2019/01/27

引退生活③ 【家の中の居場所】

  引退生活に失敗しないようにするには、どうしたらいいか。 「引退生活は、単なる、休日の連続ではない」というところから、意識改革すべきですな。 休日ならば、終われば、次の日には、仕事に出られるわけですが、引退生活では、次の日も休みです。 そのまた、次の日も、次の日も・・・。 「今日一日、凌げば、明日は別の生活に切り替わる」という事がないわけだ。 腰を据えて、かかる必要があります。




  まず、家の中の居場所を確保する。 自分の部屋があれば、基本的に、自分の部屋で、過ごすようにします。 配偶者など、他に、仕事をしていない人が家の中にいる場合、二人で居間に座り込んで、一日中、顔を突き合わせていると、互いに緊張し、窒息感に苦しむようになってしまうので、それを避ける為です。

  「自分の部屋なんか、ない」という人は、へらへら自嘲している場合ではなく、是が非でも、引退前に、確保しておくべきです。 仕事をしている間は、家は、「風呂、飯、寝る」だけの場所で、自分だけの居場所なんてなくても、さして不便を感じないと思いますが、引退後は、それを確保しておかないと、出かけたくもないのに、毎日、出かけて、外で、何時間も過ごさなければならなくなります。

  スーパーの休憩コーナーとか、図書館の閲覧コーナーとか、無料で座っていられる場所に行くと、閑が服を着て出かけて来たような爺さんどもが、所在投げに、ゴロゴロ溜まっていますが、ああいう人達は、文字通り、所在がないのであって、家に居場所がなくて、仕方なく、そういう場所に逃げて来ているのです。

  自分の家があるのに、その中にいられないというのは、惨めですなあ。 しかし、憐れとは思いません。 居場所の確保に真剣に取り組まなかったのは、その人達の自業自得ですから。 大方、仕事をしていた頃には、家に居つかずに、職場にへばりついたり、遊びに行ったりと、外でばかり過ごしていたんでしょう。 私生活を充実させる事を、疎かにしていたツケが回ったのだから、足腰立たなくなるまで、そんな生活を続けるしかないですな。


  アパートや賃貸マンションに、夫婦二人で暮らして、一人がフル就業で、もう一人が、パート就業、もしくは、無職という場合、1LDKくらいで、ちょうどいい広さですが、二人とも無職となると、明らかに、狭くなります。 大抵の場合、ダイニング・キッチンを除く2部屋は、隣り合っているわけで、すぐ隣の部屋では、物音やテレビの音声が聞こえますから、鬱陶しさは、同じ部屋に二人でいるのと、大差ありません。 で、一人は、日中、家から出ざるを得なくなるわけだ。

  2LDK以上なら、離れた部屋を2室確保できるから、二人で、家に居続ける事が可能です。 元子供部屋があって、今現在、その子供は、家を出ているという場合、さっさと片付けてしまって、引退後の自室にすべきですな。 子供の所有物を捨てさえしなければ、文句も言われないと思います。

  ちなみに、集合住宅住まいなのに、「いずれ、子供が帰って来るから、子供部屋は、そのまま取っておかないと・・・」などという考え方は、捨てるべきです。 一度家を出た子供が、帰ってなんぞ来るもんですか。 馬鹿馬鹿しい。 幻想としか言いようがない。 先々、当てになるかならないか怪しい子供に気を使うより、自分の居場所を確保する方が、遥かに大事です。 子供が、里帰りで、短時日、帰って来た時には、居間に寝かせれば、充分でしょう。

  それより何より、今は、中古の一戸建てが安く手に入りますから、引退前に、引っ越してしまっては如何か? 一戸建てなら、大抵、4LDK以上ありますから、二人で住むのなら、空間的に、お釣りが来ます。 独身の子供一人を加えて、三人暮らしでも、窒息感はないと思います。 いや、これは、私の家が、一時期そうだったから、実体験として言うわけですが。 うちは、5LDKで、日中、父母と私が、それぞれ、家の隅の部屋にいて、どの部屋から見ても、隣室はあいていましたから、鬱陶しさを感じる事はありませんでした。

  ずっと、借家住まいだった人達は、「家なんて、とても買えない」と思うでしょうが、場所や、築年数に拘るから、高い物件になってしまうのであって、その条件を外せば、借家の1・2年分の家賃と同じくらいの金額で買える一戸建ては、いくらでも見つかると思いますよ。 特に、今は、空き家の処分に困っている人が多いから、安い物件には事欠かないはず。

  場所なんて、引退後は、通勤するわけではないのですから、どこでもいいではありませんか。 徒歩でも、自転車でも、車でも、とにかく、行ける距離に、スーパーや、病院があれば、それで充分です。 買い物や通院の便を考えると、農村よりも、郊外の古い住宅地を探した方が、適当な物件を見つけられそうです。

  築年数が古くても、水周りなど、どうしても、我慢できない部分だけ、リフォームすれば、問題なく住めます。 水周りだけなら、100万円程度の予算でも、かなり、いろいろと直せると思います。 その他の部分は、DIYで、コツコツ、直していけば宜しい。 どうせ、引退後は、時間がたっぷりあるのですから。

  くれぐれも、「親戚や、昔の同僚に自慢できる、立派な家に住みたい」などと思わないように。 引退後は、そういう人達との付き合いは、限りなく、ゼロに近づいて行きます。 見栄を張る為ではなく、住処を確保する為に、家を買うのだという事を、決して、忘れないように。



  居場所の確保は、大変、重要なのですが、それに関連して、家族との人間関係も、疎かにしない方が良いです。 居場所があっても、家族と口も利けないなんて生活では、やはり、家にいたたまれなくなって、しょっちゅう、外出という羽目になりかねないですから。 「いやあ、女房とは、互いに、空気みたいな関係だから」というのは、よく聞く話ですが、その「互いに」というところが怪しいのであって、実は、女房側は、「早く死んでくれればいいのに」と思っている、というのも、よく聞く話です。

  一日に最低でも、一時間程度は、家族と団欒するのが望ましい。 夕食後に、居間で、家族と一緒にテレビを見る時間を取り、番組がつまらないと思っても、我慢して見る事です。 それをやっていれば、居間に於ける自分の座る場所を失わないで済みます。 「自分の部屋で、自分の見たい番組を見る」と言って、一度、居間の席を失ってしまうと、もう、戻れません。 自分が見たい番組なんて、録画しておいて、夜中か、昼間にでも見れば宜しい。 時間は、いくらでもあるのですから。

  一緒にテレビを見る団欒の際、基本的に、後から加わった人間は、番組選択権を主張しない事が肝要です。 それをやると、先に居間にいた人が、逃げて行ってしまいます。 元々、いがみ合っている関係でもなければ、先にいた人も、その内、団欒の時間だけは、誰でも見られるような番組に合わせてくれると思います。 その際、リアル・タイムで放送している番組に拘らず、ドラマの録画などを見るのもいいです。 2時間サスペンスの再放送などは、誰でも見られますから。

  仲良き事は良き事とはいえ、テレビ団欒の時間を、昼間まで広げるのは、良くないです。 たまたま、自分も見たいと思っていた番組を、家族が見ていたので、お相伴するというのなら、問題ないですが、昼間まで居間に座り込んで、「今度は、あれを見よう」などと言い始めると、相手が、鬱陶しさを覚えてしまいます。

  仕事をしていた間、家で家族とどう接するかなんて、その場の成り行き任せで、真面目に考えた事がなかったという人達に、こういう事を言っても、ピンと来ないと思いますが、実際に、引退生活を始めてみれば、家族との関係をうまく維持するのが、意外に難しいという事が、一ヵ月もしない内に、分かって来ると思います。

  自分の方が、後から、家で過ごす生活を始めた以上、「こちらに合わせようとしない家族の方が悪い」という主張は、通りませんから、関係が悪化する前に、折れ方、譲り方を、研究しておいた方がいいと思います。 一度こじれると、「夫婦だから」、「親子だから」なんて、甘えられる状況は、脆くも崩れ去って、家の中に敵がいる状態になってしまいます。


  そうそう、特に、男性に忠告ですが、引退後、夫婦で話をする機会が増えたからと言って、勤め先で同僚相手にやっていたような、「からかい」は、厳禁です。 とりわけ、「からかい」と「冗談」の区別が付いていない人は、「冗談」すら、言わない方がいいです。 必ず、そういう、ふざけたところから、人間関係は壊れて行きます。 「家族だろうが、夫婦だろうが、からかわれて、楽しい大人などいない」という事は、肝に銘じておくべきですな。

  他者を馬鹿にする事で、相対的優越感に浸り、自我を維持して来たような輩に至っては、もはや、アドバイスもありません。 家族に愛想を尽かされ、一人暮らしになってしまっても、それが、自分の人生なのだと、受け入れるしかないです。 他者をからかう事でしか、人間関係を保てないのですから、からかえる人間がいなくなってしまえば、それまでですな。 それが当たり前だと思っていた、処世観そのものが間違っていたのです。

  こういう人間、秘かに、多いんだわ。 子供の頃から、「からかう側ポジション」が染み付いているから、引退後に、それが原因で、家族との関係がまずい事になっても、態度を改められないんですな。 なーに、同情してやる事はないです。 さんざん、他者をからかい、見下し、笑い者にして来た、人間のクズなんですから、生き地獄に堕ちて行くのを、笑って見ていてやれば、それで宜しい。  


  もっと軽い症状で、ダジャレばかり口にして、女房に嫌がられている亭主というのが、これまた、少なからぬ割合で存在するようですが、まあ、なんというか、しょーもないですなあ。 男性の場合、ある年齢になると、ダジャレばかり思いつくようになる人が多いですが、それを、一日中、聞かされる方は、たまったものではないです。 恐らく、女房のご機嫌を取る為に、おどけているつもりなんでしょうが、呆れられ、嫌がられていたのでは、逆効果ではありませんか。


  趣味の話もしない方がいいですねえ。 人それぞれ、興味が違うんだから、その手の話につきあうのも、限度というものがあります。 もっとも、趣味の話に関しては、引退を待つまでもなく、現役の頃から、家族には話していない人が多いと思いますけど。 家族側にしてみれば、興味がないのに、さんざん、熱く語られて、聞き飽きて、うんざりしているわけだ。 それは、引退後に始めた趣味でも同じ事です。


  そんなに話題がないのなら、犬でも飼ったら? 仲が悪かった夫婦でも、犬を飼い始め、散歩を分担するようになれば、犬そのものや、散歩先で出会う犬仲間の人達の話題で、会話が弾み、仲が良くなります。 これは、そうなった例がいくらでも溢れていますから、確実です。 犬の散歩をしていれば、体力の衰えも防げますから、一石二鳥ですな。