トリック
≪トリック≫が10周年だそうで、映画とドラマの新作が作られた上に、スピン・オフ・ドラマまで放送されて、かなり盛り上がっています。 いや、世間が盛り上がっているかどうかは分かりませんが、≪トリック≫のファンだった人達は、たぶん、盛り上がっていると思うのです。 私もその一人で、かなり盛り上がっています。 もっとも、ケチなので、映画を見に劇場へ行くような事はしないわけですが。
盛り上がっていて、こんな事を言うのもなんですが、≪10周年≫という言い方はよいとして、「10年続いた」というのは、どんなもんですかねえ。 年表にして、並べてみますと、
2000年 ≪トリック1≫
2001年
2002年 ≪トリック2≫、≪劇場版1≫
2003年 ≪トリック3≫
2004年
2005年 ≪新作スペシャル1≫
2006年 ≪劇場版2≫
2007年
2008年
2009年
2010年 ≪劇場版3≫、≪新作スペシャル2≫
という事になり、結構な虫食い状態。 特に、≪劇場版2≫は、2006年とはいうものの、実際に撮影されたのは≪新作スペシャル1≫と同じ、2005年だと思われ、制作年で見ると、今年復活するまでに、5年近く空いている事になります。 10年の歴史で、5年も空白期間があったとなれば、「続いた」というのは、表現に問題が無きにしも非ず。
私は、確かにファンなんですが、最初から見ていたわけではなくて、2003年に、≪トリック3≫と、≪劇場版1≫のテレビ放送があったのを見て、「お、なんだ! こんな面白いドラマがあったのか!」と驚き、それから遡って、レンタルで借りたり、テレビでの再放送を見たりして、≪トリック1≫と、≪トリック2≫を見たという順序です。 最初のテレビ・シリーズ二本は、深夜ドラマ枠でしたから、その頃から見ていた人というのは、そんなに多くはありますまい。
更に、細かく言いますと、≪トリック1≫は、DVDを借りて来て、ビデオにダビングできたのですが、≪トリック2≫になると、コピー・プロテクトが入ったらしく、私の持っているデッキではダビングできなくなってしまいました。 ダビングどころか、ビデオ・デッキを通すと、映像がまともに映らない有様。 その後、DVDプレーヤーからテレビに直結すれば、見るだけは見れる事が分かりましたが、ダビングできない事に変わりはなく、一気に借りる気を無くし、第一話≪六つ墓村≫だけ見て、他は見ませんでした。
それから、三年くらいして、また見たくなり、第二話≪絶対当たる占い≫と第三話≪ゾーン≫を借りて来たんですが、それらがあまり面白くない話でして、またまた見る気を無くし、うっちゃらかしになりました。 更に暫くして、たまたまテレビで再放送をしていた、第五話≪妖術使い≫の後半だけ見たのですが、面白いとは思ったものの、「どうせ、DVDを借りて来ても、ダビングできないしなあ」と思って、前半は見ずじまい。 そんな状態で、今年まで至りました。
それが今回、≪トリック大感謝祭≫をやってくれたおかげで、テレビで、第三話≪ゾーン≫と第四話≪御告者≫を録画する事に成功しました。 待てば海路の日和ありですな。 調子に乗って、≪妖術使い≫も、放送してくれるかと期待していたんですが、それは今のところ叶っていません。 やはり、面白そうな回は、簡単には見せてくれないのか・・・。
今年分を除いて計算しますと、≪トリック≫の話数は、各テレビ・シリーズで5話ずつ、劇場版が2話、新作スペが1話で、計18話ある事になります。 普通は2時間、長い物は3時間、短い物では、1時間というのが一話だけ。 私個人的に、ランキングをつけますと、ベスト5は、
1 闇十郎(トリック3)
2 六つ墓村(トリック2)
3 劇場版1
4 劇場版2
5 スリット美香子(トリック3)
といったところでしょうか。 ほぼ全部、≪村舞台物≫になりますな。 ≪トリック≫には、大きく分けて、≪街舞台物≫と≪村舞台物≫がありますが、≪街≫の方は、胡散臭い雰囲気ばかり強くて、今一つ、好きになれません。 ≪村≫の方は、横溝正史作品の雰囲気に近ければ近いほど面白く、単に村が舞台というだけだと、あまり笑えません。
≪闇十郎≫は、ダントツに良く、代表作にしてもよいくらいではないかと思います。 三姉妹の妖しい雰囲気といい、亀山歌の使い方といい、ストーリーの構成といい、「文句のつけようが無い」などという評し方では失礼なくらいで、心底感服仕る完成度の高さ。 いろいろと制約があるテレビ・シリーズの中で、こういう作品ができたというのは、奇跡に近いですな。
≪六つ墓村≫も同じくらい、凝りに凝っていて、見応え十二分だと思います。 未だに、いの一番に思い出すのが、「ご・じつだん」のギャグで、まーあ、よく思いついたものだと、感心します。 ≪劇場版≫の二本は、時間も金もかかっているので、面白くなって当然という、堂々たる出来映え。 ≪スリット美香子≫は、村の博物館が主な舞台という、少し風変わりな雰囲気が好きです。 ただ、今後、≪妖術使い≫を全部見る事ができたら、5位は入れ替わるかもしれません。
一方、ワースト5はというと、
1 新作スペシャル1
2 母の泉(トリック1)
3 黒門島(トリック1)
4 絶対死なない老人ホーム(トリック3)
5 絶対当たる占い(トリック2)
というところ。 ≪新作スペシャル1≫は、おそらく、≪劇場版2≫の時に、スタッフを再結集したついでに撮ったと思われる話で、どう見ても、どこを見ても、やっつけ仕事。 ダラダラと2時間近い長さなのに、笑える所が一箇所しかありません。 しかも、山田が上田にトイレの水を引っ掛けられて、仲間さんがマジで悲鳴を上げるという、偶然発生した場面だけ。 作為的に盛り込まれた小ネタの、ほとんど全てがスベっているという、記録的なつまらなさ。 これを見た時には、呆れてしまい、「こりゃ、堤監督も、いよいよ枯れたか」と嘆いたくらいですが、その後、ほぼ同じ時に作られた≪劇場版2≫を見たら、充分面白かったので、「コメディーの面白さは、演出家によって決まるわけではないんだなあ」と思った次第です。
当然の事ながら、≪トリック≫の世界は、堤監督がいなければ生まれなかったわけですが、では、堤監督が演出している回がすべて良いかというと、そんな事は無いのであって、ワーストの方にも、堤作品が上位を占めています。 「つまらないはずはない」と思って、見始めるんですが、どうにも面白くなく、何度見返しても、やはり、面白くない。 脚本が悪い時は、気が乗らないんでしょうかねえ。
で、脚本家も、何人かが各話を別々に担当しているわけですが、メインである蒔田さんの時なら、確実に面白いかというと、そうでもないのであって、何が原因で面白い話と面白くない話ができるのかは、はっきり分かりません。 原作が無い映像作品の面白さは、脚本と演出という、二つの要素で決まるわけですが、自作パソコン風に表現すると、「相性が悪かった」というような事でしょうかねえ。
ちなみに、ごっちゃにしている人もいると思いますが、「ストーリーが面白い」というのと、「小ネタ・ギャグが面白い」というのは、全然別の事でして、前者は主に脚本家の領分、後者は主に演出家の領分になります。 演出家、つまり、普通は監督ですが、監督の権限で、現場でストーリーを変えてしまうのは、かなり難しいでしょう。 なぜというに、脚本を元にして撮影スケジュールを組んであるので、ストーリーを途中で変えると、ありとあらゆる予定が狂ってしまうからです。 時間にゆとりがある映画では、割とよく、途中変更が行なわれますが、撮ってすぐに放送しなければならないドラマでは、そういう事は、ほとんど無いと思います。
も一つ、ちなみに、コメディー・ドラマに於いて、俳優さんの資質というのは、それほど大きな役割を果たさないようです。 それまで、コメディーなんぞ一回もやった事が無いばかりか、洒落の一つも思いついた事が無い、コチコチ頭の役者さんでも、面白いセリフを与えられて、面白くなるような演出を受ければ、ちゃんと、面白いキャラを演じる事ができます。 逆に言うと、役の上のキャラがどんなに面白くても、その役者さん本人が面白いわけではないので、錯覚しないように注意が必要ですな。
映画や新番組の宣伝で、俳優さんがトーク番組に出て来る事がよくありますが、役柄では面白いのに、普通に話をすると全然面白くないという人がたくさんいます。 また、売れっ子で、次から次へひっきり無しに、たくさんの作品に出ている役者さんの場合、当人の地のキャラが摩滅してしまっているようなケースすら見られます。 あまりにも多くの別人格を演じすぎたため、自分がどんな人間なのか分からなくなってしまったのでしょう。 俳優さんにあまり熱を上げると、後で肩透かしを喰らう事が多いのは、悲しい事ですな。
一般論はさておき、仲間さんと阿部さんは、≪トリック≫には足を向けて寝られないでしょうねえ。 仲間さんの場合、≪ごくせん≫の方が代表作で、ファンがより一般的ですが、そもそも、≪トリック≫をやっていなければ、コメディー・ドラマの主演ができる女優として認知されなかったと思うので、≪ごくせん≫の話も来なかったでしょう。 阿部さんは、キャリアがずっと長いですが、やはり、≪トリック≫をやってから、注目度が急に高まったような気がします。
で、≪大感謝祭≫のおかげで、何かと話題の≪トリック≫なわけですが、実のところ、このドラマ、老若男女全般に人気があるわけではなく、ファンとなると、特定の世代に限られています。 大体、30歳前後から、50歳くらいまでですかね。 それ以上の年齢になると、この種のコメディーは、「馬鹿馬鹿しい」の一言で片付けてしまい、たとえ見る事があっても、嵌ったりはしません。 それ以下の年齢だと、「自分達の世代のドラマではない」と見做しているようです。
30歳前後という年齢は、レギュラー最年少の仲間さんと、ほぼ同世代という意味です。 これが、25歳くらいから見ると、山田奈緒子はもはや、「売れないけど、頭が切れる、可愛いマジシャン」ではなく、ただの、「オバさん」になってしまうのです。 オバさんが何をやっていても、興味を持てないのは、無理からぬ事。
そういえば、今から7年くらい前、≪トリック3≫が放送されていた頃、20代半ばの女性と、ネット上で、≪トリック≫について話をした事があるんですが、彼女の年齢から見ると、阿部さんは、ただのオジさんであり、ファンになるような対象ではないとの事でした。 ちなみに、当時、彼女が夢中になっていたのは、岡田准一さん。 残酷ですけど、年齢層の違いというのは、厳として存在するんですねえ。
そういうわけで、≪トリック≫は、30~50歳くらいの人の間で、≪密かに≫人気があるという、割と地味なドラマなんですな。 ≪トリック≫が名作だから10年続いたというより、≪トリック≫を超えるコメディーが、10年間作られなかったために、またまた引っ張り出されたという事なんじゃないでしょうか。 蒔田さんが脚本を書いた、≪パズル≫という類似品もありましたが、キャラの設定が雑で、≪トリック≫には、とても及びませんでした。
コメディー・ドラマという奴、≪フルハウス≫のようなアメリカの作品を見ていると、無限に作れるような気もするのですが、あれは、一定のパターンを視聴者に気づかれないように何度も繰り返しているからこそできる業なんでしょうなあ。 日本では、ジョークの習慣が無いためか、笑い話の範型が少なく、脚本家や演出家の個人的才能に頼らざるを得ないので、すぐにネタが尽きてしまうのだと思われます。
≪トリック≫のテレビ・シリーズを、毎年やって欲しいと願っているファンは多いと思いますが、そんなに作った日には、あっという間にネタ切れして、目も当てられないような低レベルな作品に堕ちるのは必至。 限界は、とうの昔に見えていたわけだ。 堤さんや蒔田さんも、それを百も承知しているから、作り過ぎないようにしているのでしょう。
コメディーといえば、今回、≪劇場版3≫と≪新作スペ2≫の宣伝の為に、スピン・オフで作られたドラマ、≪警部補 矢部謙三≫ですが、これを見ると、面白いコメディーを作るのが、いかに難しいかが分かります。 ≪トリック≫のスピン・オフですから、関連ネタのパロディーが使いたい放題であるにも拘わらず、ほとんど活かせていません。 第四話のように、目眩がするほどつまらなかった回もあります。 というか、第四話は、コメディーとは言えませんな、ありゃ。 その前の第三話は、かなり面白かったのですが、第三話と第四話で、演出家が同じ人だから、また分からなくなります。
≪トリック≫に話を戻しますが、面白いとは言っても、あくまで、日本国内限定でして、外国へ売ろうとすると、言葉の壁を越えられないと思います。 駄洒落を使った小ネタなど、訳しようがないですからのう。 あの名作、≪闇十郎≫も、外国語人には、面白さが半分も伝わりますまい。 コメディーが難しい事と、言葉遊びに頼らないアメリカのコメディーが、いかによく出来ているかを痛感させられるところです。
と、ここまでが、5月15日土曜日の、昼間に書いた部分です。 その後、夜の9時から、≪トリック 新作スペシャル2≫が放送されたので、その感想も書き加えておきます。
≪トリック 新作スペシャル2≫
うむむむむむ・・・・、久々の新作だったので、期待が大き過ぎたためか、些か肩透かしを喰らいました。 2005年の≪新作スペシャル1≫のような、手抜き・やっつけのスカ作品とは異なり、ストーリーもロケ地も配役も凝っているんですが、小ネタ・ギャグの散布濃度が低いためか、全編に渡って間延びした雰囲気があり、欠伸を抑え切れなくなるという、≪トリック≫らしからぬ、緊張感の不足が顕著でした。 ストーリーが推理物に傾き過ぎていて、馬鹿馬鹿しさがほとんど感じられず、ありふれた2時間サスペンスを見ているかのように思えてしまったのも、残念なところです。
ストーリーは、≪悪魔の手毬歌≫そのままで、それはまあいいんですが、パロディーにして笑いを取るべきところを、まるっきりそのままなぞってしまっていて、捻りも工夫も無し。 特に後半はそれが甚だしく、これでは、単なる盗作ですな。 訴えられるような事はないと思いますが。 謎解きに入ると、≪山田・上田 対 犯人≫という対立軸が消えてしまい、犯人の一人芝居のようになって、山田と上田の存在感がどこかへすっとんでしまいます。 なんとも、≪トリック≫らしくない話。
良かった点を挙げますと、やはり、浅野ゆう子さんが最高ですな。 ストーリー上、メーテルである必然性は全く無いにも拘らず、あの格好が大変良く似合う。 堤監督の作品らしく、脇役の女優陣に、はっとするような美女を惜し気もなく揃えているのも、心憎い。
ロケ地の村が凄い所で、よほど裕福な土地だったんでしょう、豪農か庄屋か知りませんが、巨大な伝統建築が出るわ出るわ。 舞台が、あまりにも素晴らしすぎて、≪ロケ地負け≫を起こしたようにすら見えます。 CGで、富士山を並べた背景も、日本離れした雄大さが感じられて、面白かったです。
盛り上がっていて、こんな事を言うのもなんですが、≪10周年≫という言い方はよいとして、「10年続いた」というのは、どんなもんですかねえ。 年表にして、並べてみますと、
2000年 ≪トリック1≫
2001年
2002年 ≪トリック2≫、≪劇場版1≫
2003年 ≪トリック3≫
2004年
2005年 ≪新作スペシャル1≫
2006年 ≪劇場版2≫
2007年
2008年
2009年
2010年 ≪劇場版3≫、≪新作スペシャル2≫
という事になり、結構な虫食い状態。 特に、≪劇場版2≫は、2006年とはいうものの、実際に撮影されたのは≪新作スペシャル1≫と同じ、2005年だと思われ、制作年で見ると、今年復活するまでに、5年近く空いている事になります。 10年の歴史で、5年も空白期間があったとなれば、「続いた」というのは、表現に問題が無きにしも非ず。
私は、確かにファンなんですが、最初から見ていたわけではなくて、2003年に、≪トリック3≫と、≪劇場版1≫のテレビ放送があったのを見て、「お、なんだ! こんな面白いドラマがあったのか!」と驚き、それから遡って、レンタルで借りたり、テレビでの再放送を見たりして、≪トリック1≫と、≪トリック2≫を見たという順序です。 最初のテレビ・シリーズ二本は、深夜ドラマ枠でしたから、その頃から見ていた人というのは、そんなに多くはありますまい。
更に、細かく言いますと、≪トリック1≫は、DVDを借りて来て、ビデオにダビングできたのですが、≪トリック2≫になると、コピー・プロテクトが入ったらしく、私の持っているデッキではダビングできなくなってしまいました。 ダビングどころか、ビデオ・デッキを通すと、映像がまともに映らない有様。 その後、DVDプレーヤーからテレビに直結すれば、見るだけは見れる事が分かりましたが、ダビングできない事に変わりはなく、一気に借りる気を無くし、第一話≪六つ墓村≫だけ見て、他は見ませんでした。
それから、三年くらいして、また見たくなり、第二話≪絶対当たる占い≫と第三話≪ゾーン≫を借りて来たんですが、それらがあまり面白くない話でして、またまた見る気を無くし、うっちゃらかしになりました。 更に暫くして、たまたまテレビで再放送をしていた、第五話≪妖術使い≫の後半だけ見たのですが、面白いとは思ったものの、「どうせ、DVDを借りて来ても、ダビングできないしなあ」と思って、前半は見ずじまい。 そんな状態で、今年まで至りました。
それが今回、≪トリック大感謝祭≫をやってくれたおかげで、テレビで、第三話≪ゾーン≫と第四話≪御告者≫を録画する事に成功しました。 待てば海路の日和ありですな。 調子に乗って、≪妖術使い≫も、放送してくれるかと期待していたんですが、それは今のところ叶っていません。 やはり、面白そうな回は、簡単には見せてくれないのか・・・。
今年分を除いて計算しますと、≪トリック≫の話数は、各テレビ・シリーズで5話ずつ、劇場版が2話、新作スペが1話で、計18話ある事になります。 普通は2時間、長い物は3時間、短い物では、1時間というのが一話だけ。 私個人的に、ランキングをつけますと、ベスト5は、
1 闇十郎(トリック3)
2 六つ墓村(トリック2)
3 劇場版1
4 劇場版2
5 スリット美香子(トリック3)
といったところでしょうか。 ほぼ全部、≪村舞台物≫になりますな。 ≪トリック≫には、大きく分けて、≪街舞台物≫と≪村舞台物≫がありますが、≪街≫の方は、胡散臭い雰囲気ばかり強くて、今一つ、好きになれません。 ≪村≫の方は、横溝正史作品の雰囲気に近ければ近いほど面白く、単に村が舞台というだけだと、あまり笑えません。
≪闇十郎≫は、ダントツに良く、代表作にしてもよいくらいではないかと思います。 三姉妹の妖しい雰囲気といい、亀山歌の使い方といい、ストーリーの構成といい、「文句のつけようが無い」などという評し方では失礼なくらいで、心底感服仕る完成度の高さ。 いろいろと制約があるテレビ・シリーズの中で、こういう作品ができたというのは、奇跡に近いですな。
≪六つ墓村≫も同じくらい、凝りに凝っていて、見応え十二分だと思います。 未だに、いの一番に思い出すのが、「ご・じつだん」のギャグで、まーあ、よく思いついたものだと、感心します。 ≪劇場版≫の二本は、時間も金もかかっているので、面白くなって当然という、堂々たる出来映え。 ≪スリット美香子≫は、村の博物館が主な舞台という、少し風変わりな雰囲気が好きです。 ただ、今後、≪妖術使い≫を全部見る事ができたら、5位は入れ替わるかもしれません。
一方、ワースト5はというと、
1 新作スペシャル1
2 母の泉(トリック1)
3 黒門島(トリック1)
4 絶対死なない老人ホーム(トリック3)
5 絶対当たる占い(トリック2)
というところ。 ≪新作スペシャル1≫は、おそらく、≪劇場版2≫の時に、スタッフを再結集したついでに撮ったと思われる話で、どう見ても、どこを見ても、やっつけ仕事。 ダラダラと2時間近い長さなのに、笑える所が一箇所しかありません。 しかも、山田が上田にトイレの水を引っ掛けられて、仲間さんがマジで悲鳴を上げるという、偶然発生した場面だけ。 作為的に盛り込まれた小ネタの、ほとんど全てがスベっているという、記録的なつまらなさ。 これを見た時には、呆れてしまい、「こりゃ、堤監督も、いよいよ枯れたか」と嘆いたくらいですが、その後、ほぼ同じ時に作られた≪劇場版2≫を見たら、充分面白かったので、「コメディーの面白さは、演出家によって決まるわけではないんだなあ」と思った次第です。
当然の事ながら、≪トリック≫の世界は、堤監督がいなければ生まれなかったわけですが、では、堤監督が演出している回がすべて良いかというと、そんな事は無いのであって、ワーストの方にも、堤作品が上位を占めています。 「つまらないはずはない」と思って、見始めるんですが、どうにも面白くなく、何度見返しても、やはり、面白くない。 脚本が悪い時は、気が乗らないんでしょうかねえ。
で、脚本家も、何人かが各話を別々に担当しているわけですが、メインである蒔田さんの時なら、確実に面白いかというと、そうでもないのであって、何が原因で面白い話と面白くない話ができるのかは、はっきり分かりません。 原作が無い映像作品の面白さは、脚本と演出という、二つの要素で決まるわけですが、自作パソコン風に表現すると、「相性が悪かった」というような事でしょうかねえ。
ちなみに、ごっちゃにしている人もいると思いますが、「ストーリーが面白い」というのと、「小ネタ・ギャグが面白い」というのは、全然別の事でして、前者は主に脚本家の領分、後者は主に演出家の領分になります。 演出家、つまり、普通は監督ですが、監督の権限で、現場でストーリーを変えてしまうのは、かなり難しいでしょう。 なぜというに、脚本を元にして撮影スケジュールを組んであるので、ストーリーを途中で変えると、ありとあらゆる予定が狂ってしまうからです。 時間にゆとりがある映画では、割とよく、途中変更が行なわれますが、撮ってすぐに放送しなければならないドラマでは、そういう事は、ほとんど無いと思います。
も一つ、ちなみに、コメディー・ドラマに於いて、俳優さんの資質というのは、それほど大きな役割を果たさないようです。 それまで、コメディーなんぞ一回もやった事が無いばかりか、洒落の一つも思いついた事が無い、コチコチ頭の役者さんでも、面白いセリフを与えられて、面白くなるような演出を受ければ、ちゃんと、面白いキャラを演じる事ができます。 逆に言うと、役の上のキャラがどんなに面白くても、その役者さん本人が面白いわけではないので、錯覚しないように注意が必要ですな。
映画や新番組の宣伝で、俳優さんがトーク番組に出て来る事がよくありますが、役柄では面白いのに、普通に話をすると全然面白くないという人がたくさんいます。 また、売れっ子で、次から次へひっきり無しに、たくさんの作品に出ている役者さんの場合、当人の地のキャラが摩滅してしまっているようなケースすら見られます。 あまりにも多くの別人格を演じすぎたため、自分がどんな人間なのか分からなくなってしまったのでしょう。 俳優さんにあまり熱を上げると、後で肩透かしを喰らう事が多いのは、悲しい事ですな。
一般論はさておき、仲間さんと阿部さんは、≪トリック≫には足を向けて寝られないでしょうねえ。 仲間さんの場合、≪ごくせん≫の方が代表作で、ファンがより一般的ですが、そもそも、≪トリック≫をやっていなければ、コメディー・ドラマの主演ができる女優として認知されなかったと思うので、≪ごくせん≫の話も来なかったでしょう。 阿部さんは、キャリアがずっと長いですが、やはり、≪トリック≫をやってから、注目度が急に高まったような気がします。
で、≪大感謝祭≫のおかげで、何かと話題の≪トリック≫なわけですが、実のところ、このドラマ、老若男女全般に人気があるわけではなく、ファンとなると、特定の世代に限られています。 大体、30歳前後から、50歳くらいまでですかね。 それ以上の年齢になると、この種のコメディーは、「馬鹿馬鹿しい」の一言で片付けてしまい、たとえ見る事があっても、嵌ったりはしません。 それ以下の年齢だと、「自分達の世代のドラマではない」と見做しているようです。
30歳前後という年齢は、レギュラー最年少の仲間さんと、ほぼ同世代という意味です。 これが、25歳くらいから見ると、山田奈緒子はもはや、「売れないけど、頭が切れる、可愛いマジシャン」ではなく、ただの、「オバさん」になってしまうのです。 オバさんが何をやっていても、興味を持てないのは、無理からぬ事。
そういえば、今から7年くらい前、≪トリック3≫が放送されていた頃、20代半ばの女性と、ネット上で、≪トリック≫について話をした事があるんですが、彼女の年齢から見ると、阿部さんは、ただのオジさんであり、ファンになるような対象ではないとの事でした。 ちなみに、当時、彼女が夢中になっていたのは、岡田准一さん。 残酷ですけど、年齢層の違いというのは、厳として存在するんですねえ。
そういうわけで、≪トリック≫は、30~50歳くらいの人の間で、≪密かに≫人気があるという、割と地味なドラマなんですな。 ≪トリック≫が名作だから10年続いたというより、≪トリック≫を超えるコメディーが、10年間作られなかったために、またまた引っ張り出されたという事なんじゃないでしょうか。 蒔田さんが脚本を書いた、≪パズル≫という類似品もありましたが、キャラの設定が雑で、≪トリック≫には、とても及びませんでした。
コメディー・ドラマという奴、≪フルハウス≫のようなアメリカの作品を見ていると、無限に作れるような気もするのですが、あれは、一定のパターンを視聴者に気づかれないように何度も繰り返しているからこそできる業なんでしょうなあ。 日本では、ジョークの習慣が無いためか、笑い話の範型が少なく、脚本家や演出家の個人的才能に頼らざるを得ないので、すぐにネタが尽きてしまうのだと思われます。
≪トリック≫のテレビ・シリーズを、毎年やって欲しいと願っているファンは多いと思いますが、そんなに作った日には、あっという間にネタ切れして、目も当てられないような低レベルな作品に堕ちるのは必至。 限界は、とうの昔に見えていたわけだ。 堤さんや蒔田さんも、それを百も承知しているから、作り過ぎないようにしているのでしょう。
コメディーといえば、今回、≪劇場版3≫と≪新作スペ2≫の宣伝の為に、スピン・オフで作られたドラマ、≪警部補 矢部謙三≫ですが、これを見ると、面白いコメディーを作るのが、いかに難しいかが分かります。 ≪トリック≫のスピン・オフですから、関連ネタのパロディーが使いたい放題であるにも拘わらず、ほとんど活かせていません。 第四話のように、目眩がするほどつまらなかった回もあります。 というか、第四話は、コメディーとは言えませんな、ありゃ。 その前の第三話は、かなり面白かったのですが、第三話と第四話で、演出家が同じ人だから、また分からなくなります。
≪トリック≫に話を戻しますが、面白いとは言っても、あくまで、日本国内限定でして、外国へ売ろうとすると、言葉の壁を越えられないと思います。 駄洒落を使った小ネタなど、訳しようがないですからのう。 あの名作、≪闇十郎≫も、外国語人には、面白さが半分も伝わりますまい。 コメディーが難しい事と、言葉遊びに頼らないアメリカのコメディーが、いかによく出来ているかを痛感させられるところです。
と、ここまでが、5月15日土曜日の、昼間に書いた部分です。 その後、夜の9時から、≪トリック 新作スペシャル2≫が放送されたので、その感想も書き加えておきます。
≪トリック 新作スペシャル2≫
うむむむむむ・・・・、久々の新作だったので、期待が大き過ぎたためか、些か肩透かしを喰らいました。 2005年の≪新作スペシャル1≫のような、手抜き・やっつけのスカ作品とは異なり、ストーリーもロケ地も配役も凝っているんですが、小ネタ・ギャグの散布濃度が低いためか、全編に渡って間延びした雰囲気があり、欠伸を抑え切れなくなるという、≪トリック≫らしからぬ、緊張感の不足が顕著でした。 ストーリーが推理物に傾き過ぎていて、馬鹿馬鹿しさがほとんど感じられず、ありふれた2時間サスペンスを見ているかのように思えてしまったのも、残念なところです。
ストーリーは、≪悪魔の手毬歌≫そのままで、それはまあいいんですが、パロディーにして笑いを取るべきところを、まるっきりそのままなぞってしまっていて、捻りも工夫も無し。 特に後半はそれが甚だしく、これでは、単なる盗作ですな。 訴えられるような事はないと思いますが。 謎解きに入ると、≪山田・上田 対 犯人≫という対立軸が消えてしまい、犯人の一人芝居のようになって、山田と上田の存在感がどこかへすっとんでしまいます。 なんとも、≪トリック≫らしくない話。
良かった点を挙げますと、やはり、浅野ゆう子さんが最高ですな。 ストーリー上、メーテルである必然性は全く無いにも拘らず、あの格好が大変良く似合う。 堤監督の作品らしく、脇役の女優陣に、はっとするような美女を惜し気もなく揃えているのも、心憎い。
ロケ地の村が凄い所で、よほど裕福な土地だったんでしょう、豪農か庄屋か知りませんが、巨大な伝統建築が出るわ出るわ。 舞台が、あまりにも素晴らしすぎて、≪ロケ地負け≫を起こしたようにすら見えます。 CGで、富士山を並べた背景も、日本離れした雄大さが感じられて、面白かったです。
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