2010/08/08

カーテン

  私の家は、建ててから、もう30年以上経っていて、当然の事ながら、私の住んでいる部屋も、同じ年月を経ています。 私の部屋は洋室なんですが、窓が二つあり、どちらにも、同じ色柄のカーテンが掛かっています。 壁の色が薄茶色で、カーテンが茶色の格子縞。 この配色が落ち着いているためか、カーテンを取り替えようと考えた事は一度も無く、30年以上、ずーっと使用しています。

  また、生地そのものや、仕立てが丈夫で、一向に破れる気配が無いので、機能は新品の状態から全く低下しておらず、替える理由が発生しないんですな。 布団カバーが、せいぜい3年くらいで破れてしまう事を考えると、カーテンというのは、長持ちするものなんですなあ。 ただ吊る下がっているだけだから、布地に掛かる負担が少ないといえば少ないんでしょうが。

  もっとも、私の部屋とほぼ同じ作りの洋室で、以前は兄が使っていた部屋があるのですが、そちらのカーテンは、もう10年以上前に、他の物に変えられてしまいました。 カーテンは、同じ種類の生地だったんですが、色柄が黄色の格子縞で、汚れ易く、その上、兄はタバコを吸う人間だったので、やにで真っ黒け。 兄が結婚して家を出た後、父が兄の部屋で寝起きするようになりましたが、いの一番に汚いカーテンを捨ててしまいました。 汚いだけでなく、タバコ飲みの部屋というのは、カーテンに匂いが染み着くので、抹殺するしか無かったんでしょう。

  で、今、その部屋には、父が買ってきた、灰色っぽいカーテンが掛かっているのですが、これが、配色が良くないのです。 壁の色とも、床の色ともマッチせず、何だか、木に竹を接いだような、得も言われぬアンバランスぶりを醸し出しています。 私の部屋とは、雲泥の差。 いや、別に自分のセンスを自慢しているわけではないのです。 そもそも、私の部屋のカーテンの色は、私が選んだものではありません。 私が言いたいのは、部屋の設えの配色には、確実に良い物と悪い物があるという事なのです。

  私の部屋のカーテンの色柄を選んだのは誰かというと、実は兄です。 30年以上前の事ですが、ある悶着が絡んでいたので、忘れもしません。 家を建てる前、私と兄は、親からカーテンのカタログを見せられ、どれにするか選ばされました。 その時、私は黄色を選び、兄は茶色を選んだのです。 つまり、最初は、逆だったんですな。 ところが、いざ家が建ち、内装作業が始まると、カーテン業者が持って来たカーテンは、茶色と黄色が逆になっていたのです。

  私の部屋と兄の部屋は、ほぼ同じ作りなのですが、窓の大きさが違うので、カーテンは取り替えが利きません。 兄は、私の選んだ黄色を、「なかなか、いい色だ」と言っていたので、自分の部屋にその色が掛かる事になって、文句は無かったようなのですが、私の方は、激怒しました。 「業者が間違えたのだから、作り直させるべきだ!」と主張しましたが、厄介事を嫌った両親は、私の言葉を無視しました。 子供の部屋のカーテンの色なんて、どうでもいいと思っていたんでしょう。

  まったく、今、思い出しても胸糞悪い。 そんな、いい加減な腹でいたのなら、最初から、子供にカーテンの色選びなどさせなければ良かったのです。 業者も業者で、涼しい顔をして作業をしていましたが、苟しくもプロならば、自分の間違いを恥じ、自腹を切ってでも、作り直して来るべきでしょう。 親戚のおばさんに頼んだんじゃないんだから。 もし、事が今の話で、私が施主だったら、怒鳴りつけてやるところです。

  で、その時は、怒りで眠れないほどだったんですが、しばらく、茶色のカーテンの部屋で暮らす内、だんだん、その色に慣れて来て、何とも思わなくなりました。 一方、兄の部屋を見に行くと、最初、いい色だと思っていた黄色が、機能的に問題がある事が分かって来ました。 色が薄いと、部屋の明かりが外に漏れてしまうんですな。 遮光カーテンでなく、厚手の布一枚の作りだと、色の濃淡は重要な問題だったんですな。 ガキの浅知恵で、最初は想像すらしなかった事ですが。

  結局、半年もすると、私の部屋のカーテンの方が色がいいという評価が、家族内で確定しました。 兄は心中穏やかではなかったでしょうなあ。 本当は自分が選んだ色だったのですから。 私も徐々に、≪お得気分≫を味わうようになりましたが、最初、業者の間違いを強烈に指弾した手前、そんな事はおくびにも出さず、まだ不満があるような態度で暮らしていました。

  家によっては、カーテン無しで暮らしている人もいると思うので、一応書いておきますと、私が今述べているカーテンというのは、夜になったら閉めて、部屋の中の明かりを外に漏らさないようにする、厚手のカーテンの事です。 専門用語では、≪ドレープ≫と言うらしいです。 カーテンは普通、二重レールになっていて、もう一つのレールには、レースのカーテンを吊るします。 レースの方は、昼も夜も閉めっ放しです。 レースは、持ちが悪く、5年くらいで破れてしまいますから、今までに何回か取り替えています。

  私の家の隣に、三階建ての賃貸マンションがあるのですが、およそいい加減な建物で、カーテンはもちろん、そもそも、カーテン・レールがついておらず、夜になると、部屋の中が丸見えでした。 建築業者も建築業者、大家も大家ですが、住人も住人で、てめえの家の中が近所から丸見えになっているのに、よく、平気でいられたものです。

  何年かしてから、住人が自分でカーテンを付けたのですが、レールの取り付けには壁に穴を開けなければなりませんから、たぶん、大家と不愉快な衝突があった事でしょう。 部屋を選びに来た時に、カーテンやカーテン・レールをチェックし、どちらも無いようなら、そんな部屋は借りるべきではありません。大家が、考え足らずで常識知らずなのは明らかだからです。

  レースのカーテンは、昼間は外からの視線を遮ってくれますが、夜は無いも同然で、透け透けになります。 夜もレースだけで暮らしている家がありますが、一度外に出て、自分の家を眺めてみるべきですな。 五分もあればできる事ですけん。 もっと、馬鹿な家だと、「夜景を楽しむ」などと言って、二階や三階の窓際に座って、カーテン無しで寛いでいる所がありますが、自分から外は見えても、外から自分は見えないと高を括っておるのでしょう。 バっカっだっねー。 そういう生活がしたけりゃ、山の上に豪邸でも建てな。

  カーテンには、≪バランス≫と呼ばれる上飾りがありますが、これがあると無いとでは、雰囲気が大違いになります。 ≪上飾り≫とは言うものの、飾りというよりは、むしろ機能部品でして、無粋なレールを隠してくれます。 カーテン・レールが見えていると、何とも貧乏臭いです。 もし、これからカーテンを付けるのなら、店の人に、「レールを隠す布がついたタイプはありませんか」と訊ねてみるべきでしょう。 専門店でない場合、バランスという言葉を使うと、通じなかったり、勘違いされる可能性があります。 窓の構造自体が、レールを隠せるようになっている場合もあり、それならば、バランスは要りません。

  カーテンは、特殊な材質の物でなければ、洗濯機で洗う事が出来ます。 年に一度くらいは洗った方が良いと思います。 言うまでも無く、タバコ飲みがいる家では、もっと頻繁な洗濯が必要。 レースのカーテンは、古くなると、洗った時に破れますから、白い糸で修理不能と判断したら、その時が替え時になります。 これまた、知らない人もいると思うのですが、カーテンについている金具は、外れるようになっているので、洗濯前に全て外します。 一緒に洗うと、洗濯機を壊したり、金具を無くしたりしますから、要注意。 洗ったカーテンは、レールに吊るして閉め、窓を開けておけば、自然に乾きます。

  カーテンには、開いた時に胴の所で纏めるための、≪タッセル≫という帯がついていますが、これを必ずとめるかどうかは、部屋によります。 家族が集まる部屋や、客間などは、とめた方がいいと思いますが、自分以外入らない部屋であれば、とめなくても、別段問題はありません。 部屋に二つ窓があると、合計、四ヶ所とめなければならないわけで、結構な手間です。 毎日の事なので、無駄な労力なら、なるべく省きたいもの。


  カーテンをテーマに、記事を一本書けるかどうか心配でしたが、ああだこうだと結構書けましたな。 まあ、知っている人なら、みんな知っているような事ばかりになってしまいましたが。