2019/04/07

読書感想文・蔵出し (44)

  長引いた、引退生活の心得が、ようやく、終わりました。 今回から、しばらく、読書感想文です。 前に出したのが、去年(2018年)の10月7日ですから、随分、経ってしまいました。 読書は、ずっと、続いているので、だいぶ、在庫が溜まりました。 このシリーズ、すでに、読書も感想文書きも終わっていて、移植するだけだから、頭を使わずに済む点は楽なのですが、画像をアップするのが、面倒で、困ります。




≪花髑髏≫

角川文庫
角川書店 1976年4月/初版 1976年8月/3版
横溝正史 著

  清水町立図書館にあった本。 「清水町公民館図書室 昭和55年7月2日」のスタンプあり。 1980年ですな。 寄贈本ではなく、横溝正史ブーム中に、図書館で買ったものなのでしょう。 カバーはなく、雲模様になる前の、角川文庫の本体表紙です。 角川の古い「鳳凰マーク」入り。 長編、短編、中編各1作の、計3作品を収録しています。


【白蝋変化】 約208ページ
  1936年(昭和11年)4月から、12月まで、「講談雑誌」に連載されたもの。 「蝋」は、本来は、旧字体で、「びゃくろうへんげ」と読みます。


  妻を殺したという無実の罪で、死刑判決を下された男を、元恋人の女が、人を頼んで、刑務所の地下までトンネルを掘り、脱獄させようとするが、直前に牢の入れ替えがあり、白蝋三郎という恐ろしい犯罪者を助け出してしまう。 自由になった白蝋三郎は、自分を警察に売った女の所へ復讐に行くが、そこで、たまたま助けた美少年に、後に、繰り返し、してやられる事になる。 由利麟太郎、三津木俊助の探偵コンビも絡んで、怪奇趣味どっぷりのストーリーが展開する話。

  謎は、「美少年の正体は、誰か」に集中していて、それ以外は、ただの、怪奇小説です。 美少年の片腕の件など、トリックらしいものがある事はありますが、オマケみたいな扱いです。 この頃の横溝作品は、とにかく、怪奇趣味が最大の売りで、謎やトリックは、その道具立ての一部に過ぎなかったんでしょう。

  タイトルから推すと、白蝋三郎が中心人物という事になりますが、凶悪犯のくせに、美少年に出し抜かれてばかりで、ちっとも、いいところがありません。 これは、計算ミスでしょうな。 美少年を出したら、そちらの方が気に入ってしまい、白蝋三郎なんて、どうでもよくなってしまったのでしょう。

  ストーリーも、結構には、いい加減で、大雑把に人物相関だけ決めて、後は、筆に任せて書いて行った感が濃厚です。 そういう書き方をしていると、当然、辻褄が合わないところが出て来るのであって、なぜ、美少年が監禁されていたのか? 白蝋三郎は、無実の罪を着せられていた男に、何の恨みがあるのか? など、読み終わっても、納得できない部分が多いです。

  これは、ちと、ネタバレっぽくなりますが、すり替わり物、特に、性別が入れ替わっているパターンは、横溝作品では、本当に、よく出て来ますねえ。 あまり、繰り返されると、読者側は、驚くにも驚きようがなくなります。 もう、美少年が出てきたら、即、正体は女だと断定してもいいくらいです。

  ちなみに、由利麟太郎、三津木俊助のコンビは、「出て来る事自体が、蛇足」と言ってもいいくらい、余計な登場人物になっています。


【焙烙の刑】 約42ページ
  1937年(昭和12年)1月に、雑誌「サンデー毎日」に掲載された作品。 サンデー毎日って、戦前からあったのか・・・。 「焙烙」は、「ほうろく」と読みます。 蒸し焼きにする土鍋の事。


  ある男性映画俳優が、芸術家に嫁いだ又従妹の頼みで、殺人を犯して、ある一味に捕えられたという芸術家の身柄を引き取りに行く役目を引き受ける。 金を渡し、芸術家と共に、無事に解放されるが、道中、目隠しをされていたせいで、相手の首領が女である事以外、何も分からなかった。 その後、その首領に呼び出された先で、薬で眠らされ、ある場所で目覚めるが、そこには、又従妹も一緒に閉じ込められていて・・・、という話。

  この梗概を読んでも、全く分からないと思いますが、私も、よく分かっていません。 一体、どの部分を、読ませ所にしようとしているのかが、分からない。 書き方がアンバランスで、本来、もっとエピソードを足して、中編くらいにする話を、無理やり、短く書いたら、こうなってしまった、という感じです。

  読者としては、一味の首領の女が何者なのかが、最も気になるところですが、この長さでは、細かに描き込めるわけがなく、顎が外れるような、つまらない種明かしになっています。 「修善寺」のように、実在の地名も出て来るのですが、「ある山中の温泉地」程度の設定でも、何の問題もないくらい、リアリティーを感じない話です。

  由利麟太郎、三津木俊助のコンビは、名前だけ出て来るという程度。


【花髑髏】 約75ページ
  1937年(昭和12年)、雑誌「富士」の6月増刊号と、7月号に掲載された作品。 「花髑髏」は、「はなどくろ」。


  由利麟太郎の下に、「花髑髏」という差出人名の手紙が届けられ、その指示通りに出かけて行くと、荷車で運ばれて行く長持から、血が垂れている場面に出くわす。 中には、刃物で刺された女が入っており、その女の家に行くと、女の養父である医学者が殺されていた。 家出をしていた息子に嫌疑がかかる中、医学者の友人の博士の話で、昔、医学者が行なった犯罪行為が明らかになり、復讐殺人である事が分かっていく話。

  草双紙趣味の怪奇物。 長持の中に女とか、髑髏に血をかけるとか、おどろおどろしい場面が多いです。 由利先生と三津木俊助は、最初から出て来て、この本収録の三作の中では、最も出番が多いですが、それでも尚、オマケ・キャラという感じが拭えないのは、この二人のコンビが、とことん、探偵役に向いていないからでしょう。

  やはり、探偵役には、それなりの魅力が必要で、単に、「この人は、名探偵という設定だから、そのつもりで読んで下さいよ」というだけでは、足りないのです。 もっとも、横溝作品では、金田一耕助物でも、探偵がオマケみたいな扱いになっているものが少なくありませんが。



≪恐ろしき四月馬鹿(エイプリル・フール)≫

角川文庫
角川書店 1977年3月/初版
横溝正史 著

  私が所有している本。 1995年9月頃に、古本屋を巡って、横溝正史作品を買い漁った時の一冊です。 買った直後に、一度読んでいます。 2015年に、手持ちの横溝作品を読み返した時に、この本も、漏れていました。 短編集だから、手に取らなかったのだと思います。

  カバーは、杉本一文さんの絵。 絵は、収録作品の内容と、全く関係ありません。 猫の白い毛並みを描きたかっただけなのかもしれませんな。 本体は、雲模様になる前の、角川文庫の表紙で、扉に角川の古い鳳凰マークがあります。 横溝さんの、初期の短編の内、大正期に発表されたものを、14作、集めたもの。

  どれも、長くても、30ページ程度で、大差ないので、ページ数は書きません。 解説には、発表年と掲載雑誌名も載っていますが、煩雑になり過ぎるので、書き写しません。 14作全ての感想を、いつもの調子で書いたのでは、膨大な行数になってしまうので、簡単な梗概と、短い感想だけ書きます。


【恐ろしき四月馬鹿(エイプリル・フール)】 
  ある中学校の寄宿舎内で、部屋が荒らされた上に、一人の寮生が行方不明になる事件が起こる。 それは、四月馬鹿の悪戯のはずだったのだが、死体が出たという報告が上がり、悪戯を仕掛けた方が、驚愕してしまう話。

  謎解きの場面で、推理が少し出て来ますが、ちょっと、素朴過ぎて、面白さを感じるほどではありません。 これが、横溝さんの処女作だったようですが、この程度でも、雑誌に掲載されたという事は、当時の文芸雑誌のレベルが窺えるような気がします。

【深紅の秘密】
  留学生が、ドイツから持ち帰ったセットの書籍の内、赤い色の本ばかり盗まれ、本来、重要な内容を含む、緑の本が盗まれなかった事から、犯人の色覚障碍が判明する話。

  梗概で、ネタバレさせてしまいましたが、読んでみれば、他愛のない作品でして、目くじら立てるようなものではないです。 色覚障碍をモチーフに使った日本で初めての小説なのだとか。 横溝作品で、色覚障碍というと、≪仮面舞踏会≫で、本格的に用いられています。

【画室(アトリエ)の犯罪】
  刑事をしている従兄のコネで、捜査に加えてもらった青年が、画家がアトリエで死んだ事件を解決するが、20年後、彼が名探偵として名を成した後になって、事件の真相が明らかになる話。

  青年が事件を解決するところまででも、推理物の短編として纏まっていますが、それに後日談をくっつけて、更に複雑に、より皮肉な話に仕上げたもの。 この捻りを、面白いと感じるか、蛇足と見るかは、人によって異なるでしょう。 私としては、なまじ、本体部分が良く出来ているので、追加部分は、蛇足に思えます。

【丘の三軒家】
  丘の上にある、元豪邸を三つに分けた三軒の家。 一軒の主が、掘っている途中の井戸に落ちて死に、事故死として処理されたのを、その息子が、罠を仕掛けて、犯人を炙り出す話。

  登場人物が少ないので、犯人はすぐに分かります。 この作品の読ませ所は、犯人を炙り出す方法と、井戸にどうやって落としたか、その謎なのですが、どちらも、至って他愛ないもので、一見面白そうに感じられる舞台設定の細かさと、吊り合っていません。

【キャン・シャック酒場】
  不機嫌な客が、物を壊し始めても、店の者が平気でいるバーの話。

  話というほどの話ではないです。 つまらないダジャレが落ちになっているだけ。

【広告人形】
  容貌が醜い事を恥じている一方で、大勢の人の中にいるのが大好きな男が、広告用着ぐるみに入って、ビラを配る仕事をしていた。 ある時、同じような着ぐるみの男に声をかけられ、ちょっとした悶着に巻き込まれる話。

  これも、設定が細かい割に、話の中身が薄いです。 安部公房さんの、≪箱男≫が、似ているといえば似ていますが、こちらは、ずっと軽い話。 いずれにせよ、被り物に隠れた人間というのは、あまり、魅力があるキャラにはなりませんな。

【裏切る時計】
  愛人を殺してしまった男が、振り子時計の特性を利用して、アリバイを作ろうとする話。

  振り子時計というのは、傾かせておくと、一定時間の後、停まるらしいのですが、それがなぜ、アリバイ作りに繋がるのか、振り子時計を使った事がないからか、ピンと来ません。 愛人を殺す事になった原因があまりにも、下らない。 推理小説のネタばかり考えていると、人の命を軽く考えるようになるようですが、その典型例ではないかと思います。

【災難】
  大阪に奉公に出て数年経っている男が、かつて、村でいい仲だった事もある幼馴染みが、大阪に働きに出て来るというので、駅まで迎えに行き、あちこち案内するが、ある所で、女がいなくなってしまい・・・、という話。

  これが、この短編集の中で、最も優れた作品だと思います。 ショートショートとして読んでも、大変、よく出来ています。 大阪方言の一人称で書かれていて、少し読み難いのですが、すぐに慣れます。 元々、いい仲だったので、いずれ、結婚するつもりで、どんどん先走ってしまった事が、悲劇を増幅したわけですが、この主人公の気持ちは、よく分かります。 そんなに罪がある話ではないです。

【赤屋敷の記録】
  かつて、レンガ造りの豪邸があった廃墟で、埋められていた箱を掘り起こし、中に入っていた手記を読んでいた男が、たまたま、そこを通りかかった人物に、手記を託し、別の人物に渡してくれと頼んで、自殺する。 その男の出生の秘密が、手記によって、明らかになるが、実は・・・、という話。

  ヨーロッパの古い物語に良くありそうな設定です。 膨らませれば、長編にでもできそうな話でして、実際、横溝正史さんには、この話を雛形にして書かれた長編が、いくつかあるのではないかと思います。 当時の不治の病が、モチーフとして出て来るので、読後感は、よくありません。

【悲しき郵便屋】
  楽譜を使った暗号で、恋文をやり取りしている男女がいた。 女の方に思いを寄せていた郵便配達員が、暗号を解き、偽の手紙を書いて、女を呼び出そうとするが・・・、という話。

  「手紙」となっていますが、郵便配達員が読めたわけですから、ハガキだったんでしょうな。 暗号解読の方は、大した事はなく、その後のなりゆきを語るのが、メイン・ストーリーです。

【飾り窓の中の恋人】
  器用だけど、安定した生き方ができない青年が、新しい恋人が出来たと言って、ある店に飾ってある人形を、友人達に紹介して回る。 やがて、その店に盗みに入って、逮捕されるが、そのお陰で、その人形をモチーフに書かれた、ある作家の小説が大売れする話。

  良く出来た、ショートショートです。 教科書的と言ってもいいほど、よく纏まっています。 だけど、この青年、これを商売にしようとしても、何度も同じ手は通用しないでしょうなあ。

【犯罪を漁る男】
  あるビルで、女が殺され、エレベーター係が逮捕される。 その事件に関った男が、クラス会の帰りに、一人で寄った飲み屋で、見知らぬ男に声をかけられ、事件の推理を聞かされる話。

  この見知らぬ男、事件の推理をするだけで、別に、警察に告発するわけではないようです。 しかし、実際に、こんな事をやったら、犯人に殺されてしまうと思います。 その点が、リアリティーを欠きますが、推理の方は、面白いです。

【執念】
  ある農家で、財産を隠して死んだ老婆の、養子・養女夫婦が、家中を探し回るが、何も出てこない。 その内、妻の方が厩で死んでしまい、仲が悪かった夫が逮捕されるものの、目撃者の証言で、すぐに釈放される。 やがて、夫は、老婆の財産の隠し場所を知るが、皮肉な結末が待っていた、という話。

  よくある、隠し物捜しの話に、殺人事件を絡めたもの。 二兎を追ったせいで、話が分裂気味で、焦点が定まらなくなっています。 隠された場所は、最後に明らかになりますが、確かに、皮肉ではあるものの、あっと驚くような面白さは感じません。

【断髪流行】
  実家に内緒で、女と同棲している友人に、悪戯を仕掛けた男が、やり返されて、自分の同棲相手と別れる破目に陥る話。

  短編に似つかわしくなく、役回りと関連が薄い、細部の性格を描きこまれている人物が出て来て、バランスが良くありません。 推理小説のトリック、もしくは、謎用に考えた科学ネタを、流用して、普通の小説に仕立ててあるのですが、大したネタではないので、ハーとも、ホーとも言いようがありません。



≪幽霊男≫

角川文庫
角川書店 1974年5月/初版 1976年10月/11版
横溝正史 著

  清水町立図書館にあった本。 「清水町公民館図書室 昭和55年7月2日」のスタンプあり。 1980年です。 寄贈本ではなく、図書館で買ったもの。 カバーはなく、雲模様になる前の、角川文庫の本体表紙です。 角川の古い「鳳凰マーク」入り。 長編1作を収録。 約290ページ。

  発表は、1954年(昭和29年)1月から、11月まで、雑誌「講談倶楽部」に連載されたもの。 解説によると、≪悪魔の寵児≫と同趣向の作品だとあります。 戦前の草双紙趣味の作風に、本格派の謎やトリックを盛り込んで、金田一耕助を探偵役にした作品という意味でしょう。 長編ではあるものの、横溝作品のメジャーな長編と比べると、かなり短いです。


  ヌード・モデル紹介所に属するモデルの一人が、「佐川幽霊男(さがわゆれお)」と名乗る客に選ばれ、画家のアトリエに呼び出された後、ホテルに運ばれて、殺される。 モデル紹介所に関係する一行が、伊豆半島のリゾート・ホテルを借りきって開いた例会でも、モデル二人が惨殺される。 ある人物から依頼を受けた金田一が、リゾート・ホテルの事件から調査に入るが、連続殺人を止められないまま、紹介所のモデルが、ほぼ、全員殺されてしまう話。

  なるほど、この作品に於ける金田一耕助は、駄目探偵の面目躍如ですな。 結構、早い段階から事件に関っているくせに、連続殺人を止められません。 メジャー作品では、何人死んでも、しれっとすっとぼけて、最後に犯人指名と謎解きだけやって、「解決した」と、名探偵ヅラをしている金田一ですが、この作品では、犠牲者が出るたびに、地団駄踏んで悔しがっており、「こちらの方が、自然な反応だな」と思わせます。

  軽いノリで、ポンポンと人が殺され、会話が多い文体で、スイスイと話が進んでいくせいか、何となく、セルフ・パロディー的な趣きが漂っています。 作者自身、金田一を名探偵だとは思っておらず、人からも、「金田一耕助は、全員死んでからでないと、事件を解決できないんですねえ」とか言われ、開き直って、パロディーにしてしまったんでしょうか。 金田一の出番は、大変多くて、最初の事件を除いて、ほとんどの場面に顔を出しています。 これは、メジャー作品でも、滅多にない事です。 

  草双紙趣味ですから、雰囲気は、≪黒蜥蜴≫でして、「マダムX」という謎の女が出て来たり、それが、モーター・ボートで逃走したりする辺り、もう、≪黒蜥蜴≫趣味全開ですな。 子供騙しっぽくて、リアリティーを欠く一方、次から次へ事件が起こるので、退屈はしません。 映像化しても、楽に、2時間埋められると思いますが、≪黒蜥蜴≫の映像化作品が、ことごとく、陳腐になってしまうのと同じで、これも、アホ臭いドラマになってしまうでしょうなあ。

  トリックらしいトリックは、なし。 謎はあって、金田一による、最後の謎解きは、結構、ゾクゾク感があって、面白いんですが、「それに気づいていたのなら、なぜ、もっと早く、容疑者を押さえない」と、首を傾げてしまいます。 まさか、犠牲者が増えるのを待っていたわけでもあるまいに。 人物相関が入り組んでいるので、読者が犯人を推理するのは、かなり難しいです。 そういうところは、大変細かく考えてあるようです。



≪魔女の暦≫

角川文庫
角川書店 1975年8月/初版 1976年2月/5版
横溝正史 著

  清水町立図書館にあった本。 「清水町公民館図書室 昭和55年7月2日」のスタンプあり。 1980年ですな。 寄贈本ではなく、横溝正史ブーム中に、図書館で買ったものと思われます。 カバーはなく、雲模様になる前の、角川文庫の本体表紙です。 角川の古い「鳳凰マーク」入り。 長編2作品を収録しています。


【魔女の暦】 約204ページ
  原型になった、同名の短編は、1956年5月に、雑誌「小説倶楽部」に掲載されたもの。 その後、書き改めて、長編にしたのだそうです。 200ページでは、中編と言った方がいいかもしれませんが・・・。


  ギリシャ神話、≪メデューサの首≫を元にしたストリップ・ショーをかけていた劇場で、上演中に、魔女役の女優が、毒の吹き矢で殺される。 続いて、もう一人の魔女役が、隅田川に浮かぶボート上で、鎖で縛られた死体となって発見される。 差出人不明の手紙で、事件を予告された金田一が、等々力警部や所割暑の警部補らと共に、劇団関係者の複雑な人間関係を解きほぐしていく話。

  長いですが、ほとんどが、聞き取り場面で占められています。 聞き取り中心の推理小説というのは、ダラダラになってしまって、読者には、かなり、しんどいです。 多少は、場所の移動がありますが、焼け石に水という程度。 横溝作品には、劇団内部で起こる事件が、結構ありますが、どれも似たような話になってしまって、あまり出来が良くありません。

  以下、ネタバレ、含みます。

  すり替わりのトリックが出て来ますが、かなり、無理あり。 ちょっと、姿を見る程度ならともかく、性交渉までして、別人だと分からないというのは、認知機能に問題があるとしか思えません。 たとえ、相手が、女優でも、です。 そんな事まで、演じられるわけがないです。


【火の十字架】 約144ページ
  こちらは、最初から、中編。 雑誌「小説倶楽部」に、1958年の4月から6月まで、連載されたもの。


  住居付きの三ヵ所の劇場を、三人の情夫に運営させ、週代わりで泊まり歩いていた人気ストリッパーが誘拐されかける。 時を同じくして、情夫の一人が、生きたまま塩酸をかけられた、無残な死体で発見される。 彼らが戦前に所属していた劇団のスター俳優が復員して来て、過去の恨みを晴らす為に事件を起こしているのではないかと思われたが・・・、という話。

  金田一は、この作品でも、差出人不明の手紙で呼び出される形で、事件に関わって来ます。 等々力警部と各所轄署の警部補らが捜査に加わる点も同じ。 事件関係者は、元同じ劇団に所属していた面々と来ていて、劇団ものだと、みんな似たような雰囲気になるというパターンは、この作品でも見られます。

  これは、私の想像ですが、横溝さんは、戦後間もない頃に、この種のいかがわしい劇団を、かなり詳しく取材した事があるんじゃないですかね? その時の具体的な経験が元になっているから、同じような話になってしまうのではないかと思うのです。 よほど、劇団内部の性関係が乱れていたんでしょうなあ。

  【魔女の暦】も、結構には、乱れた性関係でしたが、こちらは、もっとひどくて、もはや、露悪的と言うべきレベルです。 塩酸の場面も、映像化は難しいですが、空襲下の劇団の様子も、乱れ過ぎていて、映像化は無理でしょう。 文章で読んでいるだけでも、気持ちが悪くなって来ます。

  謎解きの場面で、金田一が、二人の証言者を連れて来るところが、少し変わっています。 一人は、電話をさせられた人物。 もう一人は、ヌード写真のプロ・カメラマンで、技術的な証言をするのですが、いかにも、プロならではの意見という感じで、大変、面白いです。 もしかしたら、横溝さんのオリジナルではなく、他の作家の作品に、似たようなアイデアがあったのかも知れませんが。




  以上、四作です。 読んだ期間は、去年、つまり、2018年の、

≪花髑髏≫が、9月16日から、21日にかけて。
≪恐ろしき四月馬鹿≫が、9月21日から、23日。
≪幽霊男≫が、9月23日から、28日。
≪魔女の暦≫が、9月29日から、10月5日にかけて。

  今から振り返ると、だいぶ、以前の記憶になってしまいました。 まだ、清水町立図書館へ、せっせと通っていた頃ですな。 その後、三島市立図書館へ通い、今は、それも終わっています。