2019/05/12

読書感想文・蔵出し (49)

  読書感想文です。 今回分から、完全に、三島市立図書館の本へ移行しました。 私の家からだと、清水町立図書館も、そこそこ遠いのですが、三島市立図書館は、その1.8倍くらい遠いです。 母自(電動アシスト車)で行くのですが、復路の途中で、バッテリーが切れてしまいます。 車で行かないのは、たかが趣味の為に、ガソリン代を使うのに、抵抗があるから。

  こんな苦労をするのも、沼津市立図書館が、横溝作品を揃えていないからなのですが、無料で借りるものですから、文句の言いようがありません。 リクエストすれば、県内の他の図書館から、取り寄せてくれますが、2週間以上かかります。 大変、面倒臭い。




≪呪いの塔≫

角川文庫
角川書店 1977年3月15日/初版 1996年1月20日/26版
横溝正史 著

  三島市立図書館にあったもの。 蔵書整理がバー・コード化された後で、購入されたからだと思いますが、スタンプの類いは、一切押してありません。 カバーの上に、透明ビニールを貼ってあり、程度は、大変良いのですが、なぜか、書庫に入っていました。 つまり、横溝作品を読みたがる人が、それだけ、減っているという事なのでしょう。

  新潮社が、1932年(昭和7年)4月から、翌年にかけて、刊行した、探偵小説の「書き下ろし長篇全集」、全10作の内、1932年8月に、第10作として、発表されたもの。 他の作品は、他の作家が書いています。 文庫本にして、約390ページもある、堂々たる長編。 戦前、しかも、耽美主義時代より前に、こんな作品があったとは、つゆ知りませんでした。


  軽井沢に滞在していた、探偵小説作家、大江黒潮が、同じく、軽井沢へロケに来ていた映画関係者の面々や、東京から呼び寄せた探偵小説仲間と共に、犯罪推理ゲームを計画する。 そのゲームは、別荘地の近くの、遊戯施設の廃墟内にある、入り組んだ構造の建築物、「バベルの塔」で行われたが、展望台にいた、被害者役の大江本人が、本当に殺されてしまい、更に、犠牲者が続く。 大江に小説のアイデアを与えていた、書かざる探偵小説作家、白井三郎が、東京に戻ってから、謎を解き、真犯人を炙り出す話。

  本格物です。 ただし、犯人側が仕掛けるトリックは、ありません。 探偵側が、謎を解いて行き、犯人を捕らえる為に、罠を仕掛けるだけです。 バベルの塔という、奇妙な建築物を、わざわざ設定した点は、ちょっと、ズルっぽく感じられますが、恐らく、怪奇な雰囲気が欲しいから入れたものであって、これがもし、普通の建物の廃墟であっても、話は成立したと思います。

  驚くのは、小説のスタイルが、大変、洗練されている事でして、「ほんとに、1932年の作か?」と、何度も、解説を見返して確認する事になります。 1970年頃に書かれたと言われても、おかしいと思わないくらい、新しい。 登場人物に和服姿の者が多かったり、煙草の銘柄が古かったり、公衆電話を、「自動電話」と書いたりしているから、大昔の話だと思い出す程度。

  犯人側のトリックはないし、謎も、あっと驚くようなものではないから、傑作と言うわけには行きませんが、ストーリーの語り方が巧みなのは、否定のしようがないところでして、先へ先へと、自然にページをめくってしまう点、横溝さんの長編としては、ダントツなのではないかと思います。

  この「書き下ろし長篇全集」というのは、大急ぎで刊行されたせいで、作家の執筆が間に合わず、代作者を立てる作家が続出したそうですが、もしや、この作品も、誰か、別の人が書いたのではありますまいか? だって、これだけ、新しいスタイルで、本格物を書いた人が、その後から、耽美主義や、草双紙趣味の作品を書きますかね? 【真珠郎】と比べても、こちらの方が、遥かに面白いです。

  これだけ面白いのに、映像化されていないのは、勿体ないですが、恐らく、バベルの塔を作るのに、予算を食われてしまうからでしょう。 だけど、前述したように、普通の建物でも、話は成立しますよ。 もっとも、第二部の方に、見せ場が少ないから、頭でっかちな作品になってしまうと思いますけど。



≪悪魔の家≫

角川文庫
角川書店 1978年3月5日/初版 1993年11月30日/23版
横溝正史 著

  三島市立図書館にあったもの。 これも、90年代に入ってから購入されたもので、程度は良いです。 書庫に入っているのが、残念なくらい。 全7作。 【薔薇王】だけが中編、それ以外は、短編です。


【広告面の女】 約34ページ
  1938年(昭和13年)1月、「新青年」に掲載。

  新聞の広告面に、女の顔が部分ごとに描き加えられて行き、一週間かけて完成すると、それは尋ね人の広告だった。 たまたま、さる子爵の邸内に、その女がいるのを発見した青年が、探りを入れていると、そこから瀕死の重傷を負って逃げ出してきた女が、自分の死体を、ある場所に運んでくれるように言い残して死ぬ。 青年が、その場所に行ってみると、意外な人物が待っていて・・・、という話。

  謎はあるけれど、探偵役はおらず、自然に謎が解けるというタイプ。 人物相関が込み入っている割には、話が短か過ぎで、アイデアを安売りした感がなきにしもあらず。 本来、長編の一部分にすべきアイデアだと思います。


【悪魔の家】 約34ページ
  1938年(昭和13年)5月、「富士」に掲載。

  ある夜、三津木俊助が、たまたま出会った女を、その家まで送って行ったところ、悪魔の姿が浮かび上がっては消えるのを目撃し、その家に住む幼女が、「アクマが来た!」と叫ぶ。 やがて、その家の主人が殺される事件が起こる。 その直前に、主人を訪ねて来た、義足の男が疑われるが、実は・・・、という話。

  金田一物にある、【殺人鬼】の、オリジナル版のようです。 しかし、【殺人鬼】の方には、悪魔の姿は使われておらず、大幅に改作されたというか、一部だけ取り出して、再利用されたような感じです。 ちなみに、【殺人鬼】は、同じ角川文庫で、80ページと、2倍以上の長さがあります。

  悪魔の姿、義足の男、せむし男など、ちょっと、怪奇小説の定番モチーフを揃え過ぎていて、この長さで、消化するのは、無理というもの。 その中でも中心になっている、悪魔の姿というのが、種明かしすると、全くの子供騙しでして、とても、戦後の作品では通用しなかったろうと思われます。 だから、書き換えの際に外してしまったわけだ。


【一週間】 約36ページ
  1938年(昭和13年)6月、「新青年」に掲載。

  ある新聞記者が、特ダネ欲しさに、狂言殺人をデッチ上げようとしたが、それが、本当の殺人事件に発展してしまい、殺人犯役だった男に泣きつかれて、「一週間で、真犯人を見つける」と言ってはみたものの、何の手掛かりもなく・・・、という話。

  シンプルな話で、これといった、捻りもありません。 話が単純な割に、結構、ページ数があるのは、新聞記者の生態を、詳しく描写しているから。 あまり、意味のない情報で、枚数を稼ぐ為に、描き込んだように思えます。 ラストは、取って付けたような纏め方。 もし、新人が、出版社の編集部に、こういうのを持ち込んだら、さんざん説教喰らって、返されるのではないかと思います。


【薔薇王】 約70ページ
  1939年(昭和14年)4月・5月、「新青年」に掲載。

  結婚式をすっぽかして逃げた贋子爵の男を、すっぽかされた女と、たまたま男の逃走を助けてしまった小説家の女が、それぞれ別々に、捜し出したところ、男の意外な正体が判明する話。

  そこそこ長いですが、エピソードを足して、もっと長い話にした方が相応しい内容です。 それも、推理小説ではなく、一般小説として書くべきような話ですなあ。 推理小説として読むと、全然、面白くないです。 上の【一週間】もそうですが、「新青年」は、横溝さんの古巣だから、こういうのでも、通ったんでしょうなあ。


【黒衣の人】 約30ページ
  1939年(昭和14年)4月、「婦人倶楽部」に掲載。 連載なのか、分載なのかは、不明。

  女優を殺した罪に問われ、未決囚として獄死した兄の無実を信じる妹が、4年後、「蓼科高原で知り合った、黒衣の人」から手紙を貰って、殺人事件があった場所へ行ったところ、今度は、4年前に殺された女優の弟子に当たる女が殺されているのに出くわす。 由利先生と三津木俊助が関わり、謎を解く話。

  推理小説としては、相当、不完全です。 「黒衣の人」とか、「ばら撒かれた碁石」とか、モチーフだけ並べておいて、話の本筋とは、全然、関係ないというのは、どうにも、誉めようがないです。 このページ数で、主要登場人物に加えて、由利先生と三津木俊助の二人を動かすのは、きつい。


【嵐の道化師】 約32ページ
  1939年(昭和14年)10月、「富士」に掲載。

  互いの父親が敵同士という、因果な男女が恋に落ち、将来を悲観して、心中しようとしていたところへ、犬が飛び込んできて、異常を報せる。 女の父親であるサーカスのピエロが、男の父親を殺して、逃げたのだった。 たまたま、通りかかった三津木俊助が、由利先生と共に、謎を解く話。

  三津木俊助という男、たまたま、通りかかり過ぎるのでは? それは、スルーするとして、サスペンス仕立てで、川の上での追撃場面もあり、いかにも、由利・三津木物という感じがします。 私は、あまり、好きではないですけど。 トリックは、すり替わり物で、よく使われるタイプ。

  クロという犬が大活躍しますが、戦前の横溝作品に出て来る動物にしては、珍しく、殺されません。 その点は、安心して読めます。


【湖畔】 約18ページ
  1940年(昭和15年)7月、「モダン日本」に掲載。

  S湖畔に現れる、古めかしい服装をした紳士には、日によって性格が極端に変わる特徴があった。 その紳士が、近くにある古着屋に強盗に入り、大金を盗んで逃げたが、翌朝、湖畔のいつもの場所で、宿のどてら姿で死んでいるのか発見された。 一年後、死んだはずの紳士が現れて、秘密を明かす話。

  以下、ネタバレ、あり。

  これも、すり替わり物です。 顔に痣がある時と、ない時で、性格が違うというので、すぐに、似た顔をした人間が二人いる事が分かります。 その点は、些か、分かりやす過ぎで、捻りがありませんが、湖畔の雰囲気を細かく描き込んでいるおかげか、作品の質は、高く感じられます。 推理小説ではなく、哀愁を感じさせる、一般小説として読んだ方が、味わい深いです。



≪人面瘡 【金田一耕助ファイル6】≫

角川文庫
角川書店 1996年9月25日/初版 2008年1月30日/24版
横溝正史 著

  三島市立図書館にあったもの。 書庫ではなく、開架にありました。 角川文庫ですが、1990年代になって、「金田一耕助ファイル」として、再編された本。 表紙は、絵ではなく、書です。 文字は、「面」。 長編は、一冊一作品だから、変わりはないですが、短編集は、再編されると、収録作品が変わり、ややこしくなります。

  長編1、中編2、短編2の、計5作を収録。 内、【睡れる花嫁】は、≪華やかな野獣≫に、【蜃気楼島の情熱】は、≪びっくり箱殺人事件≫にも収録されていて、それらの時に感想を書いてあるので、書きません。


【湖泥】 約106ページ
  1953年(昭和28年)1月、「オール読物」に掲載。 挑戦形式の作品で、推理ファンの三氏が解決部分を推理するという企画だったとの事。

  岡山の山村にある二つの旧家が、息子の嫁にと取り合っていた若い娘が行方不明になり、捜索を経て、湖畔の小屋から暴行を受けた死体が発見される。 小屋に住んでいる男は、暴行は認めたが、殺害はしていないという。 続いて、村長の妻が、やはり、死体で発見される。 若い娘が義眼を入れていた事を手がかりに、金田一が、殺害時刻当時の関係者のアリバイを崩して行く話。

  旧家の争いは、定番のパターン。 しかし、その設定は、殺人事件のそのものとは、直接関係していません。 旧家の争いという設定がなくても、成り立つ話です。 殺人が二つ起こる上に、容疑者が複数で、よくよく注意して読まないと、誰がどう怪しいのか、見失ってしまいます。

  実は、この作品、私の手持ちの本、≪貸しボート十三号≫にも収録されていて、二回くらい読んでいるのですが、冒頭の、湖の上での捜索場面と、死姦された若い娘の死体というのが、ビジュアル的に印象に残っていて、後ろの方は、すっかり、忘れていました。 ややこし過ぎて、記憶できなかったのだと思います。

  古谷一行さんの主演でドラマ化されているそうですが、私は、未見。 「死姦された若い娘の死体」というのは、映像にしたんですかね? テキトーに、ぼかしたとは思うんですが。 事件の中身は複雑なので、2時間もたせる事は可能だと思いますが、やはり、分かり難いのでは?


【蝙蝠と蛞蝓】 約30ページ
  1947年(昭和22年)9月、「ロック」に掲載。

  あるアパートに住む男が、隣に越して来た金田一耕助を、「蝙蝠」と呼び、裏に住んでいる女を、「蛞蝓」と呼んで、どちらも嫌っていた。 ある時、戯れに、裏の女を殺し、その罪を金田一に被せてしまうという小説を書いたが、その後、本当に女が殺されてしまって・・・、という話。

  ほんの小品ですが、金田一が登場して間もない頃の作品であるせいか、洒落が利いていて、読んでいて、楽しい気分になります。 事件の方は、全く、どうという事はないです。 些か、江戸川乱歩さんの短編っぽいかも。


【人面瘡】 約88ページ
  作品データ不明。 この本、角川文庫ですが、90年代になって、再編されたシリーズなので、解説がついていません。 おそらく、旧シリーズを見れば分かると思うのですが、行ける範囲の図書館には置いてない模様。

  岡山の湯治場で、夢遊病の気がある女中が、「妹を二度殺した」という遺書を書いて、自殺を図る。 その脇の下には、人面瘡があった。 やがて、その妹が、近くの淵で、死体となって発見される。 磯川警部と静養に来ていた金田一が、姉妹の過去を調べ、妹を殺した犯人と、人面瘡の謎を解く話。

  以下、ネタバレあり。

  この、妹というのが、曲者でして、まあ、殺されても仕方がないような輩。 事件は、シンプルなもので、話の中心は、その湯治場に流れて来るまでの姉妹の過去にあります。 空襲で焼け出されたドサクサに、身元を隠して、第二の人生を歩み出すというパターンは、日本の推理小説では、よく使われますねえ。

  人面瘡の方は、科学的な説明が施されています。 しかし、それはそれで、気味の悪い話でして、むしろ、ただの皺だった方が、まだ救われる感じがします。



≪首 【金田一耕助ファイル11】≫

角川文庫
角川書店 1976年11月/初版 1986年5月/18版 2003年5月/改版10版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 角川文庫ですが、1990年代になって、「金田一耕助ファイル」として、再編された新装版。 旧版では、【花園の悪魔】が表題作だったらしいですが、収録作品は同じです。 表紙は、絵ではなく、書で、文字は、「首」。 中編4作品を収録しています。


【生ける死仮面】 約70ページ
  発表データ、不明。 新装版には、解説がないものが多いようです。 旧版なら、書いてあると思うんですが、ネットで調べても分かりませんでした。 たぶん、1950年代半ば頃の作品だと思います。

  アトリエで、少年の腐乱死体が発見され、その傍らで、デス・マスクに彩色していた美術家が逮捕される。 デス・マスクから少年の身元が割れ、美術家の男色癖から起こった死体玩弄事件かと思われたが、金田一が、腐乱死体とデス・マスクが同一人物とは限らないと言い出し、等々力警部らが、振り回される話。

  首のない死体物のアレンジで、種明かしまで読んだ後で振り返ると、犯人の頭の良さが分かって、面白いです。 確かに、腐乱死体の傍らで、デス・マスクを愛おしそうに弄っていれば、その死体のデス・マスクだと思いますわなあ。 今なら、DNA鑑定で、すぐにバレてしまいますが、当時は、せいぜい、血液型くらいしか、調べようがなかったですから。

  「自然に起こる性転換」も、モチーフの一つになっていますが、そちらは、なくても、話は成り立ちます。 そちらはそちらで、中心テーマにして、別の話を作った方が良かったのでは? 中編のアイデアの一部として使ってしまったのでは、勿体ない。


【花園の悪魔】 約52ページ
  1954年(昭和29年)2月に、「オール読物」に掲載されたもの。

  東京近郊の温泉宿で、離屋に投宿した女が、宿付属の花園の中で、全裸死体で発見される。 すぐに、女の交際相手の青年が、容疑者として浮かび、指名手配されるが、行方はが掴めず、捜査は滞ってしまった。 1ヵ月半も過ぎた頃、金田一が現れ、等々力警部を、容疑者のところへ案内する話。

  途中から、ひょっこり顔を出した金田一が、等々力警部に、いきなり、謎解きをしてしまうという、妙に胸のすく展開です。 こういう話の時には、金田一が、シャーロック・ホームズ以上の名探偵に見えますねえ。 何せ、出て来た時には、もう、ほとんどの謎が解けているのだから。

  トリックも、謎も、舞台も、短編としては、十二分の内容で、完成度が高い作品です。


【蝋美人】 約90ページ
  1956年(昭和31年)、初出発表。 これも、ネットには出ていなくて、手持ちの春陽文庫「横溝正史長編全集18【蝋美人】」にある、僅かなデータで、発表年が分かるのみです。 「蝋」の字は、本来、旧字。

  名門学校を創設した教育一家に、息子の後妻として入った放埓な映画女優が、夫殺しの嫌疑を受けたまま、失踪する。 一年後、発見された白骨死体に、ある法医学博士が、肉付けして、復元したところ、その顔は、失踪した女優そのものだった。 しかし、その博士が教育一家と遺恨ある関係だった事が分かり、更に、博士本人が殺されてしまう。 金田一が、一年前の事件を、オルゴールの音から解きほぐし、顔復原のトリックを暴く話。

  面白いです。 復元した像のお披露目場面は、大変、ビジュアル的で、横溝作品の面目躍如というところ。 一年前の事件で止まったオルゴールの謎も、鮮やかというほどではないですが、なかなかのゾクゾク感があります。 このページ数で、これだけ、読み応えがあるのは、完成度が高い証拠ですな。

  この作品、古谷一行さん主演、「白蝋の死美人」というタイトルで、2004年に、ドラマ化されています。 女優役は、杉本彩さん。 古谷一行さんのシリーズとしては、終りから二番目という新しさで、新しくなるほど、出来は悪くなるんですが、この作品に限っては、完成度が高いです。 特に、音楽が良い。


【首】 約79ページ
  1955年(昭和30年)5月に、「宝石」に掲載されたもの。

  岡山の山村で、300年前に、一揆代表の生首が曝された岩の上に、一年前、近くの宿の婿養子が、同じように、生首を載せられて、殺された。 その事件を解かせるべく、磯川警部が、休暇と騙して、金田一を誘い込んだところ、今度は、映画のロケに来ていた監督が、生首にされてしまう・・・、という話。

  生首が三つも出て来て、ちと、多過ぎ。 しかし、やはり、三つないと、話が成立しないんですな。 それは仕方ないとしても、宿の部屋の天袋から、書き置きが出て来て、その一部を金田一が、たまたま見つけて、謎解きに繋がるというのは、ちと、偶然が過ぎませんかね。 更に、それに目を瞑るとしても、他人の使った方法で、もう一度、殺人事件を起こすというのは、やはり、リアリティーを欠きますなあ。 300年前ならともかく、現代の警察は、「○○様の祟り」では、そうそう騙されてはくれんでしょう。

  以下、ネタバレ、あり。

  ラストは、第二の生首事件について、不問という事になるのですが、金田一だけならともかく、磯川警部は、立場上、そうはいかんでしょう。 それが罷り通ってしまったら、警察は不要という事になってしまいます。 もっとも、相手が、古狸の磯川警部だったから、そういう談合もありと考えたのかも知れません。 もし、等々力警部が相手だったら、金田一も、腹芸を求めたりしなかったと思います。




  以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2019年の、

≪呪いの塔≫が、1月8日から、11日にかけて。
≪悪魔の家≫が、1月12日から、14日。
≪人面瘡≫が、1月15日から、19日。
≪首≫が、1月23日から、24日にかけて。

  今回の4冊は、全て、カバーが健在でした。 おしなべて、三島市立図書館の本は、程度が良いです。 カバー付きの本は、図書館で購入したら、すぐに、透明ビニールを貼ってしまえば、カバーの劣化を防げるんですが、清水町立図書館の横溝作品は、そういう対策が普及する前に、カバーがボロボロになって、取ってしまったんでしょう。

  横溝作品の角川文庫・新版について、少し補足しますと、≪首≫は、旧版の≪花園の悪魔≫の表題作を換えただけのものですが、≪人面瘡≫の方は、新版になってから再編したもので、旧版では、他の本にバラバラに収められています。

【睡れる花嫁】は、≪華やかな野獣≫に。
【蜃気楼島の情熱】は、≪びっくり箱殺人事件≫に。
【湖泥】は、≪貸しボート十三号≫に。
【蝙蝠と蛞蝓】は、≪死神の矢≫に。
【人面瘡】は、≪不死蝶≫に。

  金田一物の短編は、他にも、いくらでもあるのですが、どうしてまた、ごく僅かの作品だけが、再編されたのかは、不明です。

  新版の作品選択には、首を傾げるところが、他にもあります。 メジャー長編に、≪不死蝶≫が入っていないとか、通俗物で、≪悪魔の寵児≫と、≪幽霊男≫が入っているのに、≪吸血蛾≫だけ欠けているとか、金田一物ではないけれど、評価が高い、≪蝶々殺人事件≫や、≪真珠郎≫が入っていないとか。

  そもそも、当初、22冊限定という枠を嵌めていた上に、「金田一耕助ファイル」などという、シリーズ名をつけてしまったから、選択の幅が狭くなってしまったのであって、22冊に限定しなければならない理由がありますまい。 それが証拠に、後になってから、追加しているのですが、その中には、金田一物でない作品も含まれています。

  追加分の内、≪双生児は囁く≫や、≪喘ぎ泣く死美人≫のように、旧版の発行が終わった後で発掘された作品を纏めたものは、価値がある仕事だとは思いますが、横溝さんの代表的作品群とは言えないので、やはり、アンバランスな感じがします。

  まあ、こんな文句を言い出したら、しまいにゃ、「旧版全部、復刊すべし」という事になり、キリがないのですが。