2014/12/14

セールス電話

  退職した事とは、関係ないと思うのですが、先日、変な電話が、かかって来ました。 全然知らない会社の名前に、苗字を添えて名乗り、何かと思ったら、「東京23区の不動産情報について・・・」などと言い始めました。 つまり、セールスなのです。 それにしても、こっちは、静岡県ですぜ。 なんで、東京23区の不動産を買うと思うのかね? 自分が何県に電話をかけているのか、分かっていないんじゃないの? こちらは、固定電話ですから、市街局番だけで、分かりそうなものですが、よほど、常識が欠けているのか・・・。

  私の父は、自営業だったので、家で仕事をしていると、セールスの電話が頻繁にかかって来て、それらの相手をする内に、断るのが巧くなりました。 話をはぐらかしながら、相手の要求に応じられない理由を、徐ろに持ち出し、やんわり断ってしまうのです。 傍で聞いていた私は、「なるほど、こういう風に断れば、角が立たないのだな」と、学習して育ちました。

  20歳を過ぎると、私宛てに、得体の知れない会社や団体から、勧誘やセールスの電話がかかって来るようになり、私は、父の技法を真似て、やんわり断っていました。 ところが、何年かすると、どう考えても、同じ人間としか思えない相手から、電話がかかって来ている事に気づきました。 話し方に特徴があるので、すぐに分かります。 そういうパターンが、何件かあったのです。

  今でも、記憶に焼きついているのは、「私も、この電話だけで、事を済ませようという気はないんですよ」というセリフを必ず使う男です。 数年に渡り、4回くらいかけて来たと思いますが、言葉使いだけ丁寧でいて、人を小馬鹿にしたような口調と、同じセリフを使った事で、同一人物と分かりました。 そのつど、名乗る会社名が違っていましたが、どの会社も存在しないのかも知れません。

  この男のセリフは、「電話だけで、セールスをつもりはない。 いずれ、お宅に足を運ぶつもりだ」という、誠意を装っているようにも取れますし、「電話だけで、済むと思うなよ」という、脅迫とも取れます。 私は、げんなりしてしまい、「なんで、あなたは、私のところに、何度も電話をかけてくるんですか? 私は、仕事で疲れてるんですよ。 なんで、私が、見ず知らずの、あなたの相手なんかしなきゃならないんですか?」と、理不尽を訴えたら、それきり、かけて来なくなりました。


  ある時、ふと思ったのは、「もしかしたら、やんわり断っている事で、向こうから、『脈あり』と見做されているのではないだろうか?」という疑いです。 つまりその、ピシャリと断わる人間には、名簿の名前の脇に、「×」をつけて、二度とかけないようにし、やんわり断る人間には、「△」をつけて、しばらく間を置いてから、また、かけているのではないかと・・・。

  それが証拠に、以前かけて来た事を隠さないばかりか、むしろ逆に、「何年前の何月何日に、お電話した○○ですが、覚えていませんか?」などと言って、馴れ馴れしさを装おうとする奴もいます。 まるで、「二度目だから、もう、知り合いだ」とでも言いたいかのように。 この連中、「自分は、詐欺師ではなく、セールスマンだから、法に触れるような事は何もしていない」という自信でもあるのか、平気な顔をして、他人の生活に、ズカズカ土足で踏み入って来るから、始末が悪い。

  もし、「△」をつけられてしまうのだとしたら、「やんわり断る」という手は、完全な逆効果という事になります。 「また、かけて下さい」と言っているようなものだからです。 「やんわり断るのが、大人の対応だ」と思っていたのは、浅はかな思い込みだったのかもしれません。 むしろ、「二度とかけたくない」と思うくらい、嫌な思いをさせてやるのが、こういう連中を追い払う、正しい対応なのではありますまいか。

  で、先日かけて来た奴ですが、何年か前に、「東京のマンションを買わないか」と言って、かけて来た奴と、同一人物と思われました。 もう、5年くらい経っていると思うのですが、自分が静岡県にかけている事に、未だに気づいていないのでしょう。 もう、それだけでも、馬鹿っぽくて、そんな奴の為に、一分でも煩わされるのは、耐えられません。

  日曜の夜にかけて来るという事は、会社の仕事ではないに決まっています。 会社名は名乗っていても、大方、個人のサイド・ビジネスで、不動産会社の下請けセールスでもやっているのでしょう。 それでも、まだ、見方が良心的過ぎで、まるっきり、詐欺師である可能性もあります。 いずれにせよ、日曜の夜に、この種の電話をかける事が、相手に自分の胡散臭さをアピールしてしまう事になるという事に気づかない点が、実に、馬鹿っぽい。

  試しに、「どこで、この電話番号を知ったのか」と訊いてみたら、嫌なところを突かれたのか、「なんで、そんなに、喧嘩腰なんですか」などと、逆ギレして来ました。 ここに至っては、もはや、まともなセールスマンとは、とても思えません。 セールスの最中に、キレていたのでは、仕事になりませんから、本物だったら、絶対にやらない事です。 で、「二度とかけて来るな!」と、怒鳴りつけて、切ってやりました。

  そういや、こいつと似たパターンで、こちらが、断ろうとすると、逆ギレを起こした奴を、過去に、二人ばかり、経験した事があります。 話の途中で、「はあ? 何言ってるんですかあ?」などと、ナメた口調で喋り始めるから、驚くではありませんか。 客を馬鹿にしていて、セールスが務まるか、馬鹿め。 自分が同様の電話をかけられた時に、そんな態度を取る相手の話を、まともに聞く気になるかどうか、今までの人生で、ただの一度だって、考えた事がないのでしょう。 いくら、元から馬鹿とはいえ、馬鹿にも程がある。

  こういう連中、性格的に、セールスマンなんか、全く向かないのですよ。 自尊心を抑えきれなくて、客から、拒絶される状況を、許せないものだから、「拒絶されたら、拒絶し返してやる」という、喧嘩の作法が出てしまうのです。 セールスマンに、セールス電話をかける権利があると言うなら、客には、それを断る権利があるのですが、その基本的な関係を理解しないまま、事に及んでいるから、断られる事が許せないわけだ。 セールスマン以前に、社会人として失格です。 自分の権利は確保し、相手の権利は無視するというのでは、セールスどころか、世間話もできますまい。 人間関係の根本すら理解していない。

  なんで、セールス電話を法律で禁止しないのか、不思議でなりません。 法律で禁じた上で、電話機に、「セールス撃退ボタン」を設け、セールスと判断したら、そのボタンを押して切れば、自動的に、警察のデータ・バンクに連絡が行くと同時に、同じ番号からの電話は、受け付けないようになる機能を付ければいいのです。 着信拒否の設定機能なら、今でもありますが、そんなの、面倒臭いではありませんか。 赤の他人からかかって来る迷惑電話の為に、こっちが、そんな労を払わねばならんのは、理不尽極まりないではありませんか。

  もっとも、振り込め詐欺事件の、異様に低い検挙率を見ると、セールス電話が相手では尚の事、警察に多くは期待できないという気もしますけど・・・。 こういう事は、電話会社にも責任があると思います。 うちの電話なんか、かかって来る電話の半数以上が、セールスか、詐欺ですぜ。 詐欺師からの連絡の便の為に、電話を引いているようなものです。

  そういや、フレッツ光の勧誘の時には、「NTT△日本の関連会社です」と名乗る連中から、十回以上、電話がかかって来て、ほとほと、参りました。 さんざん、そういう電話がかかって来た後で、NTT△日本の社員が、直截、訪問して来たのです。 こちらは、「入ってしまえば、もう、勧誘電話はかかって来ないだろう」と思って、契約してしまいました。 考えてみれば、関連会社は、誰がインター・ネットをやっているかについて、NTT△日本から、個人データを得ていたとしか思えません。 悪質極まりないやり口で、確か、NTT△日本は、その後、監督官庁から、注意を受けたと思います。

  そういう経緯で加入した契約は、大抵、ろくでもないものでして、ADSLを光にしても、大して速くなるわけでもなく、料金ばかり高くなって、月5千円以上を2年に渡って払い続け、大損させられました。 その後、岩手異動を契機に、すっぱり解約して、モバイルに変えましたが、今では、月975円で済んでいます。 速さなんか、大して変わりません。 容量も、動画ばかり見るのでなければ、月2メガで、充分です。 中途解約金を1万円も取られましたが、光に比べると、モバイルは、月々4千円も得なので、ものの3ヵ月で、元を取ってしまった事になります。 とっくに、そうすりゃ良かった。


  話を戻しましょう。 この種の電話をかけて来る奴は、性別に関係なくいますが、女の場合、「いや、そういうのは結構です。 もう、かけて来ないで下さい」と言えば、「はあ、そうですか」で、引き下がる場合が多いです。 自分が後ろめたい事をやっていると分かっているのでしょう。 女の方が、プライドが高いので、相手を怒らせる前に引いて、ダメージを受けないようにしているのではないかと思います。

  他方、男は、しつこい。 たぶん、詐欺そのもの、もしくは、詐欺まがいだと思っていても、「これが、俺の仕事なのだ」と開き直り、「俺の仕事を邪魔する奴の方が悪い」とでも、屁理屈を捏ね固めているのでしょう。 振り込め詐欺の一団が捕まると、メンバーが、ほとんど、男なのは、その表れです。 たとえ、本物のセールスであったとしても、自分で自分の正当性を信じ込んでしまって、赤の他人に電話をかけるという事が、そもそも、異常な行為であり、途轍もない迷惑になる事など、考えもしないのです。


  星新一さんのショートショートに、優しい看守の話がありました。 死刑囚に、優しく接していると、刑が執行された後、似たような人格の死刑囚が送られて来て、それが、何度も繰り返されます。 ある時、優しくするのをやめ、さんざん、ひどい目に遭わせた上で、死刑台に送ってやったら、それで、ようやく、ループが切れたという話。 このラスト、オチというほどのオチではないのですが、妙に印象深いのは、真理を衝いているからだと思います。 誰にでも、優しくすればいいというものではないのですよ。 「人を見て、法を説け」とも言います。 もしかしたら、星さん自身が、訪問セールスや、セールス電話に悩まされて、発想した話かもしれません。

  やんわり断れば、その場は、「うまく、撃退した」という、自己満足に浸れますが、いいのは、当座だけで、何せ、名簿に、「△」がついてますから、しばらくすると、また、かかって来ます。 それは、是も非もなく、避けたいところです。 私一人で暮らしているのなら、電話を解約して、清々するのですが、家の電話なので、そうも行きません。 となると、二度とかけて来る気にさせない為には、怒鳴りつけるのが、一番という事になります。

  良心の呵責を感じる必要はありません。 相手はこちらを、良く言っても、「一方的に利用しようとしている」、悪く言えば、「騙そうとしている」のであって、間違った事をしているのは、向こうだからです。 そういう輩に、丁寧に応対する方が、却って、世の為になりません。 将来を考えれば、相手の為にもなりません。 「こんな仕事は、もうやめよう」という気にさせるのが、むしろ、思いやりというものです。

  ちなみに、電話の場合、相手が一人なので、よほど、ひどい事を言っても、名誉毀損罪は成立しません。

「馬鹿!」
「死ね!」
「キチガイ!」
「人間のクズ!」
「親の名前と住所を言え! どういうつもりで、こんな出来損ないを、世間に出しやがった!」

  と、思いつく限り、最もインパクトがあると思われる言葉を、声を限りに、怒鳴りつけてやればいいのです。 そういう罵言を浴びせる為に、わざと相手を怒らせて、無礼な態度を引き出すという手もあります。 もっとも、他人を怒鳴りつける事に快感を覚えるようになると、普段の生活でも、その癖が出てしまいかねないので、理性で、コントロールする必要はありますが。

  いかに図々しいとはいえ、向こうも、生身の人間ですから、電話をかけるたびに、怒鳴りつけられていれば、恐怖で、鬱病になって、赤の他人に電話をかけようなどと、思わなくなるでしょう。 本来なら、赤の他人が怖いという事は、子供の内に、体験を通して、肝に銘じておかなければならない事なのですがね。

  「怒鳴るのは、どうも・・・」という方は、相手の用向きが分かった時点で、「あー、そういうのは結構です。 もう、かけて来ないで下さい」と、早口で捲し立て、相手が何か言う前に、電話を切ってしまうのが、次善の策です。 その場合、また、かけて来る可能性はありますが、何度も、同じパターンを繰り返せば、その内、「△」が、「×」に変わるでしょう。 セールスマンも詐欺師も、脈がない相手に、いつまでも関わっているほど、閑ではないと思われるからです。