2019/02/17

引退生活⑥ 【やりたい事 「投資・起業」】

  引退生活の心得の、6回目です。 えっ! 6回目? このシリーズ、こんなに長引くとは思っていませんでした。 せいぜい、3回くらいを予定していたのですが・・・。 ちなみに、このシリーズは、心更宵更新用の、書下ろしです。 近頃には、珍しく。




  今回は、「やりたい事」の後編です。


【投資】
  これは、「やりたい事」ではなく、「やらなければならない事」に入れている人もいるかもしれません。 引退後、年金受給開始までの間、預金が足りないので、増やそうというわけだ。 しかし、たかだか、5年程度の運用期間で、生活費を補えるほど、増やせる投資など、この世に存在しません。 話になりません。 世間知らずにも程がある。 そういう人達が、いとも容易に、投資詐欺に引っ掛かるのです。

  そういうタイプの人達は、現役で働いている間、資産形成など、まるで、興味がなくて、給料もボーナスも、貰った分だけ、右から左へ使ってしまっていたのが、退職金を貰って、急に金持ちになったような気分になり、定期預金にしておけばよいものを、「もっと、増やそう」などと、欲を掻いて、「うまい話」を持ちかける投資詐欺に引っ掛かり、まるまる、スッてしまうのです。

  投資詐欺が発覚して、ニュースになり、被害者が、「私の退職金をどうしてくれる!」と、涙ながらに訴えている様子を見て、「気の毒だなあ・・・」と、心から同情する人も多かろうと思いますが、あんなのは、引っ掛かる方にも、重大な問題があります。 もちろん、悪いのは、騙す方ですが、騙される方も、知識・情報がなさ過ぎというものでしょう。 若い頃から、資産形成に真剣に取り組み、知識・情報を備えていれば、投資詐欺などという、バレバレに怪しい儲け話に引っ掛かるような事はないと思います。

  そもそも、本業が投資関係ではない会社が、投資を持ちかけてきたら、まず、疑わねばなりますまい。 金融に詳しい社員がいるわけでもないのに、誰が投資案件など、扱えるというのでしょう? そんなのは、ちょっと考えてみれば分かる事で、常識レベルと言ってもいいです。 騙される方にも、常識がないから、ホイホイ、乗っかってしまうんですな。

  では、「詐欺ではない、まともな投資なら良いのか?」というと、そんな事もないです。 だからー、リスクなしで、5年ばっかで、纏まったお金が手に入るような投資は、この世に存在しませんよと言うのよ。 株式や、投資信託などは、市況の局面によっては、そのくらいの利益が出る場合もありますが、私だったら、絶対に手を出しません。 元本保証がない投資は、ギャンブルと、全く変わりがないからです。 どんなに名前が通った会社がやっていようが、全て、アウトです。

  そもそも、株式市場の類いは、その道のプロでなければ、儲けを出せないのであって、「引退後、何冊か、株の本を読みました」程度の人達が、プロに太刀打ちできるわけがないです。 買うだけは買えても、売り時が分かりますまい。 私も分かりません。 株価が上がっている時には、「もっと上がるから、売るのは先にしよう」と思い、下がり始めたら、「また、上がるかもしれないから、売るのは先にしよう」と思う。 市況が正反対なのに、判断は、どっちも同じ。 そんな人間が、どうやって、儲けを出すのよ?

  バブルの時に大損した、膨大な数の人々のお金は、どこへ行ったのか? 消えてなくなったわけではないです。 市場に詳しく、売り時を知っている、その道のプロ達の懐に収まったのです。 基本原理は、宝くじや、競馬・競輪と同じで、大勢の人間から集まったお金が、一部の人間の手に落ちる仕組みなんですな。

  ギャンブルと違うのは、投入額の桁でして、数百万単位で投資する人が多いですから、スる時の被害も大きい。 株を発行している会社が倒産しなければ、いずれ、立ち直って、また、株に価値が出てくるケースもありますが、普通、暴落すると、持ち続けている勇気がなくて、売ってしまい、ただ、大損するだけで終わります。

  現役時代に預金がなくて、退職金を、投資でスッてしまった場合、年金受給までの生活費がなくなってしまいますから、また、働く以外に、生きる道はありません。 役所に泣きついたって、そんな理由で破産した人に、生活保護なんか、出してくれませんよ。 それでなくても、役所だって、お金が足りないんだから。 「働けるのなら、働いて下さい」と、追い返されるのがオチです。

  老後資金として、預金をしていなかった人達は、とにかく、虎の子の退職金を一気に失わないように気をつけなければなりません。 前回も書きましたが、贅沢旅行なんて、以ての外の言語道断です。 「少ないから、増やそう」というのも、上に書いたような理由で、厳禁。 残金を細かく計算して、一年に使える金額、一ヵ月に使える金額、一日に使える金額、一食に使える金額まで弾き出し、頭に入れておいて、爪に灯を点すようにして暮らすしかありません。

  一方、現役時代から、しっかり貯めていた方々は、私に言われるまでもなく、お金との付き合い方は、心得ていると思います。 老後を楽しめるのは、そういう人達だけですな。 「一ヵ月先の食費も確保できない」なんて人達は、楽しむどころか、不安しかありますまい。 人生は長いのに、「どうにかなるさ」と、ナメてかかっていたのだから、自業自得だと思います。 人生は、一日の例外もなく、お金を頼りに暮らしているのに、そのお金がなくて、どうにかなるわけがないです。



【起業】
  これは、所得が発生するわけで、その点、働き続けるのと変わらないのですが、当人達は、「引退後の、第二の人生」と考えていて、現役時代の仕事とは、別物と見做しているようなので、「やりたい事」の中に入れておきます。

  だけど、これも、【投資】と同じくらい、危険なんだわ。 退職金を注ぎ込んで、店を始める人が、大変、多いわけですが、見るも無残に失敗し、無一文どころか、借金を抱え込んで、老後が真っ暗闇になってしまう人が、後を断ちません。 どうしてまた、現役時代に全く経験していなかったような商売に、引退後、手を出して、成功すると思うのかねえ? その、根拠のない自信は、どこから、来るんですか?

  引退後、手を出し易い業種を、一つ一つ、見て行きましょう。

≪居酒屋≫
  たぶん、自分が、現役時代に、あちこちの居酒屋に入り浸る生活をしていて、主人と懇ろになって、友達のように話をしている内に、「酒は仕入れるだけだし、料理を20種類くらい作れるようになれば、こんなのは、俺でもできるだろう」と思ってしまうんでしょうなあ。 そんなに甘いものですかね? ただ、飲む場所を提供するだけで、儲けが出るほど、お客が来てくれますかね?

  料理に自信があるというのならまだしも、全くやった事がなくて、「料理は、女房にやらせて・・・」なんて考えているようでは、「んじゃ、あんたは、何をやるのよ? お客と一緒に飲むつもりなのかい?」と、ツッコミを入れられても仕方ありますまい。 たとえ、料理ができたとしても 60歳過ぎた老人がやっている店に、お客が、進んでやって来ますかね? 頭は、禿か白髪。 皺だらけで、あちこちシミが出ているような、小汚え爺さんの顔を見に来たがる客が、そんなにたくさん、いると?

  親戚や、元同僚が来てくれるのは、最初の内だけで、一ヵ月もすれば、閑古鳥が住み着くと思います。


≪蕎麦屋≫
  蕎麦を食べるのが好きで、蕎麦打ち体験をした事がある人が、手を出し易いです。 居酒屋よりは、まだ、お客が来ると思いますが、立地が悪いと、儲けが出るほど、お客を確保できない危険性があります。 蕎麦屋を始めたがっている人は、蕎麦打ち体験をした事がある人の、かなりの割合に上ると思われ、ライバルが多いわけだから、良さそうな物件は、すでに押さえられてしまっているのでは?

  街なかなら安心というわけでもなくて、駅の近くで、昼時や夕方に、人の流れが必ずある所ならともかく、そうでない場合、駐車場が何台分も確保できないので、お客が来たくても来れません。 駅の近くの物件なんて、退職金程度では、とてもとても・・・。 立地だけでやって行けるような、いい場所は、蕎麦屋だけでなく、飲食店全てが取り合っていますから、とても、手に入らないでしょう。

  郊外なら、駐車場の確保は容易ですが、その代わり、味がしっかりしていないと、わざわざ、車を運転してまで、来てくれません。 蕎麦好きが寄って来るほどの味を出せるかどうかが鍵で、素人離れした実力が必要になります。 そこまで、極められる人が、そうそう、いるとも思えませんが。


≪ゴルフ・ショップ / 釣具店≫
  これらは、割合、成功例が多い様子。 だけど、趣味の延長というだけでは、ちと厳しいでしょう。 現役時代に、小売業や、営業などをやっていて、商取引や、接客に慣れた人でないと、お客を掴むのは難しいでしょうねえ。 もちろん、敬語も使えず、いきなり、タメ口、初めての客を、「あんた」呼ばわりするなど、客を人とも思わないような性格の持ち主ができる仕事ではないです。

  また、チェーン店が、ライバルになるので、そういう店では売っていない、特殊な品を扱うようにしないと、わざわざ来てくれるお客が出て来ないと思います。 立地も重要で、同業の店がすぐ近くにあるような所で開いても、先は見えています。


≪ペンション≫
  出た。 ≪人生の楽園≫だ。 あの番組、かなり長い事やっているので、ペンションを始めて、成功するケースが多いのでしょう。 だけど、どんなもんですかね? 一応、成功はしたけれど、同時に、後悔もしているという人が多いのでは? なぜかというと、宿泊業というのが、大変、きつい仕事だからです。

  「一晩、部屋を貸すだけで、ン万円も貰えるのだから、おいしいではないか」と思うでしょうが、お客が泊まったら、そのまま、次の客を入れるというわけには行きません。 掃除はもちろん、布団カバー・シーツ類を交換するのは、毎回ですし、布団も、年中、干していなければなりません。 風呂の掃除も大変だ。 大浴場はもちろん、各部屋に風呂があれば、そちらも、掃除しなければなりません。  トイレ掃除に至っては、想像するだけで、飯がまずくなる。

  そういう仕事がある以上、老夫婦二人では、限界があります。 で、「一晩、○組限定」という事になるのですが、せいぜい、5組、いや、3組くらいで、もう、アップアップではないでしょうか? もし、私だったら、1組でも嫌です。 なんで、引退後まで、他人が寝起きした、不衛生な布団の始末なんてしなきゃならないの? 冗談じゃない。

  60歳から始めたとして、そんなきつい仕事を、何歳までやるつもりなんですかね? ペンションをやるほどの開業資金となると、退職金だけでは足りず、借金している可能性も高いですが、その借金を返せなくて、ペンションをやめたくてもやめられず、80歳になんなんとしているのに、まだ、他人が寝た布団の始末に汲々としているのだったら、それは、あまりにも、過酷、且つ、惨めな老後なのでは?




  まあ、こんなところでしょうか。 「やりたい事」全般に言える事ですが、お金を失う危険性がある事は、趣味でも、投資でも、起業でも、とことん、避けておいた方がいいと思います。 「悠々自適」などという言葉は、資産家と呼ばれるような、よほど、お金にゆとりがある人にしか当て嵌まりません。 勤め人だった人が、実現できる生き方ではないです。

  「第二の人生」という言葉も、落とし穴そのもの。 人生に前向きなようで、聞こえはいいですが、その実、最も、それをしてはいけない経済的に不安定な時期に、破綻の恐れ満々の、危険極まりない冒険をしているのであって、とても、勧められたものではないです。 その人が破産してしまった後で、助けてやる事もできないではないですか。

  そもそも、「悠々自適」に生きられる、ゆとりある人達は、決して、ペンションなんぞ、始めないと思います。 充分なお金があるのに、なんで、他人の汚した風呂やトイレの清掃を、毎日しなければならんの? 馬鹿馬鹿しい。 デッキ・ブラシで、ゴシゴシ、風呂の掃除中に、脳溢血で倒れて、帰らぬ人となったなんて、「一体、どんな最期だよ?」と思いますねえ。