2013/03/10

尿管結石

  自転車のボトム・ブラケットを修理したのが、2月17日の日曜日。 月曜からは、遅番なので、午後から出勤で、昼まで寝ている予定だったのですが、朝の7時に、腹の痛みで起こされる事になりました。

  いつものように、便通が悪いのだろうと思っていたのですが、便意は一向に盛り上がらず、トイレに座っても、ほんの僅かしか出ません。 腹が痛くて、いきむのも辛い。 ベッドに戻って、絶対安静を決め込もうとしたものの、なぜか、左の背中まで痛くなり、寝てもいられない有様。

  9時前、急激な腹痛に襲われ、下剤代わりに飲んだアクエリアスを、全部吐いてしまいました。 腹が痛過ぎて、息ができない緊急事態に・・・。 事ここに至って、自力で治すのは不可能と判断。 生憎の雨の上、家には車が無くなっているので、母に頼んで、タクシーを呼んでもらい、病院へ行こうとしました。

  洗面しなければと思ったものの、腹が痛くて、髭をざっと剃るのが精一杯。 母が、「救急車の方がいいのでは?」と言うので、素直に従いました。 タクシーはすぐに来ましたが、理由を話して帰ってもらい、5分後に到着した救急車に、歩いて乗り込みました。

  消防隊員に症状を訊かれ、血圧や体温を計測し、病院に問い合わせてから、発進。 「近くの病院がいいですか」というので、「はい」と答えたら、本当に、すぐ近所にある、糖尿病専門の医院に運ばれました。 あまりに近いので、恥ずかしさを感じましたが、わざわざ、遠くにしてくれというのも、変な話。

  この医院、一応、内科もやっているのですが、いつも糖尿病患者でいっぱいで、えらい待たされるので、内科の治療目当てで、ここに来る人はあまりいません。 しかし、この時は、救急搬送だったので、すぐに処置室に入れてくれました。 いやあ、救急車にして良かった。

  まず、看護師さんに、続いて、先生に症状を話すと、「原因はよく分からないが、とりあえず、座薬と点滴をする」との事。 ついでに、尿検査と血液検査もしました。 座薬のせいか、点滴のせいか、単なる気分の問題か、処置室のベッドで横になっている間は、腹痛が和らいでいました。

  その後、エコーもやるというので、診察室の方へ。 検査の前に、先生から、「尿管結石かもしれない」と聞き、意表を突かれました。 痛いのは、腹も背中も、左側で、左側には小腸・大腸くらいしか臓器が無いと思っていたので、そう言われるまで、てっきり、便通の問題だと思い込んでいたのです。 しかし、よく考えてみれば、腎臓は左右にあるわけで、左側に結石したとすれば、背中の方が痛くなった事も、説明がつきます。

  エコーの結果、石らしい石は見つからなかったようなのですが、他に原因が考えられないと言うので、その線で治療する事になりました。 ところが、診察室の椅子に座って、そういう話を聞いている内に、また腹が痛くなり、慌てて処置室に戻って、点滴をもう一本、追加する事になりました。 その間に、母が薬局で処方薬を買って来て、病院を出たのが、昼の12時半頃。

  帰りはタクシーでした。 家までの距離は、1キロも無いんですが、雨がひどいので、致し方なし。 家に帰ると、すぐにまた腹が痛くなり、後は、寝ているだけ。 石が膀胱に落ちるまでは、痛みが続くとの事。 本来なら、石が落ちてしまうまで、病院で寝ているべきなんですが、なにせ、糖尿病外来専門の医院で、入院設備が無いので、追っ払われてしまったわけですな。


  午後4時頃、会社に電話して、休むと告げました。 今日は他にも休む者がいて、向こうは困るでしょうが、こちらも、生きるか死ぬかという瀬戸際ですから、仕事の事なんぞ、気にしてられません。

  処方薬は、石を溶かす薬と、痛み止めの座薬が出ました。 しかし、座薬の方は、ほとんど効果がありませんでした。 薬自体の効果がどうこうというより、肛門から、出て来てしまうのです。 まず、指で抓んで入れますわなあ。 すると、指が汚れるから、洗いに行きますわなあ。 それで、ベッドに戻って来て、寝ますわなあ。 その間に、20歩くらい歩くわけですが、歩くと、座薬が出て来てしまうのですよ。

  座薬を効果的に使うには、予め、体を横にした状態で入れて、そのままの姿勢を維持していなければいけないんですな。 手をラップか何かで包んで、座薬を入れ、ラップは、手の届くのと頃に置いたゴミ箱に捨てれば、いいかもしれません。

  石を溶かす薬は、食後に飲むという指定でしたが、とても、物が食べられない状態だったので、ただ、薬だけ飲みました。 「石を流すために、水分をたくさん取れ」と言われていましたが、そうそう飲めるものではありません。 しかも、胃に溜まるばかりで、そこから下へ下って行かない感じ。 尿も、少ししか出ません。

  横になっていても、ただ寝ているだけで、眠る事ができません。 痛みがひどくて、同じ姿勢を維持できないからです。 まーあ、「楽に死ねるなら、死んだ方がマシ」という痛さでしたね。 私は、若い頃に、胆石をやっていますが、痛みの強さは、胆石に及ばないものの、長く続く分、こちらの方が始末が悪いのではありますまいか。

  ちなみに、胆石の痛みというのは、≪病気・怪我の三大痛み≫の一つに数えられるそうですが、近い例で説明すると、マラソンなど長距離走をした時に、脇腹が痛くなった事があるでしょう? あの痛みが、ずっと続く感じです。 じっとしていても収まらず、何かしら、薬の力を借りないと、発作から脱する事ができません。 結石の痛みは、それよりは、幾分軽いのですが、平常心でいられないレベルである点は、同じです。

  医院の看護師さんから、「この病気は、泌尿器科の管轄だから、悪くなるようだったら、そちらへ行けば、超音波で石を破砕する機械がある」と聞いていたのですが、あまりにも、長く痛みが続くので、「これはもう、機械の力に縋るしかない!」というところまで追い詰められました。 朝まで痛みが続くようだったら、病院の開院と同時に押しかける事に決定。

  で、夜中の0時過ぎに、寝ているよりも、立っている方が楽なひと時が訪れたので、「今しか無い!」とばかりに、パソコンを起動して、市内の泌尿器科をチェックしました。 調べてみると、長音波の機械は、大病院にしか無いようでした。 個人の泌尿器科医院は、主に、人工透析をやっている様子。

  別に、大病院でもいいんですが、でかい所は、常連患者を大量に抱えているので、よっぽど早く行っても、すでに先客が列を成していて、待合室で、死ぬほど苦しい思いをさせられる恐れがあるのが、厄介。 こんなに痛い腹を抱えて、何時間も待ち続ける事ができるのか?

  パソコンを起動したついでに、人体解剖図で、腎臓と尿管、膀胱の位置関係を調べてみました。 私は、腎臓を、膀胱のすぐ上にあるものと思い込んでいたのですが、図で見ると、遥かに上の方にあり、長い尿管が、膀胱まで、ほぼ垂直に下りています。 尿管は、膀胱の左右に、真上から繋がっていて、正に、「落ちる」という感じ。

  イメージというのは、割と大事なもので、体の仕組みが理解できると、石がどの辺りまで進んでいるかが、分かるようになります。 「尿管が真上から膀胱に入っているなら、重力で石を落とせないものだろうか?」と思いつき、痛いのを堪えつつ、ぴょんぴょん跳ねてみましたが、自室は二階なので、夜中にドスドス床を揺らすのは、ちとまずい。

  そこで、ますます痛いのを堪えて、階下へ下り、台所の電気ストーブを点けて、その前で、飛び跳ねました。 しかし、痛みは引かず、10分ほどで諦めて、またまた痛みを堪えつつ、階段を上がって、自室へ。 そろそろ、立っている事に限界を感じ、またベッドに横になりました。 横になっても、痛みで、眠れやしないのですが・・・。


  ところが、いつの間にか眠っていたんですな。 夜中の2時頃、尿意で目が覚めると、痛みが引いている事に気づきました。 石が膀胱に落ちたのです。 やれやれ、助かった!  尿も、それまでとは比較にならぬくらい、たくさん出るようになりました。 考えてみれば、腎臓から来る尿管が、片方、石で詰まっていたんですから、尿が少ないのは当たり前だったのです。

  その後は、朝の7時まで、楽に眠る事ができました。 小便には、三回くらい起きましたが、なーに、そのくらい、石の痛みに比べたら、何の苦労でもありません。 ううむ、九死に一生を得た気分。 「ああ、生きているって、素晴らしい事なんだなあ・・・」と、心底、思いましたっけ。

  朝の7時から、翌日の午前2時まで、19時間の激闘でした。 病院に行く前よりも、帰って来た後の方が、ずっと長かったです。 その間、固形物は何も食べず、テレビも全く見ませんでした。 痛くて、そんな気分にならないのです。 結石、恐るべし・・・。


  火曜日は、普通に仕事に行きました。 石は膀胱に落ちただけなので、まだ、尿道に詰まる可能性があったのですが、看護師さんの話では、「膀胱で溶けてしまう場合もある」との事だったので、痛みも無いのに、休むのもどうかと思い、出勤する事にしたのです。

  会社に着くと、尿路結石の経験がある人が、三人も訪ねて来て、「痛かったでしょう! あれは、救急車、呼びますよねえ!」と、病気話で大盛り上がり。  同病相憐れむ。 というか、自分が経験した苦しさを、人に話したくて仕方ないんですな。 分かります、その気持ちは。


  その後、そろそろ、3週間になりますが、結局、石は、尿道には詰まりませんでした。 膀胱で溶けてしまったのでしょう。 やれやれ、あれ以上、痛い思いをしないで済んで、助かった。 尿道の方は、未経験ですが、尿管と違って、周りに肉が詰まっているので、もっと痛いんじゃないでしょうか。

  ちなみに、私が飲んでいた、石を溶かす薬は、≪ウロカルン≫という錠剤ですが、本来の役目は果たしてくれたものの、胃壁も荒らされてしまい、その後、一週間、胃の痛みに苦しむ事になりました。 しかし、胃炎の痛みなんぞ、結石の痛みに比べたら、ものの数ではありません。 だって、我慢しながら、仕事ができるくらいですから。 結石の痛みだったら、仕事なんて、とてもとても・・・。


  病気自体とは関係ありませんが、前日に、自転車のボトム・ブラケットを修理して、手にグリスの臭気が残っていたのには、ほとほと参りました。 痛みを堪えるために、顔に手を当てるたびに、グリス臭くて、気持ち悪いのなんのって・・・。 これからは、グリスを扱うときには、手袋をしようと、固く心に誓った私でした。