読書感想文・蔵出し (27)
読書感想文です。 今回は、西村京太郎作品だけ。 西村京太郎作品の場合、短編集よりも、長編の方が、早く読めるという、奇妙な現象が起こります。
≪東京駅殺人事件≫
光文社文庫
光文社 1988年初版 1992年26版
西村京太郎 著
1984年に、小説誌に連載された、長編推理小説。 文庫で、290ページくらいと、さほど長くはない長編です。 十津川警部が捜査に当たる、「駅シリーズ」の第一作だとの事。 しかし、十津川物としては、もう始まってから、9年も経っているわけで、亀井刑事など、部下の顔ぶれも定まって、安定しています。
一億円を出さなければ、東京駅を爆破するという脅迫電話があった後、東京駅に到着した寝台列車の中で、絞殺死体が発見され、そちらの捜査で東京駅に出向いてきた十津川警部が、脅迫事件の方も担当する事になる。 列車を使った身代金の受け渡しや、絞殺事件との関連、偶発的に起こった誘拐事件などが複雑に絡み合う中、十津川班が、事件の謎を少しずつ解明し、犯行グループを追い詰めて行く話。
面白いです。 私がこれまでに読んだ中では、≪ミステリー列車が消えた≫に次ぐくらいの読み応えがあります。 書かれた時期も近いから、油が乗っていた頃だったんでしょう。 ただ、≪ミステリー列車が消えた≫と比べると、短い分、描き込みが浅く、少し軽い感じがしないでもないです。
トリックは、何回か行なわれる身代金受け渡しのところに使われていますが、列車を使った身代金受け渡し方法は、ミステリーの世界では、前例がいくらもあるから、新機軸を打ち出しても、「似たようなアイデアが、すでに、出ているのでは?」と思えてしまって、素直に驚けません。 もし、本当に、オリジナルのアイデアだとしたら、作者には気の毒な状況ですな。
しかし、トリックや謎のアイデアを別にしても、ストーリーの語り方が巧いので、話に引き込まれて、ページはどんどん進みます。 決して、セリフばかりで、中身がスカスカな小説ではないのに、この進みの速さは、特筆物だと思います。
≪午後の恐喝者≫
講談社文庫
講談社 1985年初版
西村京太郎 著
母の蔵書。 9作品が収められた、短編集です。 90年代初頭、電車通勤していた頃に、一度読んでいるのですが、【私は職業婦人】以外は、すっかり忘れていました。
【午後の脅迫者】
【密告】
【二一・00時に殺せ】
【美談崩れ】
【柴田巡査の奇妙なアルバイト】
【私は職業婦人】
【オーストラリアの蝉】
【成功報酬百万円】
【マルチ商法】
多いので、一作ずつの感想は勘弁してください。 並びは、発表順で、最も古いのは、1972年、最も新しいのは、1985年。 同時期の作品群というには、ちと、開きがありすぎますかね。 だけど、話の雰囲気には、みな、似たところがあります。 そういうものだけ、集めて、収録したのかも知れません。
皮肉な結末には拘っていないようで、その点はバラバラ。 世の中や、人間の本性を、冷め切った目で見ている点は、全作、共通しています。 主人公は、興信所の所員や、くたびれた刑事が多いです。 この短編集の収録作品に限らず、西村さんの作品に、人情物というのは、ほとんどないのではないかと思えて来ました。 因縁話で泣かせるストーリーなど、最も嫌っているのではないかと思います。
【私は職業婦人】は、一風変わった作品で、これだけ記憶していたのは、特徴的だったからでしょう。 専業主婦が、職業意識の強さから、何人かを殺すという話ですが、専業主婦という「職業」に対する、世間一般の認識の甘さを突いたアイデアで、唸らされます。 これはちょっと、西村京太郎さんより、前の世代の作家では、思いつけない話でしょう。 逆に、専業主婦が珍しくなってしまった現代では、ピンと来ない読者もいるのではないかと思います。
【マルチ商法】は、雑誌「ショートショートランド」に掲載されたもので、ショートショートの作法に則り、いかにも、ショートショート的なオチがつけられています。 西村京太郎さんの器用さが良く表れていると思いますが、ちと、型に嵌まりすぎている気がしないでもなし。 他のジャンルの作家が、ショートショートを書く時、一番恐れるのは、「こういうのは、ショートショートとは言わない」という評価だと思うので、無難に、当たり障りのない線を狙ったのかも知れません。
≪消えたドライバー≫
廣済堂文庫
廣済堂出版 1990年初版 1996年22版
西村京太郎 著
廣済堂文庫というのは、初めて見ました。 いろんな出版社があるものなんですねえ。 96年だから、間違いなく、母がコンビニ・バイト時代に買ったもの。 この本も、いかにも、コンビニの本棚に並んでいそうな装丁です。
奥付けに、発行年が書いてなくて、あちこち見たら、カバーの裏表紙側の折り返し部分に書いてありました。 奥付けの方にも、権利マークの後ろに、初版年だけは入っています。 この方式なら、第2版以降も、本体はそのままで、カバーだけ変えればいいわけだ。 だけど、本体がそのままだと、巻末に付いている、他の本の宣伝ページを更新できないから、不都合もあると思うんですがね。
三作収められていますが、短編集というわけではなく、短かめの長編一作と、短編が二作で、編まれています。
【消えたドライバー】
これが、短かめの長編。 165ページくらいの長さです。 雑誌に、一挙掲載する都合で、こういう長さの作品が発注されたと、解説にあります。
テレビ番組の懸賞で、高級スポーツカーが当たったにも拘らず、名乗り出てこない人物を捜しに行ったディレクターと、バラバラ殺人事件の捜査をしていた刑事が、同じ家に辿り着き、当選者の正体に関わる謎が解き明かされて行く話。
短かめですが、アイデアがしっかりしていて、面白いです。 トリックというほどのトリックはなくて、謎で組み上げたストーリーですな。 当選者は、意外な人物なのですが、言われてみると、ちゃんと伏線が張ってあって、「ああ、なるほど」と思わせられます。
【死を呼ぶトランク】
60ページ。 東京から大阪まで、急遽、三十冊ばかりの本を送り届けなければならなくなった貧乏学生が、友人の知恵を借りて、新幹線の網棚にトランクをタダ載せして運ぼうとするが、着いた先でトランクから出てきたのは、首のない女の死体で、一体、誰が中身をすり替えたのかを、刑事達が調べて行く話。
アイデア勝負の話で、冒頭だけで、派手な部分は終わってしまうのですが、その後の捜査も、地味ながら、結構、面白く読めます。 学生二人がタダ載せ計画の話をしていた時に、同じ喫茶店にいた客の顔ぶれを思い出させて、調べて行く過程が、地道で、いかにも、刑事の捜査手法という感じが、滲み出ています。
【九時三十分の殺人】
50ページくらい。 「四月」、「十六日」、「九時三十分」、「カオル・三十歳」、「予告終了」という、ハガキが、警察に送りつけられ、最近、有名になった歌手が、あるテレビ番組の放送時間に狙われている事を察知した警察が、凶行を阻もうとする話。
「九時三十分」の方は、最初から、何の時刻か分かっているんですが、「カオル」という名前が、どこで出て来るかが、話の味噌。 ミステリー好きで、勘のいい人なら、事前に予測できるかもしれません。 長編の、冒頭と結末だけをくっつけたような話ですが、例によって、語り方が巧いので、面白く読めます。
≪会津若松からの死の便り≫
徳間文庫
徳間書店 1995年初版
西村京太郎 著
間違いなく、母がコンビニ・バイト時代に買った本。 くどくど何度も書きますけど、実に、コンビニ的な装丁だなあ。 5作が収められた短編集です。 単行本になったのは、1992年のようですが、各作品の初出年は、分かりません。
【会津若松からの死の便り】
会津若松から、東京へ来た女性が、交番で道を訊こうとして倒れ、死んでしまう。 行方不明になった姉を捜しに来たようだが、その捜査を依頼されていた探偵も行方不明になっていた。 十津川班の捜査で、姉が覚醒剤の密売組織に捕えられていると分かり、救出しようとするが、踏み込む証拠がなくて・・・、という話。
一応、謎はありますが、トリックはなくて、更に、後半がアクション物になっているという、西村京太郎作品としては、珍しい展開です。 十津川警部や、カメさんが、犯人達と銃撃戦を繰り広げるんですぜ。 原作にも、こういうのがあったんですねえ。 つまり、推理小説とは言い難いんですが、やはり、語り方が巧いので、面白く読めます。
【日曜日には走らない】
兵庫県の和田岬支線という、通勤客用の路線を取材に来たカメラマンが、車内で死んでいた女と関係ありと見做され、容疑者にされる。 ところが、被害者の素性を調べて行くと、カメラマンが雇われている雑誌社と関係があったと分かり、更に、彼女が素人モデルとして、掲載されていた写真の特徴から、撮影した人間が分かって、真犯人が明らかになる話。
通勤専用路線の、「行きは満員、帰りはガラガラ」という特徴を利用した出だしですが、主なモチーフは、カメラマンの写真の撮り癖の方です。 しかし、トラベル・ミステリーに拘らずに読むなら、充分に面白いです。 西村さんは、興味が広い人なんですなあ。
被害者と容疑者が、東京の人間だという事で、十津川班が東京での捜査を受け持ちますが、十津川警部シリーズに数えるには、ちと、関わりが少な過ぎると思います。
【下呂温泉で死んだ女】
下呂温泉近くの高山線の列車の中で、女の刺殺体が発見されるが、同じ車両に他の客が大勢いたにも拘らず、目撃者がいない事が、奇妙だった。 十津川警部と亀井刑事が、現場に赴き、その謎を解く話。
「トリックといえば、トリック」という感じのトリックでして、思わず、笑ってしまうものの、よく考えると、実際にやってみたら、ほんとに巧く行くのではないかと思わせる、リアリティーがあります。
【身代わり殺人事件】
自殺するつもりで、伊豆下田に向かった女が、列車の事故に遭遇し、ドサクサの内に、見ず知らずの男の婚約者と間違われて、その男の両親が住む、裕福な家に引き取られる。 同じ事故で怪我をして入院していた男が退院して来て、正体がバレるかと思いきや、男は、彼女の事を婚約者だと言い、結婚披露宴まで行なってしまう。 狐に抓まれたような気分で、しばらく過ごす内に、男がどういうつもりなのかが分かり、戦慄する話。
昼メロで、昔、こんなのがあったような・・・。 既視感があるせいか、他の作品ほど、面白くは感じられませんでした。 こういう話が初めての人なら、もっと、楽しめると思います。
【残酷な季節】
社長に頼まれて、小会社の社長になった直後、業務上横領の罪で逮捕されてしまった男が、騙されたと気づいて、社長一味に復讐する話。
救われない話で、読後感が良くないです。 主人公が、何もしていないのに、こんなひどい目に遭わされ、しかも、復讐が成功したとしても、その先に待っているのは、恐らく、破滅だけ、というのは、あまりにも、絶望的。
以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2017年の
≪東京駅殺人事件≫が、5月20日前後。
≪午後の恐喝者≫が、5月下旬前半。
≪消えたドライバー≫が、5月下旬半ば。
≪会津若松からの死の便り≫が、5月下旬半ば。
母は、西村京太郎作品を、かなり読んでいたわけですが、今は、すっかり忘れていて、どの本を持っているかも、まるっきり分からない様子。 西村京太郎作品が原作の2時間サスペンスを見ていても、原作について語るような事は、全くありません。 そこまで、綺麗さっぱり、記憶から消えるものなのなんでしょうか。
≪東京駅殺人事件≫
光文社文庫
光文社 1988年初版 1992年26版
西村京太郎 著
1984年に、小説誌に連載された、長編推理小説。 文庫で、290ページくらいと、さほど長くはない長編です。 十津川警部が捜査に当たる、「駅シリーズ」の第一作だとの事。 しかし、十津川物としては、もう始まってから、9年も経っているわけで、亀井刑事など、部下の顔ぶれも定まって、安定しています。
一億円を出さなければ、東京駅を爆破するという脅迫電話があった後、東京駅に到着した寝台列車の中で、絞殺死体が発見され、そちらの捜査で東京駅に出向いてきた十津川警部が、脅迫事件の方も担当する事になる。 列車を使った身代金の受け渡しや、絞殺事件との関連、偶発的に起こった誘拐事件などが複雑に絡み合う中、十津川班が、事件の謎を少しずつ解明し、犯行グループを追い詰めて行く話。
面白いです。 私がこれまでに読んだ中では、≪ミステリー列車が消えた≫に次ぐくらいの読み応えがあります。 書かれた時期も近いから、油が乗っていた頃だったんでしょう。 ただ、≪ミステリー列車が消えた≫と比べると、短い分、描き込みが浅く、少し軽い感じがしないでもないです。
トリックは、何回か行なわれる身代金受け渡しのところに使われていますが、列車を使った身代金受け渡し方法は、ミステリーの世界では、前例がいくらもあるから、新機軸を打ち出しても、「似たようなアイデアが、すでに、出ているのでは?」と思えてしまって、素直に驚けません。 もし、本当に、オリジナルのアイデアだとしたら、作者には気の毒な状況ですな。
しかし、トリックや謎のアイデアを別にしても、ストーリーの語り方が巧いので、話に引き込まれて、ページはどんどん進みます。 決して、セリフばかりで、中身がスカスカな小説ではないのに、この進みの速さは、特筆物だと思います。
≪午後の恐喝者≫
講談社文庫
講談社 1985年初版
西村京太郎 著
母の蔵書。 9作品が収められた、短編集です。 90年代初頭、電車通勤していた頃に、一度読んでいるのですが、【私は職業婦人】以外は、すっかり忘れていました。
【午後の脅迫者】
【密告】
【二一・00時に殺せ】
【美談崩れ】
【柴田巡査の奇妙なアルバイト】
【私は職業婦人】
【オーストラリアの蝉】
【成功報酬百万円】
【マルチ商法】
多いので、一作ずつの感想は勘弁してください。 並びは、発表順で、最も古いのは、1972年、最も新しいのは、1985年。 同時期の作品群というには、ちと、開きがありすぎますかね。 だけど、話の雰囲気には、みな、似たところがあります。 そういうものだけ、集めて、収録したのかも知れません。
皮肉な結末には拘っていないようで、その点はバラバラ。 世の中や、人間の本性を、冷め切った目で見ている点は、全作、共通しています。 主人公は、興信所の所員や、くたびれた刑事が多いです。 この短編集の収録作品に限らず、西村さんの作品に、人情物というのは、ほとんどないのではないかと思えて来ました。 因縁話で泣かせるストーリーなど、最も嫌っているのではないかと思います。
【私は職業婦人】は、一風変わった作品で、これだけ記憶していたのは、特徴的だったからでしょう。 専業主婦が、職業意識の強さから、何人かを殺すという話ですが、専業主婦という「職業」に対する、世間一般の認識の甘さを突いたアイデアで、唸らされます。 これはちょっと、西村京太郎さんより、前の世代の作家では、思いつけない話でしょう。 逆に、専業主婦が珍しくなってしまった現代では、ピンと来ない読者もいるのではないかと思います。
【マルチ商法】は、雑誌「ショートショートランド」に掲載されたもので、ショートショートの作法に則り、いかにも、ショートショート的なオチがつけられています。 西村京太郎さんの器用さが良く表れていると思いますが、ちと、型に嵌まりすぎている気がしないでもなし。 他のジャンルの作家が、ショートショートを書く時、一番恐れるのは、「こういうのは、ショートショートとは言わない」という評価だと思うので、無難に、当たり障りのない線を狙ったのかも知れません。
≪消えたドライバー≫
廣済堂文庫
廣済堂出版 1990年初版 1996年22版
西村京太郎 著
廣済堂文庫というのは、初めて見ました。 いろんな出版社があるものなんですねえ。 96年だから、間違いなく、母がコンビニ・バイト時代に買ったもの。 この本も、いかにも、コンビニの本棚に並んでいそうな装丁です。
奥付けに、発行年が書いてなくて、あちこち見たら、カバーの裏表紙側の折り返し部分に書いてありました。 奥付けの方にも、権利マークの後ろに、初版年だけは入っています。 この方式なら、第2版以降も、本体はそのままで、カバーだけ変えればいいわけだ。 だけど、本体がそのままだと、巻末に付いている、他の本の宣伝ページを更新できないから、不都合もあると思うんですがね。
三作収められていますが、短編集というわけではなく、短かめの長編一作と、短編が二作で、編まれています。
【消えたドライバー】
これが、短かめの長編。 165ページくらいの長さです。 雑誌に、一挙掲載する都合で、こういう長さの作品が発注されたと、解説にあります。
テレビ番組の懸賞で、高級スポーツカーが当たったにも拘らず、名乗り出てこない人物を捜しに行ったディレクターと、バラバラ殺人事件の捜査をしていた刑事が、同じ家に辿り着き、当選者の正体に関わる謎が解き明かされて行く話。
短かめですが、アイデアがしっかりしていて、面白いです。 トリックというほどのトリックはなくて、謎で組み上げたストーリーですな。 当選者は、意外な人物なのですが、言われてみると、ちゃんと伏線が張ってあって、「ああ、なるほど」と思わせられます。
【死を呼ぶトランク】
60ページ。 東京から大阪まで、急遽、三十冊ばかりの本を送り届けなければならなくなった貧乏学生が、友人の知恵を借りて、新幹線の網棚にトランクをタダ載せして運ぼうとするが、着いた先でトランクから出てきたのは、首のない女の死体で、一体、誰が中身をすり替えたのかを、刑事達が調べて行く話。
アイデア勝負の話で、冒頭だけで、派手な部分は終わってしまうのですが、その後の捜査も、地味ながら、結構、面白く読めます。 学生二人がタダ載せ計画の話をしていた時に、同じ喫茶店にいた客の顔ぶれを思い出させて、調べて行く過程が、地道で、いかにも、刑事の捜査手法という感じが、滲み出ています。
【九時三十分の殺人】
50ページくらい。 「四月」、「十六日」、「九時三十分」、「カオル・三十歳」、「予告終了」という、ハガキが、警察に送りつけられ、最近、有名になった歌手が、あるテレビ番組の放送時間に狙われている事を察知した警察が、凶行を阻もうとする話。
「九時三十分」の方は、最初から、何の時刻か分かっているんですが、「カオル」という名前が、どこで出て来るかが、話の味噌。 ミステリー好きで、勘のいい人なら、事前に予測できるかもしれません。 長編の、冒頭と結末だけをくっつけたような話ですが、例によって、語り方が巧いので、面白く読めます。
≪会津若松からの死の便り≫
徳間文庫
徳間書店 1995年初版
西村京太郎 著
間違いなく、母がコンビニ・バイト時代に買った本。 くどくど何度も書きますけど、実に、コンビニ的な装丁だなあ。 5作が収められた短編集です。 単行本になったのは、1992年のようですが、各作品の初出年は、分かりません。
【会津若松からの死の便り】
会津若松から、東京へ来た女性が、交番で道を訊こうとして倒れ、死んでしまう。 行方不明になった姉を捜しに来たようだが、その捜査を依頼されていた探偵も行方不明になっていた。 十津川班の捜査で、姉が覚醒剤の密売組織に捕えられていると分かり、救出しようとするが、踏み込む証拠がなくて・・・、という話。
一応、謎はありますが、トリックはなくて、更に、後半がアクション物になっているという、西村京太郎作品としては、珍しい展開です。 十津川警部や、カメさんが、犯人達と銃撃戦を繰り広げるんですぜ。 原作にも、こういうのがあったんですねえ。 つまり、推理小説とは言い難いんですが、やはり、語り方が巧いので、面白く読めます。
【日曜日には走らない】
兵庫県の和田岬支線という、通勤客用の路線を取材に来たカメラマンが、車内で死んでいた女と関係ありと見做され、容疑者にされる。 ところが、被害者の素性を調べて行くと、カメラマンが雇われている雑誌社と関係があったと分かり、更に、彼女が素人モデルとして、掲載されていた写真の特徴から、撮影した人間が分かって、真犯人が明らかになる話。
通勤専用路線の、「行きは満員、帰りはガラガラ」という特徴を利用した出だしですが、主なモチーフは、カメラマンの写真の撮り癖の方です。 しかし、トラベル・ミステリーに拘らずに読むなら、充分に面白いです。 西村さんは、興味が広い人なんですなあ。
被害者と容疑者が、東京の人間だという事で、十津川班が東京での捜査を受け持ちますが、十津川警部シリーズに数えるには、ちと、関わりが少な過ぎると思います。
【下呂温泉で死んだ女】
下呂温泉近くの高山線の列車の中で、女の刺殺体が発見されるが、同じ車両に他の客が大勢いたにも拘らず、目撃者がいない事が、奇妙だった。 十津川警部と亀井刑事が、現場に赴き、その謎を解く話。
「トリックといえば、トリック」という感じのトリックでして、思わず、笑ってしまうものの、よく考えると、実際にやってみたら、ほんとに巧く行くのではないかと思わせる、リアリティーがあります。
【身代わり殺人事件】
自殺するつもりで、伊豆下田に向かった女が、列車の事故に遭遇し、ドサクサの内に、見ず知らずの男の婚約者と間違われて、その男の両親が住む、裕福な家に引き取られる。 同じ事故で怪我をして入院していた男が退院して来て、正体がバレるかと思いきや、男は、彼女の事を婚約者だと言い、結婚披露宴まで行なってしまう。 狐に抓まれたような気分で、しばらく過ごす内に、男がどういうつもりなのかが分かり、戦慄する話。
昼メロで、昔、こんなのがあったような・・・。 既視感があるせいか、他の作品ほど、面白くは感じられませんでした。 こういう話が初めての人なら、もっと、楽しめると思います。
【残酷な季節】
社長に頼まれて、小会社の社長になった直後、業務上横領の罪で逮捕されてしまった男が、騙されたと気づいて、社長一味に復讐する話。
救われない話で、読後感が良くないです。 主人公が、何もしていないのに、こんなひどい目に遭わされ、しかも、復讐が成功したとしても、その先に待っているのは、恐らく、破滅だけ、というのは、あまりにも、絶望的。
以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2017年の
≪東京駅殺人事件≫が、5月20日前後。
≪午後の恐喝者≫が、5月下旬前半。
≪消えたドライバー≫が、5月下旬半ば。
≪会津若松からの死の便り≫が、5月下旬半ば。
母は、西村京太郎作品を、かなり読んでいたわけですが、今は、すっかり忘れていて、どの本を持っているかも、まるっきり分からない様子。 西村京太郎作品が原作の2時間サスペンスを見ていても、原作について語るような事は、全くありません。 そこまで、綺麗さっぱり、記憶から消えるものなのなんでしょうか。
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