2019/06/02

ヤフオクで横溝作品を買う

  読書感想文は、まだ、ストックがあるのですが、先に公開している日記ブログの方に追いついてしまい、写真の加工をしていないので、とりあえず、休止します。 で、今回は、普通の文章ですが、やはり、横溝正史さんの本の話になります。 実は、読書感想文・蔵出しの、ある回の後文として書いたものだったのを、長くなり過ぎたので、外して、独立記事にした次第。 




  横溝作品の本についてですが、もし、今現在、一冊も持っていなくて、これから、買い揃えたいと思っているのなら、すぐには買わずに、図書館で借りて読んでからにした方がいいです。 一つの図書館に、全作品が置いてある事は、稀だと思うので、相互貸借で取り寄せてもらう事になり、恐らく、一通り読むだけで、1年以上かかるでしょう。

  ヤフオクで検索すると、角川文庫の旧版、90冊が纏めて出て来る事がありますが、値段がいくらであるにせよ、そういうセットは、「買い」ではないです。 なぜなら、全体の半分くらいを、戦前作品や、少年向けが、占めており、そういうのは、一度読んだら、二度は読まない可能性が、甚だ高いからです。 二度と読まないものを、自室の本棚に並べて置いても、馬鹿馬鹿しいでしょ。

  厳密に言うと、戦前作品にも読む価値かあるものがあります。 ≪恐ろしき四月馬鹿≫、≪山名耕作の不思議な生活≫など、ごく初期の短編集と、耽美主義作品を集めた、≪鬼火(蔵の中)≫。 長編では、≪呪いの塔≫、≪真珠郎≫。 一方、由利先生と、三津木俊助が出てくる、活劇調の話は、一度読んだら、二度は読まない口です。

  少年向けは、私が今までに読んだ中では、≪迷宮の扉≫だけが、何とか、大人の鑑賞に耐えますが、他は、軒並み、しょーもない感じです。 事によったら、他にも、読めるのがあるかもしれませんが、横溝さんが、少年向けは、ほぼ、型に嵌まった製法で、やっつけていたようなので、あまり期待ができません。 とにかく、図書館の本で、確認してから買っても、遅くはありますまい。

  一方、戦後作品で、大人向けのものは、確実に、何度も読み返しますから、送料込み一冊500円くらい使っても、損にはなりません。 前にも書いたように、新装版にある作品なら、新刊で買っても良いと思います。 文字が大きくて、読み易いから。 新刊だと、大体、一冊、700円前後。 杉本一文さんのカバー絵が付いている物なら、尚良いです。


  ヤフオクでの出品物の話ですが、相場的に、角川旧版・全冊セットなら、2万円台くらい。 スタートが、5000円以下でも、最終的には、2万円くらいになってしまうという事です。 スタート価格が、1万円を超えていると、なかなか、入札がありませんが、誰かが入札すると、決まって、応札者が現れて、やはり、2万円くらいになってしまいます。

  確かに、角川旧版は、貴重ですが、あまり、貴重がりすぎるのも、どうかと思います。 なぜなら、ヤフオクでの出品数が、まだまだ、ピークに至っていないからです。 1970年代後半の、横溝正史大ブームの時に、すでに、大人買いができる年齢になっていた世代、つまり、現在、概ね、65歳以上の人達ですが、彼らが、新しい本が出る度に買い足して、90冊揃えたセットを、大事に所有しているのは、まず疑いないところ。

  そうでなければ、5500万部などという、空前絶後の売れ方をした本の山が、どこへ行ってしまったか、説明がつかないからです。 角川春樹さんは、読み捨て文化を日本社会に導入するつもりで、横溝大ブームを仕掛けたとの事ですが、当時、実際に買っていた人達が、読み捨てにしていたとは、到底、思えません。 秘蔵のお宝にしているとしか考えられないではありませんか。

  今後、その世代の人達が、終活で、自ら本を処分したり、亡くなって、遺族が処分したりする事が予想され、少しずつ、中古市場に出てくるはず。 古本屋は、ごそっと持ち込まれるのを嫌って、買い叩こうとするから、ヤフオクに流れて来ると思うのです。 数が出てくれば、値段も下がるのが道理。 全冊セットが欲しいなら、そういう状況になってから、状態がいいのを安く買った方が、お得でしょう。

  横溝作品の角川旧版は、カバーの劣化が進んでいる事で有名ですが、人手を渡っている内に、スレたり、角折れしたりしてしまうのであって、ワン・オーナーの品なら、驚くほど、綺麗な本が存在するはず。 今後が楽しみですな。 今現在、全冊セットが、ヤフオクに出て来たからといって、慌てて飛びつくのは、禁物。 状態が良いものが出るのを、待つべきでしょう。 その間、図書館で借りて、どんな作品があるのか、コツコツ読み進めていれば、ちょうどいい。 


  なぜ、同じ角川文庫でも、横溝作品だけ、カバー劣化が目立つのかというと、色が大きく関係していると思います。 黒だと、紙の地の色である、白とは、正反対ですから、破れたり、スレたりすると、白い部分が露出して、目に飛び込んでくるというわけだ。

  その頃の角川文庫は、大量生産していたせいか、本体とカバーの高さが合っていないものが、結構ありました。 甚だしいと、2ミリくらい違っている事もあり、カバーが短ければ、本体の上端が、ありありと見えてしまいます。 製本所に勤めていた叔父さんが、うちに来た時、話をしていましたが、高さが違う事で、カバーを作っている会社と悶着が起こった事があったらしいです。

  カバーの方が、本体より長い場合、パッと見は、問題ないように見えますが、本棚から出す時に、カバーだけ引っ張って、上端が破れてしまいます。 で、それまた、黒と白の対照で、破れ目が大いに目立つというわけだ。 しょーがないねえ。 カバーの高さは、本体より大きくても、小さくても、駄目なのです。

  これは、横溝作品に限りませんが、本を大切に扱おうとするあまり、本屋でかけてくれる、紙のカバーをしたまま、本棚に並べている人もいて、それが、また、元カバーの上端を破り易くしてしまいます。 本屋でかけてくれる紙カバーは、大抵、高さを大きめに折って、用意してあります。 出版社によって、文庫の高さが異なるので、高い方に合わせて、大に小を兼ねさせているわけだ。

  その結果、角川文庫のように、高さが低い文庫では、紙カバーの上が余る事になります。 読んでいる時に、元カバーが上にズレる事があっても、紙カバーが覆ってしまっているから、気づかない。 その状態のまま、本棚に入れ、次に出す時に、紙カバーの上を引っ張ると、元カバーの上端も引っ張られて、ビリっと破れるわけですな。

  紙カバーを付けたままで、大事に保存したいという気持ちは、尊いとは思いますが、その場合、紙カバーの高さを、本の高さに合わせて、折り直し、上下ピッタリのサイズにしておいた方が良いと思います。 大切にしようと思って、破損していたのでは、本末転倒ですから。

  ちなみに、元カバーが破れてしまった場合、欠損がないなら、裏から、コピー用紙の切れ端を糊で貼れば、それ以上の損傷は避けられますし、うまく貼れば、パッと見では、破れた事に気づかないくらいまで、復元できます。 たとえ、白い部分が見えていても、マジックや、サインペンなどで、色を塗ったりしない方が、無難。 最初から白い部分を出さないように貼るのが、肝要ですな。

  欠損がある場合、新聞の広告チラシなどの黒く刷られた艶紙を、裏から貼れば、一応の補修ができます。 しかし、そんな事に気を使うくらいなら、少々、値段が高くても、欠損がない品を探した方がいいかも知れません。 自分で補修したものには、それなりの愛着が湧くものですけど、何と言っても、趣味の品ですから、貧乏臭いのが我慢できない人には、薦められません。


  本を大切に扱いたい場合、読む時には、元カバーを外し、本屋の紙カバーか、自分で作った紙カバーをかけて読み、読み終わったら、元カバーを付け直して、本棚に戻すのがいいと思います。 元カバーのままで読むと、手の脂や汗で、ヨレが出てしまいますから。 カバーをカバーとして使わないのは、本末転倒のようですが、元カバーに、損傷を避けたいと思う程の価値があるのは否定できないところなので、致し方なし。

  ちなみに、文庫本なら、A4コピー用紙で、紙カバーを作る事ができます。 まず、上下を、本の高さに合わせて折ります。 次に、裏表紙側を適当な所で折ってから、袖に入れます。 続いて、カバーを本に巻くようにしてかけて、表紙側を折り、袖に入れれば、完成。 A4以上の大きさがあれば、広告チラシでも作れますが、色が移る恐れがあるから、あまり、お薦めしません。


  話を戻しますが、ヤフオクで、横溝作品を買う場合、一冊ずつ買うか、セットで纏め買いするかが、判断の大きな分かれ目になります。 一冊ずつでも、全部で90冊なので、一冊平均、500円として、45000円の予算を取っておけば、揃えられる事になります。 「そんなに高くつくのなら、90冊セットを2万円前後で買った方がいいではないか」と考えるのが合理的ですが、それはあくまで、今現在、一冊ももっていない人の場合です。

  4・5冊もっているという程度なら、ダブりが出ても大目に見れると思いますが、10冊以上ある場合、確実に、抵抗感が出て来ます。 勿体ないではないかと・・・。 自分も出品をしている人の場合、ダブりが出ても、状態の悪い方を出品して売るという手が使えますが、落札オンリーの場合、同じ本が溜まるのは、大変、困る。 古本屋に持って行く? うーん・・・、買い叩かれそうですなあ。

  30冊セット、40冊セット、50冊セットなど、中途半端な数で出品されたものを、複数セット買ったりすると、ダブりまくって、もう、ぐちゃぐちゃになります。 中身も同じ、カバーも同じ本ばかり、3冊も並んだ日には、自分が何をやっているのか分からなくなり、「もしや、狂ったのでは・・・?」と、背筋が寒くなること請け合い。

  一冊ずつ、安く手に入れられるなら、欲しい物だけ集められるから、それが一番望ましいんですが、一冊で安いのを探すと、大抵、状態が悪いのです。 状態の良いセットに含まれている本の方が、確実に、状態が良い。 だからといって、ダブりを避けなければなりませんから、セットを、ポンポン買うわけには行かないんですわ。


  こういう事を書いていると、キリがないので、この辺にしておきます。