2022/02/13

読書感想文・蔵出し (86)

  読書感想文です。 今回で、今現在に追いつきました。 これで、しばらくは、感想文は出しません。





≪現代中国SFアンソロジー 折りたたみ北京≫

ハヤカワSFシリーズ
早川書房  2018年2月25日/初版
ケン・リュウ 編
中原尚哉・他 訳

  三島図書館にあった本。 沼津図書館にもあるんですが、≪三体Ⅲ上下≫を借りたついでに、これも借りた次第。 新書サイズ、二段組。 短編集は、感想が大変なので、極力、短く書きます。

  中国語からの直接訳ではなく、ケン・リュウ氏が、中国語から英語に翻訳したものを、日本人の訳者が、英語から日本語に翻訳したもののようです。 もっとも、固有名詞などは、元の中国語版を参照してあると思いますが。

  ≪三体≫でも、そうでしたが、SF小説を、中国語から日本語へ、直接訳せる翻訳家がいないというのは、驚きだな。 かつては、「翻訳王国日本」などと言われたものじゃが、遠い昔の伝説に成り下がったか。


≪陳楸帆≫
【鼠年】 約32ページ
  2009年5月、「科幻世界」に掲載。

  遺伝子操作された知能の高い鼠が逃げ出して繁殖する。 いい就職先を見つける為の点数稼ぎに、駆除部隊に入隊した大学生達が、鼠相手の戦いに、憔悴する話。

  SFというより、一般小説に、SF設定を入れたという体裁。 駆除部隊は、軍隊ですが、凄まじい戦闘場面などはなく、地味に話が進みます。 ストーリーは、特に興味を引きませんが、雰囲気が変わっていて、面白いです。


【麗江の魚】 約20ページ
  2006年5月、「科幻世界」に掲載。

  仕事で精神を病んだ青年が、保養所になっている、麗江にやってくる。 ある女性と知り合うが、彼女は青年の事を、不自然によく知っていて・・・、という話。

  これも、一般小説に近いです。 SF設定は入っていますが、それのおかげで面白いという事はないです。


【沙嘴の花】 約20ページ
  2012年、「少数派報告」に掲載。

  境界を越えて、深(土+川)に住み込むようになった青年。 大家の占い師と共に、大家の友人の娼婦が、男に虐待されているのを助けようとするが、思わぬ結果になってしまう話。

  やはり、SF設定を使った、一般小説です。 こういう作風の作家なんでしょうな。 別に、SFではないというわけではなく、SFよりも、一般小説として読んだ方が、しっくり来るという程度の違いです。


≪夏笳≫
【百鬼夜行街】 約20ページ
  2010年8月、「科幻世界」に掲載。

  かつて、観光地として、大勢の客が訪れていた、幽霊の住む街。 本物の人間の魂を、ロボットの中に入れて、幽霊に仕立て、営業されていたが、すっかり寂れてしまっていた。 やがて、街全体が解体される時が来て・・・、という話。

  これは、日本のSF作家でも、書きそうな話です。 大変、馴染み易い。 短編のアニメにしても、良い出来になるんじゃないでしょうか。


【童童の夏】 約22ページ
  2014年3月、「最小説」に掲載。

  両親と女の子一人が暮らしていた家に、医師をしていた祖父が怪我をして同居する事になる。 介護の為に借りたロボットが、遠隔操作されていた事から、祖父が、新たな利用方法を見出し、介護の世界に革命を起こしてしまう話。

  トントン拍子に、物事がいい方へ発展して行くというパターンの話。 それを、直接には関係ない、孫娘の視点から描いているので、一般小説や純文学のような落ち着きが感じられます。 介護の問題は、日本でも深刻ですから、この話の中で描かれているアイデアは、現実になって行くかも知れませんな。


【龍馬夜行】 約20ページ
  2015年2月、「小説界」に掲載。

  アトラクション用に、フランスで作られ、中国へ送られた、馬の体に龍の頭を持つ、巨大なロボット。 人類が滅んでから、再起動し、錆びた体を動かして、当てもなく、歩き始める。 やがて、沼に嵌まって動けなくなるが、魂だけが抜け出し、他の多くの、生物・無生物の魂と共に宙に舞い上がって・・・、という話。

  ファンタジーです。 この作者は、ロボットと魂を、抵抗なく、組み合わせるようですな。 人類滅亡後の話でして、妙に物悲しいです。 人間なんて、自然の破壊者に過ぎないと思っていましたが、滅びたら滅びたで、寂しいものですな。


≪馬伯庸≫
【沈黙都市】 約46ページ
  2005年5月、「科幻世界」に掲載。

  使う言葉まで規正されている監視社会。 あるソフト技術者が、禁止用語を喋るのが目的で作られたクラブに入会し、一時、大きな解放感を得る。 急に仕事が忙しくなり、しばらく遠ざかっていたら・・・、という話。

  ジョージ・オーウェル作【1984】と同類の、ディストピア小説です。 こういうSF小説は多いですが、みな、同じような印象になりますねえ。 この作品の場合、皮肉な展開が盛り込まれていますが、面白いというところまで行きません。


≪(赤+大里偏)景芳≫
【見えない惑星】 約20ページ
  2010年2月から、4月まで、「新科幻」に掲載。

  宇宙に数ある、知的生命体が住む惑星。 その住民達の不思議な生態を、彼が彼女に、話して聞かせる話。

  生物学的、物理学的に考えられる、生物の幾つかのパターンを並べたもの。 全体の纏め方は、お世辞にも、うまいとは言えませんが、個々の生物の説明部分は、知的興味を引きます。


【折りたたみ北京】 約52ページ
  2014年2月、「文藝風賞」に掲載。

  第一、第二、第三と、三つの区画に分かれ、いっときに活動するのは、一区画だけで、他の二区画は、住民が眠って、地下に折りたたまれてしまう、未来の北京市。 第二区画の学生から、第一区画に住む恋人への手紙をことづかった、第三区画のゴミ処理作業員が、第一区画へ潜り込もうとする話。

  なぜ、三区画に分かれているのか、説明がありますが、経済的な理由という以外、よく分かりません。 一種の冒険物ですが、設定が細かい割には、話は、そんなに面白くはないです。


≪糖匪≫
【コールガール】 約12ページ
  2013年6月、「エイペックス」に掲載。

  特殊な能力を持つ女子学生が、高額報酬と引き換えに、中年男の客を、ボロい車の中で、幻想的な世界へ、トリップさせる話。

  こんな梗概では、的外れかもしれませんが、これ以上、深く読む気になれません。 こういう、ファンタジーに半身逃げ込んだような作品は、1980年代の、SFマガジンに、うじゃうじゃ載っていましたが、まあ、そんな作家は、みんな、消えてしまったわけだ。 というか、日本では、80年代後半に、小松左京丸が沈没した後、ハード、ソフト、ファンタジー系に関係なく、同乗していたSF作家全てが、推理小説や少年向け作品などにジャンル替えして、消えてしまったのですが。


≪程倩波≫
【蛍火の墓】 約18ページ
  2005年7月、「科幻・文学秀」に掲載。

  ある星から逃げてきた母娘。 母親のかつての恋人が作った巨大なロボット型の城の中で、時間が止まり・・・、あっ、いかんなあ。 ストーリーが頭に入っとらんなあ。 さりとて、もう一回、読み返す気にもなりません。

  SF系のファンタジーとしか言いようがないですが、私は、こういうの、駄目なんですよ。 何が面白いのか、全く分からない。 レム作品でも、一番有名な、【惑星ソラリス】が、まるっきり、分からないし。 SFとファンタジーを掛け合わせると、それこそ、何でもアリになってしまうわけですが、そういう作品ばかり書いていると、ハードSF系のファンは、みんな、尻に帆かけて、遁走してしまいますよ。


≪劉慈欣≫
【円】 約22ページ
  2014年。

  中国の戦国時代末期、秦王の命を狙いに来た、燕の刺客、荊軻。 秦王に許されて、お抱え科学者として仕えるようになる。 円周率の計算を極める事によって、不老不死の秘密が分かると説き、秦軍300万人の兵士を使った「人列コンピューター」を考案するが・・・、という話。

  ≪三体≫の中にも出て来た、「人列コンピューター」を取り出し、中心的なモチーフに使った短編です。 こちらの方が、後に書かれているので、≪三体≫に使うだけでは惜しいと思って、アイデアのスピン・オフをさせたわけですな。 実際、膨大な数の人間を使って、単純な動作をさせれば、コンピューターの代わりができるわけですが、劉慈欣さんが、これを思いついたんですかね。 何度も使うという事は、そうなのだと思いますが。


【神様の介護係】 約40ページ
  2005年1月、「科幻世界」に掲載。

  太古に、地球に人類の種を播いたという、創造神の種族が、膨大な数の宇宙船に乗って、地球を訪れ、「宇宙を放浪する内に、みな、年老いてしまったから、面倒を見てくれ」と言って、20億人も降臨して来る。 その結果、世界中の各家庭で、一人か二人、神の介護を引き受ける事になるが、神と言っても、すっかり、老いぼれていて、超人的な事は何もできず、厄介者扱いされる話。

  一見、ふざけた話のようですが、どうしてどうして、ハードSFの下地がなければ、こういう話は、思いつきません。 やはり、劉慈欣さんは、タダ者ではありませんな。 同じ、介護問題をテーマにしていますが、夏笳さんの、【童童の夏】とは、まるで、違っているところが面白い。


[エッセイ]

劉慈欣
【ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球:三体と中国SF】

陳楸帆
【引き裂かれた世代:移行期の文化における中国SF】

夏笳
【中国SFを中国たらしめているものは何か?】

  いずれも、短いもので、エッセイというより、論説に近いです。


  このアンソロジー、劉慈欣さんが、1968年生まれであるのを除くと、他の作家は、みな、1980年代生まれで、まるまる、一世代、若い人達です。 劉さん一人が特別で、おそらく、劉さんと同世代のSF作家の作品は、取り上げて、英訳するに相応しくないと判断されたのでは?

  つまりその、中国SF界に於ける、劉慈欣さんは、ソ連・ロシアのSF界に於ける、ストルガツキー兄弟のような存在なんじゃないでしょうか。 もっとも、旧西側諸国でも、一国を代表するSF作家というと、一人か二人くらいになってしまうから、大差ないですけど。




≪現代中国SFアンソロジー 月の光≫

ハヤカワSFシリーズ
早川書房  2020年3月25日/初版
ケン・リュウ 編
大森望 中原尚哉・他 訳

  三島図書館にあった本。 沼津図書館にもあるんですが、≪三体Ⅲ上下≫を借りたついでに、これも借りた次第。 新書サイズ、二段組。 短編集は、感想が大変なので、極力、短く書きます。

  ≪折りたたみ北京≫と同様、中国語からの直接訳ではなく、ケン・リュウ氏が、中国語から英語に翻訳したものを、日本人の訳者が、英語から日本語に翻訳したもの。 日本SF界の、「中→日」翻訳者は、とことん、駄目な様子。 もしや、中国SF界との、パイプすら、ないのでは?


≪夏笳≫
【おやすみなさい、メランコリー】 約44ページ
  2015年6月、「科幻世界」に掲載。

  アラン・チューリングが遺した、人工知能との会話記録を元に、人工知能の可能性について、考察を匂わせた小説。

  アラン・チューリングは、実在の人物ですが、彼が遺した「人工知能との会話記録」というのは、創作。 他に、人工知能を搭載したぬいぐるみをモチーフにしたパートが、交互に挟まります。 どちらも、はっきり分かり難いのですが、大体なら、何を言いたいかは分かります。 惜しむらく、小説としての面白さは、ほとんど、感じません。


≪張冉≫
【晋陽の雪】 約62ページ
  2014年1月、「新科幻」に掲載。

  五代十国時代末期、宋軍によって包囲され、陥落間際の北漢の都、晋陽。 降伏する方針が固まりつつあったが、ある時、突然現れ、、便利な機械を発明・製作して、宋軍を寄せ付けずにいる人物が、逆に邪魔になっていた。 その人物を殺すべく、一人の男が、刺客として送り込まれたが・・・、という話。

  タイム・スリップ物。 普通に、面白いです。 二段組、62ページあって、短編というよりは中編ですが、読み始めると、ページをめくる手が止まらず、あっという間に、読み終わってしまいます。 伝統中国に興味がある人間にとって、こういう話は、否が応でも、ワクワクさせられてしまいますな。

  未来から来た青年が、戻れなくなってしまい、戻る為のエネルギーを得る為に、歴史的大事件を起こすという筋で、興味深いのは、この青年、訪れた時代の現地人が、何人死のうが、全く意に介していないという点。 確かに、本人の言う通り、青年は、「ただ、戻りたいだけ」なのですが、その為に、晋陽の人々が、どんなに迷惑を被ろうが構わないと思っているのだから、怖い。 この青年が主人公でないのは、そのキャラ設定のせいでしょう。

  攻めて来ているのは、明らかに、「宋」なのですが、なぜか、本文では、全て、「宗」となっています。 単なる、誤字・誤植にしては、多過ぎ・大っぴら過ぎ。 「宋」は、「宗」と書いていた時期があるんですかね? 創作作品の都合上、わざと変えたにしては、他の国名は正確です。 ちなみに、原注の最後の一項では、「宋」となっています。


≪糖匪≫
【壊れた星】 約30ページ
  2016年9月、「文藝風賞」に掲載。

  ある学校にて。 金持ちの娘の代わりに、テストを受けてやった女子生徒。 その友人が、教師に告発したせいで、金持ちの娘から恨まれて、リンチを食らう事になる。 女子生徒には、運命の星を操作できる母親がいて・・・、という話。 

  ラノベのような雰囲気で始まりますが、その内、ホラーになります。 かなり、怖いです。 しかし、これは、SFとは言えませんな。 まあ、どの国でも、SF作家が、ホラーを書くという事は、珍しくないですけど。


≪韓松≫
【潜水艇】 約12ページ
  2014年11月17日、「南方人物週刊」に掲載。

  田畑を追われた農民たちが、出稼ぎに来ている上海の川に、たくさんの潜水艇を浮かべ、そこを家にしている・・・、という設定の話。

  設定は分かりますが、話がよく分かりません。 農民工の風刺だと思いますが、風刺は、元ネタをよく知っていないと、分かりませんなあ。


【サリンジャーと朝鮮人】 約8ページ
  2016年、「故事新編」に掲載。

  朝鮮民主主義人民共和国が、アメリカ合衆国を征服し、朝鮮で人気があった、サリンジャー(小説家)を捜すが、サリンジャーは、とっくから、隠遁生活をしていて、マスコミを遠ざけており・・・、という話。

  シニシズム小説ですな。 この小説は、皮肉が利いている点だけ、面白いです。 サリンジャーさんは、【ライ麦畑でつかまえて】を書いた人。 私は、読んでませんが。 2010年に他界。


≪程倩波≫
【さかさまの空】 約14ページ
  2004年12月、「科幻世界」に掲載。

  ある街で、大河に棲むイルカの歌を録音する仕事をしている人物。 ある時から、イルカの言葉を聞けるようになる。 一頭のイルカが、天に登り、もう一つの世界へ渡っていく話。

  ギリシャ神話の、イルカ座の話と、「ジャックと豆の木」の話がモチーフに使われています。 宇宙絡みの、ファンタジーですな。 同じ作家の、【蛍火の墓】よりは、分かり易いですが、こういう作品を、あまり高く評価しない方がいいような気がしますねえ。 作家本人を含め、ほんの一部の人だけが、分かったような気になっているだけなのでは?


≪宝樹≫
【金色昔日】 約74ページ
  2015年3・4月、「F&SF」に掲載。

  幼馴染みの女の子と、親の仕事の都合で、離れ離れになった男の子。 大人になる過程で、何度か再会し、恋人同士になるが、長く一緒に暮らす事ができない。 一方、社会情勢が、歴史を巻き戻したような逆転を始め、二人とも、状況の変化に振り回されて行く話。

  時間が戻るのではなく、社会情勢だけが、過去にあった事を逆に辿るように、戻って行きます。 その現象に関する説明は、一切なし。 SFとか、分類のしようがないですが、「歴史の波に翻弄される、幼馴染みの二人」という部分だけ見れば、純文学的な作品です。 一番近いのは、ボリス・パステルナーク作、【ドクトル・ジバゴ】。 主人公が、知識人で、不倫に走るなど、感心しない人物である点が、そっくりです。

  問題は、社会情勢の逆転現象が、なぜ、必要なのか分からない点でして、テーマとモチーフが一致していないのは、SFとしても、純文学としても、難があると思います。


≪(赤+大里偏)景芳≫
【正月列車】 約8ページ
  2017年1月、「ELLE China」に掲載。

  春節に出された特別列車が、乗客ごと、行方不明になる。 記者会見に臨んだ責任者によると、「同じ空間の、別の時間に入り込んでしまっているだけ」との事。 マスコミは、そんな列車を作った事に対する責任を追求しようとしているのだが、話が咬み合わず・・・、という話。

  ハードSFですが、記者会見のちぐはぐな会話の方が面白いです。 「実際の所要時間が変わらないのなら、長い時間感覚で楽しめる方が、得ではないか」というのは、頷けるような、せっかちには、頷けないような、微妙なところですな。


≪飛(气+リ)≫
【ほらふきロボット】 約26ページ
  2014年11月、「文藝風賞」に掲載。

  名君の息子は、大法螺吹きだったが、王位を継いでから、大法螺吹きの方で有名になりすぎると、まずいと分かり、自分が目立たないように、自分以上の大法螺吹きロボットを作らせた。 ロボットは、大法螺のネタを仕入れる為に、宇宙をに旅立つが・・・、という話。

  宇宙に旅立ってからが、話の本番ですが、やはり、分かり難いですなあ。 「オモチャ箱を引っ繰り返し、一つ一つ、丁寧に、しまい直して、最後に、蓋を閉めて、おしまい」というタイプの話に、なりかけて、なりきれずに、結局、何が言いたいのか、よく分からずに、終わっています。

  このアンソロジー、やたらと、分かり難い話が多いですが、これは、原作の問題なのか、翻訳を、中→英→日と、二段階経ている事による問題なのか、確かめようがありません。 ちなみに、原文を理解していない、いい加減な翻訳というのは、厳然と存在します。 この作品がそうとは言いませんけど。


≪劉慈欣≫
【月の光】 約22ページ
  2009年2月、「生活」に掲載。

  エネルギー政策に影響力を及ぼせる立場にいる男。 ある月夜に、約100年後の未来の自分から電話がかかって来て、世界の環境破滅を救う為に、未来の技術を伝授される。 それを実行しようと決意した直後、また電話がかかってきて、別の理由で破滅したと言い、また別の未来技術を伝授されるが・・・、という話。

  主人公が、未来の自分から勧められた事を、やろうと決意しただけで、未来が変わってしまい、一晩の内に、三回も、世界が破滅した報告を聞く事になります。 全く、劉慈欣さんの話は、気が利きまくっている。 タダ者ではないです。

  ≪三体≫があれだけ、話題になったのだから、劉慈欣さんの他の長編や、短編集を日本で出版する流れにならないのは、実に不思議です。 どうなっとんのよ?


≪呉霜≫
【宇宙の果のレストラン 蝋八粥】 約16ページ
  2014年5月、「最小説」に掲載。

  若くして賞を獲ったものの、その後が続かなかった作家。 宇宙の影の組織に依頼して、他の作家の才能をもらうが、それと引き換えに、妻への愛を失ってしまう話。

  タイトルと梗概が一致しませんが、入れ子式になっていて、その作家が、宇宙の果のレストランにやって来て、蝋八粥を頼むという形式なのです。 サスペンスに良くある、盗作物の一種と考えれば、SFでなくても、成立する話。 しかし、出来はいいと思います。 作者の意図がはっきり分かるだけでも、大変ありがたい。


≪馬伯庸≫
【始皇帝の休日】 約12ページ
  2010年6月、「家用電脳与遊戯」に掲載。

  秦の始皇帝が、天下統一後、休みをとる事にし、諸子百家に、それぞれが開発し、自慢にしているゲーム・ソフトを献上させて、楽しもうとする話。

  これは、凄い。 秦代に、テレビ・ゲームが流行っていたという設定に、驚かされます。 諸子百家のパロディーにして、ゲーム・ソフトのパロディーでもあるので、両方に通じていないと、完全に楽しむ事はできません。 


≪顧適≫
【鏡】 約20ページ
  2013年7月、「超好看」に掲載。

  未来を透視する能力があるという少女に紹介された青年。 初対面なのに、彼女が、自分の事を知っていたので驚く。 数年後、勤めた出版社の仕事で、彼女を訪ねるが、彼女は、青年と会う事を知っていたのに、過去に青年と会った事は覚えていなかった。 彼女の能力が、未来透視ではない事を知る話。

  「未来から過去へ向けて生きている」というアイデアは、分かるんですが、もし、過去から未来へ生きている者と、未来から過去に生きている者が出会ったら、会話にならないのは、理屈で分かる事で、小説のネタにするには、無理があると思います。


≪王侃瑜≫
【ブレインボックス】 約10ページ
  初出。 2019年?

  予め、脳に埋め込まれた、「ブレイン・ボックス」を、死後に取り出し、他の人間の脳に記憶を移す事で、死ぬ寸前の思考を再現できる技術が開発された。 ある男性が、交際していた女性にサプライズ求婚するが、逃げ出されてしまう。 女性が思い直して、引き返してくる途中、乗っていた飛行機が墜落して・・・、という話。

  死んでしまった恋人が、自分の事をどう思っていたか、後で知って、より深く傷つく、というパターン。 ブレイン・ボックスを、日記に置き換えれば、SFでなくても、成立する話。 


≪陳楸帆≫
【開光】 約30ページ
  2015年1月、「離線・黒客」に掲載。

  インターネット関連のアイデアを売る会社の社員。 仏教の高僧の御利益と、画像ソフトを組み合わせて、大人気となるが、高僧が偽者だった事がバレて、大失敗に終わる。 自ら世を捨てて、寺に住み込んで、修養していたが、そこにいた本物の高僧から、ヒントを与えられ、全てが、大きな力でコントロールされていたのではないかと気づく話。

  梗概で、一通り書いてしまいましたが、ネタバレというほどでもありません。 この作品、ストーリーよりも、軽妙な文体で、アップ・テンポに進む、ノリの良さが売り物。 読んでいて、心地良いです。


【未来病史】 約28ページ
  2012年4月から、12月まで、「文藝風賞」に掲載。

  インターネット社会になって以降に起こりそうな、新しい病気を、歴史を振り返る体裁で、幾つか、書き記したもの。

  タイトル通り、「病史」でして、教科書のような書き方がされています。 硬過ぎて、大変、読み難い。 こういう架空の病気のアイデアがあるのだから、一つ一つ、短編なり、長編の一部なりに取り入れて、普通の小説にすれば、面白くなると思うのですがね。

  「アイデアは出るけど、小説にするのが面倒臭い」のかも知れませんが、こういう形で、纏めて公表してしまうと、容易に、パクられそうですな。 プロは、バクったりしないと思いますが、ネットだけで、小説を発表しているアマチュア作家は、あまり、抵抗なく、やるでしょう。


[エッセイ]

王侃瑜
【中国SFとファンダムへのささやかな手引き】

宋明(火+韋)
【中国研究者にとっての新大陸:中国SF研究】

飛(气+リ)
【サイエンス・フィクション:もう恥じることはない】


  一括りに書いてしまいますが、三編とも、≪折りたたみ北京≫の、それと同じく、エッセイというより、論説に近いです。 最後の一編だけは、エッセイと読めない事もないですけど。

  中国でのSF小説は、長い事、「大人の読書人が、真剣に読むもの」という扱いをされて来なかったそうで、≪三体≫ブームで、その潮目が変わったのだそうです。 戦後に黄金時代を迎え、その後、拒まれてしまった日本とは、事情が全然違うわけだ。

  しかし、≪三体≫は、かなり、特殊な作品でして、それを超える作品・作家が、おいそれと出て来るとは思えませんな。 それは、中国SFの関係者も、重々、承知しているようで、みなさん、中国SFの未来が希望に満ちているとは考えていない様子。

  それは、どの国でも同じでして、「SF小説は、ある種の諦めを抱いて、読むもの」という感じがしますねえ。 アメリカのSF映画も、もう、とっくから、アホ臭くて、真面目に見る気にならないものねえ。 ≪アベンジャーズ≫? 馬っ鹿じゃなかろうか。 それこそ、子供騙しもいいところだわ。 ≪三体≫は、全世界のSF作品の中で、「掃き溜めの鶴」でしかないのかも知れません。




≪ソーンダイク博士短編全集Ⅰ 【歌う骨】≫

ソーンダイク博士短編集Ⅰ
国書刊行会 2020年9月25日/初版
R・オースティン・フリーマン 著
渕上痩平 訳

  沼津図書館にあった本。 かなり分厚い単行本です。 三冊あるんですが、厚さに恐れをなし、一回に一冊だけ借りる事にしました。 オースティン・フリーマンさんは、コナン・ドイルさんと同時代から、作品を発表していた人で、ソーンダイク博士物の短編シリーズは、1908年から、「ピアスンズ・マガジン」に連載されたもの。 一段組みで、短編集2編、全13話を収録。


≪ジョン・ソーンダイクの事件記録≫ 1909年

【鋲底靴の男】 約63ページ
  地方の浜辺で、男の死体が発見され、被害者の古い悪仲間で、近くに住んでいた人物が逮捕される。 たまたま、友人医師の赴任先である当地に訪ねて来ていた、法医学者ソーンダイク博士が、浜辺に残っていた靴跡から、警察の見込みとは、まるで違う犯行の経緯を立証してしまう話。

  ホームズ物と同じ時代の作品とは思えないくらい、新しい感じがします。 逆に、ホームズ時代のイギリスを感じさせる情緒は、ほとんど、見受けられません。 情景描写はリアルで、現代に書かれた作品だと言われても、見抜けない人が多いのでは? 自然の風景は、今も、百年以上前も、大差ないわけで、要は書き方なんですな。

  トリックというほどのトリックではなく、謎を解くだけ。 解き方は鮮やかですが、靴跡の謎だけなので、そんなに凄いという感じはしません。 むしろ、科学的な鑑識能力がない警察の方に、問題があると思います。 昔の事だから、仕方がないのですが。 事件の結末は、ホームズ物でも、よく使われているもので、そこにだけ、時代を感じます。


【よそ者の鍵】 約30ページ
  主たる遺産相続人の少年が、よそ者が住んでいる家の近くで、行方不明になり、一緒にいた、遺産相続人の一人である若い娘に嫌疑がかかる。 呼ばれたソーンダイク博士が、足跡と、ステッキの跡から、犯人像を割り出し、逮捕に至る話。

  遺産相続が絡んでいるのなら、もっと、長い話にした方が、相応しかったのでは? トリックはなく、謎だけ。 ステッキの握りについて、「曲がり形だと、石突きが偏って減るが、ドア・ノブ形だと、石突きは均等に減る」というのは、目から鱗。 随分、推理小説を読んで来たつもりですが、初めて、知りました。


【博識な人類学者】 約25ページ
  美術品の蒐集家が、コレクションを盗まれた。 残された犯人の帽子を調べたソーンダイク博士が、髪の毛から、持ち主の人種を特定し、付いていた粉から、真珠加工業者ではないかと当りをつける話。

  今書いたら、人種差別と指摘されそうな、微妙な内容。 作者は、科学的事実だと確信していて、そういう意図はなかったとは思うのですが、やはり、微妙ですな。 髪の毛から、人種的特徴となると、かなり、大雑把な事しか言えないのでは? ちなみに、「馬の毛」と言われるのは、日本人の髪の毛。


【青いスパンコール】 約25ページ
  走る列車の個室で、若い女性が死体となって発見され、元交際相手の男が、容疑者として逮捕された。 容疑者の兄に頼まれたソーンダイク博士が、肉屋で、牛の角を調べて、容疑を晴らそうとする話。

  ネタバレを避けるほどの話ではないので書いてしまいますと、殺人事件だと思われていたのが、実は、意外なものが関わっていた事故だったというパターンです。 顕微鏡写真などが出て来ますが、科学的過ぎるのも、気持ちが悪いものですな。


【モアブ語の暗号】 約33ページ
  無政府主義者らしき男が死に、彼が持っていた古代文字の暗号をいかに解くかが、警察の頭を悩ませる。 一方、ソーンダイク博士のもとに、「兄が後妻に毒を盛られているから、助けて欲しい」という依頼があり、博士が出かけて行くが、案内をしていた依頼人が、途中で姿を消してしまい・・・、という話。

  暗号の方は、古代文字の暗号と見せかけて、実は、全然違う種類の伝達方法だったというもの。 そりゃそうで、こんな短い作品に、古代文字の解説や暗号の解読を盛り込むのは、無理無理です。 見せ場は、博士を外出させて、その隙に、博士の住居を家捜ししようという計略の方で、躍動感があって、面白いです。 もっとも、それは、推理とは、あまり、関係ないですけど。


【清の高官の真珠】 約36ページ
  旅先で、真珠が入った中国の工芸品を、かなりの値段で買ったイギリス人の男。 その工芸品には、元の持ち主である、清の高官が殺され、殺した一味も、全員死んだという、呪いの逸話がついていた。 精神が不安定だった、その男も、自宅の鏡に、清の高官の姿が映るに及んで・・・、という話。

  ホラーではなく、呪いの噂を利用した殺人。 トリックは、鏡を使った単純なもので、この作品が発表された頃でも、子供騙しととられたのではないかと思います。 むしろ、ホラーとして読んだ方が、雰囲気を楽しむ分には、面白いです。


【アルミニウムの短剣】 約ページ
  ある人物が、左利きと思われる犯人に、ナイフで刺されて、死んだ。 動機がある者の中で、左利きの若い女が逮捕されたが、ソーンダイク博士は、ナイフが妙に細くて軽い事に着目し・・・、という話。

  刺殺ではなく、実は、長距離からの射殺だったというもの。 これも、ネタバレしたからといって、どうという事はないトリックですな。 発表当時はともかくとして、鑑識捜査が当たり前の事になってから以降では、これに騙される警察も、読者もいないでしょう。


【深海からのメッセージ】 約34ページ
  若い女が、ベッドに寝たまま、首を切られて、殺害された。 その手に握られていた赤毛から、友人の女が逮捕されるが、警察と並行して、事件を調べていたソーンダイク博士が、赤毛の向きがバラバラだった事や、枕の上に零れていた、白い砂のような物質に着目し、真犯人を言い当てる話。

  毛の向きがバラバラでは、そりゃ、殺された時に、犯人から毟った毛ではないですわな。 つまり、この頃の警察は、鑑識技術が、驚くほど、低かったんでしょうな。 ソーンダイク博士がやっている事は、探偵というより、鑑識や科捜研の仕事そのものでして、≪科捜研の女≫や、≪法医学教室の事件ファイル≫、その他、鑑識班が中心になる捜査ドラマの、草分け的な存在と言えます。


≪歌う骨≫ 1912年

【オスカー・ブロドスキー事件】 約53ページ
  強盗を生業にしていた男が、たまたま、顔を知っていた宝石商に出会う。 相手が自分の事を忘れているのをいい事に、家に誘って、殺し、宝石を奪った後、死体を運んで、列車に轢かれたように偽装した。 ソーンダイク博士が、線路付近で採取した眼鏡レンズの破片から、犯行現場が他にあると見て・・・、という話。

  ネタバレそのものではないかと思える梗概ですが、問題ありません。 この作品は、「倒叙形式」という、推理作品の一形式の、嚆矢なのです。 先に、犯行の様子を、読者・視聴者に知らせてしまい、探偵が、いかにして、犯人に辿り着くかを楽しませるという形式で、≪刑事コロンボ≫で、有名になります。

  こちらは、一段組み、50ページ程度の長さなので、割と、シンプルなもの。 眼鏡レンズの破片が足りないというのは、まあ、いいとして、犯行現場の家に辿り着く過程が、説得力に欠けるところがあります。 これといって、根拠もないのに、あっさり、その家に到着し、庭に捨てられた凶器の棒に、同行していた警部が蹴躓くという展開は、偶然が過ぎるのでは?

  しかし、最初の一作としては、出来は悪くないです。 犯行の様子が、三人称の視点で、克明に描かれるので、大いに、手に汗握ります。 普通の形式で、ラストに探偵が謎解きするだけでは、これだけの緊迫感が出せませんから。


【練り上げた事前計画】 約50ページ
  かつて、刑務所から脱走し、その後、更正して、成功し、富を築いた男がいた。 彼の過去を知る、元刑務官に見つかって、恐喝を受けそうになり、相手を殺害する事を決意する。 刑務官が身を寄せている、元刑務署長が、犬を使う事を知り、犯行後、犬による追跡をごまかす為に、計略を練るが・・・、という話。

  これも、「倒叙形式」。 犯行に至るまでの準備と、犯行の場面までは、緊迫感があって、面白いです。 ただ、たまたま、犬を飼っている人物がいたり、たまたま、濡れ衣を着せられそうな人物がいたりと、御都合主義が過ぎる設定も目に付きます。

  ソーンダイク博士ですが、最初から、犬がつきとめた人物を、犯人ではないと決め付けていて、犬の追跡能力を全く信用していないのは、逆に不自然です。 今でも、警察犬が活躍しているのを見れば分かるように、犬は使いようでして、頭ごなしに、役に立たないと否定するのは、変ではないですかね? 作者は、犬が嫌いだったんでしょうか?


【船上犯罪の因果】 約44ページ
  沖の小島にある燈台に、燈台守の補充人員が来た。 元からいた男は、新入りが、かつての犯罪者仲間である事に驚き、たちまち、争いになって、新入りを海へ突き落としてしまう。 ソーンダイク博士が、被害者が身に着けていたパイプと、灯台に残っていたパイプから、犯行の経緯を解き明かしてしまう話。

  短編集のタイトルである、「歌う骨」は、この作品の最後に出て来ますが、内容に深い関係があるわけではありません。 これも、「倒叙形式」ですが、早くも、読み飽きた感あり。 この作品の場合、ほとんど、衝動的な犯行で、念入りな計画の描写がないので、前2作に比べて、読み応えに欠けます。 それに、かつての犯罪を知っている相手と再会するというパターンが、多過ぎではないですかね?


【ろくでなしのロマンス】 約39ページ
  窃盗やペテンなど、犯罪で生計を立てている男が、かつて、一度だけ、ダンスの相手をした事があるアメリカ婦人のパーティーに、他人からくすねた招待状を持って出かけていく。 貴金属を盗むのが目的だったが、婦人が男の事を覚えていた事で、予定が狂い、婦人をクロロホルムで昏倒させて、逃げてしまう。 ソーンダイク博士が、男が残して行った上着から、埃を採取して、住居を突き止めるが、同行した婦人は・・・、という話。

  「倒叙形式」の推理小説でありながら、一般小説、いや、純文学と言ってもいい内容で、結末を読む前から、感動を予感できます。 この本の中では、最も、小説らしい小説なのではないでしょうか。 いい作品については、つまらない感想を語らない方が、賢明ですな。 この作品だけでも、読んで見る価値があります。


【前科者】 約40ページ
  今は更正しているが、前科がある男が、殺人容疑を受けていると言って、ソーンダイク博士に助けを求めてくる。 現場には、男の指紋が残っており、それが、重要な証拠になっていた。 博士が、男の指紋を改めて採取し、調べ直したところ・・・、という話。

  この話は、「倒叙形式」ではありません。 指紋と、ある動物の血液の特徴が、モチーフになっています。 指紋の方は、一般読者にも分かり易いですが、ある動物の血液の特徴は、専門家でなければ、想像もつかないのであって、その点、フェアとは言えません。 これは、自然科学系の教育を受けた推理作家がやりがちな失敗で、専門知識がなければ解けないようなトリックや謎は、本来、禁じ手です。 読者に、推理させる余地を最初から与えていないのでは、ゾクゾクのしようもないのであって、ただの理科の解説になってしまいます。




≪四日間の不思議≫

ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ
原書房 2004年6月21日/初版
A・A・ミルン 著
武藤崇恵 訳

  沼津図書館にあった単行本です。 一段組みで、319ページありますが、普通の読書能力の人には、半分くらいのボリュームに感じられると思います。

  A・A・ミルンさんは、≪くまのプーさん≫シリーズで有名な作家。 探偵小説の黎明期に、【赤い館の秘密】(1922年)を書いて、それが、推理小説の歴史に残る一作になっています。 解説によると、【四日間の不思議】は、1933年に発表されたようですが、殿堂入りした【赤い館の秘密】とは真逆に、その後、廃刊状態が長く続いたとの事。 読んでみると、その理由が良く分かります。


  子供の頃に住んでいた家に、たまたま来た勢いで、すでに、他人の所有になっている事を忘れて、足を踏み入れてしまった若い娘が、女優をやっている叔母の死体を発見する。 自分が叔母の相続人になっている事から、疑われると思った娘は、逃走を図る。 人気小説家の秘書をしている親友や、旅先で偶然出会った、人気小説家の弟に助けられながら、警察の追跡をかわそうとする話。

  冒険物タイプの推理小説のような梗概になりましたが、そんなに緊張感はありません。 というか、緊張感は、全編に渡って、ほとんど、盛り込まれていません。 推理小説の枠を借りた、ユーモア小説だからです。 一般的なラノベよりは、情報量が多いですが、軽さは、大差ありません。

  少女趣味が入っており、一般的な読書人向けではないです。 読書に頭を使うのを嫌う、軽いものを好む人向け。 といって、子供向けというわけでもなくて、こういうのを、一番楽しめるのは、中学生くらいですかね。 馬鹿にしているわけではなくて、対象がピッタリ嵌れば、そういう人達には、大変、面白いと感じられるのではないかと思います。

  軽いものを、時間をかけて、じっくり読む人なら、正に、この作品の理想的な読者と言えるでしょう。 ストーリーに関係ない部分を飛ばす癖がある人は、苛々して、とても、読んでいられず、最後まで飛ばしてしまっうかもしれません。 それでは、読んだ事になりませんけど。 まあ、そんな、小説なのです。 これ以上、感想が搾り出せんな。

  英米文学によく見られる、一人の人物を、本名、略称、愛称、渾名など、複数の呼び方で呼ぶ悪い癖が、この作品にも見られ、誰の事を言っているのか、分からなくなる事が多いです。 英米文学では、そういうのを、「洒落ている」と見做しているようですが、紛らわしいだけで、ろくな習慣ではないと思います。




  以上、四冊です。 読んだ期間は、

≪現代中国SFアンソロジー 折りたたみ北京≫が、2021年の、11月20日から、23日。
≪現代中国SFアンソロジー 月の光≫が、11月24日から、12月1日。
≪ソーンダイク博士短編全集Ⅰ【歌う骨】≫が、12月29日から、年を跨いで、2022年の、1月7日まで。
≪四日間の不思議≫が、1月19日から、23日まで。

  前二冊と後二冊の間が、一ヵ月近く開いているのは、三島図書館通いが終わった後、沼津図書館通いを再開するまでに、なかなか、読書意欲が湧かなかったからです。 主たる原因は、母の不調から波及した、私の腹痛でして、その後、だいぶ良くなったものの、未だに、完治していません。

  副たる原因は、読みたい本がなくなってしまった事。 ミルンさんの、≪赤い館の秘密≫を読みたかったんですが、そういう名作に限って、沼津の図書館にはないのです。 三島図書館には、ちゃんと、あるから、腹が立つ。 しかし、三島は遠いからなあ。 図書館の場合、買い物と違って、借りたら、返しに行かなければならないから、ホイホイ、気軽には出向けないのです。