類としては、「本格」に入るのだから、本格という言葉も、安っぽく使われているものです。 だけど、大抵の本格推理小説は、今の感覚で読むと、子供騙しっぽく感じられますから、この作品だけ貶すのも、酷ですな。
内容とは無関係ですが、このカバー・イラストは、なんなんですかね? これ、ほんとに、プロが描いたんでしょうか? とても、報酬が発生するような絵には見えませんが。 それから、帯の宣伝コピー、「死にいたる失踪」ですが、確かに、その通りではあるものの、失踪が終わって、死に至った後から、話が始まるので、作品の内容に、疾走感は、全くありません。
≪イレブン殺人事件≫
角川文庫
角川書店 1986年初版
西村京太郎 著
86年というと、私が、ひきこもりから脱して、植木屋見習いで働き始めた年ですなあ。 86という数字を聞いただけで、懐かしい。 きつい仕事で、私は、毎日、地獄を見ていたけれど、母は、その頃、こういう本を読んでいたわけだ。
西村京太郎さんの、短編集です。 西村さんの代表作に、≪消えた巨人軍≫や、≪消えたエース≫という、野球チームに関わるものがあるので、「イレブン」というから、てっきり、サッカー・チームに絡んだ殺人事件が起こる長編かと思いきや、全然違うんですな、これが。 ただ、11作の短編が収録されているから、「イレブン」なのです。 カバー・イラストも、紛らわしい。 てっきり、高校サッカー部のマネージャーか何かだと思うじゃありませんか。
【ホテルの鍵は死への鍵】
【歌を忘れたカナリヤは】
【ピンク・カード】
【仮面の欲望】
【優しい悪魔たち】
【受験地獄】
【危険なサイドビジネス】
【水の上の殺人】
【危険な道づれ】
【モーツァルトの罠】
【死体の値段】
並びは、発表順で、一番古いのが、1972年、一番新しいのが、1981年です。 足かけ10年間ですが、西村さんは、作家歴が長いですから、ほぼ、同時期に書かれた作品群と見てもよいと思います。 どれを読んでも、そんなに古い感じはしません。 70年代は、携帯電話やインターネットの存在を除けば、自家用車が行き渡るほど、そこそこ豊かになっていて、すでに、現代とあまり変わらない社会になっていたわけですな。
推理小説といっても、短編なので、読者の方で推理する暇もなく、終わってしまいます。 アイデアは、いずれも、レベルが高くて、長編の中に織り込んでも通用するものばかり。 ストーリーは、皮肉な結末が付いたものが多く、松本清張さんの短編に、読後感が似ています。 こちらの方が、現代風ですけど。
【受験地獄】は、確か、初期の2時間サスペンスで、ドラマ化されていたと思いますが、30ページにも満たない短編を、2時間に引き延ばしたのだから、驚きます。 それができるなら、残りの10作全て、2時間ドラマに、できそうです。 もう、なっているのかも知れませんが、調べる気力がないです。
≪ミステリー列車が消えた≫
新潮文庫
新潮社 1985年初版
西村京太郎 著
1981年から、82年にかけて、週刊新潮に連載された、長編推理小説。 文庫版で、400ページくらいある、そこそこ長い部類の長編です。 ≪消えたエース≫を先に読んでいたお陰で、「長めの長編には、力が入っている」という、西村京太郎作品の傾向が僅かながら掴めていたのですが、読み始めたら、その通りでした。
「ミステリー列車」と銘打たれたイベントで、400人の乗客を乗せて、東京駅を出発したブルー・トレインが、行方不明になり、列車ごと誘拐したという犯人から、身代金10億円が要求される。 十津川警部とその部下たちが、国鉄職員の強力を得ながら、消えた列車を捜し、犯人を特定して行く話。
面白いです。 列車が、丸ごと消えたトリックも面白いし、僅かな手がかりから、犯人を炙り出して行く過程も、緊迫感が漲っていて、背中がゾクゾクします。 列車ごとの誘拐というアイデアは、常識以前に、感覚的なレベルで、荒唐無稽なはずなのに、この小説を読んでいると、実際にできると思わせられてしまうところが、凄い。
つまり、西村京太郎さんは、生み出すアイデアが奇抜なのもさる事ながら、物語の語り方が、飛び抜けて、巧いんですなあ。 こんなトンデモなアイデアを、傑作級の小説に書き上げられる人は、そうそう、いないのではありますまいか。 人気作家になったのも、全然、不思議ではないです。
犯人が、最後まで登場しないのも、変わってますねえ。 当然の事ながら、犯人逮捕後のダラダラと長い因縁話などという、鬱陶しいものも、存在しません。 緊迫したサスペンスをたっぷり堪能させた後、スパッと幕を引くところが、実に清々しいです。
とにかく、本が手に入るようなら、読んでみる事を、強力にお薦めします。
≪赤い帆船(クルーザー)≫
角川文庫
角川書店 1982年初版 1985年9版
西村京太郎 著
1973年の発表。 西村京太郎さんが、まだトラベル・ミステリーを書き始める前に、海洋ミステリーを書いていた時期があったらしいのですが、その中の一作で、十津川警部が、初めて登場した作品だとの事。 これといった前触れもなく出て来る点は、後の登場作品と変わりないので、この作品だけ読んだのでは、そうと気づきませんけど。
ヨットによる単独無寄港世界一周を成し遂げた青年が、交通事故死するが、それが殺人であった事が分かり、捜査を任された十津川警部補が、青年を殺す動機がある者達を調べ始める。 交通事故が起きた時に行なわれていた、東京-タヒチ間のヨット・レースに参加していた選手達は、当初、容疑者から外されていたが、その中に、最も動機が強い男が入っている事が分かり、鉄壁のアリバイを崩す為に、十津川警部補が苦闘する話。
文庫で、440ページ、あります。 もし、90年代以降に出版されたとしたら、二冊に分けられたかも知れないページ数ですな。 西村京太郎さんの長めの長編は、読み応えがあると決まっていまして、この作品も、その例に漏れず、面白いです。 ただ、≪消えたエース≫や、≪ミステリー列車が消えた≫など、後々の長編と比べると、少し、長過ぎる感じもします。 書きたい事が多過ぎたんじゃないかと思われます。
松本清張さんに、≪火と汐≫という作品があるのですが、そのトリックを、犯人による警察への目晦ましとして使ってあります。 本当に使われたトリックは、他にあるという、凝った構成。 そちらのトリックは、「これ、本当にできるのかな?」と思わせるところがありますが、私も含めて、船乗りの経験がない読者が相手なら、文句を言わせないだけのリアリティーは保っていると思います。
この作品で、少し残念なのは、理屈っぽ過ぎる点ですかね。 簡単に、「これは、こうだ」と書いてしまえば、読者は、そのまま受け入れるのに、「これは、こうだから、こうだ」と、書かなくてもいい理由を書いているので、その分、長く感じられるのです。 西村京太郎さんのその後の作品では、見られなくなる特徴ですな。
以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2017年の
≪顔のない告発者≫が、5月初め。
≪イレブン殺人事件≫が、5月中旬前半。
≪ミステリー列車が消えた≫が、5月半ば。
≪赤い帆船≫が、5月中旬後半。
その後、≪ミステリー列車が消えた≫のドラマを、渡瀬恒彦版・十津川警部シリーズで見たのですが、原作の良さを、台なしにしていて、ガッカリしました。 翻案のし過ぎ。 これだけ、ドライな原作を、お涙頂戴にしてしまう、その最低のセンスには、呆れ返ります。 つまり、原作のどこが面白いのか、全く、読み取れてないわけだ。
<< Home