2019/05/26

読書感想文・蔵出し (51)

  読書感想文です。 三島市立図書館の横溝正史作品の内、角川旧版の少年向けを読み終わり、角川新版の発掘短編集、≪喘ぎ泣く死美人≫が一冊あって、その後は、同図書館の、角川スニーカー文庫に移ります。 全て、書庫にしまわれていた本なので、大人向けでも、少年向けでも、借りる時は同じ扱いだったのは、好都合でした。




≪喘ぎ泣く死美人≫

角川文庫
角川書店 2006年12月/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 角川文庫の横溝作品ですが、新版で、22作目に当たるもの。 カバー表紙は、書で、文字は、「泣」。 単行本や文庫に未収録の中・短編を集めたもので、ショートショートも含めて、18作も収録されています。 一作一作、感想を書くと思うと、頭がクラクラするので、ごくごく簡単なものにしようと思います。


【川獺】 約32ページ 
(ポケット 1922年7月)

  池に通い、川獺の妖怪に魅入られていると噂されたいた女が、死体で池に浮かび、続いて、その継母が殺され、更に、村一番の美人までが殺される。 若い和尚が疑われるが、実は・・・、という話。   短い割には、入り組んだ話で、とても、犯人を推理しながら読むなんて事はできません。 山村の池という舞台設定が良いので、ゾクゾク感は、かなりあります。 疎開前にも、こういう作品を書いていたんですねえ。


【艶書御要心】 約16ページ
(サンデー毎日 1926年10月1日)

  人の真似をして、年頃の女性の袂に、自分の名刺を、片っ端から入れて回ったものの、反応がなく、空振りしてしまった青年が、たった一通届けられた手紙につられて、映画館へ出かけて行ったところ・・・、という話。

  新商売のアイデアを先に思いつき、作品に盛り込んだという格好。 その点では、【ネクタイ綺譚】と、同趣向の作品です。 別に、面白くはありません。


【素敵なステッキの話】 約18ページ
 (探偵趣味 1927年7月)

  人から貰ったステッキをなくしたと思ったら、知人達の間を、勝手に持って行かれたり、譲られたりと、一本のステッキが、あちこち、巡り巡って行く話。

  話というほどの話ではなく、「素敵=ステッキ」というダジャレから思いつき、テキトーに捏ね上げたような、軽い話です。 オチのようなものはないので、期待せぬように。


【夜読むべからず】 約12ページ
(講談雑誌 1928年8月)

  片手、片脚、首の順で、もげ落ちるという、特殊な蜘蛛から採った毒を使い、妻の浮気相手を殺そうとする話。

  イギリスが舞台で、出て来るのも、イギリス人です。 こういうのも、あったのか。 現実には存在しない生物や、毒物を、モチーフに使うのは、推理物では、禁じ手ですが、シャーロック・ホームズの短編の中に、例があるせいか、昭和初期くらいの日本では、あまり、気にしていなかったのかも知れません。

  意外な結末が用意してあって、存在しない毒を出さなくても、話にできるような内容ですが、この作品の眼目は、その毒による惨たらしい死に方を描く事にあり、やはり、破格と言わざるを得ません。 ホラーとして読むのなら、問題なし。 そんなに、怖くありませんが。


【喘ぎ泣く死美人】 約16ページ
(講談雑誌 1929年7月)

  幽霊が出る屋敷を買って、住み始めた夫婦。 妻の方が、幻覚を見て、過去に屋敷で行なわれた犯罪の仔細を知る話。

  これも、イギリスが舞台。 イギリス人と、アメリカ人が登場人物です。 ホラーでして、推理小説ではないです。 幻覚の中で、投げ捨てられるのを見た剣が、正気に戻ってから調べたら、その通りの場所から出て来た、という、そこだけ、ゾクっとしますが、そんなに面白いわけではないです。


【憑かれた女】 約90ページ
(大衆倶楽部 1933年10-12月)

  酒の飲み過ぎで、幻覚を見るようになった女が、実際の殺人事件に巻き込まれていく話。

  これだけ、中編。 同じタイトルで、由利先生物に書き改められたものが、他にあるらしいですが、私は、未読です。  戦前の作品とは思えないほど、新しい感じがします。 由利先生どころか、金田一が出て来ても、おかしくないくらい。 戦後に書かれた、金田一物の作品には、この作品から分離して、焼き直したと思われる場面が、幾つも見られます。

  推理小説として、かなり、レベルが高いと思うのですが、探偵役がいないせいか、事件が解決しても、すっきりしない終わり方で、そこが、残念です。


【桜草の鉢】 約11ページ
(信濃毎日新聞夕刊 1939年1月7-10日)

  泥棒が高価なネックレスを隠した桜草の鉢植えを、それとは知らずに買ってきた奥さんの家に、泥棒が取り返しに入ったが、何も見つからなかった。 奥さんが、似た鉢植えを、他の所で間違えて持ち帰った事に、後で気づく話。

  シンプル。 あまり、小説を読まない人なら、面白いと感じるかもしれません。 ショートショートとしては、結末の意外性が、今一つです。


【嘘】 約4ページ
(四国新聞 1947年1月)

  ビルマ戦線で、左胸を銃弾で射抜かれたにも拘らず、生還した男が、復員後、メチル・アルコールを飲んで死んだ。 本人の遺言に従い、解剖してみたら、意外な真相が分かった、という話。

  これは、意外だ。 しかも、ありうる事なので、すんなり、腑に落ちます。 それにしても、軽い話です。


【霧の夜の放送】 約5ページ
(主婦之友 1938年7月)

  殺人事件の様子が、ラジオで中継放送されるのを、殺した本人が聞く話。

  意外は意外ですが、こんな事は、現実には、ありえないので、ホラーの部類に入れるべきですな。 面白くはないです。


【首吊り三代記】 約7ページ
(探偵 1931年5月)

  その家の当主になると、みんな、首を吊って死んでしまう家の、三代目を継いだ男が、恐怖のあまり、自分を殺しそうな奴を、前以て、殺してしまおうとする話。

  わははは! これは、凄い! ショートショートというよりは、小話ですが、とにかく、面白いです。 物凄い皮肉な結末になるのですが、それに気づかなかった主人公が、無茶苦茶、笑えます。


【相対性令嬢】 約6ページ
(文藝春秋 1928年1月)

  二ヵ所に同時に存在しているとしか思えない女性の謎を、相対性理論で、簡単に説明する話。   わはははは! これも、面白い。 謎を、SF的解釈で、強引に説明してしまっていて、話になっていないのですが、とってつけたようなラストに落差があり、大笑いできます。 相対性理論が発表された頃に、書かれたんでしょうかね?


【ねえ! 泊ってらっしゃいよ】 約5ページ
(講談雑誌 1929年4月)

  終電車に乗り遅れ、その後、友人と、知り合いの女性にも置いてきぼりを食わされた男が、最後には、迫って来た娼婦に置いてきぼりを食わせて、逃げる話。

  話になっていません。 よっぽど、締め切りに迫られたんでしょうか。


【悧口すぎた鸚鵡の話】 約4ページ
(新青年 1930年9月)

  利口な鸚鵡を飼っている男爵夫人が、口を滑らして、顰蹙を買い、更に、鸚鵡のおしゃべりで、恥を掻く話。

  つまらない。 アイデアが、生煮えという感じ。


【地見屋開業】 約6ページ
(朝日新聞夕刊 1936年5月21日)

  売れない物書きが、路上でお金を拾う商売に、鞍替えする話。

  横溝さんの初期の短編に良く見られる、珍商売物ですな。 別に、面白い話ではないです。 横溝さん、こういうアイデアばかり思いついていた頃には、小説家でやっていけるかどうか、常に、不安と戦っていたのかも知れませんな。


【虹のある風景】 約9ページ
(近代生活 1929年6月)

  お金を貯めて、ほんの数日だけ、豪華なホテルに泊まり、華族のお姫様を装った事がある女が、そこで知り合った、本物の華族の子息と、虹を見たという思い出を語る話。

  いい雰囲気の話なんですが、ラストが、意外な結末にしようとして、逆に、興を殺いでしまっています。 ほんの数日だけ、貴人の気分を味わうというアイデアは、【角男】でも、使われていました。


【絵馬】 約26ページ
(家の光 1946年10月)

  戦後、岡山県で起きた、老女殺人事件の捜査を進める内に、彼女の故郷の村で起こった、昔の事件まで、芋蔓式に解決してしまう話。

  本物の刑事からの聞き書きという体裁になっていて、「さては、実話か?」と、緊張して読み進めて行くのですが、後ろの方へ行くと、横溝作品らしい展開になり、創作である事が分かります。 それが分かっても、尚、面白いですけど。 金田一を絡ませれば、容易に、金田一物に書き改められるような、濃い内容です。


【燈台岩の死体】 約16ページ
(ポケット 1921年11月)

  燈台の近くで、男が殺される。 神社の神主が逮捕され、否認のまま、懲役判決が出るが、その後、真犯人が分かって、釈放される話。

  ネタバレさせてしまいましたが、この作品の眼目は、誰が犯人かではなく、事件の裏にある相関関係で、人情話を語るところにあり、推理物とは、趣きが異なります。 デビュー作の【恐ろしき四月馬鹿】と同じ年の発表だそうで、最も初期の作品ですから、まだ、どんな話を書きたいか、目標が定まっていなかったのだと思います。

  仮名遣いは新しく改められていますが、漢字の使い方が、いかにも、大正時代という、独特なもの。 慣れないと、読むのに苦労します。


【甲蟲の指輪】 約13ページ
(家庭シンアイチ 1931年7月5日)

  ある青年が、居眠りして乗り越した電車内で、起こしてくれた老婆が急死する。 後になって、それが老婆ではなく、若い映画女優である事が分かる。 彼女の連れで、先に下りた若い男が、青酸カリを盛ったと見られたが、その男の指輪を青年が発見し・・・、という話。

  いろいろと設定が凝っていますが、噛み合っていないというか・・・。 別に、若い女優が、老婆に変装している必要はないのではないかと・・・。 ラストが、取って付けたようなオチになっているのも、感心しません。



≪怪獣男爵≫

角川スニーカー文庫
角川書店 1995年12月/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 外見は、真新しいので、「どうして、こんな本が、書庫に?」と思うのですが、発行年を見ると、もう、四半世紀近く経っているんですな。 この綺麗さを見るに、あまり、借りられなかったんでしょう。

  角川文庫の旧版の方は、同じ書名で、1978年に出ています。 ジュブナイルなので、スニーカー文庫という、少年向けのシリーズに再編したのだと思います。 巻頭に、登場人物を紹介したイラストあり。 イメージ・イラストのページあり。 漫画風のコマ割りをしたページあり。 作中に、数枚の挿絵あり。 カバー表紙絵も含めて、全て、漫画風の絵柄です。

  ネット情報によると、1948年11月に、偕成社から出版されたとの事。 書き下ろしだったのか、雑誌連載だったのかは、不明。


  悪事の限りを尽くして、死刑になった古柳男爵が、脳だけ移植した、ゴリラ風外見となって生き返り、閉じ込められていた孤島から脱出して、かつて、自分を捕まえた、小山田博士への復讐を始める。 小山田博士一族と、等々力警部らが、怪獣男爵の巧緻この上ない企みに翻弄される話。

  推理物ではなく、冒険アクション物。 ただし、冒頭の孤島場面を除くと、舞台のほとんどは、都会の中です。 男爵の屋敷とか、金持ちの大きな屋敷の庭とか、教会とか、精神病院とか、サーカスとか。 江戸川乱歩さんの、少年探偵団の世界に、かなり近い雰囲気。 善玉側で、前面に出て動くのが、小学生、中学生、大学生というのは、いかにも、少年向けという感じ。

  あまりにも、次から次へと、事件が起こるので、纏まった一つのストーリーという感じがしません。 少年向けだったから、飽きられないように、見せ場を分散したのだと思いますが、大人の感覚で読むと、こういうのは、逆に、興味を殺ぐところがありますねえ。 小山ばかり幾つもあって、高い頂上がない登山のようなものです。

  脳の移植が、怪獣男爵誕生の大きな鍵になっているのですが、そういう事は、今の医学でも不可能でして、完全に架空の技術です。 その点は、合理性に拘る横溝作品らしくありません。 横溝さんは、薬剤師の免許を持っていた人で、医学知識は、人並み以上にあったはずですから、そんな事は承知の上で、少年向けと割り切って、SFっぽい設定として取れ入れたのだと思います。

  横溝作品に、サーカスが出て来るという事は、猛獣の脱走が必ずあるわけで、例によって、最後には、みんな、撃ち殺されます。 この作品が書かれた時代、動物の命が、いかに軽く考えられていたかが、よく分かります。 犬でさえ、ペットではなく、家畜に過ぎなかったのだから、猛獣なんて、殺しても一向に構わないと思われていたのでしょう。

  解説が、新井素子さん。 解説というより、感想に近い、軽いもの。 新井さんは、SF作家でして、脳移植が、SFっぽいから、頼んだのだと思いますが、畑違いがもろに出てしまったような内容になっています。 解説で、時事ネタを使うと、歳月の経過に耐えられないという、いい例になっている感あり。



≪幽霊鉄仮面≫

角川スニーカー文庫
角川書店 1995年12月/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 この本も、綺麗。 やはり、あまり、借りられなかったんでしょう。 角川文庫の旧版の方は、同じ書名で、1981年9月に、初版が出ています。 タイトルを見れば分かるように、最初から、子供向けに書かれた話でして、それを承知で借りて来ました。

  ≪怪獣男爵≫と違うのは、戦前発表の作品だという点で、ネット情報によると、1937年4月から、1938年3月にかけて、「新少年」に連載されたとの事。 巻頭に、登場人物を紹介したイラストあり。 イメージ・イラストのページあり。 漫画風のコマ割りをしたページあり。 作中に、数枚の挿絵あり。 カバー表紙絵も含めて、全て、漫画風の絵柄です。


     新聞広告で殺人を予告し実行する怪人、「鉄仮面」によって、二人の男が殺され、三人目が誘拐される。 秘密の金鉱の地図を刺青された二人の女性を巡り、捜査に乗り出した、敏腕記者、三津木俊助と、矢田貝博士、御子柴少年らが、いいように翻弄される話。

  梗概らしい梗概が書けません。 横溝さんは、子供向けの話を書く時には、ありきたりのモチーフを、決まったパターンで羅列して、冒険アクション物に仕立てる事に決めていたようで、手抜きとまでは言いませんが、大人向けとは、完全に別物として、書いていたように見受けられます。

  読書する子供にも、いろいろといまして、こういう、ワン・パターンに近いストーリーを、飽きずに何十冊も読み続ける子もいれば、数冊読むと、見切ってしまい、二度と手に取らなくなる子もいます。 私は、後者だった方で、江戸川乱歩さんの少年探偵団シリーズも、5冊くらいで、やめてしまいました。 大人になっても、その性質は変わらず、やはり、こういうタイプの作品を面白いと感じる事ができません。

  個々の人物の人格を書き込んでいないせいで、この上なく、皮相な人物描写になっているのが、何と言っても、残念なところ。 また、謎を出しておいて、その説明をしていないのも、悪い癖ですな。 二人の女性の背中に刺青で地図が描かれているのですが、この二人の関係について、はっきりした説明がないのは、どうした事か・・・。 もちろん、他の部分から、推測はつきますが、やはり、説明して然るべきでしょう。

  また、袋詰めにされて、海に放り込まれた三津木俊助が、ちゃっかり生きていて、しれっと再登場してくるのですが、どうやって脱出したのか、その説明がありません。 まあ、大体、想像はつきますが、やはり、ちゃんと説明して欲しいところですなあ。 思うに、横溝さんは、「そんな事、いちいち書かんでも、分かるやろ」と判断すると、端折ってしまう、困った癖があったわけだ。

  しかし、日本国内が舞台の間は、まだいいのです。 終盤、モンゴルの奥地に、秘密の金鉱を探しに行くのですが、完全な冒険物になってしまい、もはや、探偵小説ではなくなります。 で、また、犬殺しです。 悪玉が放った追っ手の犬、十数匹を、由利先生や三津木俊助が、ピストルでバンバン撃ち殺し、口まで引き割くのですから、もはや、異常暴力の世界。 ほんとに、動物の命なんて、何とも思っていなかったんでしょうなあ。

  解説がついていますが、この作品の解説にはなっておらず、ほぼ、一般論を述べた随筆です。 解説者は、どうやら、こういう話が好きなタイプの人のようで、真逆タイプの私には、気が知れません。



≪青髪鬼≫

角川スニーカー文庫
角川書店 1995年12月/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 旧版は、1981年9月に出ています。 95年に、スニーカー文庫として、改版したもの。 収録されているのは、長編1、短編3の、計4作。 巻頭に、登場人物を紹介したイラストあり。 イメージ・イラストのページあり。 漫画風のコマ割りをしたページあり。 作中に、数枚の挿絵あり。 カバー表紙絵も含めて、全て、漫画風の絵柄です。


【青髪鬼】 約162ページ
  1953年1月から12月にかけて、「少年クラブ」に連載されたもの。

  新聞に、三人の人間の死亡記事が出るが、本人達は、まだ生きているという、奇妙な事件が起こる。 青い髪の男による犯行と分かり、偽死亡記事に出た三人が、殺されたり、誘拐されたりするのを、探偵小僧・御子柴進と、敏腕新聞記者・三津木俊助、更には、怪人・白蝋仮面までが入り乱れて、活劇を繰り広げる話。

  全体的なアイデアは、【幽霊鉄仮面】と同じです。 昔、お宝を発見した一味の間で、仲間割れが起こり、ひどい目に遭わされた者が、復讐を始めるというパターン。 【幽霊鉄仮面】は、戦前の作品なので、戦後になって、リメイク的に書き改めたのが、この作品なのかも知れません。 髪が青いのは、【迷宮の扉】に出て来る青い髪と同じ理由で、コバルト鉱山での労働によるもの。 

  【幽霊鉄仮面】より、短い分、月並みな見せ場を繰り返される回数が少ないので、楽しんで読めます。 犬も殺されないし。 しかし、地下室で水攻めとか、水上の追跡とか、迷路の洞窟とか、やはり、道具立てが月並みである事に変わりはなく、楽しむと言っても、限界は低いですなあ。

  それにしても、白蝋仮面・・・。 毎度の事ですが、何の為に出て来たのか、よく分からないところがあります。 横溝さんが作った、一種のダーク・ヒーローなのですが、他人に化けられるという特技は、怪人二十面相に似ているものの、キレがないというか、悪人になりきれないところがあり、何とも、中途半端なキャラなのです。


【廃屋の少女】 約24ページ
  作品データ、なし。

  金持ちのお嬢様が、屋敷に入った泥棒に温情をかけて、泥棒の妹の治療費を恵んでやった。 後々、お嬢様が危機に陥った時に、その妹が命を救ってくれる話。

  小説の体裁で書かれていますが、話の基本構造は、恩返し物の昔話に近いです。 ネタバレですが、ラストで、泥棒の妹が、お嬢様の身代わりに死ぬような事はないので、安心して読めます。 そうなっても、おかしくないような流れなのですが、お約束的な、お涙頂戴を避けたのかも知れませんなあ。


【バラの呪い】 約34ページ
  作品データ、なし。

  ある女子高の寮で、ツー・トップの美少女の内、一人が毒殺される。 もう一人の美少女が、犯人の目星をつけるが、なぜか、それを明らかにしようとしない。 その態度を、死んだ美少女の腹違いの妹が、誤解して・・・、という話。

  同じく、女子高の寮が舞台になる、【死仮面】よりも、更にベタベタの少女小説でして、推理小説的な要素は、希薄です。 横溝さんの少女観が、よく表れていると言えば言えます。 この作品に於いては、少女達の世界を描く事に目的があり、ストーリーは、オマケのようなものです。


【真夜中の口笛】 約26ページ
  作品データ、なし。

  夜中になると口笛が聞こえると言っていた姉が、「悪魔の手が・・・」と言い残して死ぬ。 その2年後、妹が、叔父と一緒に投宿していた旅館で、同じように、口笛を聞く。 同じ旅館に泊まっていた青年が、その部屋に張り込んで、「悪魔の手」と、口笛の正体を暴く話。

  シャーロック・ホームズにある、【まだらの紐】の翻案です。 蛇が、蜘蛛に変わっているだけ。




  以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2019年の、

≪喘ぎ泣く死美人≫が、2月9日から、14日にかけて。
≪怪獣男爵≫が、2月16日から、19日まで。
≪幽霊鉄仮面≫が、2月19日から、21日。
≪青髪鬼≫が、2月21日から、24日にかけて。

  スニーカー文庫の横溝作品は、三島市立図書館には、今回の3冊と、あと、≪蝋面博士≫の、計4冊しかありませんでしたが、その他にも、何冊か発行された模様。 いずれも、角川旧版に入っていたものですが、角川旧版の少年向け作品が、全て、スニーカー文庫に移ったというわけではないのかも知れません。

  口絵があり、漫画の1ページも入っています。 たぶん、漫画版があって、そちらから、持って来たんじゃないでしょうか。 JETさんの絵は、好き嫌いが分かれるところだと思いますが、JETさんが、横溝作品が死ぬほど好きという事は、十二分に伝わって来ますし、少年向け作品に限るのであれば、杉本一文さんが作り上げた世界を損なうような事はないです。