2024/10/06

読書感想文・蔵出し (117)

  読書感想文です。 今回も、4冊です。 「蔵出し」と言いながら、読んで感想を書き終わった端から出している、ここ最近。 何だか、追い立てられているようだ。 10月は、鼠蹊ヘルニアの手術を受ける予定なのですが、もし、それが、無事に終わったら、少し、生活を改め、人生を立て直そうかと、つらつら、思っている次第。





≪白いきば≫

世界文学の玉手箱 21
河出書房新社 1995年3月20日 初版発行
ロンドン 著
阿部知二 訳

  沼津図書館にあった、文庫サイズのハード・カバー本です。 長編、1作を収録。 297ページ。 1906年の出版。 作者のフル・ネームは、「ジャック・ロンドン」で、アメリカの小説家。 筒井さんの、≪漂流≫に紹介されていた作品。 この本は、子供向けに訳されたもので、漢字を抑えてあります。 しかし、中身は、大人向けでして、子供に読ませるには、刺激が強すぎると思います。 喧嘩で、相手の喉に噛みつく子が出て来るのでは?


  狼の血を4分の3受け継いだ、狼犬。 野生で生まれ、同腹の中で、一頭だけ生き残る。 母親がかつて飼われていた、アメリカ先住民の元に、母子で戻り、人間と暮らし始めるが、母はよそへやられ、自分も、ヨーロッパ系の男に売られて、闘犬に使われるようになる。 持ち前の戦闘能力で、無敵を誇ったが、勝手の違うブルドッグに負けそうになったところへ・・・、という話。

  「白い牙」というのは、主人公の狼犬の名前。 原文では、「WHITE FANG(ホワイト・ファング)」ですが、この名前は、アメリカ先住民の飼い主が付けたものなので、そもそもは、英語ではないはず。 その後も、書き手が、「ホワイト・ファング」と呼んでいるだけで、登場人物達からは、この名で呼ばれていません。 飼い主達が、名前を付けないのは、おかしいと思いますが、読者の混乱を避ける為に、わざと、そうしたのかも知れません。

  そんなに長い話ではありませんが、読後感は、大長編を読み終わったのに似ています。 面白いといえば、大変、面白い。 冒頭、母親が率いていた狼の群に、犬橇が襲われるところから話が始まるので、しばらくは、どういう話なのか分かりませんし、先住民に飼われている期間は、あまり、話に進展がなく、少々、ダレますが、ヨーロッパ系の闘犬元締めに買われる件りになると、急に話の動きが速くなり、最後まで、一気に読ませます。

  狼犬が主人公ですが、擬人化はされておらず、心理描写はされるものの、狼犬の心理を人間が想像して書いています。 一種の、「神視点三人称」でして、「こんなの、ありえない」と言う人もいるかと思いますが、気にしなければ、ごく自然に物語世界に入って行って、ごく自然に受け入れる事ができます。 ちなみに、擬人化されていないので、狼犬や、その他の動物が、言葉を喋る事ないです。

  動物もので、心配になるのは、残虐な目に遭わされないか、という事ですな。 小説に動物を出すと、ひどい目に遭わせるのが、作法だと思っている、情感酷薄な作家も多いので、そういう作品は避けたいもの。 で、この作品ですが、主人公の狼犬に関しては、心配しなくてもいいです。 問題は、主人公にやられる方でして、犬や狼だけでも、相当な数が殺されており、この主人公に、どこまで、同調していいか、考えてしまいます。

  野生で生まれ、先住民家族、ヨーロッパ系の闘犬元締めと渡り、最終的に、心優しいヨーロッパ系の飼い主の元に落ち着くのですが、この流れも、ちと、気にかかるところ。 作者が、ヨーロッパ系だから、身贔屓してるんじゃないでしょうか。 いつ命を落とすか分からない、荒々しい世界を生き抜いて来た主人公が、普通の飼い犬になって終わるのは、「ようやく手にした平安」というより、「単なる腑抜け化」、「廃人ならぬ、廃犬」という感じがしないでもなし。

  ここからは、私の創作ですが、

  闘犬元締めの元を脱走して、野生に戻り、雌の狼と出会った後、その雌を守る為に、圧倒的に不利な状況で戦い、殺されてしまうが、しばらく後、雌狼が、主人公にそっくりの仔を産み・・・、というラストにしたら、もっと、深みが出たのでは? おっと、【フランダースの犬】の時にも、そんなラストを考えましたな。 発想が月並みか・・・。




≪時は乱れて≫

ハヤカワ文庫 SF 1937
早川書房 2014年1月15日 発行
フィリップ・K・ディック 著
山田和子 訳

  沼津図書館にあった、文庫本です。 長編、1作を収録。 368ページ。 コピー・ライトは、1959年。 解説によると、前年の58年1月に書き下ろされたとの事。 当時のアメリカは、一時的なSF不況で、出版社を盥回しにされたせいで、世に出るのが、遅れたようです。


  新聞の懸賞コンテスト、「火星人はどこへ?」に、毎日、応募して、常に最優秀正解者の座を占めている46歳の男。 結婚はせず、妹夫婦の家に、同居している。 ある時、家の洗面所で、妹の夫が、あるはずのない天井灯のコードを探している自分に気づいたり、甥の少年が、廃虚から拾って来た雑誌に、自分達の知らない、「有名」女優の事が写真入り記事で出ているのを見たりした事から、自分達が住んでいる環境に違和感を覚え、街から出てみようと試みるが・・・、という話。

  いかにも、ディックさんらしい、奇妙としか言いようがない、設定です。 しかし、こういうアイデアは、SFでは、さほど珍しいものではありません。 たぶん、1958年当時であってもです。 非常に面白くて、時間があれば、一気に読み終えてしまうタイプの小説ですが、SFとして面白というより、書き方が巧みなのだと思います。 本来、短編用のアイデアを、脱出サスペンスで肉付けして、長編に仕立てているわけだ。

  脱出の試みは、2回、行なわれます。 繰り返されても、くどくなっていないのは、サスペンスとして、ストーリー展開が、よく練られているから。 もし、作者が、「SFの枠を借りて、サスペンスを書きたかったのだ」と言ったとしても、別段、不思議さは感じません。 いや、実際、作者が、そんな事を言ったわけではありませんが。 下手な事を言うと、SF作家としての仕事がなくなってしまいますからのう。

  もう、終わりに近くなってから、種明かしの段で、地球と月植民地が、内戦状態にある事が明かされます。 思わず、【月は無慈悲な夜の女王】を想起してしまいますが、そちらは、1966年なので、影響を受けたわけではないです。 逆に、こちらが影響を与えたというわけでもないでしょう。 「月に植民が行われれば、いずれ、独立戦争になる」というのは、アメリカ合衆国の作家なら、誰でも、思いつく事ですから。

  1990年代後半の描写が出て来ますが、月の植民地は元より、金星にも旅行で行ける時代になっている様子。 50年代から見ると、宇宙時代は、すぐそこまで迫っているから、40年も経てば、そのくらいになっているだろうと予想していたんでしょうな。 大外れだったわけですが、そんなところを責めるのは酷か。 むしろ、インターネットや、携帯・スマホを予測できなかった、そちらの方が、SF作家の罪は大きいです。




≪地球巡礼≫

ハヤカワ・SF・シリーズ 3110
早川書房 1966年3月31日 初版発行
ロバート・シェクリイ 著
宇野利泰 訳

  沼津図書館にあった、新書サイズの本です。 短編、15作を収録。 2段組みで、全体のページ数は、256ページ。 コピー・ライトは、1957年になっています。   収録されている、【救命艇の叛逆】は、筒井さんの、≪漂流≫に紹介されていたもの。


【地球巡礼への旅】 約18ページ

  外宇宙の惑星に植民し、農業開拓に当たっていた青年が、地球には、「恋愛」という産物があると知り、有金はたいて、地球へやって来る。 確かに、「恋愛」はできたが、それは、完全に商品化されていて・・・、という話。

  「恋愛の真似事をしてくれる相手」というわけではないのですが、まあ、似たようなものですな。 区別がつかない読者の方が、多いと思います。 女性を、射的の的にする場面が出て来ますが、どうも、シェクリイさんは、よっぽど、女殺しがしたかったようですな。 潜在意識が、作品に出てしまっているかのように見受けられます。


【地球人の善と悪】 約16ページ

  ある星の住人と、初接触に臨んだ、地球の宇宙船の乗組員。 全く悪意はなかったのだが、地球人としての特徴が、悪く働いて、住人達に迷惑をかけてしまう。 しかし、全く善意はなかったのだが、良い事をした点もあって・・・、という話。

  こういう事は、もし、異星人と初接触する機会があれば、いくらでも、起こる事なのでしょう。 実際には、自然発生型生物が、外宇宙へ出て行く事はできないと思うので、起こりえない事ですが、こんな短編SFに、そんなハードなケチをつけても詮ない事。

  意外な結末というより、オチと言った方が良いものが付いています。 そのお陰で、綺麗に纏まっています。 こういうセンスが、アメリカ人にもあるというのが、興味深いです。


【ワナ】 約14ページ

  休暇を過ごす為に、森へ来た二人の男が、奇妙な箱を発見する。 説明書きによると、それは、罠であるとの事。 仕掛けてみると、見た事もない動物が、各種、1匹ずつ、計4匹、捕まった。実は、罠ではなく、宇宙人が置いて行った、物質輸送機で・・・、という話。

  大したアイデアというわけではないので、ネタバレさせてしまいますと、先に送った3匹は、動物だけど、最後の1匹は、送った宇宙人の女房だったというもの。 シェクリイさんは、よっぽど、妻に消えて欲しかったようですな。 女房を始末するというのは、アメリカン・ジョークの一分野なのかもしれません。


【肉体】 約7ページ

  天才数学者を延命させる為に、その脳を、動物の体に移植した。 手術は成功し、数学者は、喋って歩けるところまで回復したが、つい、動物の本能が出てしまい・・・、という話。

  ページ数で分かるように、ごく軽い落とし話です。 「動物の脳は、どうなったのかなあ・・・」とは、動物好きなら、誰でも思うところで、笑えるところまで行きません。 そもそも、口の構造が違うのだから、人間の言葉を喋るのは、無理なのでは?


【試作品】 約28ページ

  宇宙船で異星に下り立った後、異星人との初接触で、命を落とす者が続出した。 防衛器という機械が試作され、初めてそれを背負わされた男が、異星人と接触したが、防衛器が邪魔をして、敵対的な対応になってしまう。 防衛器を外す方法はないと知らされ、絶体絶命の危機に陥る話。

  アイデアは分かりますが、このアイデアを使うには、話が長くて、くどい感じがします。 長さが決まってる注文があり、それに合わせて、水増ししたのではないでしょうか。 細部を描き込むような、重いアイデアでもありますまいに。 半分くらいの長さなら、オチも、素直に笑えたのですが。


【廃品処理サーヴィス会社】 約8ページ

  内心、妻と別れて、若い女性秘書と再婚したいと願っている男。 廃品処理業者が会社に訪ねて来て、妻も処理しくれるというので、驚く。 多いに悩んだ末に、妻とやり直す道を選んだが・・・、という話。

  実に、ショートショートらしい話ですな。 ほぼ、星新一さんの世界。 結末は、星さんの作品を読み込んでいる人なら、途中で、想像がつきます。 順序的には、シェクリイさんが先で、星さんが、その影響を受けたという流れになりますが。 繰り返しますが、シェクリイさん、よっぽど、夫婦仲が悪かったんでしょうねえ。


【人間の負う負担】 約21ページ

  買った小惑星に、ロボットを引き連れて移り住み、開拓に取りかかった男。 一人暮らしのせいか、心身ともに、追い詰められて来て、寂しさを紛らわせようと、通信販売で、冷凍妻を買ったが、送られて来たのは、容姿がいいだけの、やわな女で、とても、開拓作業などできそうにない。 どうやら、送り先を間違えて、配達されたらしい。 ところが、返品と交換の要求をして、待っている間に、彼女が、開拓民として、大変な適性を持っている事が分かり・・・、という話。

  シェクリイさんらしくない、ほのぼのする話。 「いいのか、皮肉を入れなくて?」とツッコミを入れたくなるのは、私だけでしょうか。 特別に、注文でもあったんですかね? 「気が利いていて、読んだ後、未来に希望を感じられるような話にして下さい」とか。 でなきゃあ、こんな、青春ドラマみたいな話、書かないでしょう。

  シェクリイさんには、他にも、小惑星に移住する話がありましたが、小惑星は、重力が小さいので、大気を繋ぎとめておく事はできません。 しかし、これは、太陽系外の話だと思うので、「小惑星」という言葉が指すものが、太陽系内とは違うのかも知れません。 とはいえ、地球クラスの星となると、二人で開拓は、無理も無理、大無理というもの。 何か、ピントがズレている感あり。 地球上の、絶海の孤島のようなものに、擬えているのだと思うのですが・・・。


【夜の恐怖】 約5ページ

  蛇に襲われる夢を、繰り返し見る妻に、夫は・・・、という話。

  なぜ、蛇なのかというと、凶器が紐だからですが、なぜ、凶器を使うような事態に至ったのか、その理由が、漠然としか書かれてないので、話として、完成レベルに至っていないように、感じられます。


【悪薬】 約26ページ

  友人にして同僚の男に対し、殺意を抑えられなくなってしまった人物が、治療機器の店に行き、殺人衝動を抑える機械を購入する。 ところが、その機械は、火星人用で、火星人は、殺人を一切犯さない習俗だった。 男は、それと知らずに、機械による治療を受けて・・・、という話。

  殺人衝動は抑えられたが、その代わり・・・、というオチ。 間違った機械を売った側が、誰に売ったかを捜査するのですが、その過程が長いので、このページ数になっています。 「一度、精神異常になった人間が、偶然、治るような事はない」という事を言いたいのかも。 実際には、歳をとると、症状が軽くなって来るらしいですが。


【災厄を防ぐもの】 約16ページ

  未来に起こる災厄を教えてくれる、姿が見えない宇宙人に、とりつかれた男。 アドバイスのお陰で、何度も難を逃れるが、災厄の数が次第に増えて来て・・・、という話。

  アイデアが熟成しないまま、行き当たりばったりで書き進めたら、こうなったという感じ。 宇宙人が最後に教えてくれた、禁止事項があるのですが、「○○だけはしていけない」と言う、その○○が、どんな行為か分からないところが、オチになっています。 ちょっと、次元が低過ぎて、取って付けたようなオチ。


【地水火風】 約12ページ

  最も高価な宇宙服を身に着けて、金星に下り立った男。 任務の為に、雪原を歩いて行くが、雪に足をとられて、身動き取れなくなってしまう。 無線で助けを呼んだが、来るまでに、10時間もかかると言われ・・・、という話。

  【地球人の善と悪】と、似たような設定で、最新最高の装備ではあるが、現地の状況を知らない者が用意したせいで、却って、お荷物になってしまうというパターン。 こちらには、オチが付いていないので、さして、面白くはないです。 必要なのは、最高の宇宙服ではなく、至って素朴な、雪靴だったというのは、皮肉ですが、笑えるほどではないです。

  ちなみに、金星の実際の環境は、凄まじいものでして、雪が深いどころの話ではありません。 この作品が書かれた頃には、まだ、そういう事が分かっていなかったわけですな。 金星だと思わず、地球の極地に近い孤島が舞台だと思えば、受け入れ易いですが、それだと、宇宙服と、雪靴の対比が利かなくなってしまうから、やはり、駄目か。


【密航者】 約13ページ

  全員、博士号の持ち主という、エリートのみが開拓事業に従事している火星。 密航して来た青年は、何の資格も持っていなかった。 ところが、大工仕事に、大変な有能ぶりを発揮したかと思うと、超人的な能力まで持っている事が分かり・・・、という話。

  超人的というより、完全に、超能力者で、しかも、それを他人に教える事もできるというのだから、こんなに価値の高い人間も、そうそう、いません。 おそらく、作者が、博士号の持ち主ばかりで構成されている組織に反発を覚え、揶揄する目的で、こういうアイデアを思いついたんじゃないでしょうか。

  オチが、オチになっていない点が、残念。 青年に妹がいて、その妹も、超能力者なのですが、彼女の登場が、なぜ、オチになるのか、分かりません。


【アカデミー】 約31ページ

  精神異常の値が、数値化されていて、10を超えると、もう、いけない。 10になりかけている男が、勤め先で、ポカをやらかし、失職してしまう。 家に帰れば、「もう、あなたの命令を聞く事はできなません」と言って、ロボットや愛犬まで、出て行ってしまう。 10を超えた人間は、脳手術を受けるか、アカデミーと呼ばれる施設へ行くかを選ばなければならないが、脳手術は嫌だし、アカデミーは、帰って来た者がいないという。 さあ、どうしたものか・・・、という話。

  長いので、それなりの読み応えはあります。 大した話でないので、ネタバレさせてしまいますが、アカデミーに入った直後までは、何が起こるのかと、ゾクゾクします。 問題は、そのゾクゾク感に見合う、その後の展開が用意されていない事でして、大いに、肩透かしを食います。 面白い結末を思いつかないまま、締め切りが来てしまったんでしょうな。


【家畜輸送船】 約20ページ

  宇宙船を持っている会社。 本業の放射線浄化作業の方がさっぱりなので、家畜の運搬に手を出した。 3種類の動物を、一遍に運ぼうとしたが、それぞれ、特性が異なり、あちらを立てれば、こちらが立たずで、四苦八苦する話。

  アイデアは、面白いんですが、一種のシチュエーション・コメディーである事が分かってしまうと、タネを知っている手品を見ているようで、長さを感じてしまいます。 こういうアイデアこそ、もっと短い、8ページくらいの作品に使うべきなのでは? オチが付いていますが、あまり、キレが良くありません。


【救命艇の叛逆】 約21ページ

  購入した中古の救命艇。 一部の機能が止められていたので、修理したところ、すでに滅んだ異星人が、500年前の戦争で使ったもので、当時の記憶を、そのまま、残している事が分かった。 救命艇は、今乗っているのが、地球人だとは認めず、氷点下の環境へ移動しようとするが・・・、という話。

  二人の地球人は、【家畜輸送船】に出て来るのと、同じ人物です。 アイデアは、アシモフさんの、【堂々巡り】(1942年)に似ています。 こちらは、ロボット三原則は出て来ませんが、その代わりに、救命艇の任務が決められていて、どうやったら、その呪縛から逃れられるかが、鍵になります。



  総括ですが、先に読んだ、≪人間の手がまだ触れない≫よりも、だいぶ、落ちます。 解説にもありますが、アイデアがネタ切れを起こして、焼き直しが増えているんですな。 依然として、筒井作品よりも、星作品に近い印象が強いです。




≪標的ナンバー10≫

ハヤカワ・SF・シリーズ 3146
早川書房 1967年6月30日 初版発行
ロバート・シェクリイ 著
小倉多加志 訳

  沼津図書館にあった、新書サイズの本です。 長編、1作を収録。 2段組みで、全体のページ数は、125ページ。 コピー・ライトは、1965年になっています。 シェクリイさんの短編、【七番目の犠牲】を、イタリアで映画化した、≪華麗なる殺人≫の、原作者の手によるノベライズ作品。


  戦争の代わりに、攻撃欲が強い人間だけ、自発的に登録して、殺し合いをさせる制度がある社会。 10人殺すと、社会的地位が上がる。 アメリカ人の女が、所属会社の撮影チームと共に、ローマに乗り込み、10人目のターゲットに近づくが、相手は、結構、いい男で・・・、という話。

  ≪七番目の犠牲≫と、基本設定は変わっていません。 性別が、ハンターと標的で、入れ代わっているだけ。 しかし、短編を、1時間半の映画にする為に、相当な水増しをしています。 膨らませたのは、脚本家だと思うので、原作者に、水増しを責めるのは、酷というもの。 それにしても、中身の乏しい水増しですな。

  シェクリイさんは、50年代に、ドカドカとSF短編を書いて、60年代には、もう、書く事がなくなっていた模様。 お金の為に、ノベライズの仕事を引き受けたのではないかと思いますが、それにしても、これは、ひどい出来です。 イタリアやローマに、これといった興味がないのが、アリアリと出てしまっています。 そりゃ、興味がない土地を舞台にした映画を、小説にしろと言われても、いいものは書けませんよねえ。

  そもそも、シェクリイさん、長編向きの作家ではないらしく、読者の興味を引っ張る技術が、まるで、なっていないのは、誰が読んでも感じるところでしょう。 解説で、何とか、誉めようとしているのが、痛々しいくらいです。 しかし、これを、面白いと言ってしまったら、もはや、小説の感想を書く資格がないですぜ。

  ただ、映画は、割と洒落た内容になっているようです。 原作短編と、映画では、結末が違っていて、原作の皮肉さは、取り除かれています。 原作は、その皮肉な結末が、一番の読ませ所なのですが、そこを外してしまうのだから、映画人の発想には、よく分からないところがありますな。




  以上、4冊です。 読んだ期間は、2024年の、

≪白いきば≫が、6月24日と、25日。
≪時は乱れて≫が、7月6日から、8日。
≪地球巡礼≫が、7月8日から、10日。
≪標的ナンバー10≫が、7月21日。

  動物ものが、1冊、SFの古典が、3冊。 ≪白いきば≫は、ジャンルに関係なく、読書人なら、読んでおいた方がいい作品。 ≪時は乱れて≫は、SFについて何か意見を言うなら、読んでおいた方がいい作品だと思います。 もっとも、私は、これを読む前から、あれこれ、言いまくって来ましたが。 シェクリイさんの2冊は、≪地球巡礼≫については、まあ、知っておいた方がいいか。 ≪標的ナンバー10≫は、わざわざ、時間を割いて読むようなものではないです。