灼熱の解体
悪い事というのは、固まってやって来るものらしく、7月11日に、犬が死んだと思ったら、20日には、庭の池に、たった一匹残っていた、金魚が死んでしまいました。 まるで、犬が死ぬのを待っていたかのようです。 密かに、対抗していて、「石に齧りついてでも、犬より先には死なんぞ」と頑張っていたんでしょうか? いや、池の中から、家の中の様子なんて、見えやしないんですがね。
この金魚は、犬より先輩で、1996年か、97年に買って来たので、享年18歳か19歳だった事になり、金魚としては、長命な方だったと思います。 父の話では、前日に、エサをやった時には生きていたらしいのですが、20日の朝、母が見たら、横腹を上にして浮いていたとの事。 亡骸は、庭に穴を掘って埋めましたが、大きくて、小ぶりの鯛くらいありました。 私が金魚屋で買って来た時には、5センチくらいだったのですがねえ・・・。
7月15日の朝、存命中、最後に撮った金魚の写真。
魚の場合、犬とは、人間との距離が違っていて、喪失感はあるものの、そんなに、大きなショックはありません。 むしろ、家の中で、死が続く事の方が、恐ろしいです。 単なる偶然だとは思うのですが、どうも、動物では止まらずに、人間が誰か死ぬのではないかと、嫌な予感がしてしまうのです。 両親とも、もう、いい歳なので、夏の暑さで、参ってしまう恐れがなきにしもあらず。 特に、エアコン嫌いの父が、危ない。 何度も、付けろと言っているのですが、頑として付けないのです。 私が、無理やり付けたとしても、たぶん、使わないでしょう。
この池は、元は、父が、錦鯉を飼っていたもので、大きさは、幅2500ミリ×奥行1800ミリ×高さ700ミリの枡形をしています。 家を建て替えた直後ですから、かれこれ、35年くらい前に、父が自分で、コンクリート・ブロックを積んで、作ったもの。 鯉は、それ以前から飼っていて、ブロック製の池を作ったのも、二度目。 そのせいか、とても、素人の手とは思えないような、しっかりした作りでした。
最も多い時には、15匹くらい錦鯉がいたのですが、少しずつ減り、最後の10年くらいは、「銀ちゃん」という名の、一番大きな銀色の錦鯉と、今回死んだ金魚の2匹だけが暮らしていました。 銀ちゃんは、2013年の10月18日に、40歳くらいで死に、それ以降は、金魚1匹だけでした。 金魚を買って来たのは私ですが、池の管理は父がしていたので、エサやりや、水の入れ換えは、引き続き、父がしていました。
金魚がいなくなって、もはや、池は不要になり、解体する事になったのですが、父はもう、年老いてしまって、そんな大仕事ができないので、自動的に、私にお鉢が回って来ました。 実は、私は、この日が来るのを、前々から恐れていて、池を壊すのに悪戦苦闘し、腕や腰など、体のあちこちを悪くして、「こんな事、できないよ~! 死んじまうよ~!」と、ヒーヒー悲鳴を上げる自分の姿を、悪夢で見るほどでした。 前の池を父が壊した時に、果てしなく長い時間と、極まりなく夥しい手間をかけていたのが記憶にあり、「あああ、あんな事だけは、やりたくない」と思っていたのです。 しかし、最後に残った金魚が、私のものだったので、「自分が作った池じゃないから、知らない」とも言い難い立場でした。
魚がいなくなった池は、ただの水溜りでして、蚊が湧くだけで、大変、不衛生な存在となります。 また、さして、広くもない庭ですから、デッド・スペースを放置しておくのも、勿体ない話。 水を抜いても、池のままでは、中に入るのにも、踏み台が必要で、何かを置く事もできません。
で、金魚の埋葬が済んだ後、早速、手動ポンプとホースで、水を抜きました。 まるまる半日かかったから、水の量は、浴槽の比ではありません。 ようやく、水深が、2センチくらいまで減ったので、長靴を履いて中に入り、底の一番低い所に穴を開けました。 雨が降っても、水が溜まらないようにする為です。 鏨(たがね)をハンマーで叩いたのは、30年ぶりの事で、5センチの穴一つ開けるのに、疲れきってしまいました。
「とりあえず、雨水が抜けるようにしておいて、解体は、涼しい季節になってからやればいい」と、父に言われたものの、私は、せっかちな性分でして、自分がやらなければならない仕事を、先延ばしにする事ができません。 ブロックの数が、65個もある池を、全部壊すのに、一体、何日かかる事やら。 私の体力もさる事ながら、音が近所迷惑なので、ボチボチ進めるのも、考えものなのです。 さっさとやってしまうに、越した事はありません。
やれやれ、えらい事になってしまった。 次に死ぬのは、私かも知れません。 父の作った池を壊す為に、私が死んでいたのでは、あまりにも理不尽なので、あれこれ知恵を絞ったところ、何も、池全体を壊さなくても、手前の一辺だけ取り払い、中に出入りできるようにすれば、使える空間になる事に、思い至りました。 父と母にそのアイデアを話したところ、「それで、よかろう」との返事。
うちは、子孫がいない家なので、今住んでいる者が、みんな死んでしまえば、家と土地は人手に渡る事になります。 「次の持ち主が、家を壊す時に、池も壊してもらえばいいではないか」という、いささか虫のいい考え方ですが、どうせ、その時には、両親も私も死んでいるわけで、誰に文句を言われる事もありますまい。 よし、これで、解体対象は、全体の6分の1になったぞ。
水を抜いて、底を乾かしたところ。
ネットで、ブロック塀を壊す動画を見たところ、片手ハンマー一本で、側面から叩いて、豪快に、バンバン崩して行き、長さ3メートルくらいの塀を、30分で壊したなどと、とてつもなく景気のいい事を言っています。 どうも、イメージが違う。 前の池を父が壊した時には、鏨をハンマーで叩いて、コツコツ削って行ったような覚えがあるのですが・・・。
片手ハンマーの大きいのは、家にあったのですが、それでは、心許なくて、両手で使う、大きなハンマーを、ネットやホーム・センターで物色しました。 6ポンド(約2.7キロ)で、2600円程度と、驚くほど、高い物ではないのですが、なにせ、池を壊したら、用なしになると分かっていますから、おいそれとは買えません。 とりあえず、そちらは後回しにして、家にある道具で、できるところまで進める事にしました。
父に訊いたら、ディスク・グラインダーを持っているというので、それを使って、崩す所と残す所の境界に、切れ込みを入れました。 2ヵ所で切るので、裏と表で、合計4ヵ所に切れ込みを入れたわけですが、大昔に父が買ってあった、石材用の切断砥石4枚を、一気に使ってしまいました。 ものの3分くらいで、丸坊主。 こんなに消耗が早いとは思わなかった。
そうそう、書き忘れていましたが、グラインダーを使う前に、粉塵対策を施しました。 目には、北海道応援の時に、会社で支給されて、そのまま貰って来たゴーグルを着け、口には、風邪用のマスクをしました。 普通の紙製の使い捨てマスクです。 なぜ、風邪用なのかというと、防塵マスクが、思いの外、値段が高かったからです。 3個入りで千円もするのに、使い捨てだと言うのですから、話にならぬ。 風邪用マスクでは、完全な防塵などできるわけはないのですが、「とりあえず、何も着けないよりは、マシ」という発想で、着けた次第。 ちなみに、この風邪マスクも、北海道応援の時に、苫小牧のダイソーで買って、持ち帰った物の残りです。
服装は、会社で使っていた作業ズボンと、長袖の作業ポロシャツに、黒の腕抜きをしました。 頭には、使い古しの帽子。 靴は、最初、汚れても、簡単に洗えるように、サンダルでやっていたのですが、グラインダーで飛んだ破片が、パチパチ足に当たって痛いので、長靴に履き換えました。 この長靴は、バイク通勤に使っていたものですが、引退して以降、一年以上、出番がなくて、靴箱の肥やしになっていた物。 今回は、大活躍しました。 「奇貨おくべし」と言うほどの奇貨ではありませんが、取っておけば、役に立つ事もあるものですな。
作業期間中、前半は、毎日、昼過ぎから始めていたので、フル装備にすると、暑くて熱くて、たまりませんでした。 特に、マスクとゴーグルは、真夏の炎天下に着けるもんじゃありませんなあ。 熱中症対策に、クール・スカーフを巻いていましたが、それがなければ、倒れていたかもしれません。 一時間に一回くらい、家の中に逃げ込んで、氷水を一気飲みすると、飲んだ端から、汗になって噴き出して来る気持ちの悪さ。
話を、作業に戻します。 ブロック壁に切り込みを入れた後、ネットの動画の真似をして、片手ハンマーで、側面を叩いてみたところ、一回では、ビクともしないものの、何回か叩いていると、ひびが入り、「バコッ!」という感じで、割れて崩れる事が分かりました。 コツが分かると、面白いように、ガラガラ崩れて行きます。 ブロック塀が、こんなに脆い物だとは思いませんでした。 やれやれ、先走って、両手ハンマーを買わなくてよかった。 ガラクタを増やすところでした。
父の話では、「鉄筋が、かなり入れてあるはず」との事でしたが、それは、父の記憶違いで、入っていたのは、縦方向に、2本だけでした。 鉄筋が少なかったお陰で、崩し易かったのです。 驚いたのは、35年も経っているのに、鉄筋が、全く錆びていなかった事です。 それだけ、周りのセメントの密度が高かったわけで、父は、いい仕事をしていたという事になります。 できれば、壊すのも、自分でやってもらいたかったものですが・・・。
一見、順調に進んでいるようでしたが、この後、躓きます。 切れ込みの近くまで壊したら、鏨で少しずつ削って行けばよかったんですが、横着して、ハンマーで、ガンガンやったら、片側を、切れ込みの先まで、崩してしまいました。 痛恨のミスです。 もう片方は、慎重に、彫刻するように崩して、そこそこ、うまく行きましたが、切断部を、目地の所にしたせいで、ブロックとブロックの間に入っているモルタル部分が残ってしまい、どうにも、格好がつきません。
片手ハンマーだけで、壊したブロック壁。 奥側の切断面の上の方を崩し過ぎています。
ブロック塀を切断する時、目地の部分で切りたくなるのは、人情ですが、それは考え足らずでして、綺麗にスパッと切りたかったら、ブロックの途中の、穴の端で切らねばならなかったのです。 で、結局、切れ込みを入れる所から、やり直す事にしました。 切断砥石を使い切ってしまったので、ホーム・センターに買いに行ったら、なんと、売っていません。 やむなく、仕上げに使う、石材用オフセット砥石だけ買って帰りました。 248円。 安いな。
家に帰ってから、調べたら、今は、切断砥石の代わりに、ダイヤモンド・カッターというディスクが主流になっているとの事。 ネットの方が安いので、3枚組、991円を注文しました。 その日は、金曜日だったのですが、続く、土日は、作業を休みました。 夏休みとはいえ、大人は働いているわけで、休日に騒音を立てると、近所迷惑だと思ったからです。 子供? 子供なんか、どーでもえーわ。 子供に比べたら、解体工事の方が、なんぼか静かですわ。
月曜日に、ダイヤモンド・カッターが届いたので、作業を再開。 使ってみると、これが、切れる切れる! 切断砥石とは比較にならないくらい、ザクザク切れます。 なるほど、これなら、切断砥石が売れなくなっても、ちっとも不思議はありません。 ディスク1枚だけで、4ヵ所切って、まだ、余裕で、刃が残っていました。 よし、今度は、慎重にやるぞ。
≪上≫ 父が所有していた、ディスク・グラインダー。
≪中左≫ 石材用オフセット砥石。
≪中右≫ ダイヤモンド・カッター3枚組。
≪下≫ 左から、鏨、平鏨、片手ハンマー。
平鏨をハンマーで叩き、彫刻家になったつもりで、コツコツと、削り落として行き、何とか、真っ直ぐに切り取る事ができました。 実は、また、少し、角の所を欠いてしまったのですが、幸い、破片が残っていたので、コンクリート・ボンドを買って来て、くっつけました。 298円。 探せば、どんな材料でも見つかるものですな。
≪左≫ コンクリート・ボンド。
≪右≫ 欠けた部分を接着しました。
池の一辺を崩す事自体は、可能だったわけですが、困ってしまったのが、瓦礫の処理です。 日本全国、どの自治体でも同じだと思いますが、コンクリート・ブロックやレンガ、瓦などは、ゴミ回収で持って行ってくれません。 まして、その瓦礫では、尚の事です。 沼津市の「ゴミ出し便利帳」に、「清掃プラントに、自己搬入するのであれば、有料で引き取る」と書いてあったので、とりあえず、それを当てにしていました。 もし、駄目なら、業者を頼むしかありません。 もちろん、業者の方が、料金は高いです。
いずれにせよ、運び易いように、土嚢袋に入れる事にし、瓦礫を細かく砕きました。 ただ割るだけだから、楽かと思いきや、結局、ハンマーを振るう事に変わりはなく、疲労困憊しました。 ブロック壁を壊している時にもそうでしたが、連続して、ハンマーを振るえるのは、5・6回が限度で、その後、「はあはあ」言って、息を整えなければなりませんでした。 連続で働けるのも、10分くらい。 10分経つと、ベランダ下の濡れ縁に仰向けになって、ゴーグルとマスクを外し、大きな息をして、体力が戻って来るのを待ちます。
≪上≫ 崩したままの瓦礫。
≪中≫ 細かく砕いた瓦礫。
≪下≫ 土嚢袋10枚の束。
ところで、「土嚢袋(どのうぶくろ)」というのは、変な言葉でして、「土嚢」だけでも、「土のふくろ」ですから、「土嚢袋」は、「土のふくろのふくろ」という事になり、とても、正しい形容とは思えません。 だけど、実際に、袋だけで売られているわけでして、それに呼び方をつけようとすると、「土嚢袋」としか言いようがないのです。
その土嚢袋は、ホーム・センターで、10枚154円で買って来た物。 砕いた瓦礫を入れてみると、10袋全てに、8分目くらいまで入って、とても、持ち上げられたもんじゃありません。 体重計を持って来て、何とか載せて見たところ、平均、25キロ弱くらい。 つまり、全部で、250キロあるわけだ。 「ゴミ出し便利帳」によると、自己搬入は、200キロまでが、1220円で、それを超えると、追加料金がかかるとの事。 まあ、大した追加額ではないようですが。
問題は、運搬方法です。 自転車の荷台に、プラスチックの箱を括り付け、その中に土嚢袋を入れて運ぶつもりでいたのですが、この重さでは、問題外です。 荷台まで上げる事さえできません。 土嚢袋を、もう10枚買って来て、20袋に分ければ、何とかなるような気がするものの、20回も往復するのは、あまりにも、非現実的。 一回に、2袋運べば、10往復で済みますが、それでも、まだ、非常識でして、そこまで多くなると、レンタカーを借りて来る方が、まともな発想というものでしょう。
また、清掃プラントまでは、ちょっとした峠を越えなければならず、普通の自転車では、とても漕いで上がれません。 母の電動アシスト車があるので、それを借りるという手も考えましたが、それでも、10往復もするのは、気が進まないではありませんか。 バイクを使えば、時間と労力は短縮できますが、重量物を載せて、バランスを崩した時、自転車のように、すぐに足を着いて踏ん張るという事ができませんから、危険度が増します。 タンデム走行を考えれば、25キロどころではないわけですが、土嚢袋には脚がなく、重心が上に行きますから、コーナーリング時なんて、傾けたが最後、そのまま、転倒する危険性が、極めて大きいです。
ここまでやって、市役所のゴミ関係の部署に電話してみたら、「ブロック塀のような、構築物の瓦礫は、引き取っていない」との事。 がっかりすると同時に、自力で運ばなくて良くなったので、ほっとしました。 やっぱ、どう考えても、10往復は、異常行為だよなあ。 いくら、安く上げたいからと言って、大の大人が、やる事じゃないです。
早速、瓦礫を引き取ってくれる業者を調べます。 なるべく、近くがいいと思って、沼津市内の便利屋に電話したら、「そういうのは、うちでは、対応できない」と言われ、没。 めげている暇もなく、次を探します。 近場には、もうないようなので、静岡市の業者に電話したら、そちらはオーケーで、翌日の午後1時に取りに来てもらえる事になりました。 料金は、15000円。 思っていたよりは安かったですが、喜ぶのは、まだ早いです。 この業界は、いろんな名目で、お金を取るので、それでは収まらないかも知れません。 父に話したら、「金は出す」との事。 そりゃそうでしょうよ。 解体作業は全部、私任せなんだから、お金くらい出してもらわなければ。
翌朝、前日に土嚢袋10袋に入れた瓦礫を、20袋に分けました。 大した作業ではないのに、汗びっしょりになりました。 解体にせよ、瓦礫処理にせよ、猛暑の最中にやる事ではありませんな。 一袋、12・3キロになったので、袋が破れる恐れもなくなり、門の内側まで、持って運べました。 20袋も運ぶのは、きつかったのですが、見に来た父は、全く手伝いませんでした。 とことん、衰えたのう。
瓦礫を運び出して、池の中がすっきりしたので、グラインダーに、家にあった鉄工用の切断砥石を着けて、鉄筋を根元から切り取りました。 錆びていないので、保存しておく予定。 ゆくゆく、捨てる事になっても、鉄筋は、短く切れば、資源ゴミに出せます。 更に、グラインダーに、ホーム・センターで買って来た、石材用オフセット砥石を着けて、ブロック壁や基礎部分の切断面を滑らかにし、角の部分は、面取りしました。 安全の為です。
午後12時40分頃に、静岡市の業者が、軽トラックで到着。 体格のいい青年二人で、両手に袋を持って、どんどん積んでしまいます。 私も運びましたが、一つずつが限界でした。 話を聞くと、静岡市を中心に、浜松から沼津までをカバーし、しょっちゅう、行き来しているとの事。 手広いですなあ。
「どこを壊したんですか?」と訊かれたので、「庭にある池を、部分的に壊しました」と言ったら、「この暑いのに、大変だったでしょう」と、同情されてしまいました。 向こうも、ブロック塀を壊す仕事を、普段やっているらしく、猛暑の中で、力仕事をするのが、どれだけ大変か、分かる様子。 同病相憐れむ。
料金は、電話で言われた通り、15000円でした。 電話に出たのは、事務的にテキパキ事を進めるタイプの人でしたし、引き取りに来た二人も、いかにも、善良そうな青年達で、後から、追加料金を取りに来るような、あくどい人間には見えなかったので、たぶん、これは、これで終わりになるでしょう。 向こうは、15000円でも、充分、元が取れるのだと思います。
とにかく、池解体計画の、最大の山場だった、瓦礫の処理が終わり、ほっとしました。 瓦礫を運ぶのに、自転車を使わないで済んで、ほんと、良かったです。 荷台の左右に吊り下げるラックを作れば、バランス良く、重量物を運べるかもしれませんが、それなりにお金がかかるわけで、少なくとも、今回の計画で、それを作る気はありませんでした。 だから、私が作った池ではないと言うに。
だけど、まだ、池の方の作業は、完了していません。 解体作業中に、池に溜まる雨水の出口を作る為に、崩したブロックの基礎部分をぶち抜いて、幅3センチほどの溝を掘ったのですが、この溝が浅くて、池の中に水溜りが出来てしまう事が分かったのです。 幅が狭過ぎて、グラインダーが入らないので、鏨とハンマーで、手掘りします。 「手彫り」と書いた方がピッタリ来る、えらい作業でした。 江戸時代以前に、手掘りで、岩山にトンネルを掘った話が、脳裏に何度も浮かびます。 昔の人は、丈夫で、気長だったんですなあ。
基礎をぶち抜いて掘った、水捌け用の溝。
溝は深くなり、水捌けは良くなりました。 だけど、まだ終わりません。 池の水を最初に抜いた後、最も低い部分に、穴を開けたという件りを覚えているでしょうか? 今度は、その穴を塞がなければならないのです。 そのままにしておくと、雨が降るたびに、池の下に水が浸み込んで、空洞が出来てしまいます。 穴を塞いだ上に、最も低い部分に、モルタルを盛って、高くし、基礎に開けた溝から、水が出るようにしなければなりません。
おいおい、壊すだけじゃなくて、モルタルまで、塗るのかよ? でも、やらないと、まずいのです。 池は、隣家との境にあり、塀に密接しているので、地下に空洞が出来たら、えらい事になります。 で、ホーム・センターで、インスタント・モルタルを見たら、25キロ袋で、600円。 安い! でも、25キロなんて袋を、どうやって、家まで運べばいいのか分かりません。 そもそも、一人では、持ち上がりませんがな。 もっと、小さい袋もあるのですが、不思議な事に、1キロでも、500円くらいします。 世界で一番愚かな奴が考えても、25キロ袋の方が得。
瓦礫と違って、モルタル袋は平たくなっていますから、自転車の荷台に、載せられない事はないです。 まず、同じくらいの大きさの板を、紐で荷台に括り付けて行き、ホーム・センターで、モルタルを買ったら、店の人に手伝ってもらって、板の上に載せ、その上から、もう一本の紐で縛って、帰って来ればいいわけだ。
「こういう時の為に、荷台拡張用の専用板を作ってもいいなあ」と思いました。 適当に穴を開けて、荷台に、紐か、ボルト・ナットで括り付けられるようにし、板の隅の方にも、ボルト・ナットで下向きに突起を付けて、荷物を縛る時に、紐をかけられるようにするわけです。 ほとんど板の値段なので、千円もあれば作れるでしょう。 だけど、今回、それを作る気はないです。 だから、私が作った池ではないと言うに。
ところが、モルタルを買って来ようと思っていた矢先に、物置の奥で、古いセメントと砂を発見し、結局、そちらで間に合わせる事になりました。 父は、もう、すっかり、老いぼれてしまって、庭で何かを作るような事はないですから、セメントや砂なんか、取っておいても仕方ありません。 使える時に、どんどん、使ってしまわなければ。
モルタルを買うのはやめたんですが、重ね塗りをすると、すぐに剥がれてしまうというので、「モルタル接着強化剤」という薬品を買って来ました。 908円。 下地に、刷毛で塗って、乾かせば、接着効果が高まるという効能です。 結構、高かったのが痛いけれど、すぐに剥がれてしまうよりは、使った方がマシでしょう。
材料の目処だけつけて、日を改め、午前中に準備を整え、午後から、モルタル塗りに取りかかりました。 まず、昼食後すぐに、池の底にモルタル接着強化剤を塗り、充分に乾かして、3時半頃から、セメントと砂を水で混ぜて、モルタルを作りました。 塗り方なんて、知らないので、一番深い所から、テキトーに、ボタボタ落として、全部使ってしまい、後から、鏝で表面を均しました。
≪上≫ 物置にあった、セメントと砂。
≪下左≫ モルタル接着強化剤。
≪下右≫ モルタル施工後。
「よーし、これで、完成だ!」と、達成感に浸ったのも束の間、夕飯の後、見に行ったら、早くも、ひび割れが出来ていました。 所詮、経験値がほとんどない、素人のやる事など、こんなものか。 まあ、そんなに重大な問題ではないです。 雨が、大量に浸み込まなければ、それでいいのですから。 ひびが大きくなるようなら、後で、何かで埋める事にします。
完成。
完成したのは、8月1日(土)でした。 金魚が死んだのが、7月20日(月)で、埋葬の直後から、水抜きを始めたので、完成するまでに、13日間。 準備期間を除外して、24日(金)に、解体作業に入ってからでも、9日間。 猛暑の中、激闘したわけですが、一応、目的を達成し、格好がついて、良かったです。 毎日、汗を搾り出したお陰で、体重が2キロ減って、70キロ台になりました。 だけど、すぐに、戻ってしまうだろうなあ。
池解体計画にかかったお金は、瓦礫の引き取り料が、15000円で、一番多かったですが、それは、父持ちなので、私の懐は痛みませんでした。 しかし、グラインダーのオフセット砥石や、ダイヤモンド・カッター、コンクリート・ボンド、土嚢袋、モルタル接着強化剤は、私が自腹で買いました。 合計、3000円くらい。 私の労賃を計算したら、日当たり1万円として、半日仕事が、9日間続いたわけですから、4・5万円貰ってもいいくらいなのに、逆に、3000円の出超です。 私が作った池ではないのに、なんで、こんな目に・・・。 金魚が一匹死んだせいで、途轍もなく大きな波紋が発生したものです。
この金魚は、犬より先輩で、1996年か、97年に買って来たので、享年18歳か19歳だった事になり、金魚としては、長命な方だったと思います。 父の話では、前日に、エサをやった時には生きていたらしいのですが、20日の朝、母が見たら、横腹を上にして浮いていたとの事。 亡骸は、庭に穴を掘って埋めましたが、大きくて、小ぶりの鯛くらいありました。 私が金魚屋で買って来た時には、5センチくらいだったのですがねえ・・・。
魚の場合、犬とは、人間との距離が違っていて、喪失感はあるものの、そんなに、大きなショックはありません。 むしろ、家の中で、死が続く事の方が、恐ろしいです。 単なる偶然だとは思うのですが、どうも、動物では止まらずに、人間が誰か死ぬのではないかと、嫌な予感がしてしまうのです。 両親とも、もう、いい歳なので、夏の暑さで、参ってしまう恐れがなきにしもあらず。 特に、エアコン嫌いの父が、危ない。 何度も、付けろと言っているのですが、頑として付けないのです。 私が、無理やり付けたとしても、たぶん、使わないでしょう。
この池は、元は、父が、錦鯉を飼っていたもので、大きさは、幅2500ミリ×奥行1800ミリ×高さ700ミリの枡形をしています。 家を建て替えた直後ですから、かれこれ、35年くらい前に、父が自分で、コンクリート・ブロックを積んで、作ったもの。 鯉は、それ以前から飼っていて、ブロック製の池を作ったのも、二度目。 そのせいか、とても、素人の手とは思えないような、しっかりした作りでした。
最も多い時には、15匹くらい錦鯉がいたのですが、少しずつ減り、最後の10年くらいは、「銀ちゃん」という名の、一番大きな銀色の錦鯉と、今回死んだ金魚の2匹だけが暮らしていました。 銀ちゃんは、2013年の10月18日に、40歳くらいで死に、それ以降は、金魚1匹だけでした。 金魚を買って来たのは私ですが、池の管理は父がしていたので、エサやりや、水の入れ換えは、引き続き、父がしていました。
金魚がいなくなって、もはや、池は不要になり、解体する事になったのですが、父はもう、年老いてしまって、そんな大仕事ができないので、自動的に、私にお鉢が回って来ました。 実は、私は、この日が来るのを、前々から恐れていて、池を壊すのに悪戦苦闘し、腕や腰など、体のあちこちを悪くして、「こんな事、できないよ~! 死んじまうよ~!」と、ヒーヒー悲鳴を上げる自分の姿を、悪夢で見るほどでした。 前の池を父が壊した時に、果てしなく長い時間と、極まりなく夥しい手間をかけていたのが記憶にあり、「あああ、あんな事だけは、やりたくない」と思っていたのです。 しかし、最後に残った金魚が、私のものだったので、「自分が作った池じゃないから、知らない」とも言い難い立場でした。
魚がいなくなった池は、ただの水溜りでして、蚊が湧くだけで、大変、不衛生な存在となります。 また、さして、広くもない庭ですから、デッド・スペースを放置しておくのも、勿体ない話。 水を抜いても、池のままでは、中に入るのにも、踏み台が必要で、何かを置く事もできません。
で、金魚の埋葬が済んだ後、早速、手動ポンプとホースで、水を抜きました。 まるまる半日かかったから、水の量は、浴槽の比ではありません。 ようやく、水深が、2センチくらいまで減ったので、長靴を履いて中に入り、底の一番低い所に穴を開けました。 雨が降っても、水が溜まらないようにする為です。 鏨(たがね)をハンマーで叩いたのは、30年ぶりの事で、5センチの穴一つ開けるのに、疲れきってしまいました。
「とりあえず、雨水が抜けるようにしておいて、解体は、涼しい季節になってからやればいい」と、父に言われたものの、私は、せっかちな性分でして、自分がやらなければならない仕事を、先延ばしにする事ができません。 ブロックの数が、65個もある池を、全部壊すのに、一体、何日かかる事やら。 私の体力もさる事ながら、音が近所迷惑なので、ボチボチ進めるのも、考えものなのです。 さっさとやってしまうに、越した事はありません。
やれやれ、えらい事になってしまった。 次に死ぬのは、私かも知れません。 父の作った池を壊す為に、私が死んでいたのでは、あまりにも理不尽なので、あれこれ知恵を絞ったところ、何も、池全体を壊さなくても、手前の一辺だけ取り払い、中に出入りできるようにすれば、使える空間になる事に、思い至りました。 父と母にそのアイデアを話したところ、「それで、よかろう」との返事。
うちは、子孫がいない家なので、今住んでいる者が、みんな死んでしまえば、家と土地は人手に渡る事になります。 「次の持ち主が、家を壊す時に、池も壊してもらえばいいではないか」という、いささか虫のいい考え方ですが、どうせ、その時には、両親も私も死んでいるわけで、誰に文句を言われる事もありますまい。 よし、これで、解体対象は、全体の6分の1になったぞ。
ネットで、ブロック塀を壊す動画を見たところ、片手ハンマー一本で、側面から叩いて、豪快に、バンバン崩して行き、長さ3メートルくらいの塀を、30分で壊したなどと、とてつもなく景気のいい事を言っています。 どうも、イメージが違う。 前の池を父が壊した時には、鏨をハンマーで叩いて、コツコツ削って行ったような覚えがあるのですが・・・。
片手ハンマーの大きいのは、家にあったのですが、それでは、心許なくて、両手で使う、大きなハンマーを、ネットやホーム・センターで物色しました。 6ポンド(約2.7キロ)で、2600円程度と、驚くほど、高い物ではないのですが、なにせ、池を壊したら、用なしになると分かっていますから、おいそれとは買えません。 とりあえず、そちらは後回しにして、家にある道具で、できるところまで進める事にしました。
父に訊いたら、ディスク・グラインダーを持っているというので、それを使って、崩す所と残す所の境界に、切れ込みを入れました。 2ヵ所で切るので、裏と表で、合計4ヵ所に切れ込みを入れたわけですが、大昔に父が買ってあった、石材用の切断砥石4枚を、一気に使ってしまいました。 ものの3分くらいで、丸坊主。 こんなに消耗が早いとは思わなかった。
そうそう、書き忘れていましたが、グラインダーを使う前に、粉塵対策を施しました。 目には、北海道応援の時に、会社で支給されて、そのまま貰って来たゴーグルを着け、口には、風邪用のマスクをしました。 普通の紙製の使い捨てマスクです。 なぜ、風邪用なのかというと、防塵マスクが、思いの外、値段が高かったからです。 3個入りで千円もするのに、使い捨てだと言うのですから、話にならぬ。 風邪用マスクでは、完全な防塵などできるわけはないのですが、「とりあえず、何も着けないよりは、マシ」という発想で、着けた次第。 ちなみに、この風邪マスクも、北海道応援の時に、苫小牧のダイソーで買って、持ち帰った物の残りです。
服装は、会社で使っていた作業ズボンと、長袖の作業ポロシャツに、黒の腕抜きをしました。 頭には、使い古しの帽子。 靴は、最初、汚れても、簡単に洗えるように、サンダルでやっていたのですが、グラインダーで飛んだ破片が、パチパチ足に当たって痛いので、長靴に履き換えました。 この長靴は、バイク通勤に使っていたものですが、引退して以降、一年以上、出番がなくて、靴箱の肥やしになっていた物。 今回は、大活躍しました。 「奇貨おくべし」と言うほどの奇貨ではありませんが、取っておけば、役に立つ事もあるものですな。
作業期間中、前半は、毎日、昼過ぎから始めていたので、フル装備にすると、暑くて熱くて、たまりませんでした。 特に、マスクとゴーグルは、真夏の炎天下に着けるもんじゃありませんなあ。 熱中症対策に、クール・スカーフを巻いていましたが、それがなければ、倒れていたかもしれません。 一時間に一回くらい、家の中に逃げ込んで、氷水を一気飲みすると、飲んだ端から、汗になって噴き出して来る気持ちの悪さ。
話を、作業に戻します。 ブロック壁に切り込みを入れた後、ネットの動画の真似をして、片手ハンマーで、側面を叩いてみたところ、一回では、ビクともしないものの、何回か叩いていると、ひびが入り、「バコッ!」という感じで、割れて崩れる事が分かりました。 コツが分かると、面白いように、ガラガラ崩れて行きます。 ブロック塀が、こんなに脆い物だとは思いませんでした。 やれやれ、先走って、両手ハンマーを買わなくてよかった。 ガラクタを増やすところでした。
父の話では、「鉄筋が、かなり入れてあるはず」との事でしたが、それは、父の記憶違いで、入っていたのは、縦方向に、2本だけでした。 鉄筋が少なかったお陰で、崩し易かったのです。 驚いたのは、35年も経っているのに、鉄筋が、全く錆びていなかった事です。 それだけ、周りのセメントの密度が高かったわけで、父は、いい仕事をしていたという事になります。 できれば、壊すのも、自分でやってもらいたかったものですが・・・。
一見、順調に進んでいるようでしたが、この後、躓きます。 切れ込みの近くまで壊したら、鏨で少しずつ削って行けばよかったんですが、横着して、ハンマーで、ガンガンやったら、片側を、切れ込みの先まで、崩してしまいました。 痛恨のミスです。 もう片方は、慎重に、彫刻するように崩して、そこそこ、うまく行きましたが、切断部を、目地の所にしたせいで、ブロックとブロックの間に入っているモルタル部分が残ってしまい、どうにも、格好がつきません。
片手ハンマーだけで、壊したブロック壁。 奥側の切断面の上の方を崩し過ぎています。
ブロック塀を切断する時、目地の部分で切りたくなるのは、人情ですが、それは考え足らずでして、綺麗にスパッと切りたかったら、ブロックの途中の、穴の端で切らねばならなかったのです。 で、結局、切れ込みを入れる所から、やり直す事にしました。 切断砥石を使い切ってしまったので、ホーム・センターに買いに行ったら、なんと、売っていません。 やむなく、仕上げに使う、石材用オフセット砥石だけ買って帰りました。 248円。 安いな。
家に帰ってから、調べたら、今は、切断砥石の代わりに、ダイヤモンド・カッターというディスクが主流になっているとの事。 ネットの方が安いので、3枚組、991円を注文しました。 その日は、金曜日だったのですが、続く、土日は、作業を休みました。 夏休みとはいえ、大人は働いているわけで、休日に騒音を立てると、近所迷惑だと思ったからです。 子供? 子供なんか、どーでもえーわ。 子供に比べたら、解体工事の方が、なんぼか静かですわ。
月曜日に、ダイヤモンド・カッターが届いたので、作業を再開。 使ってみると、これが、切れる切れる! 切断砥石とは比較にならないくらい、ザクザク切れます。 なるほど、これなら、切断砥石が売れなくなっても、ちっとも不思議はありません。 ディスク1枚だけで、4ヵ所切って、まだ、余裕で、刃が残っていました。 よし、今度は、慎重にやるぞ。
≪上≫ 父が所有していた、ディスク・グラインダー。
≪中左≫ 石材用オフセット砥石。
≪中右≫ ダイヤモンド・カッター3枚組。
≪下≫ 左から、鏨、平鏨、片手ハンマー。
平鏨をハンマーで叩き、彫刻家になったつもりで、コツコツと、削り落として行き、何とか、真っ直ぐに切り取る事ができました。 実は、また、少し、角の所を欠いてしまったのですが、幸い、破片が残っていたので、コンクリート・ボンドを買って来て、くっつけました。 298円。 探せば、どんな材料でも見つかるものですな。
≪左≫ コンクリート・ボンド。
≪右≫ 欠けた部分を接着しました。
池の一辺を崩す事自体は、可能だったわけですが、困ってしまったのが、瓦礫の処理です。 日本全国、どの自治体でも同じだと思いますが、コンクリート・ブロックやレンガ、瓦などは、ゴミ回収で持って行ってくれません。 まして、その瓦礫では、尚の事です。 沼津市の「ゴミ出し便利帳」に、「清掃プラントに、自己搬入するのであれば、有料で引き取る」と書いてあったので、とりあえず、それを当てにしていました。 もし、駄目なら、業者を頼むしかありません。 もちろん、業者の方が、料金は高いです。
いずれにせよ、運び易いように、土嚢袋に入れる事にし、瓦礫を細かく砕きました。 ただ割るだけだから、楽かと思いきや、結局、ハンマーを振るう事に変わりはなく、疲労困憊しました。 ブロック壁を壊している時にもそうでしたが、連続して、ハンマーを振るえるのは、5・6回が限度で、その後、「はあはあ」言って、息を整えなければなりませんでした。 連続で働けるのも、10分くらい。 10分経つと、ベランダ下の濡れ縁に仰向けになって、ゴーグルとマスクを外し、大きな息をして、体力が戻って来るのを待ちます。
≪上≫ 崩したままの瓦礫。
≪中≫ 細かく砕いた瓦礫。
≪下≫ 土嚢袋10枚の束。
ところで、「土嚢袋(どのうぶくろ)」というのは、変な言葉でして、「土嚢」だけでも、「土のふくろ」ですから、「土嚢袋」は、「土のふくろのふくろ」という事になり、とても、正しい形容とは思えません。 だけど、実際に、袋だけで売られているわけでして、それに呼び方をつけようとすると、「土嚢袋」としか言いようがないのです。
その土嚢袋は、ホーム・センターで、10枚154円で買って来た物。 砕いた瓦礫を入れてみると、10袋全てに、8分目くらいまで入って、とても、持ち上げられたもんじゃありません。 体重計を持って来て、何とか載せて見たところ、平均、25キロ弱くらい。 つまり、全部で、250キロあるわけだ。 「ゴミ出し便利帳」によると、自己搬入は、200キロまでが、1220円で、それを超えると、追加料金がかかるとの事。 まあ、大した追加額ではないようですが。
問題は、運搬方法です。 自転車の荷台に、プラスチックの箱を括り付け、その中に土嚢袋を入れて運ぶつもりでいたのですが、この重さでは、問題外です。 荷台まで上げる事さえできません。 土嚢袋を、もう10枚買って来て、20袋に分ければ、何とかなるような気がするものの、20回も往復するのは、あまりにも、非現実的。 一回に、2袋運べば、10往復で済みますが、それでも、まだ、非常識でして、そこまで多くなると、レンタカーを借りて来る方が、まともな発想というものでしょう。
また、清掃プラントまでは、ちょっとした峠を越えなければならず、普通の自転車では、とても漕いで上がれません。 母の電動アシスト車があるので、それを借りるという手も考えましたが、それでも、10往復もするのは、気が進まないではありませんか。 バイクを使えば、時間と労力は短縮できますが、重量物を載せて、バランスを崩した時、自転車のように、すぐに足を着いて踏ん張るという事ができませんから、危険度が増します。 タンデム走行を考えれば、25キロどころではないわけですが、土嚢袋には脚がなく、重心が上に行きますから、コーナーリング時なんて、傾けたが最後、そのまま、転倒する危険性が、極めて大きいです。
ここまでやって、市役所のゴミ関係の部署に電話してみたら、「ブロック塀のような、構築物の瓦礫は、引き取っていない」との事。 がっかりすると同時に、自力で運ばなくて良くなったので、ほっとしました。 やっぱ、どう考えても、10往復は、異常行為だよなあ。 いくら、安く上げたいからと言って、大の大人が、やる事じゃないです。
早速、瓦礫を引き取ってくれる業者を調べます。 なるべく、近くがいいと思って、沼津市内の便利屋に電話したら、「そういうのは、うちでは、対応できない」と言われ、没。 めげている暇もなく、次を探します。 近場には、もうないようなので、静岡市の業者に電話したら、そちらはオーケーで、翌日の午後1時に取りに来てもらえる事になりました。 料金は、15000円。 思っていたよりは安かったですが、喜ぶのは、まだ早いです。 この業界は、いろんな名目で、お金を取るので、それでは収まらないかも知れません。 父に話したら、「金は出す」との事。 そりゃそうでしょうよ。 解体作業は全部、私任せなんだから、お金くらい出してもらわなければ。
翌朝、前日に土嚢袋10袋に入れた瓦礫を、20袋に分けました。 大した作業ではないのに、汗びっしょりになりました。 解体にせよ、瓦礫処理にせよ、猛暑の最中にやる事ではありませんな。 一袋、12・3キロになったので、袋が破れる恐れもなくなり、門の内側まで、持って運べました。 20袋も運ぶのは、きつかったのですが、見に来た父は、全く手伝いませんでした。 とことん、衰えたのう。
瓦礫を運び出して、池の中がすっきりしたので、グラインダーに、家にあった鉄工用の切断砥石を着けて、鉄筋を根元から切り取りました。 錆びていないので、保存しておく予定。 ゆくゆく、捨てる事になっても、鉄筋は、短く切れば、資源ゴミに出せます。 更に、グラインダーに、ホーム・センターで買って来た、石材用オフセット砥石を着けて、ブロック壁や基礎部分の切断面を滑らかにし、角の部分は、面取りしました。 安全の為です。
午後12時40分頃に、静岡市の業者が、軽トラックで到着。 体格のいい青年二人で、両手に袋を持って、どんどん積んでしまいます。 私も運びましたが、一つずつが限界でした。 話を聞くと、静岡市を中心に、浜松から沼津までをカバーし、しょっちゅう、行き来しているとの事。 手広いですなあ。
「どこを壊したんですか?」と訊かれたので、「庭にある池を、部分的に壊しました」と言ったら、「この暑いのに、大変だったでしょう」と、同情されてしまいました。 向こうも、ブロック塀を壊す仕事を、普段やっているらしく、猛暑の中で、力仕事をするのが、どれだけ大変か、分かる様子。 同病相憐れむ。
料金は、電話で言われた通り、15000円でした。 電話に出たのは、事務的にテキパキ事を進めるタイプの人でしたし、引き取りに来た二人も、いかにも、善良そうな青年達で、後から、追加料金を取りに来るような、あくどい人間には見えなかったので、たぶん、これは、これで終わりになるでしょう。 向こうは、15000円でも、充分、元が取れるのだと思います。
とにかく、池解体計画の、最大の山場だった、瓦礫の処理が終わり、ほっとしました。 瓦礫を運ぶのに、自転車を使わないで済んで、ほんと、良かったです。 荷台の左右に吊り下げるラックを作れば、バランス良く、重量物を運べるかもしれませんが、それなりにお金がかかるわけで、少なくとも、今回の計画で、それを作る気はありませんでした。 だから、私が作った池ではないと言うに。
だけど、まだ、池の方の作業は、完了していません。 解体作業中に、池に溜まる雨水の出口を作る為に、崩したブロックの基礎部分をぶち抜いて、幅3センチほどの溝を掘ったのですが、この溝が浅くて、池の中に水溜りが出来てしまう事が分かったのです。 幅が狭過ぎて、グラインダーが入らないので、鏨とハンマーで、手掘りします。 「手彫り」と書いた方がピッタリ来る、えらい作業でした。 江戸時代以前に、手掘りで、岩山にトンネルを掘った話が、脳裏に何度も浮かびます。 昔の人は、丈夫で、気長だったんですなあ。
溝は深くなり、水捌けは良くなりました。 だけど、まだ終わりません。 池の水を最初に抜いた後、最も低い部分に、穴を開けたという件りを覚えているでしょうか? 今度は、その穴を塞がなければならないのです。 そのままにしておくと、雨が降るたびに、池の下に水が浸み込んで、空洞が出来てしまいます。 穴を塞いだ上に、最も低い部分に、モルタルを盛って、高くし、基礎に開けた溝から、水が出るようにしなければなりません。
おいおい、壊すだけじゃなくて、モルタルまで、塗るのかよ? でも、やらないと、まずいのです。 池は、隣家との境にあり、塀に密接しているので、地下に空洞が出来たら、えらい事になります。 で、ホーム・センターで、インスタント・モルタルを見たら、25キロ袋で、600円。 安い! でも、25キロなんて袋を、どうやって、家まで運べばいいのか分かりません。 そもそも、一人では、持ち上がりませんがな。 もっと、小さい袋もあるのですが、不思議な事に、1キロでも、500円くらいします。 世界で一番愚かな奴が考えても、25キロ袋の方が得。
瓦礫と違って、モルタル袋は平たくなっていますから、自転車の荷台に、載せられない事はないです。 まず、同じくらいの大きさの板を、紐で荷台に括り付けて行き、ホーム・センターで、モルタルを買ったら、店の人に手伝ってもらって、板の上に載せ、その上から、もう一本の紐で縛って、帰って来ればいいわけだ。
「こういう時の為に、荷台拡張用の専用板を作ってもいいなあ」と思いました。 適当に穴を開けて、荷台に、紐か、ボルト・ナットで括り付けられるようにし、板の隅の方にも、ボルト・ナットで下向きに突起を付けて、荷物を縛る時に、紐をかけられるようにするわけです。 ほとんど板の値段なので、千円もあれば作れるでしょう。 だけど、今回、それを作る気はないです。 だから、私が作った池ではないと言うに。
ところが、モルタルを買って来ようと思っていた矢先に、物置の奥で、古いセメントと砂を発見し、結局、そちらで間に合わせる事になりました。 父は、もう、すっかり、老いぼれてしまって、庭で何かを作るような事はないですから、セメントや砂なんか、取っておいても仕方ありません。 使える時に、どんどん、使ってしまわなければ。
モルタルを買うのはやめたんですが、重ね塗りをすると、すぐに剥がれてしまうというので、「モルタル接着強化剤」という薬品を買って来ました。 908円。 下地に、刷毛で塗って、乾かせば、接着効果が高まるという効能です。 結構、高かったのが痛いけれど、すぐに剥がれてしまうよりは、使った方がマシでしょう。
材料の目処だけつけて、日を改め、午前中に準備を整え、午後から、モルタル塗りに取りかかりました。 まず、昼食後すぐに、池の底にモルタル接着強化剤を塗り、充分に乾かして、3時半頃から、セメントと砂を水で混ぜて、モルタルを作りました。 塗り方なんて、知らないので、一番深い所から、テキトーに、ボタボタ落として、全部使ってしまい、後から、鏝で表面を均しました。
≪上≫ 物置にあった、セメントと砂。
≪下左≫ モルタル接着強化剤。
≪下右≫ モルタル施工後。
「よーし、これで、完成だ!」と、達成感に浸ったのも束の間、夕飯の後、見に行ったら、早くも、ひび割れが出来ていました。 所詮、経験値がほとんどない、素人のやる事など、こんなものか。 まあ、そんなに重大な問題ではないです。 雨が、大量に浸み込まなければ、それでいいのですから。 ひびが大きくなるようなら、後で、何かで埋める事にします。
完成したのは、8月1日(土)でした。 金魚が死んだのが、7月20日(月)で、埋葬の直後から、水抜きを始めたので、完成するまでに、13日間。 準備期間を除外して、24日(金)に、解体作業に入ってからでも、9日間。 猛暑の中、激闘したわけですが、一応、目的を達成し、格好がついて、良かったです。 毎日、汗を搾り出したお陰で、体重が2キロ減って、70キロ台になりました。 だけど、すぐに、戻ってしまうだろうなあ。
池解体計画にかかったお金は、瓦礫の引き取り料が、15000円で、一番多かったですが、それは、父持ちなので、私の懐は痛みませんでした。 しかし、グラインダーのオフセット砥石や、ダイヤモンド・カッター、コンクリート・ボンド、土嚢袋、モルタル接着強化剤は、私が自腹で買いました。 合計、3000円くらい。 私の労賃を計算したら、日当たり1万円として、半日仕事が、9日間続いたわけですから、4・5万円貰ってもいいくらいなのに、逆に、3000円の出超です。 私が作った池ではないのに、なんで、こんな目に・・・。 金魚が一匹死んだせいで、途轍もなく大きな波紋が発生したものです。
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