2008/12/14

大失業時代

  どうも心配になるのですが、テレビや新聞などマスコミ関係者は、≪派遣社員≫と≪期間工≫の区別が、はっきり分かってるんでしょうねえ。 金融危機発生後、国内企業のクビ切りが始まった時、「○○社は、年末までに○百人の期間工を削減すると発表した」といった報道がありましたが、期間工を雇用している大概の企業は、派遣社員も使っているので、切られるとしたら、派遣社員が先になります。 いきなり期間工から削減するというのは、どう考えても不自然です。

  マスコミ関係者が、両者を混同している可能性は極めて高いです。 これを読んでいる人の中にも、よく分かっていない人がいると思うので、書いておきますが、≪派遣社員≫というのは、籍は派遣会社に所属し、別会社の工場などに派遣されてくる人材の事です。 一方、≪期間工≫というのは、工場を運営している会社が直接に雇った、≪臨時雇い≫の事で、籍は正社員同様、その会社に属します。 現場では、期間工の方が、派遣社員より格上になります。

  期間工は、会社に直接雇われているので、その会社の独身寮に入るケースが多いです。 一方、派遣社員は、アパートや賃貸マンションなど、派遣会社が用意する住居に住みます。 よって、「解雇とともに、社員寮から追い出される派遣社員が増えている」などという表現は、間違っているのです。 最初から入っていないのに、どうして追い出される事が出来るというのじゃね?


  マスコミ関係者というのは、とことん自分に都合がいいオツムを持っているようで、つい半年前まで、「温暖化対策を急がなければ、地球が破滅する!」などとアジり立てていた同じ口で、今度は、「企業は、安易な人員削減をするな!」とがなっているわけですが、言ってる事が矛盾してるぞ、おい。 温暖化対策で企業が経済活動を縮小すれば、結局、人員削減せざるを得なかったんだから、現在の状況は、あんたらが覚悟していた事ではないのかね? 企業が人員削減したら、世の中に失業者が溢れるのを承知の上で、温暖化対策を進めろと大合唱していたのではないのかね?

「このままでは、地球環境がもたないのは分かっているわけで、CO2排出に大きな責任がある企業には、その辺の所をもう一度考えていただきたいものです」

「このままでは年を越せないという切実な状況に追い込まれている人達が大勢いるわけで、企業にはその辺の所をもう一度考えていただきたいものです」

  一体、企業に人を減らせと言いたいのか、減らすなと言いたいのか、どっちなんだね? それとも、世の中全体の仕組みを見渡した定見など持ってなくて、ただ、その時のブームに乗っかって、「白にしろ!」「黒にしろ!」と叫んでいるだけなのか? おいおい、猿山の猿でも、もそっと節操があるぜ。

  節操が無いといえば、資本主義を掲げた政党が、平気で社会主義的政策を取ろうとしているのも、凄い光景です。 あんた方、社会主義、嫌いなんだろ? 虫唾が走るんだろ? なんで、そんな事に自分から手を染めるのよ? 今の今まで、「資本主義は最も優れた制度だ!」と信じて生きてきたんじゃないのかい? だからこそ、社会主義国をボロクソに貶してきたんじゃないのかい? なぜ、平気で資本主義を裏切れる?

  資本主義に則れば、経営が傾いた企業を国が救うなんて、以ての外です。 弱い所が自然に潰れるから、企業の新陳代謝が進むのであって、いちいち救っていたのでは、へろへろ企業ばかりになってしまうではありませんか。 ああ、失業者はうようよ出ますよ。 ホームレスもわんさか出る。 犯罪も増える。 社会秩序なんか崩壊だ。 だけどねえ、それが資本主義ではありませんか。 「資本主義には悪い点もあるが、良い点の方がずっと多い」、そう考えていたから、資本主義を信奉して来たんじゃないのかい? なぜ、信念を曲げるような事をする?


  信念を曲げると言えば、クビ切りが決まった途端、俄か労働組合員になって、ストやらデモやらぶちかましている連中も呆れたものです。 私も工場で働いていますから傾向は知っていますが、日本の工場労働者には、社会主義者などほとんどいません。 そもそも、企業内労組が大半ですから、会社に真っ向から逆らう組合など存在せず、活動も至ってお座なりです。 景気がいい時には、何も訴えなくても、会社がよくしてくれるので、労組なんぞ出る幕が無いんですな。 勢い、組合員も保守的志向の人間が多くなります。 左っ気は全くなく、中立も少ない、どちらかというと右っ気があるか、もしくは宗教臭いか、そんな人々で埋め尽くされています。

  無理も無いといえば無理も無い。 工場労働者は、ほとんど高卒で、一般教養レベルすら頭に入れていないのが普通です。 マルクス・アウレリウスとカール・マルクスの区別がつく人を見つけたら、目をまん丸に見開いて、繁々眺める価値があるほど珍しい。 社会主義も資本主義も全然分からず、「日本は資本主義国だから、資本主義を応援していればいいんだ」くらいの、しみじみお子様レベルの知識しか持ち合わせていないのが実情です。 期間工や派遣社員となれば、尚更その傾向が強いです。

  そんな連中が、失業の恐怖に曝された途端、一転して、社会主義者に変身するんですわ。 ついこないだまで、「社会主義なんて貧乏な国の制度だ」などと抜かして、へらへら笑って社会主義国を扱き下ろしていたその同じ口で、「安易な解雇は許せない!」なんて叫び始めるわけだ。 また、マスコミが、いかにも同情に耐えないという論調で、その様子を報道するわけだ。 おまえら、一体、何者なんだよ? 資本主義と社会主義、どっちを支持してるんだね? どっちでもいいのか? その時の都合でコロコロ変わるのか? あまりにも信念に欠けているとは思わないか?

  ワーキング・プアの青年層が、≪蟹工船≫を読んで盛り上がっているそうですが、それがブーム化している点が軽薄だよねえ。 教養の低い人間が、生まれて初めて文学らしい作品を読んで、興奮しているだけなんじゃないの? もっとも、≪蟹工船≫がそんなに面白いとは思えませんが……。 ≪蟹工船≫の場合、労働者は搾取されていたわけですが、今クビを切られている連中は、別に搾取されていたわけではなく、ちゃんと労働の代価は貰っていたのですから、境遇をダブらせるのには無理があるでしょう。

  大体、雇ってもらう前は、「どんなつらい思いでも我慢する。 たとえ、期間限定でも、当座働き口が見つかるなら、それで充分」と思っていたくせに、クビにされると激怒するっていうのは、人間としてどうなんですかねえ。 会社に対する見方が、解雇を境に、≪恩人≫から≪仇敵≫に転換するわけですが、そんな論理が罷り通るなら、恩人は永久に恩を与え続けなければ、感謝されない事になってしまいます。 たとえ一定期間でも雇ってくれた会社に向かって、「許せない!」なんて言葉をよく使えるものです。 先の事を考えても、そんな捻じ曲がった根性の人間を、これから雇いましょうなんて会社はありませんよ。 恨まれちゃたまらないものねえ。

  借金した奴が、貸し手に対して取る態度とそっくりだ。 借りる前は、「神様、仏様!」と手をすり合わせて拝むくせに、返す段になると、「人でなし!」と口を極めて罵る。 借りた時に感じていた恩義はどこに行ったのよ? 貧すりゃ貪すで、人間としての品性など消し飛んでしまうのかね? そういえば、苦しい時だけ医者に縋り付いて、病気が治らないと、「医療ミスだ!」と言って訴訟を起こす患者にも通じるものがあります。 社会的弱者を装って、実は性根が腐っているだけ。 いずれ劣らず、すこぶる醜い。 


  解雇されて寮を追い出され、住む場所が無くなった期間工に、国が住居を世話する案が出ているようですが、何だか変ですねえ。 そういう政策がアリなら、今までだって、ホームレスに住居を世話してやればよかったと思うんですがねえ。 いやしくも資本主義を標榜するなら、そんな政策はナシでしょう。 生活保護制度ですら、資本主義の原則から外れていると思いますが、今回失業した人間だけ助けるというのは、≪平等≫を謳った憲法に反しているんじゃないでしょうか。

  これが、災害で家を失ったのなら、いずれ復旧とともに支援は終わりますから、問題ないと思いますが、単に失業したというだけで国が支援していたのでは、いくら税金を集めても足りゃしませんよ。 なぜって、アメリカのバブル崩壊はまだ始まったばかりで、今後何年・十何年続くか分からず、その間ずっと、失業者を養ってやるわけにいかないからです。 一定期間を過ぎて、再就職できなかったら、結局、放り出すんですか? それでは、破滅が早いか遅いかというだけの違いではありませんか。

  大体、日本を代表するような大企業が、経営悪化に耐えくれなくて、どんどん人を切り捨てているというのに、切られた人達を、新たに雇う企業があるとは思えません。 「こんな時こそ、ビジネス・チャンス!」などと、お気楽な事を書いている新聞記事もありますが、だったら、おめーが起業してみろ! 不景気に会社を大きく出来る経営者など、ほとんどいやしません。 就職斡旋業者を装う詐欺師くらいのもんじゃないの?

  苦しい時には藁にも縋るわけで、国の支援策を大歓迎している人達もいるでしょうが、お金っていうのは、政府が決めれば何も無い所から生まれてくるという物ではないんですよ。 財源が無ければ何も出来ないわけで、結局は、国民が税金で払う事になるのです。 自分自身は職が安定していている人達が、神様目線で失業者に同情して、「政府はもっと、きめ細かい対策を取るべきですねえ」などと言っていますが、政府が失業対策に使う金は、自分が収めている税金から出るのだという仕組みが分かってるんですかね? 識者ぶって、当たり障りの無い意見をテケトーに言っているんでしょうが、「政府は失業者を救え!」と言うのと、「不景気に増税なんてけしからん!」と言うのは、矛盾しているから、よく考えるようにね。


  唯一、気の毒だと思うのは、新卒の内定取り消し者です。 企業側の都合で、一年間失ってしまったわけだ。 いや、出だしの躓きは後々まで響くので、最悪の場合、一生を失ってしまう事になるかもしれません。 景気のいい時でも、就職浪人すると、次の年にまともな会社に入れるケースは稀ですが、この不況では、就職そのものが出来なくなる恐れもあります。 まったく、不運としか言いようがありません。 この人達の場合、会社に対して激怒するのも無理は無いです。 「補償金なんていらないから、就職口をどうにかしてくれ!」と怒鳴りつけてやってもいいかもしれません。 でも、やはり、先の事を考えると、怒鳴ってる暇があったら、職を探す方が現実的だと思いますが。


  とにかくねえ、失業した状態で、政治活動なんてやるのは、まともな生き方ではないですよ。 政府を突き上げたって、無駄です。 衆愚民主主義システムですから、政府を突き上げれば、政府としては民衆の言う事を聞かざるを得ませんが、政府が企業に、「クビを切るな」と命じても、景気後退で収益をあげられない企業は、それに応じる事が出来ません。 応じれば、人件費負担で倒産してしまうからです。 そうなれば、ますます失業者が増え、働き口は減ります。

  一旦、政治活動を始めてしまうと、それ自体が人生目標になってしまって、どんどんエスカレートし、しまいには、「政府を倒せ!」なんて物騒な話になって来ます。 「どうせ、失業して喰っていけないんだ。 こうなりゃ世の中滅茶苦茶にして、どいつもこいつも道連れにしてやる」なんて考え始めたら、もう凶悪度に於いて連続殺人犯と変わりません。 むしろ、「他の失業者がデモにうつつを抜かしている時こそ、働き口の落穂拾いが有利になる」と考えて、地道な職探しに励むべきでしょう。