ボトム・ブラケットの修理
さて、前回の続きです。 折り畳み自転車のペダル・クランクの軸受け部分から、ゴリゴリという異音が出始め、たぶん、破損しているであろうと思われる、ベアリングの球を交換しようという、修理計画。
何かを修理する時、材料は言うに及ばず、道具からして持っていないという場合、まず、直し方を調べ、次に、材料と道具の入手方法を調べ、実際に買いに行き、それから、取り掛からなければならないので、結構な、手間と時間がかかります。
今回は、≪クランク抜き≫という工具の入手が、最大のネックでした。 ただ単に、クランクの棒を外す為だけなのに、どうして、専用工具が要るのか、着手早々に腹が立つところですが、大方、素人が自力で直し難いようにして、自転車店の存在意義を確保しようという魂胆なのでしょう。
ハウツー・サイトで紹介されていたのは、シマノの製品ですが、それだと、1500円で、ちと高い。 一方、≪サイクルベースあさひ≫の品は、980円です。 ケチな私としては、そちらを選びたいところですが、クランク抜きというのが、みんな同じサイズなのか、それすら知らないので、使えない物を買ってしまう危険を避けるために、まず、そこから確認しなければなりません。
で、ノギスなんか無いので、定規で、折自のクランク棒の孔の径を測りました。 2センチちょい。 「ちょい? そんな測り方でいいのか?」 いや、いいとは言いませんが、「たぶん、自転車のクラング孔は、全部同じ径なのだろう」という見当がついていたので、この際、いい事にしました。
その週は、早番の六日稼動で、土曜も出勤。 疲れるなあ・・・。 六日間働くのもさる事ながら、週末の休みが、日曜日一日だけになってしまうのが、体力的・精神的に厳しいです。 しかも、今回は、その貴重な休みに、自転車の修理までやらねばなりません。 しかし、さっさと済ませてしまわなければ、自転車を使えない週末が、どんどん増えるだけですから、もはや、是非を検討している場合ではない。
幸い、定時で終わったので、帰りに、工具を買っていくゆとりがありました。 まずは、≪サイクルベースあさひ≫へ。 クランク抜きの所へ行って、外径を定規で測ってみると、2センチちょい。 よしよし、やはり、全車共通のようだな。 レジへ持って行きましたが、店員がおらず、傍らの修理コーナーで、持ち込まれた自転車の修理をしていた人がやって来ました。 で、汚れたままの手で、レジ打ち。 いや、まあ、いいんですがね。
あさひのクランク抜きには、14ミリ・ボックスが付属していないので、その後、ダイソーに寄って、ボックス・セットを買いました。 14・15・17ミリの三種が入って、105円。 異様に安いな。 安いから、必ず、悪い品とは限りませんが、ボックスの場合、あまり大きな負荷をかけると、いかれてしまう事は、覚悟しておかなければなりません。
その辺の理屈を勘違いしていて、安い品と承知の上で買ったくせに、大負荷をかけて、壊してしまうと、「やっぱり、安物は駄目だ」などと、ブログで、ボロクソに貶す輩がいますが、そんなのは、ただの馬鹿です。 そんなに安物が嫌なら、最初から、高い物を買えば良かろうて。 廉価品の使い方を知らないなら、手を出すなよ。
話を戻しますが、この店で、ボックスは手に入ったものの、ボックスを取り付けるラチェット・レンチが品切れ。 やむなく、繁華街のショッピング・モール内にある、別のダイソーに行きましたが、そこは、工具コーナーが小さくて、最初から置いていない様子でした。 ダイソーは、あちこちにあって、便利なものの、店によって、品揃えの規模が違うのが、玉に瑕ですな。
またまた、やむなく、街外れの、スーパーの中にあるダイソーへ行って、ようやく、発見しました。 ラチェット・レンチは、結構しっかりした工具なので、さすがに105円ではなく、315円。 それでも、ホーム・センターよりは、ずっと安いです。 よし、これで、折自の修理にかかれるぞ。 もっとも、この日に買った工具でできる作業は、クランクを外すところまでなのですが・・・。
それにしても、ラチェット・レンチが、315円で売っているのに、遥かに単純で小さい、クランク抜きが、980円とは、どーゆーこっちゃねん。 ・・・とは思うものの、クランク抜きは、あまりにも、出番の少ない工具なので、100円ショップでは、今後も、絶対に取り扱い対象にならんでしょうなあ。
さて、翌日の2月17日、日曜日です。 朝から起きて、朝食だけは食べたものの、寒さと疲れで、また寝てしまい、本格的に動き出したのは、10時半からでした。 布団干しや部屋掃除などを済ませ、折自に取りかかったのは、11時半頃。 遅過ぎだよ、おい。 間に合わなかったら、面倒な事になるのに・・・。
まず、クランク孔のカバーを外します。 これは、プラスチックを嵌め込んであるだけなので、マイナス・ドライバーでこじれば、簡単に外れます。 次に、買って来たラチェット・レンチに、14ミリのボックスをセットして、クランク棒を締め付けているナットを外します。 ネットで体験談を読んだところでは、このナットがきつくて、苦労するケースが多いようなのですが、私の折自の場合、簡単に外れました。
次は、いよいよ、クランク抜きの出番です。 まず、外側のナットを、クランク孔の内側に切ってあるねじ山に、手で締め込んで行きます。 クランク棒は、左右共に外さなければなりませんが、まずは、左から始めました。 ねじ山には、少ししか入りませんでしたが、何しろ、初めての経験なので、「こんなもんなのか・・・」と思って、そのまま、続ける事にしました。
クランク抜きは、外側のナットをクランク棒に固定しておいて、内側のボルトを締め込む事で、ガッチリ喰い込んでいるクランク棒を、シャフトから引き離すという仕組みです。 内側ボルトを回す為には、六角レンチか、モンキー・レンチが要ります。 ところが、六角の方は、サイズが大き過ぎて、家には対応するレンチがありませんでした。 となると、モンキーを使うしかありません。
で、物置からモンキー・レンチを持って来たのですが、威容に大きなものしかありませんでした。 もっと小さいのがあったはずなのですが、どこへ行ったのか・・・。 物置の工具は、父の物なので、常に同じ場所にあるとは限らないのです。 父に訊けばいいのですが、時間が押していたので、面倒になり、「大は小を兼ねる」で、やっつける事にしました。
ところが、モンキーで挟んで回し始めたら、クランク抜きが、外側ナットごと、ポロリと外れてしまいました。 やり直しても同じ。 ねじ山を舐めたかと思って、右側のクランクで試しましたが、こちらも、同じように外れてしまいます。 かなり、真っ青・・・。 ベアリングの交換どころか、クランクさえ外せない段階で、作業中止か・・・。
気を落ち着かせ、クランク抜きをよく見ると、中側ボルトが、外側ナットに入り過ぎていて、シャフトに当たっているせいで、外側ナットが、クランク孔の奥までに入って行かず、力をかけると、簡単に外れてしまうのだと分かりました。 この事は、ハウツー・サイトで注意されていたにも拘らず、物の見事に忘れていました。 ちゃんと、読まねばいかんのう。
一旦、外側ナットから、中側ボルトを抜いて、外側ナットだけを、先にクランク孔にねじ込み、それから、中側ボルトを入れて、モンキーで締めて行ったら、あっさり、クランクが外れました。 やれやれ、ほっとした。
右も同じように外します。 右側は、チェーンがかかっているドライブ・スプロケットや、チェーン・カバーの支持ステーが挟まっているので、クランクを外すのに、少し苦労しました。 その代わり、右側の分解は、ここまでで、ボトム・ブラケットの取り出しは、左側から行なうので、右側は、これ以上、手をつけずに済みます。
ここで、昼飯。 母がスーパーで買って来た、惣菜寿司セット、750円。 高いな。 前に、「寿司にするくらいなら、ハンバーグ定食にしてくれ」と頼んでおいたのに、すっかり忘れていて、寿司を買って来やがるのです。 これだから、年寄りは困る。
次は、≪左ワン≫という部品を固定している、≪ロック・リング≫を外さなければなりません。 それには、≪フック・レンチ≫という工具が必要ですが、これは買わなくても、バイクの車載工具に入っていて、それを使ったら、何とか外れました。
左ワン自体は、モンキーで簡単に回りました。 左ワンは、外側のねじで、フレームにねじ込まれていますが、座金が無いので、摩擦する部分が無く、締め付けてあるわけではないのです。 その締め付け用にロック・リングがつけられているという仕組み。
左ワンを取り外すと、中身が出て来ました。 ボトム・ブラケットを構成する部品の内訳は、シャフト、左右リテーナー、リテーナーに組み込まれたベアリング、それだけです。 ブラック・ボックスである割には、意外なほどに、単純な構成です。 足で踏み込まれて、大負荷に耐えなければならないのに、こんなんで、もつんですねえ。
見ると、左側のリテーナーが変形してました。 ベアリングの球も、9個中7個が、表面が欠けたようになっていました。 まともなのは、2個だけ。 右側は、リテーナーは無事でしたが、球が2個、表面が破損していました。 好都合な事に、無事なリテーナーに、無事な球9個を入れれば、片側分は、引き続き使える事になります。 買わなければならないのは、もう片側分だけというわけだ。
ハウツー・サイトの情報では、リテーナーと球がセットになった品や、球だけという品が存在するそうです。 通販でも買えるけれど、自転車店にも、置いてある所にはあるそうなので、とりあえず、近場で探してみる事にします。
午後2時前に、買い物用にしている自転車に乗って、最寄りのホーム・センターへ。 しかし、ベアリングの球だけというのは置いてないと言われました。 続いて、近所の自転車店へ行きましたが、日曜だというのに、扉とカーテンが閉まっていました。 もう長い事、店の前を通っていませんでしたが、もしかしたら、潰れたのか?
やむなく、市街地まで足を延ばし、最も近くて、その手の部品が置いてありそうな自転車店へ行きました。 この店は、ホーム・ページを持っていて、スポーツ自転車を物色していた頃に、よく見ていたのですが、実際に、店に入ったのは初めてでした。 街なかなので、ビルの一角の一階と二階を店舗にしています。
一階は、思っていたより、ずっと狭い店でした。 50代くらいの御夫婦が店番。 日曜はお客が少ないのか、閑そうでした。 リテーナーは、他の部品とセットのものしかなかったのですが、球だけならあるというので、18個入りのを、210円で買って来ました。
入っている袋のシールを見ると、シマノ製・・・。 うーむ、クランク抜きでは避けられたのに、ここで、シマノに捕まったか。 ものの本によると、シマノは、大変、厳しい社風で、だからこそ、業界トップの座を維持し続けているのだそうですが、私は個人的に、そういう雰囲気の会社が、好きではないのです。 もっとも、物はベアリングですから、実際に作っているのは、下請け業者だと思いますが。
それにしても、ここで、見つかって良かった。 ≪サイクル・ベースあさひ≫まで行っていたら、30分も余計にかかるところでした。 ネット情報によると、リテーナーは、必ず無ければならない部品というわけではないとの事。 この点は、自転車店の人も、「リテーナーが悪さをする事がある」と言っていました。 リテーナーを使わない分、球の数を増やして、開いた隙間を埋めるのだそうです。
家に帰って、2時40分。 干してあった布団を取り込みます。 買って来た球を撮影して、早速、取り付けにかかります。 日が長くなりつつあるとはいえ、ぐずぐずしていると、今日中に終わりません。 折自は、屋外に置いているので、部品がバラバラのまま、夜になってしまうと、大変、都合が悪い。
右ワンの方に、古い球を嵌め込んだリテーナーを入れました。 シャフトを固定する為に、先に、右のクランクを付けてしまいます。 チェーンが外れ、かけ直すのに苦労しました。 うっかり素手で、チェーンに触ると、汚れたグリスで、手が真っ黒。 それを洗っている内に、時間のロスが溜まって行きます。
左ワンの方は、リテーナー無しなので、ワンの中に、直截、買って来た球を並べます。 ところが、グリスが柔らかくて、ワンの真ん中の孔から、すぐに落ちてしまいます。 私が持っているのは、バイクのチェーン用のスプレー・グリスなのですが、ハウツー・サイトでは、もっと粘度が高いグリスを使っていました。 ちっき・・・、もう、買いに行っている時間など無いのに・・・。
とりあえず、孔にウエスを通しておいて、その周囲に、球を11個並べました。 しかし、そのままでは、ウエスが邪魔で、シャフトに通せません。 とにかく、グリスを固めようと思い、ウエスの代わりに、紙を丸めて、芯にして、全体をラップで包み、冷凍庫へ。 「そんな手、ありか?」と思うでしょうが、他に固める方法を思いつかなかったんですよ。
15分くらい待って、左ワンを冷凍庫から出すと、紙の芯を取り除き、恐る恐るシャフトに通して行って、何とか、フレームにねじ込む事に成功しました。 しかし、綱渡りは、まだまだ、続きます。 左ワンとロック・リングの締め具合が分からずに、立ち往生。 最もスムースに回る所で締めればいいらしいのですが、どこが一番スムースなのかが分からないから、困る。 最終的には、テキトーにやっつけました。 生姜姉ちゃん、いや、しょーがねーじゃん。
最後に、左のクランクを取り付けて、何とか格好になりましたが、見ると、何だか、左のシャフトの出が大きいです。 リテーナーが無い分、左ワンが奥まで入ってしまったのかもしれません。 これでいいのか・・・? 頭の上に、?マークが飛び回ります。
近所を一回り、試し乗り。 ゴリゴリ音はしなくなりましたが、クランクに、なんとなく、ブレがあります。 しかし、これ以上の事は、私の技能的にも、時間的にも、もうできません。 とりあえず、これで、完了という事にしましょう。 不具合が出たら出たで、また、その時、直すという事で・・・。
片付けが終わったのは、午後4時半でした。 出来はともかく、何とか、一日で終わって、良かった。 今、こうやって、経過を書き出してみると、ほんとに、綱渡りしてますなあ。 こういう事は本来、連休など、もっと、ゆとりがある時に、やるべき事なのでしょう。
この日の作業で、つくづく思ったが、私の折自はもう、新品同様とは言えないという事でした。 近くで見ると、どこもかしこも、キズだらけです。 この日は新たに、フック・レンチを引っ掛けて、フレームに、だいぶキズをつけてしまいました。 シルバーの塗料を買って来て、修正すべきか、はたまた、もう、これ以上、手をかけるのはやめるべきか・・・。
≪サイクル・ベースあさひ≫独自ブランドの、クランク抜き。 980円。
100円ショップ・ダイソーの、ボックス・レンチ用、ボックス。 14・15・17ミリのセット。 ソケットと書いてありますが、ボックスと同じ意味です。
同じく、ダイソーの、ラチェット・レンチ。 315円。 ラチェットというのは、左右どちらか、一方向に回す時にだけ固定され、逆方向にはフリーになる機構の事。 スイッチで、締め付け方向の切り替えができます。
クランク抜きを、クランク棒の孔に挿したところ。 外側のナットをクランク孔にねじ込み、内側ボルトを、六角レンチか、モンキー・レンチで、締め込んでいくと、クランク棒が外れて来ます。
外した、クランク棒。 ペダルは、外す必要が無かったので、そのまま着けてあります。 左側が、クランク孔を塞いであった、プラスチックのカバー。 右側が、クランクを締めてあったナット。
左上は、左ワン。 左下は、ロック・リング。 右下は、ロックリングを外すための、フック・レンチ。 右上は、ロック・リングに被せてあった、プラスチック・カバーです。
上の黒いのは、クランク・シャフト。 これは、無傷でした。 両側が、四角形の断面になるように加工されていて、左右のクランクを直線状に嵌め込めるようになっています。 このタイプのシャフトの事を、≪スクエア・テーパー≫と言うそうです。 左下は、無事だったリテーナーと、無事だったベアリングの球9個。 右下は、変形したリテーナーと、表面が欠けてしまった球9個。
左ワンを外し、ボトム・ブラケットを取り除いた、フレーム部分。 フレームの筒の内側にねじが切ってあって、そこにワンが入るようになっています。 左右のワンで、ベアリングを介して、シャフトを挟み込む仕組み。 このタイプのボトム・ブラケットの事を、≪カップ・アンド・コーン≫と言うそうです。
シマノ純正の、ベアリング球。 18個入り、210円。 サイズは、4分の1インチ、6.35ミリです。 自転車用でなくても、一般の工業用で、同じサイズの球があると思うのですが、どこで売っているのか、今のところ、突き止めていません。
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