2010/05/30

「沖縄の為」

  普天間基地の移設問題、すったもんだの末、結局、辺野古へ戻って来てしまいましたな。 アホ臭い。 何の為に、延々と紛糾していたのやら。 それでは、自民党の案と変わらないではありませんか。 私、最初から民主党のマニフェストなんぞ、一つも信用していませんでしたが、さすがに、この展開には呆れざるを得ません。

  「最低でも県外」と言っていた人が、同じ口で、「やっぱり、辺野古で」と言えますかね? そりゃあ、あなた、「私は嘘つきです」と公言しているようなものですよ。 ≪綸言汗の如し≫なんぞ、念頭をよぎりもしなかったんでしょうか。 ついでに、引き替え条件のような言い方で、「住民の安全や環境に配慮する」とか何とか、またまた新しく、安請け合いを繰り出したようですが、たった今嘘をついた人間の約束を信用する者がいたら、そちらが馬鹿・間抜けですよ。

  首相、「最低でも県外」と言っていたのを、「できる限り、県外」と言っていたかのように、さりげなく、言葉をすり替えていましたが、そういう、セコいごまかしが通じるような問題でも情況でもありますまい。 去年の衆院選の前から、マス・メディアで、何万回となく、「最低でも」という言葉が流されているのですから、今更、消しようが無いですよ。 「最低でも」と「できる限り」では、片や絶対条件、片や努力目標と、本質的に違う概念なのであって、いくら日本人の論理能力が世界最低レベルでも、その違いが分からない者はいないでしょう。

  そもそも、「最低でも県外」という目標の立て方からして非現実的でして、米軍基地が、騒音・危険・犯罪と、迷惑の塊なのは、日本中に知らない者がいないのですから、引き受ける所が出てくるはずがありません。 一体、どこを当てにして、「最低でも県外」と言っていたのか、これは、首相だけでなく、マニフェストを決めた民主党の面々に、具体的な都道府県名を尋ねてみるべきでしょう。

  で、ごく最近になって、徳之島案が出てきたわけですが、笑っちゃうじゃありませんか。 徳之島は、鹿児島県とはいっても、元は琉球王国の領土ですぜ。 江戸時代初期に島津氏による侵略で薩摩藩の直轄領にされたものの、文化的には江戸時代の終わりまで、琉球文化圏に属していました。 結局、「≪迷惑の塊≫は、異文化圏に押し付けてしまえ」という発想である事に変わりはありません。

  全国知事会議で、大阪府知事が、唯一、受け入れを仄めかすような事を言っていましたが、現実に、あの狭い大阪府に米軍基地がやって来たら、知事は、≪大阪の仇敵≫として、末代まで呪われると思います。 受け入れるなら、自分自身が、基地のすぐ隣に家を建て、死ぬまで、いや、孫子の代まで住む事を、府民に誓うべきですな。 もちろん、誓いを破った時の罰則付きで。

  大阪府知事の発言、面白いので、新聞で分かる限りの事を引用しますと、

「沖縄県などの犠牲の上に、大阪府民は安全をただ乗りしている。 普天間問題がクローズ・アップされ、今がチャンスだ。 小学校の子供ですら、この問題を考えるようになった。 ただ、自治体が動いても、米国から駄目と言われると動けない。 2006年の米軍再編のロード・マップを履行し、政府が第二段階の基地負担軽減という時に話を振って貰えれば、できる限りの事はする。 必要があれば、沖縄の皆さんに、お願いをしに行き、大阪府民として、申し訳ございませんと言いたい」

  他の知事が、挙って、受け入れに難色を示している中で、こう言っているわけですから、大変目立ちます。 大阪府知事のファンの中には、「よく言った。 やはり、この人は芯の通った人だ」と、惚れ直した方々もいた事でしょう。 だけど、この発言の通りに事が進むと、沖縄県にとっては、当面、何の利益も無く、政府の方針が、そのまま通るという事になります。

  「できる限り」というのは、文脈の違いはありますが、努力目標に過ぎないという点で、首相のすり替え発言と同じですな。 「できない」と判断したら、やらないわけだ。 最後の一文には、沖縄県民も、「は~っ・・・」と溜息が出た事でしょう。 さんざん、迷惑を押し付けられて来たのに、この上更に、迷惑を増やす事を、「お願いしに」来るというのです。 「来なくてもいいし、謝ってくれなくてもいいから、基地を引き受けてくれよ」と思ったんじゃないでしょうか。

  誤解が無いように断っておきますが、大阪府知事の意見は、全国の知事の中で、最もマシなものなのです。 他の知事は、「うちは駄目だ!」と、門前払いの一撃で、はねつけているのですから。 そして、最もマシな意見であっても、沖縄県から見れば、呆れてしまうようなものなのです。


  辺野古回帰に激怒した沖縄県民が、「沖縄は日本なのか?」という問いを改めて口にしていましたが、それは、極めて重大、且つ、全ての根本となる問題ですな。 まず、沖縄県民自身が、「自分は日本人なのか、それとも、琉球人なのか」と自問してみるべきでしょう。 これは、他の都道府県へ行ってみて、そこに住んでいる人達と、自分が同じ民族かどうか、感覚的に比べてみれば、よく分かると思います。 たとえば、沖縄には、「ウチナンチュー」と、「ヤマトンチュー」という言い分けがありますが、静岡県民である私は、静岡県民と他都道府県民を区別する言葉を持っていません。

  次に他の都道府県の人達が沖縄をどう見ているか、よーく目を凝らし、使う言葉に注意して、観察してみる事です。 そうすれば、政治家から一般民衆に至るまで、他都道府県民が、沖縄の事を、領土、領海、領空、経済水域としてしか見ていない事が、よーく分かると思います。 それを否定する奴がいたら、そいつは、白々しい嘘つきか、驚くべき無知無教養か、自分で自分の考えている事が分かっていない馬鹿かのどれかです。

  それにつけても、返す返すも残念なのは、米軍占領時代に、≪復帰運動≫をやってしまった事です。 明治政府の皇民化教育で、日本人意識を刷り込まれ続けた結果、親の敵を恩人と思い込むような、歪んだ帰属意識が醸成されてしまったわけですが、当時まだ生々しかった沖縄戦の記憶だけ思い返しても、日本人が全く信用ならない相手だという事は、判断できたと思うのです。 鬼から逃れるために、獣の巣穴に飛び込んだようなもので、結局、鬼はいなくならず、獣が増えただけ。 虻蜂取らずとはこの事です。 復帰運動ではなく、独立運動をやっておけば、現在も未来も、全然違った情況になっていたと思います。

  アメリカから直接独立して、一国を構えていれば、米軍基地をすぐに無くせないまでも、行く行く、中国の勢力拡大を利用して、アメリカと中国の間の緩衝地帯になる事で、米軍の撤退を実現できた可能性は高いのですが、厄介な日本を絡めてしまったために、事が複雑になり、日米同盟がある限り、米軍が居座り続ける情況を固定化してしまいました。

  一旦、日本に戻ってしまったからには、領土と言えば、ただの岩礁でも目の色を変える日本人が、何があろうが手放すはずがないのであって、今後、独立運動などやろうものなら、警察でも、公安でも、自衛隊でも、片っ端から使って、阻止するに決まっています。 ああ、陰険且つ残忍な弾圧の光景が目に浮かぶようだねえ。

  米軍基地の話に戻しますが、今回の一件を見ても分かるように、日本人や日本政府に期待をかけるのは、単なる徒労です。 自民党や、他の政党が政権をとった所で、沖縄に対する見方は変わらないので、米軍基地が無くなる事はありえません。 とにかく、「沖縄の為」とか何とか言って、ああだこうだと能書きを垂れる日本人を信用するのは禁物ですな。 そういう奴がいたら、一言だけ言い返してやればいいのです。 「言葉はいらないから、とにかく、米軍基地を無くしてくれよ」と。 絶対、何もできやしないから。

  そういや、テレビで、作家だか誰だか、いかにも識者という感じの老女が、「沖縄の負担をこれ以上増やしてはいけませんし、他の都道府県で米軍基地を引き受ける所も出て来るはずがありません。 となれば、解決方法は、米軍基地を無くすしかないんです」と、激しく主張していました。 これも一見、沖縄の事を真面目に考えているかのような印象を受けますが、その実、この主張には、「自分の住んでいる所へ持って来られては困る」という憂慮がありありと滲み出ています。 「今までは沖縄に負担をかけていた。 だから、これからは、自分の住んでいる所で、負担を引き受ける」とは、決して言わないのです。


  沖縄の事は一旦おくとして、今回の一件で、つくづく痛感したのは、日本とアメリカの関係が、対等には程遠いという、厳然たる事実ですな。 アメリカが、普天間基地の国外移設や県外移設に何の興味も示さず、「辺野古案が最適」という主張を頑として曲げなかったのは、背筋が寒くなるほど冷厳な態度でした。 最初から、鳩山政権の提案など全く聞く気が無かったのは明白で、彼我の力関係の現実をまざまざと見せつけられた感があります。 当然の事ながら、現在のアメリカは、あのオバマ政権なのですが、会った事も無いくせに駄洒落で親しんだつもりでいた小浜市民などは、あまりの頑なさ・冷たさに震え上がったのではないでしょうか。

  アメリカ側にしてみれば、今回の鳩山政権の提案は、飼い犬が手を噛もうと挑んで来たようなものであり、甘い顔など見せれば、図に乗って、主人を振り回すような真似をし出しかねないので、ピシャリとやっつけた、というところでしょうか。 同盟国とはいうものの、もとより対等ではなく、確実に上下はあるのであって、しかも、アメリカの方が日本より、ずーーーっと上に位置している、というのが、アメリカの認識なのです。 実は、私も、これほどとは思っていなかったので、今回改めて、自分の国が属国である事を再認識させられました。

  そういえば、よく、週刊誌の政治記事の見出しなどに、「アメリカの属国、日本」などという表現があり、あれは、皮肉で書いていると思われるわけですが、実は皮肉でもなんでもなく、軍事的には、本当に、完全な属国なんですな。 政治的、つまり、外交上も、準属国と言っていいでしょう。 すなわち、日本は、アメリカの世界戦略に沿った行動しか取れないのであって、アメリカが、「そこに必要」と判断した基地を、日本の都合だけで移設する事など、到底、許されないわけだ。

「何言ってんだ、おまえ。 寝ぼけてんのか? 政権交代のマニフェスト? そんなの俺の知った事か。 俺に何の断りも無く、お前が勝手に決めたんだろうが。 大体、おまえ、そーゆー事を言える立場か? いつから、そんなに偉くなった? えーおい、こら、ああん!」

  という感じですかね。 しかし、こういう関係は、今に始まった事ではなく、戦後65年間ずっと続いて来たわけで、民主党が、アメリカの反応を甘く考えていたのは、むしろ、意外な感じがします。 別に、民主党は、万年与党の外交音痴だったわけではなく、幹部の大半は、自民党から分かれた、元与党の人達なのですから、アメリカと日本の関係がどんなものなのか、知らないわけではなかったと思うのですがね。