読書感想文、蔵出し
今週は、六日稼動で、土曜も出勤したので、記事を書く時間がありません。 で、かつて恒例にしていて、あまりにも間が空いてしまった為に忘れかけていた、読書感想文を出す事にします。
いや、本は、読み続けているのですよ。 感想も、読むたびに書いています。 ただ、しばらく、六日稼動の週が無かったせいで、出す機会を逸していただけで・・・。 というわけで、随分、昔に読んだ本からになってしまいますが、ご容赦あれ。
≪コワ~い不動産の話≫
不動産の問題を、新築住宅、中古住宅、新築マンション、中古マンション、タワー・マンション、住宅ローンに分け、それらの購入を検討している人に、注意を喚起している本。 すべてのカテゴリーで、ゴマンと問題点があり、読んでいると、不動産を買う気など、消し飛んでしまいます。
一戸建ての場合、コストを切り詰めるために手抜きをする業者が多いのは、相変わらずなようです。「三階建ての9割は欠陥住宅」というのは、最近発生した問題ですな。 一階部分を車庫にする家が多いようなのですが、車の出入りのために、壁が一面無いわけで、それでは、大地震にはとても耐えられないでしょう。
屋根の防水を手抜きされて、雨漏れで壁の中がカビだらけになってしまった家など、写真を見るだけで震えが来ます。 こんな家のために、何千万も払ったとは、他人事ながら気の毒でなりません。 デザイナーズ住宅というのがありますが、デザイナーが経験不足だと、とんでもない稚拙なミスをやらかすのだとか。 やはり、家はデザイン以前に、実用性を考えるべきですなあ。
マンションがマンションでまた怖い。 首都圏の外縁部では、作りかけで放棄されたマンションがゴロゴロあるのだとか。 過当競争で建て過ぎて、物件が売れず、開発業者が倒産してしまったのだそうです。 古いマンションでも、一階部分をテナント貸ししていたのが、みんな出て行ってしまって、管理費が賄えず、住民まで逃げ出してしまうのだとか。 機械式駐車場の維持費が、年間一千万円というのも驚きです。
タワー・マンションの上の階ほど、健康被害が多いとか、携帯電話の基地局が屋上にあると、体調を崩す住民が増えるとか、意外な事例も多く載っています。
≪かもめのジョナサン≫
1974年に日本語訳が刊行されています。 その頃、映画が日本公開されているので、たぶん、それに合わせて出したのでしょう。 作者は、リチャード・バックという、元アメリカ空軍パイロットで、自分でも飛行艇を買って愛用しているという、大の飛行好き。 アメリカで、1970年に刊行された、この小説が記録破りの大ベスト・セラーになり、その後、映画化されたという経緯あり。
日本では、映画の宣伝のお蔭で、題名だけが知れ渡ったものの、内容を知らない人が圧倒的多数だと思います。 私もその一人。 たぶん、映画も大してヒットせず、小説に至っては、話題にもならなかったのではないかと思います。 小説の翻訳は、五木寛之さんが行なっています。
登場キャラは、全て、カモメですが、擬人化されており、人間のように考え、会話も交わします。 飛行術を洗練する事に夢中になり過ぎて、群から追放されたジョナサン・リビングストンというカモメが、年老いてから、同じように飛行術を窮めようとしている他の群に迎えられて、更に高みを目指すものの、やがて、昔の仲間を啓蒙するために、元の群に戻り、後輩の指導に当たる内、時が訪れ、一段上の領域に上がっていくという話。
こう書いても、伝わらんでしょうな。 物語の構成としては、ちょっと規格外なので、ストーリーに注目しても、あまり意味がないのです。 ≪西遊記≫を読んだ人なら、孫悟空が、仙人の師匠の下で修行して、仙術を会得するくだりを覚えていると思いますが、ちょうど、あんな感じの流れです。
作者が言いたいのは、「技術を磨くだけでは、上級には上がれないのであって、まず、自分が、すでに上級に上がる能力を持っている事に気付く事が大切だ」といった、意識改革の問題のようです。 速さを窮めた挙句、瞬間移動まで出て来るので、「当人がその気になりさえすれば、どんな事でもできるようになる」という、新興宗教の教義のような雰囲気もありますが、それほど胡散臭くならない内に、話が終わります。
100ページくらいですが、その半分は、カモメの写真が占めているので、実質的な文章の量は、ちょっと長めの短編小説くらいしかありません。 遅読の人でも、半日あれば読めるはず。 でも、「だから、お薦め」とは言いません。 深読みすると、変な影響を受けそうですし、浅読みすると、何が言いたいのか分からないという、ジレンマあり。
更に問題なのは、訳者の五木寛之氏による、あとがきでして、これは、掟破りというものでしょう。 つまりその、貶してあるのです。 五木氏がこの小説の翻訳を引き受けた動機は、アメリカで大ベスト・セラーになったから、興味が湧いたというだけであって、内容が気に入ったからではないらしいのですが、それはそれとして、あとがきで貶す必要はないでしょうに。
そんな事をしてしまったら、読み終わった人は、「なんだ、そんなつまらん小説だったのか。 真面目に読んで損した」と思うに決まっています。 当然、他の人にも、「つまらんよ」と伝えるのであって、ベスト・セラーの連鎖は起きません。 なるほど、日本で売れなかったわけですわ。 編集者も編集者で、どうして、「こういうあとがきは、困ります」と言わなかったんでしょう。 奇怪至極。
また、ネット上に流布している、この本の書評を読むと、五木氏のあとがきに影響されたと思われる、否定的な意見が多く、その独自性の無さに、苦笑せざるを得ません。 本の感想くらい、自分の感性で書きなさいよ。 訳者あとがきを、写していてどうする?
≪ONE≫
≪かもめのジョナサン≫の作者が、約20年後に出した本。 一緒に借りてきました。 作者自身と、その妻が登場する、平行世界SFの形を借りた、人生論小説です。 飛行艇で夜間飛行中に、異界の海に迷い込んでしまった主人公達が、着水するたびに、自分達の過去や、起こり得た可能性の世界へ降り立ち、運命や時間について、理解を深めていく話。
≪かもめのジョナサン≫と同じような目的で書かれているのですが、人間が主人公だけに、生々し過ぎて、あまり、深い感慨は受けません。 同じ、人間が主人公でも、作者自身ではなく、架空の人物であれば、また違う印象になったかもしれませんな。 どうも、こういう私小説風の話というのは、読んでいて、ぐじゅぐじゅと幼児っぽい、いやらしさを感じてしまうのです。
書き込まれている、作者独自の人生哲学が、分かり難いという点もマイナスです。 「結局、全ては、一つなんだ」と、何度も繰り返されるのですが、その説明が焦点を結んでいないので、なぜ、「一つ」なのかが、伝わってこないのです。 何度か読み直せば、分かるのかもしれませんが、何度も読み直したくなるような、魅力ある小説ではないのですから、如何ともし難いです。
この本を読むと、この作者が、20年経って、成長するどころか、むしろ、作家としてのセンスを潰してしまった事が、よく分かります。 もし、この本で世に出て来たのだとしたら、全く注目されず、無名のまま終わった事でしょう。
≪トポロジーの発想≫
「トポロジー」と聞いても、何の事やら全く分かりませんな。 「位相幾何学」と訳されているそうですが、訳すと、ますます分からなくなるのは、訳語として、如何なものか。 数学の一分野ですが、相当変り種です。
ボールの形、つまり、球体ですが、その球体と、サイコロの形、つまり、直方体ですが、その直方体が、トポロジーの分類法では、同じ種類になるのだそうです。 それだけでなく、皿や、コップのような物でも、みんな同じ種類。 しかし、ドーナツは、穴が一つ開いているために、別の種類になります。 マグカップのように取っ手が一つ付いていて、全体として穴が一つ開いている物も、ドーナツと同じ種類。 穴が二つになると、また別の種類になるのだとか。
具象的な形に囚われず、ある特徴だけを取り出して、分析を加えるのが、トポロジーの考え方なのだそうです。 どうして、そんな事をするかというと、単純化すれば、数学的に処理する事ができるから。 一筆書きで描ける図形と、描けない図形を、どう見分けるかなども、トポロジーの考え方で解けるらしいです。
面白いのは、次元の話です。 縦、横、高さで、三次元で、「四次元目は、時間」と言われていますが、それは、アインシュタインの仮説でして、数学的な意味での四次元は、時間とは関係ありません。 トポロジーによって、特徴だけを取り出す事で、二次元と三次元の違いから、三次元と四次元の違いを類推できると言うのです 四次元に留まらず、五次元でも、十次元でも、計算できるというから、「なるほどな~」と深く頷かされる次第。
とまあ、そういう事が書いてあるわけです。 しかし、ブルーバックスで、素人向けに書かれているからこそ、読んでいる間は面白いと思うものの、そこはやはり、数学の一分野だけあって、「これ以上、ちょっとでも専門的になったら、全くついていけないだろうなあ」という限界も感じます。 あくまで、私の方の限界ですけど。
≪相対論のABC≫
これは、もろに、アインシュタインの話。 特殊相対性理論と一般相対性理論の解説が主ですが、アインシュタインの伝記も兼ねています。 それほど、厚くありませんし、相対論について、一冊で知識を得るには、適当な本だと思います。
私は勘違いをしていて、アインシュタインの事を、ずっと、オーストリア出身だと思い込んでいたのですが、実際には、ドイツ出身なのだそうです。 子供の頃は、学校生活に馴染めず、父の仕事の関係で家族と離れて暮らしたりしていたため、高等教育は、スイスで受ける事になります。 大学受験に失敗したり、卒業試験を辛うじて突破したり、決して優等生ではなかったとの事。
大学に残る事ができず、スイスの特許局で、審査技師の職に就いていた事は、割と有名。 働きながら、研究を続け、発表したのが、相対性理論を含む、幾つかの、物理学の歴史を変えた重要な論文です。 無名の特許局技師の研究の事とて、当初は黙殺されたものの、プランクなど、当代随一の学者達に認められた事で、一躍、世界最高の物理学者の地位に祭り上げられます。
アインシュタインは、骨の髄からに理論物理学者でして、研究といっても、実験器具を使うわけではなく、頭の中で理論を組み立て、数学を使って、矛盾が起こらないか、検証して行きます。 実験物理学という分野もありますが、それは普通、別の学者がやっていて、どちらでも、業績を残せば、高く評価されます。
相対性理論は、光の速さを基準にして、空間と時間の関係を分析したものです。 地球上のような狭い空間では、ほとんど意味がありませんが、宇宙を何光年も移動するような場合に起こる時間のズレなど、ニュートン力学では説明できない現象を処理できるため、現在に至るまで、有効とされています。 この本では、電車やロケットなど、図を多用して、大変、分かり易く説明されていて、文系であっても、大雑把な事は理解する事ができます。
アインシュタインは、ナチスの本性を逸早く見抜き、アメリカへ亡命しますが、それ以降は、≪統一場理論≫という、とてつもない難物と格闘して、生涯を終えます。 ドイツのいた間は、紛れもなく、≪天才≫だったのですが、アメリカに移った途端、≪平凡な学者≫になってしまったのは、皮肉な話。
≪アインシュタインを超える≫
書名の通り、アインシュタインを超える理論について書かれているのですが、相対性理論とは関係ありません。 アインシュタインがアメリカへ移って以降に取り付かれ、死ぬまで関わりながら、答えを出せなかった、≪統一場理論≫の方の、その後の発展について書かれた本です。 アインシュタインは、名前をダシに使われているだけで、その点、羊頭狗肉の書名と言えます。
アインシュタインが専門にしていたのは、宇宙を対象にした物理学ですが、統一場理論の方は、反対に、原子やクオークといった、極小の世界を探求する物理学で、≪量子力学≫と呼ばれています。 この分野で有名なのは、プランク、ハイゼンベルク、シュレジンガーといった、学者達。 ドイツ系、多いな。
宇宙と原子では、サイズ的には、まるっきり方向性が違うわけですが、全宇宙に適用できる物理法則を探すという点では、共通項があります。 宇宙に存在する力には、≪重力≫、≪電磁力≫、≪強い力≫、≪弱い力≫の四種類が知られていて、これらの関係を、一つの理論で説明できるようにしようというのが、≪統一場理論≫です。
この本には、ここ50年ほどの間に、量子力学者達が、悪戦苦闘、七転八倒した歴史が、割と細かく記してあります。 最終的に辿り着いて、「これが、統一場理論になるうるのではないか?」と思われている、≪超ひも理論≫に、日本人の学者達が、重要な役どころで絡んでいるのは、興味深いですな。 正しいと決まったわけではないために、賞も貰えず、皆、一般的には、無名ですが。
科学の解説書と言うより、科学史書に近いです。 そこそこ詳しく、尚且つ、大掴みに、量子力学の発展の流れを頭に入れるには、適当な本だと思います。
≪光と電気のからくり≫
光についても触れられていますが、基本的には、電気に関する本です。 原子の中の電子の話から説き起こし、電圧や電流といった、馴染みがある所まで、引き寄せてくれます。
これを読んで思ったのは、自分がいかに電気について無知であるかという事です。 中学の理科で、電流と電圧の事は習いましたが、そもそも、電流とは何か? 電圧とは何か? といった事は全然分かっていなかったんですなあ。 いや、理工系の人は、当然、そういう事は知っているはずだから、私のような、門外漢だけが知らないのかもしれませんが。
電圧の話など、坂を転げ落ちるボールに譬えて説明してあって、読んでいる間は、思わず身を乗り出すほど面白いのですが、できれば、こういう本は、中学生の頃に読みたかった。 骨の髄まで、理科嫌いが沁み込んだ私の頭では、読み終わった途端に、どこかへ消えてしまって、ほとんど残りません。
電線の中を電気が流れるという事は、特定の電子が、電線の中を移動して行くのではなく、電線の導体を構成している金属の原子が、隣へ隣へと、電子を送り出していくからだそうで、これは、イメージ的に、意外でした。 流れるというより、順送りしているんですね。
著者は、日本人ですが、アメリカの大学で教授をやっている物理学者。 内容とは関係無い事ですが、表紙イラストが、ブルーバックスとは思えないほど、洗練されています。 これ、本屋に平積みしておいたら、思わず手に取る人が、きっといると思います。 ただし、ブルーバックスを平積みする本屋があればの話ですが。
以上、7冊。 ≪コワ~い不動産の話≫は、まだ、≪金持ち父さん≫シリーズを読んでいた頃に、流れで読んだ本。 ≪かもめのジョナサン≫と≪ONE≫は、ネットで交友している人が、その話題を出したので、どんな本かと思って、借りて来ました。 科学系の四冊は、俄かに理系の世界に浸ってみたくなって、纏めて読みました。 すべて、図書館の本です。
いや、本は、読み続けているのですよ。 感想も、読むたびに書いています。 ただ、しばらく、六日稼動の週が無かったせいで、出す機会を逸していただけで・・・。 というわけで、随分、昔に読んだ本からになってしまいますが、ご容赦あれ。
≪コワ~い不動産の話≫
不動産の問題を、新築住宅、中古住宅、新築マンション、中古マンション、タワー・マンション、住宅ローンに分け、それらの購入を検討している人に、注意を喚起している本。 すべてのカテゴリーで、ゴマンと問題点があり、読んでいると、不動産を買う気など、消し飛んでしまいます。
一戸建ての場合、コストを切り詰めるために手抜きをする業者が多いのは、相変わらずなようです。「三階建ての9割は欠陥住宅」というのは、最近発生した問題ですな。 一階部分を車庫にする家が多いようなのですが、車の出入りのために、壁が一面無いわけで、それでは、大地震にはとても耐えられないでしょう。
屋根の防水を手抜きされて、雨漏れで壁の中がカビだらけになってしまった家など、写真を見るだけで震えが来ます。 こんな家のために、何千万も払ったとは、他人事ながら気の毒でなりません。 デザイナーズ住宅というのがありますが、デザイナーが経験不足だと、とんでもない稚拙なミスをやらかすのだとか。 やはり、家はデザイン以前に、実用性を考えるべきですなあ。
マンションがマンションでまた怖い。 首都圏の外縁部では、作りかけで放棄されたマンションがゴロゴロあるのだとか。 過当競争で建て過ぎて、物件が売れず、開発業者が倒産してしまったのだそうです。 古いマンションでも、一階部分をテナント貸ししていたのが、みんな出て行ってしまって、管理費が賄えず、住民まで逃げ出してしまうのだとか。 機械式駐車場の維持費が、年間一千万円というのも驚きです。
タワー・マンションの上の階ほど、健康被害が多いとか、携帯電話の基地局が屋上にあると、体調を崩す住民が増えるとか、意外な事例も多く載っています。
≪かもめのジョナサン≫
1974年に日本語訳が刊行されています。 その頃、映画が日本公開されているので、たぶん、それに合わせて出したのでしょう。 作者は、リチャード・バックという、元アメリカ空軍パイロットで、自分でも飛行艇を買って愛用しているという、大の飛行好き。 アメリカで、1970年に刊行された、この小説が記録破りの大ベスト・セラーになり、その後、映画化されたという経緯あり。
日本では、映画の宣伝のお蔭で、題名だけが知れ渡ったものの、内容を知らない人が圧倒的多数だと思います。 私もその一人。 たぶん、映画も大してヒットせず、小説に至っては、話題にもならなかったのではないかと思います。 小説の翻訳は、五木寛之さんが行なっています。
登場キャラは、全て、カモメですが、擬人化されており、人間のように考え、会話も交わします。 飛行術を洗練する事に夢中になり過ぎて、群から追放されたジョナサン・リビングストンというカモメが、年老いてから、同じように飛行術を窮めようとしている他の群に迎えられて、更に高みを目指すものの、やがて、昔の仲間を啓蒙するために、元の群に戻り、後輩の指導に当たる内、時が訪れ、一段上の領域に上がっていくという話。
こう書いても、伝わらんでしょうな。 物語の構成としては、ちょっと規格外なので、ストーリーに注目しても、あまり意味がないのです。 ≪西遊記≫を読んだ人なら、孫悟空が、仙人の師匠の下で修行して、仙術を会得するくだりを覚えていると思いますが、ちょうど、あんな感じの流れです。
作者が言いたいのは、「技術を磨くだけでは、上級には上がれないのであって、まず、自分が、すでに上級に上がる能力を持っている事に気付く事が大切だ」といった、意識改革の問題のようです。 速さを窮めた挙句、瞬間移動まで出て来るので、「当人がその気になりさえすれば、どんな事でもできるようになる」という、新興宗教の教義のような雰囲気もありますが、それほど胡散臭くならない内に、話が終わります。
100ページくらいですが、その半分は、カモメの写真が占めているので、実質的な文章の量は、ちょっと長めの短編小説くらいしかありません。 遅読の人でも、半日あれば読めるはず。 でも、「だから、お薦め」とは言いません。 深読みすると、変な影響を受けそうですし、浅読みすると、何が言いたいのか分からないという、ジレンマあり。
更に問題なのは、訳者の五木寛之氏による、あとがきでして、これは、掟破りというものでしょう。 つまりその、貶してあるのです。 五木氏がこの小説の翻訳を引き受けた動機は、アメリカで大ベスト・セラーになったから、興味が湧いたというだけであって、内容が気に入ったからではないらしいのですが、それはそれとして、あとがきで貶す必要はないでしょうに。
そんな事をしてしまったら、読み終わった人は、「なんだ、そんなつまらん小説だったのか。 真面目に読んで損した」と思うに決まっています。 当然、他の人にも、「つまらんよ」と伝えるのであって、ベスト・セラーの連鎖は起きません。 なるほど、日本で売れなかったわけですわ。 編集者も編集者で、どうして、「こういうあとがきは、困ります」と言わなかったんでしょう。 奇怪至極。
また、ネット上に流布している、この本の書評を読むと、五木氏のあとがきに影響されたと思われる、否定的な意見が多く、その独自性の無さに、苦笑せざるを得ません。 本の感想くらい、自分の感性で書きなさいよ。 訳者あとがきを、写していてどうする?
≪ONE≫
≪かもめのジョナサン≫の作者が、約20年後に出した本。 一緒に借りてきました。 作者自身と、その妻が登場する、平行世界SFの形を借りた、人生論小説です。 飛行艇で夜間飛行中に、異界の海に迷い込んでしまった主人公達が、着水するたびに、自分達の過去や、起こり得た可能性の世界へ降り立ち、運命や時間について、理解を深めていく話。
≪かもめのジョナサン≫と同じような目的で書かれているのですが、人間が主人公だけに、生々し過ぎて、あまり、深い感慨は受けません。 同じ、人間が主人公でも、作者自身ではなく、架空の人物であれば、また違う印象になったかもしれませんな。 どうも、こういう私小説風の話というのは、読んでいて、ぐじゅぐじゅと幼児っぽい、いやらしさを感じてしまうのです。
書き込まれている、作者独自の人生哲学が、分かり難いという点もマイナスです。 「結局、全ては、一つなんだ」と、何度も繰り返されるのですが、その説明が焦点を結んでいないので、なぜ、「一つ」なのかが、伝わってこないのです。 何度か読み直せば、分かるのかもしれませんが、何度も読み直したくなるような、魅力ある小説ではないのですから、如何ともし難いです。
この本を読むと、この作者が、20年経って、成長するどころか、むしろ、作家としてのセンスを潰してしまった事が、よく分かります。 もし、この本で世に出て来たのだとしたら、全く注目されず、無名のまま終わった事でしょう。
≪トポロジーの発想≫
「トポロジー」と聞いても、何の事やら全く分かりませんな。 「位相幾何学」と訳されているそうですが、訳すと、ますます分からなくなるのは、訳語として、如何なものか。 数学の一分野ですが、相当変り種です。
ボールの形、つまり、球体ですが、その球体と、サイコロの形、つまり、直方体ですが、その直方体が、トポロジーの分類法では、同じ種類になるのだそうです。 それだけでなく、皿や、コップのような物でも、みんな同じ種類。 しかし、ドーナツは、穴が一つ開いているために、別の種類になります。 マグカップのように取っ手が一つ付いていて、全体として穴が一つ開いている物も、ドーナツと同じ種類。 穴が二つになると、また別の種類になるのだとか。
具象的な形に囚われず、ある特徴だけを取り出して、分析を加えるのが、トポロジーの考え方なのだそうです。 どうして、そんな事をするかというと、単純化すれば、数学的に処理する事ができるから。 一筆書きで描ける図形と、描けない図形を、どう見分けるかなども、トポロジーの考え方で解けるらしいです。
面白いのは、次元の話です。 縦、横、高さで、三次元で、「四次元目は、時間」と言われていますが、それは、アインシュタインの仮説でして、数学的な意味での四次元は、時間とは関係ありません。 トポロジーによって、特徴だけを取り出す事で、二次元と三次元の違いから、三次元と四次元の違いを類推できると言うのです 四次元に留まらず、五次元でも、十次元でも、計算できるというから、「なるほどな~」と深く頷かされる次第。
とまあ、そういう事が書いてあるわけです。 しかし、ブルーバックスで、素人向けに書かれているからこそ、読んでいる間は面白いと思うものの、そこはやはり、数学の一分野だけあって、「これ以上、ちょっとでも専門的になったら、全くついていけないだろうなあ」という限界も感じます。 あくまで、私の方の限界ですけど。
≪相対論のABC≫
これは、もろに、アインシュタインの話。 特殊相対性理論と一般相対性理論の解説が主ですが、アインシュタインの伝記も兼ねています。 それほど、厚くありませんし、相対論について、一冊で知識を得るには、適当な本だと思います。
私は勘違いをしていて、アインシュタインの事を、ずっと、オーストリア出身だと思い込んでいたのですが、実際には、ドイツ出身なのだそうです。 子供の頃は、学校生活に馴染めず、父の仕事の関係で家族と離れて暮らしたりしていたため、高等教育は、スイスで受ける事になります。 大学受験に失敗したり、卒業試験を辛うじて突破したり、決して優等生ではなかったとの事。
大学に残る事ができず、スイスの特許局で、審査技師の職に就いていた事は、割と有名。 働きながら、研究を続け、発表したのが、相対性理論を含む、幾つかの、物理学の歴史を変えた重要な論文です。 無名の特許局技師の研究の事とて、当初は黙殺されたものの、プランクなど、当代随一の学者達に認められた事で、一躍、世界最高の物理学者の地位に祭り上げられます。
アインシュタインは、骨の髄からに理論物理学者でして、研究といっても、実験器具を使うわけではなく、頭の中で理論を組み立て、数学を使って、矛盾が起こらないか、検証して行きます。 実験物理学という分野もありますが、それは普通、別の学者がやっていて、どちらでも、業績を残せば、高く評価されます。
相対性理論は、光の速さを基準にして、空間と時間の関係を分析したものです。 地球上のような狭い空間では、ほとんど意味がありませんが、宇宙を何光年も移動するような場合に起こる時間のズレなど、ニュートン力学では説明できない現象を処理できるため、現在に至るまで、有効とされています。 この本では、電車やロケットなど、図を多用して、大変、分かり易く説明されていて、文系であっても、大雑把な事は理解する事ができます。
アインシュタインは、ナチスの本性を逸早く見抜き、アメリカへ亡命しますが、それ以降は、≪統一場理論≫という、とてつもない難物と格闘して、生涯を終えます。 ドイツのいた間は、紛れもなく、≪天才≫だったのですが、アメリカに移った途端、≪平凡な学者≫になってしまったのは、皮肉な話。
≪アインシュタインを超える≫
書名の通り、アインシュタインを超える理論について書かれているのですが、相対性理論とは関係ありません。 アインシュタインがアメリカへ移って以降に取り付かれ、死ぬまで関わりながら、答えを出せなかった、≪統一場理論≫の方の、その後の発展について書かれた本です。 アインシュタインは、名前をダシに使われているだけで、その点、羊頭狗肉の書名と言えます。
アインシュタインが専門にしていたのは、宇宙を対象にした物理学ですが、統一場理論の方は、反対に、原子やクオークといった、極小の世界を探求する物理学で、≪量子力学≫と呼ばれています。 この分野で有名なのは、プランク、ハイゼンベルク、シュレジンガーといった、学者達。 ドイツ系、多いな。
宇宙と原子では、サイズ的には、まるっきり方向性が違うわけですが、全宇宙に適用できる物理法則を探すという点では、共通項があります。 宇宙に存在する力には、≪重力≫、≪電磁力≫、≪強い力≫、≪弱い力≫の四種類が知られていて、これらの関係を、一つの理論で説明できるようにしようというのが、≪統一場理論≫です。
この本には、ここ50年ほどの間に、量子力学者達が、悪戦苦闘、七転八倒した歴史が、割と細かく記してあります。 最終的に辿り着いて、「これが、統一場理論になるうるのではないか?」と思われている、≪超ひも理論≫に、日本人の学者達が、重要な役どころで絡んでいるのは、興味深いですな。 正しいと決まったわけではないために、賞も貰えず、皆、一般的には、無名ですが。
科学の解説書と言うより、科学史書に近いです。 そこそこ詳しく、尚且つ、大掴みに、量子力学の発展の流れを頭に入れるには、適当な本だと思います。
≪光と電気のからくり≫
光についても触れられていますが、基本的には、電気に関する本です。 原子の中の電子の話から説き起こし、電圧や電流といった、馴染みがある所まで、引き寄せてくれます。
これを読んで思ったのは、自分がいかに電気について無知であるかという事です。 中学の理科で、電流と電圧の事は習いましたが、そもそも、電流とは何か? 電圧とは何か? といった事は全然分かっていなかったんですなあ。 いや、理工系の人は、当然、そういう事は知っているはずだから、私のような、門外漢だけが知らないのかもしれませんが。
電圧の話など、坂を転げ落ちるボールに譬えて説明してあって、読んでいる間は、思わず身を乗り出すほど面白いのですが、できれば、こういう本は、中学生の頃に読みたかった。 骨の髄まで、理科嫌いが沁み込んだ私の頭では、読み終わった途端に、どこかへ消えてしまって、ほとんど残りません。
電線の中を電気が流れるという事は、特定の電子が、電線の中を移動して行くのではなく、電線の導体を構成している金属の原子が、隣へ隣へと、電子を送り出していくからだそうで、これは、イメージ的に、意外でした。 流れるというより、順送りしているんですね。
著者は、日本人ですが、アメリカの大学で教授をやっている物理学者。 内容とは関係無い事ですが、表紙イラストが、ブルーバックスとは思えないほど、洗練されています。 これ、本屋に平積みしておいたら、思わず手に取る人が、きっといると思います。 ただし、ブルーバックスを平積みする本屋があればの話ですが。
以上、7冊。 ≪コワ~い不動産の話≫は、まだ、≪金持ち父さん≫シリーズを読んでいた頃に、流れで読んだ本。 ≪かもめのジョナサン≫と≪ONE≫は、ネットで交友している人が、その話題を出したので、どんな本かと思って、借りて来ました。 科学系の四冊は、俄かに理系の世界に浸ってみたくなって、纏めて読みました。 すべて、図書館の本です。
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