読書感想文・蔵出し (93)
読書感想文です。 しばらく、やらなかったので、かなり、ストックがあります。 図書館から借りて来ての読書は、2週間で2冊のペースで、ずっと、続けています。
≪マギンティ夫人は死んだ≫
クリスティー文庫 24
早川書房 2003年12月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
田村隆一 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【マギンティ夫人は死んだ】は、コピー・ライトが、1952年になっています。 約430ページ。
ある村で、掃除婦をしていた高齢女性が殺され、若い男が逮捕される。 死刑判決が出たが、釈然としない警視が、ポワロに再捜査を依頼する。 ポワロが、村に乗り込んで、調べて行くと、新聞に出た過去の犯罪者の写真を、夫人が見ていた事が分かり、関係者の中に、犯罪者本人か、その子供がいるのではないかと、見当をつけるが・・・、という話。
被害者が掃除婦というのは、凄い落差ですな。 戦前・戦中のクリスティー作品なら、あり得ない職業。 というか、職業がある人が、被害者になる事の方が珍しかったのでは。 みんな、資産家か、元資産家ばかりでしたから。 戦後になって、イギリス社会が、いかに大きな変化に見舞われたかが、良く分かります。
フー・ダニット物。 トリックはなし。 謎はあります。 というか、謎ばかりという感じ。 なぜなら、真犯人以外の容疑者も、何かしら、別の罪を犯しており、みんな、怪しいからです。 うーむ、こういうパターンもありか。 いろいろと、良く思いつきますねえ。 さすが、クリスティーさんと言うべき。
しかし、そういうパターンが、推理小説として、面白いかというと、話は別でして、互いに関係がない、幾つかの事件が同時進行しているのと変わりませんから、混乱してしまって、ただ、受動的に読むだけになってしまうのです。 推理しながら読むタイプの読者ほど、勝手が違って、憮然としてしまうのではないでしょうか。
登場人物の一人として、推理作家のオリバー夫人が出て来ます。 登場の仕方が面白い。 スポーツ・カーに乗って、村にやって来るのですが、リンゴを買い過ぎて、袋が破れ、狭い運転席で、リンゴに埋もれているという設定。 これは、凄い場面だな。 ドラマでは、そのまま映像化していたかどうか、忘れてしまいましたが。
オリバー夫人、おおまかなキャラは、クリスティーさん本人がモデルだと思います。 外国人の探偵を、自分の作品の中で使っている 事からも、それは分かります。 この作品では、オリバー夫人も、作中で推理をして、こっそりと、ポワロにだけ、犯人指名をしますが、その人物は、当然の事ながら、犯人ではありません。 しかし、別の罪を犯しているから、外れたわけではないです。
≪葬儀を終えて≫【新訳版】
クリスティー文庫 25
早川書房 2020年10月25日/初版
アガサ・クリスティー 著
加賀山卓朗 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【葬儀を終えて】は、コピー・ライトが、1953年になっています。 約415ページ。
ある資産家が、病死としか思えない死に方で死ぬが、大昔に家を出た妹が、葬儀に顔を出し、他の親族の前で、兄は殺されたのだろうと、口を滑らす。 その翌日に、その妹が、自宅で明らかに他殺と思われる方法で殺される。 疑念を膨らませた弁護士が、自身で聞き取りをした後、ポワロに調査を依頼する。 ポワロは、故人の屋敷を買い取る団体の代表を騙って、親族達を呼び集めるが・・・、という話。
故人の妹というのが、若い頃、兄から、フランス人画家との結婚を反対されて、家出したという経歴があり、数十年ぶりに戻って来て、親族も使用人も、彼女の顔を、よく覚えていない、というのが、味噌。 私、珍しく、途中で、犯人が分かったのですが、推理して分かったのではなく、デビット・スーシェさんのドラマで見たのを、思い出したのでした。
この変人の妹のキャラが、記憶に引っかかっていたんですな。 この妹のキャラそのものが、伏線でして、「なんで、わざわざ、こんな、変な人物に設定したのだろう?」という疑問が、早い内に湧けば、犯人も推理できると思いますが、まあ、普通は、見抜けないでしょう。 犯人自身も、奇妙な事をしますが、それは、だいぶ、後ろへ行ってからです。
最初に、関係者に聞き取をするのが、ポワロではなく、弁護士である点にも、ヒントが隠されています。 弁護士は、犯人の住む家へ、そうとは知らずに訪ねて行って、かなり長い時間、話を聞きます。 その時点で、犯人に、まんまと騙されているわけです。 ところが、クリスティーさんは、ポワロを天才的探偵の位置に据えているので、犯人に騙されるなどという、不名誉な事はさせたくない。 で、騙され役をさせる為に、弁護士に聞き取りをさせたのです。 それが分からないと、なんで、ポワロの登場が、全体の3分の1も行ってからなのかが、理解できません。
犯人の動機が、資産家故人の遺産でない事が、面白いです。 金が目的である事には変わりがないのですが、話が二段構えになっていて、とても、資産なんぞ持っていないと思われる人物が死ぬ事で、利益が転げ込むという、サブ・ストーリーが隠されています。 二段構えのせいで、後ろの方に行くと、話が些か、ゴチャゴチャします。 混乱するほどではありませんが。
書き忘れていましたが、三人称です。 ヘイスティングスは出ません。 クリスティーさん、この頃になると、心理物に飽きてきたのか、登場人物の心理描写は、あまり、やらなくなります。 といって、地の文が減ったわけではなく、情景描写を細かくする事で、読者に情報を与え、話に引き込んで行きます。
直接的な目晦ましをやめて、間接的なそれに切り替えたわけだ。 そのせいで、読者は、ますます、推理し難くなりました。 いや、それでいいんですよ。 推理小説では、スポスポ容易に、犯人が分かってしまうような話は、駄作ですから。
≪ヒッコリー・ロードの殺人≫
クリスティー文庫 26
早川書房 2004年7月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
高橋豊 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【ヒッコリー・ロードの殺人】は、コピー・ライトが、1955年になっています。 約376ページ。
出身国が雑多な学生や、若い社会人達が住むアパートで、盗難事件が頻発する。 寮長を務めている、ミス・レモンの姉に相談され、ポワロが講演を装って捜査に入ると、一部の盗品の犯人が自首して出るが、直後に、その人物が死んでしまう。 自殺説に疑問を持ったポワロが、更に捜査を進めたところ、学生達が、ヨーロッパ大陸へ旅行に行くのを利用して、宝石や麻薬の密輸をしていた疑惑が浮き上がり・・・、という話。
デビット・スーシェさん主演のドラマで見ていて、密輸の方法は記憶に残っていたのですが、殺人事件の方は、すっかり、忘れていました。 三人も死ぬのに、一つも記憶に残っていないとは、これ如何に? それはつまり、殺人事件の推理作品としては、そんなに面白くないのでしょう。
まず、主要な登場人物が、学生達というのが、クリスティー作品としては、毛色が変わっているところ。 クリスティーさん本人は、人格的に、完全に大人になっていた人で、学生や子供が出て来る話を、ほとんど、書いていません。 出て来たとしても、ほんのちょい役で、話の本筋に関わって来る事は稀です。 知能犯罪とは、大人がやってこそ、恐ろしさが醸し出されるものであって、子供では、役者不足と見ていたのでしょう。
この作品に出て来るのは、最も若くても、大学生ですが、それでも、社会経験がない点では、大差ないです。 作者自身が、登場人物に興味がないのが、人物描写を読んでいると、よく分かります。 学生なんて、人間のなりかけで、完成品とは見ていなかったんでしょうな。 そういう扱い方だから、一人一人の人間性が、薄っぺらくて、実につまらない。
登場人物を、社会人だけにしたら、もっと、読み応えがある話になったと思いますが、当時のイギリスには、大人対象のシェア・ハウスのようなものがなかったのかも知れませんな。 それに、大陸旅行の際、知らずに、密輸の片棒を担がされるなどというのは、学生ならではの間抜けぶりなので、社会人には似合わないと思ったのかも。
私が今までに読んだ、ポワロ物長編の中では、最も、評価点が低いです。 とはいえ、クリスティー作品は、出来が悪いものでも、推理小説全般の平均点は、楽に上回っているので、読む価値がないなどと貶すほど、つまらなくはないです。
そうそう、ドラマ版で、多くの回に登場する、ポワロの秘書、ミス・レモンですが、長編では、この作品が、初登場です。
≪死者のあやまち≫
クリスティー文庫 27
早川書房 2003年12月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
田村隆一 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【死者のあやまち】は、コピー・ライトが、1956年になっています。 約368ページ。
元貴族の屋敷を、戦後に金持ちになった人物が買い取って、若い妻と住んでいた。 その屋敷で催されるお祭りで、余興に行なわれる殺人事件推理ゲームのストーリーを、オリバー夫人が任されていた。 ところが、当日、ボート小屋でスタンバイしていた、死体役の少女が、本当に殺されてしまい、当主の妻も行方不明になる。 オリバー夫人に呼び出されていたポワロが、捜査に乗り出す話。
フー・ダニットというには、容疑者が少な過ぎ。 容疑者が少ない時には、すりかわり物の可能性が高いです。 さしもの、クリスティーさんも、無限に新しいアイデアが湧き続けるわけではないので、数を読みこなすと、一定のパターンが見えてくるのは、楽しいと言うべきか、寂しいと言うべきか。
容疑者が少ない割には、聞き取り場面が多い。 会話が多過ぎて、ラノベかと思うほどで、そういう文章に共通しているのは、中身が薄いという事ですな。 普通に読んでいて、「この人、ちょっと風変わりなキャラだな」と思う人が出てきたら、その人は、事件に関わっているから、話す事を、全て読むべし。 それ以外の人の発言は、飛ばしても、ストーリーを見失う事はありません。
とりわけ、警察官同士の会話は、どうせ、間違った推理なので、全て端折っても、差し支えありません。 謎を解くのは、ポワロであって、警察官ではないからです。 オリバー夫人の発言は、ヒントになっているという設定ですが、捻ってあるから、そこから何かを気づくのは、難しいです。 オリバー夫人は、クリスティーさん本人がモデルだから、簡単に口を滑らすわけがないというわけだ。
3分の2くらいで、犯人が分かったら、その人は、よほどの、クリスティー・ファンでしょう。 終わりの方で、パタパタと謎が解ける話なので、ギアが切り替わる前の段階では、まず、分からないと思います。 犯人どころか、一体、何の話を読んでいるのかさえ、分からないのでは? 本筋と関係ない会話が多いからです。
デビット・スーシェさんのドラマでは、特に問題があるように感じませんでしたが、小説としては、出来が悪い方なのでは? といっても、毎回言っているように、クリスティー作品は、出来が悪くても、一般的な推理小説の平均よりは、上です。 これが、クリスティー作品の一冊目という人は、謎解きで、驚くでしょうねえ。 その顔が、目に浮かぶようだ。
以上、四冊です。 読んだ期間は、今年、2022年の、
≪マギンティ夫人は死んだ≫が、6月16日から、20日。
≪葬儀を終えて≫が、6月24日から、26日。
≪ヒッコリー・ロードの殺人≫が、7月2日から、7日まで。
≪死者のあやまち≫が、7月8日から、11日まで。
クリスティー文庫を読み終えようと頑張っていますが、なにせ、100冊もあるので、なかなか、ゴールが見えて来ません。 ポワロ物、マープル物、ノン・シリーズ、短編集は、全て読む予定。 トミーとタペンス物と、戯曲は、読まない予定。 それでも、90冊くらいあるのでは? 頭がクラクラして来る。
≪マギンティ夫人は死んだ≫
クリスティー文庫 24
早川書房 2003年12月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
田村隆一 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【マギンティ夫人は死んだ】は、コピー・ライトが、1952年になっています。 約430ページ。
ある村で、掃除婦をしていた高齢女性が殺され、若い男が逮捕される。 死刑判決が出たが、釈然としない警視が、ポワロに再捜査を依頼する。 ポワロが、村に乗り込んで、調べて行くと、新聞に出た過去の犯罪者の写真を、夫人が見ていた事が分かり、関係者の中に、犯罪者本人か、その子供がいるのではないかと、見当をつけるが・・・、という話。
被害者が掃除婦というのは、凄い落差ですな。 戦前・戦中のクリスティー作品なら、あり得ない職業。 というか、職業がある人が、被害者になる事の方が珍しかったのでは。 みんな、資産家か、元資産家ばかりでしたから。 戦後になって、イギリス社会が、いかに大きな変化に見舞われたかが、良く分かります。
フー・ダニット物。 トリックはなし。 謎はあります。 というか、謎ばかりという感じ。 なぜなら、真犯人以外の容疑者も、何かしら、別の罪を犯しており、みんな、怪しいからです。 うーむ、こういうパターンもありか。 いろいろと、良く思いつきますねえ。 さすが、クリスティーさんと言うべき。
しかし、そういうパターンが、推理小説として、面白いかというと、話は別でして、互いに関係がない、幾つかの事件が同時進行しているのと変わりませんから、混乱してしまって、ただ、受動的に読むだけになってしまうのです。 推理しながら読むタイプの読者ほど、勝手が違って、憮然としてしまうのではないでしょうか。
登場人物の一人として、推理作家のオリバー夫人が出て来ます。 登場の仕方が面白い。 スポーツ・カーに乗って、村にやって来るのですが、リンゴを買い過ぎて、袋が破れ、狭い運転席で、リンゴに埋もれているという設定。 これは、凄い場面だな。 ドラマでは、そのまま映像化していたかどうか、忘れてしまいましたが。
オリバー夫人、おおまかなキャラは、クリスティーさん本人がモデルだと思います。 外国人の探偵を、自分の作品の中で使っている 事からも、それは分かります。 この作品では、オリバー夫人も、作中で推理をして、こっそりと、ポワロにだけ、犯人指名をしますが、その人物は、当然の事ながら、犯人ではありません。 しかし、別の罪を犯しているから、外れたわけではないです。
≪葬儀を終えて≫【新訳版】
クリスティー文庫 25
早川書房 2020年10月25日/初版
アガサ・クリスティー 著
加賀山卓朗 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【葬儀を終えて】は、コピー・ライトが、1953年になっています。 約415ページ。
ある資産家が、病死としか思えない死に方で死ぬが、大昔に家を出た妹が、葬儀に顔を出し、他の親族の前で、兄は殺されたのだろうと、口を滑らす。 その翌日に、その妹が、自宅で明らかに他殺と思われる方法で殺される。 疑念を膨らませた弁護士が、自身で聞き取りをした後、ポワロに調査を依頼する。 ポワロは、故人の屋敷を買い取る団体の代表を騙って、親族達を呼び集めるが・・・、という話。
故人の妹というのが、若い頃、兄から、フランス人画家との結婚を反対されて、家出したという経歴があり、数十年ぶりに戻って来て、親族も使用人も、彼女の顔を、よく覚えていない、というのが、味噌。 私、珍しく、途中で、犯人が分かったのですが、推理して分かったのではなく、デビット・スーシェさんのドラマで見たのを、思い出したのでした。
この変人の妹のキャラが、記憶に引っかかっていたんですな。 この妹のキャラそのものが、伏線でして、「なんで、わざわざ、こんな、変な人物に設定したのだろう?」という疑問が、早い内に湧けば、犯人も推理できると思いますが、まあ、普通は、見抜けないでしょう。 犯人自身も、奇妙な事をしますが、それは、だいぶ、後ろへ行ってからです。
最初に、関係者に聞き取をするのが、ポワロではなく、弁護士である点にも、ヒントが隠されています。 弁護士は、犯人の住む家へ、そうとは知らずに訪ねて行って、かなり長い時間、話を聞きます。 その時点で、犯人に、まんまと騙されているわけです。 ところが、クリスティーさんは、ポワロを天才的探偵の位置に据えているので、犯人に騙されるなどという、不名誉な事はさせたくない。 で、騙され役をさせる為に、弁護士に聞き取りをさせたのです。 それが分からないと、なんで、ポワロの登場が、全体の3分の1も行ってからなのかが、理解できません。
犯人の動機が、資産家故人の遺産でない事が、面白いです。 金が目的である事には変わりがないのですが、話が二段構えになっていて、とても、資産なんぞ持っていないと思われる人物が死ぬ事で、利益が転げ込むという、サブ・ストーリーが隠されています。 二段構えのせいで、後ろの方に行くと、話が些か、ゴチャゴチャします。 混乱するほどではありませんが。
書き忘れていましたが、三人称です。 ヘイスティングスは出ません。 クリスティーさん、この頃になると、心理物に飽きてきたのか、登場人物の心理描写は、あまり、やらなくなります。 といって、地の文が減ったわけではなく、情景描写を細かくする事で、読者に情報を与え、話に引き込んで行きます。
直接的な目晦ましをやめて、間接的なそれに切り替えたわけだ。 そのせいで、読者は、ますます、推理し難くなりました。 いや、それでいいんですよ。 推理小説では、スポスポ容易に、犯人が分かってしまうような話は、駄作ですから。
≪ヒッコリー・ロードの殺人≫
クリスティー文庫 26
早川書房 2004年7月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
高橋豊 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【ヒッコリー・ロードの殺人】は、コピー・ライトが、1955年になっています。 約376ページ。
出身国が雑多な学生や、若い社会人達が住むアパートで、盗難事件が頻発する。 寮長を務めている、ミス・レモンの姉に相談され、ポワロが講演を装って捜査に入ると、一部の盗品の犯人が自首して出るが、直後に、その人物が死んでしまう。 自殺説に疑問を持ったポワロが、更に捜査を進めたところ、学生達が、ヨーロッパ大陸へ旅行に行くのを利用して、宝石や麻薬の密輸をしていた疑惑が浮き上がり・・・、という話。
デビット・スーシェさん主演のドラマで見ていて、密輸の方法は記憶に残っていたのですが、殺人事件の方は、すっかり、忘れていました。 三人も死ぬのに、一つも記憶に残っていないとは、これ如何に? それはつまり、殺人事件の推理作品としては、そんなに面白くないのでしょう。
まず、主要な登場人物が、学生達というのが、クリスティー作品としては、毛色が変わっているところ。 クリスティーさん本人は、人格的に、完全に大人になっていた人で、学生や子供が出て来る話を、ほとんど、書いていません。 出て来たとしても、ほんのちょい役で、話の本筋に関わって来る事は稀です。 知能犯罪とは、大人がやってこそ、恐ろしさが醸し出されるものであって、子供では、役者不足と見ていたのでしょう。
この作品に出て来るのは、最も若くても、大学生ですが、それでも、社会経験がない点では、大差ないです。 作者自身が、登場人物に興味がないのが、人物描写を読んでいると、よく分かります。 学生なんて、人間のなりかけで、完成品とは見ていなかったんでしょうな。 そういう扱い方だから、一人一人の人間性が、薄っぺらくて、実につまらない。
登場人物を、社会人だけにしたら、もっと、読み応えがある話になったと思いますが、当時のイギリスには、大人対象のシェア・ハウスのようなものがなかったのかも知れませんな。 それに、大陸旅行の際、知らずに、密輸の片棒を担がされるなどというのは、学生ならではの間抜けぶりなので、社会人には似合わないと思ったのかも。
私が今までに読んだ、ポワロ物長編の中では、最も、評価点が低いです。 とはいえ、クリスティー作品は、出来が悪いものでも、推理小説全般の平均点は、楽に上回っているので、読む価値がないなどと貶すほど、つまらなくはないです。
そうそう、ドラマ版で、多くの回に登場する、ポワロの秘書、ミス・レモンですが、長編では、この作品が、初登場です。
≪死者のあやまち≫
クリスティー文庫 27
早川書房 2003年12月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
田村隆一 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【死者のあやまち】は、コピー・ライトが、1956年になっています。 約368ページ。
元貴族の屋敷を、戦後に金持ちになった人物が買い取って、若い妻と住んでいた。 その屋敷で催されるお祭りで、余興に行なわれる殺人事件推理ゲームのストーリーを、オリバー夫人が任されていた。 ところが、当日、ボート小屋でスタンバイしていた、死体役の少女が、本当に殺されてしまい、当主の妻も行方不明になる。 オリバー夫人に呼び出されていたポワロが、捜査に乗り出す話。
フー・ダニットというには、容疑者が少な過ぎ。 容疑者が少ない時には、すりかわり物の可能性が高いです。 さしもの、クリスティーさんも、無限に新しいアイデアが湧き続けるわけではないので、数を読みこなすと、一定のパターンが見えてくるのは、楽しいと言うべきか、寂しいと言うべきか。
容疑者が少ない割には、聞き取り場面が多い。 会話が多過ぎて、ラノベかと思うほどで、そういう文章に共通しているのは、中身が薄いという事ですな。 普通に読んでいて、「この人、ちょっと風変わりなキャラだな」と思う人が出てきたら、その人は、事件に関わっているから、話す事を、全て読むべし。 それ以外の人の発言は、飛ばしても、ストーリーを見失う事はありません。
とりわけ、警察官同士の会話は、どうせ、間違った推理なので、全て端折っても、差し支えありません。 謎を解くのは、ポワロであって、警察官ではないからです。 オリバー夫人の発言は、ヒントになっているという設定ですが、捻ってあるから、そこから何かを気づくのは、難しいです。 オリバー夫人は、クリスティーさん本人がモデルだから、簡単に口を滑らすわけがないというわけだ。
3分の2くらいで、犯人が分かったら、その人は、よほどの、クリスティー・ファンでしょう。 終わりの方で、パタパタと謎が解ける話なので、ギアが切り替わる前の段階では、まず、分からないと思います。 犯人どころか、一体、何の話を読んでいるのかさえ、分からないのでは? 本筋と関係ない会話が多いからです。
デビット・スーシェさんのドラマでは、特に問題があるように感じませんでしたが、小説としては、出来が悪い方なのでは? といっても、毎回言っているように、クリスティー作品は、出来が悪くても、一般的な推理小説の平均よりは、上です。 これが、クリスティー作品の一冊目という人は、謎解きで、驚くでしょうねえ。 その顔が、目に浮かぶようだ。
以上、四冊です。 読んだ期間は、今年、2022年の、
≪マギンティ夫人は死んだ≫が、6月16日から、20日。
≪葬儀を終えて≫が、6月24日から、26日。
≪ヒッコリー・ロードの殺人≫が、7月2日から、7日まで。
≪死者のあやまち≫が、7月8日から、11日まで。
クリスティー文庫を読み終えようと頑張っていますが、なにせ、100冊もあるので、なかなか、ゴールが見えて来ません。 ポワロ物、マープル物、ノン・シリーズ、短編集は、全て読む予定。 トミーとタペンス物と、戯曲は、読まない予定。 それでも、90冊くらいあるのでは? 頭がクラクラして来る。
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