2019/09/29

読書感想文・蔵出し (55)

  読書感想文です。 と言いながら、前文のネタがないので、私の近況を書きますと、例のバイク生活復活計画、とうとう、バイクを買いました。 バイクが届き、登録、保険の手続きを済ませ、最低限の補修をして、初乗りを済ませたところ。 補修は、続行中です。 詳しくは、読書感想文のストックがなくなってから、改めて書きます。




≪金田一耕助の冒険≫

角川文庫
角川書店 1976年9月10日/初版
横溝正史 著

  相互貸借で、取り寄せてもらった本。 磐田市立図書館の蔵書です。 カバー付きですが、破れがあり、かなり、くたびれています。 角川・旧版で、一冊になっているもの。 相互貸借で取り寄せてもらう際、依頼書の備考欄に、「一冊の方」と指定して、こちらにしてもらいました。

  この本が出た後になって、同名の映画が作られ、その時に、二分冊で、再度、発行されました。 角川・旧版の中で、ダブりがあるのは、この作品だけ。 カバーは、一冊本の方は、杉本一文さんの絵。 二分冊の方は、和田誠さんの絵で、映画の内容に合わせたもの。 ただし、映画と、この本の内容は、全く違います。

  11作を収録した、短編集。 1957-58年(昭和32-33年)に、「週刊東京」に、三人の作家が、一作二回のパターンで、断続的に書いたもの。 横溝さんの作品は、全て、「○の中の女」というタイトルで統一したとの事。 この短編集に収録されていない作品もあるそうです。 数が多くて、一作ずつ、感想を書けないので、大雑把な紹介だけ、一言で片付けます。

【霧の中の女】約39ページ
  霧の夜に、宝石店の店員を刺し、宝石を持ち逃げした女の話。

【洞の中の女】約45ページ
  最近、持ち主が変わった家の、庭にある木の洞から、コンクリートに塗り込められた女の死体が出る話。

【鏡の中の女】約49ページ
  酒場で、殺人計画を読唇術で読み取るが、狙っていた方の女が殺される話。

【傘の中の女】約47ページ
  海水浴場で、間違えた同じ柄のパラソルの下で、女が殺される話。

【鞄の中の女】約51ページ
  車のトランクに積まれた石膏像の中から、女の死体が出てくる話。

【夢の中の女】約44ページ
  姉を殺された、夢想癖を持つ妹が、自分も殺されてしまう話。

【泥の中の女】約60ページ
  たまたま寒さを凌ぐ為に入った家で、女の死体を見つける話

【棺の中の女】約32ページ
  壺を持つ女の像が二つあり、その内の一つから、女の死体が出てくる話。

【瞳の中の女】約29ページ
  記憶喪失の男が、女の顔を思い出し、記憶が戻った後、ある屋敷に、調べに行く話。

【檻の中の女】約30ページ
  小船に載せられた檻の中から、毒を盛られた女が発見される話。

【赤の中の女】約34ページ
  海水浴場で再開した男女4人が、それぞれ、腹に一物ある話。

  「こんなんで、分かるか!」と思われるとは思いますが、これ以上詳しく書くとなると、また、一から読み直さなければならないので、勘弁して下さい。 全ての話で、金田一耕助が深く関わり、等々力警部も相伴します。 ただし、「冒険」はしません。 活劇調の話は、皆無です。

  どの作品も、他の長編や中編に使われている、トリックや謎を、流用したようなアイデアで、新鮮さは、ほとんど感じません。 だけど、面白いです。 中島河太郎さんの解説にも書かれていますが、シャーロック・ホームズの短編集と同じような雰囲気で、夜、眠る前に、一作か二作読むのに、ちょうど良いボリュームなのです。

  これは、図書館で借りて来るよりも、買ってしまって、いつでも読めるように、手元に置いておいた方が良さそうです。 二分冊の方が、手に入れ易いですが、杉本一文さんのカバー絵が欲しいのなら、一冊本の方がお薦め。 この小池朝雄さんみたいな顔は、金田一耕助を描いたのだと思いますが、同じ画家が描いた同じ人物の顔なのに、≪扉の影の女≫のカバー絵とは、随分、違いますねえ。



≪毒の矢≫

角川文庫
角川書店 1976年9月10日/初版
横溝正史 著

  相互貸借で、取り寄せてもらった本。 小山町立図書館の蔵書です。 カバー付き。 状態は、非常に良いです。 背表紙に、「閉架」のシールが貼ってあります。 押し並べて、開架と閉架を分けている図書館の本は、状態が良いと思います。 やはり、開架だけだと、借りなくても、手に取る人がいて、そのたびに、本がくたびれて行くのでしょう。 長編1作、中編1作の、計2作を収録。


【毒の矢】 約190ページ
  元は、1956年(昭和31年)1月に、「オール読物」に掲載された中編を、後に書き改めて、3倍くらいの長さにしたもの、との事。

  金田一耕助が住む緑ヶ丘で、「黄金の矢」と名乗る人物から、名士の家庭のいくつかに、密告状が届くようになる。 名前が一文字違いだった事から、他人宛の密告状を受け取ってしまった夫婦が、金田一に捜査を依頼する。 女性の同性愛に関する密告で、該当者が絞られて行くが、やがて、その一人が殺されてしまい、彼女の背中には、13枚のトランプ散らしの刺青があった。 金田一が、所割暑の刑事達と、謎を解いて行く話。

  女性の同性愛というモチーフは、【白と黒】と同じですが、こちらの方が、事件の原因が、同性愛に関る程度が高いです。 いずれにせよ、横溝作品に於いて、同性愛は、モチーフに過ぎず、テーマにまでなる事はありません。 そして、書かれた時代が時代だけに、同性愛を、「良くない事、忌まわしい事」として描いている点、今では通用しなくなっています。

  トリックは、すり替わりもので、横溝作品に馴染んでいる人なら、ある程度、読むと、「ああ、あのパターンか」と、見当がつきます。 登場人物が多くて、恋愛カップルになるのが、何組も出て来るところは、前年に書かれた、【迷路の花嫁】に似ています。 横溝さんは、この頃、こういう大団円型の話に嵌まっていたのかも知れませんな。 読後感が生ぬるくなるから、推理小説としては、感心しませんが。 

  場所に変化が少なく、話の中心部分は、一軒の家の中だけで進行するので、舞台劇のような地味な印象を受けます。 その点、【白と黒】の、場面転換の豊かさには、遠く及びません。 この作品のモチーフだけ活かして、大幅に書き直す形で、【白と黒】が出来たという順になりますが、推理物としては、こちらの方が勝り、読み物としては、【白と黒】が上、という感じでしょうか。 どちらにせよ、ゾクゾクするような話ではないです。


【黒い翼】 約83ページ
  1956年(昭和31年)2月に、「小説春秋」に掲載されたもの。

  【毒の矢】事件が解決した後の緑ヶ丘を中心にして、「黒い翼」という、脅迫を含む、一種の「不幸の手紙」が流行する。 スター映画女優だった、藤田蓉子が毒死した後、その代役を務めた事でスターになった原緋紗子が、黒い翼に翻弄され、彼女が、藤田蓉子の死に関わっているのではないかという疑念が関係者に広がる。 藤田の命日に、黒い翼の手紙を全国から集めて焼くイベントが行なわれ、大いに盛り上がるが、その夜、藤田の命を奪ったのと同じ毒で、また犠牲者が出て・・・、という話。

  以下、ネタバレ、あり。

  時期的に、続けて書かれた作品なので、【毒の矢】と、似たようなモチーフです。 一方は密告状、一方は不幸の手紙ですが、脅迫を含んでいるという点では同じ。 子供がいて、その親は誰か? もしくは、隠し子がいるらしいが、それは誰か? という設定が出て来る点も、よく似ています。

  ストーリー的には、脅迫物ですが、時間的にズレがある二つの脅迫が出て来ます。 最初の脅迫で、被害者が死んでしまった後、その脅迫者を炙り出す為に、別の人物が、別の脅迫を行なうという、複雑な構成。 うまく組み合わされていると思いますが、複雑だから、面白いというわけではないのが、残念なところです。

  トリックがあり、二つの事件共に、毒杯配り物。 何人か集まった席で、飲み物の杯が配られ、その中の一人が死んだ。 さあ、誰が犯人で、いつ、毒を入れたか? というパターンです。 【百日紅の下にて】と同じアイデアが使い回されているのですが、そんなに出来のいいアイデアではありません。 普通、飲み物の中に、髪の毛が浮いていたら、飲む人はいないんじゃないでしょうか。 気づかないという事もないと思います。

  こういう複雑なストーリーを考え付くのは、大変な事だと思いますが、やはり、ゾクゾク感が欠けているせいで、推理小説としては、物足りない感じがしますねえ。 短いので、金田一の活躍場面も少なくて、その点でも、面白さが感じられません。



≪悪魔の設計図≫

角川文庫
角川書店 1976年7月30日/初版
横溝正史 著

  相互貸借で、取り寄せてもらった本。 小山町立図書館の蔵書です。 カバー付きで、状態は非常に良く、背表紙に、「閉架」のシールがあります。 長編1、中編1、短編1の、計3作を収録。


【悪魔の設計図】 約80ページ
  1938年(昭和13年)6・7月に、「富士」に連載されたもの。

  敏腕新聞記者、三津木俊助が、静養先の信州で、旅芝居を見に行ったところ、舞台上で、殺人事件が起こる。 狙われたのは、ある人物の遺産相続人候補で、遺言には、子供達が互いを殺しあうような仕掛けが施されていた。 最初の妻の息子が犯人ではないかと疑われるが、実は・・・、という話。

  由利先生も登場します。 三津木俊助は、単独で出る時には、探偵役を兼ねますが、由利先生と一緒の時には、推理は先生に任せて、自分は、アクション担当に回ります。 良く考えられた役割分担ですが、三津木俊助というキャラを作ってしまったせいで、必ず、活劇場面を入れなければならなくなり、却って、枷になってしまった恨みがなきにしもあらず。

  冒頭の芝居の部分は、戦後に、金田一物として書かれる、【幽霊座】に似ています。 ただし、事件の中身は、全然違っていて、この作品では、芝居の部分は、別に、ストーリー上、絶対に必要というわけではありません。 とにかく、誰かが、命を狙われている事が分かればいいわけだ。

  子供達が互いに殺しあう遺言というのは、これまた、戦後に、金田一物として書かれる、【犬神家の一族】で、再度、使われます。 こちらの設定は、ストーリー上、必要なものですが、【犬神家の一族】のそれと比べると、描き込みが、全然貧弱で、この遺言の恐ろしさを活かしきれていません。 この作品での心残りがあって、練り直して、再使用したんでしょうねえ。

  全体的に見て、さして、面白いという話ではないです。 冒頭の芝居部分だけ、由利・三津木物としては変わっているので、期待が膨らむのですが、東京に戻ってからは、普通の展開になり、普通に終って行きます。 やはり、動機に、狂気が含まれていると、白けた読後感が残りますねえ。 狂っているのでは、何でもアリになってしまいますから。


【石膏美人】 約150ページ
  1936年(昭和11年)5・6月に、「講談倶楽部」に連載されたもの。 掲載時のタイトルは、【妖魂】。

  三津木俊助が乗った車がぶつかったトラックに、俊助の婚約者そっくりの石膏像が載せられていたのを見て、追跡して行くと、婚約者の家の裏にある家に入って行った。 その家の主と、婚約者の父親は、学者同士で、懇意にしていた。 主の息子が殺される事件が起こり、トラックを運転していた男が疑われるが、正体が掴めない。 警察を辞めた後、姿を消していた由利先生が帰って来て、俊助と共に、事件を解決する話。

  以下、ネタバレ、あり。

  この作品が、由利・三津木コンビ・シリーズの、第一作だそうです。 そのせいで、由利先生の経歴が、細かく書かれています。 ただし、分かるのは、経歴と外見だけで、性格は、描かれていません。 それは、由利先生の最終作品まで、一貫しています。 戦前の横溝さんは、「探偵に、人格は不要」と考えていたらしく、わざと、無色透明なキャラにしていたのかも知れませんな。

  三津木俊助の方は、婚約者が出て来たリして、他の作品と毛色が変わっていますが、この婚約は、最終的に、駄目になります。 だから、その後の作品の俊助には、女っ気がない、というか、私生活の匂いが全くしないんですな。 俊助の方も、人格レスで、金田一に比べると、スカスカな感じがします。

  話の方は、由利・三津木物としては、良く出来ている方。 しかし、面白いというところまで行きません。 ある人物の行為が原因で、恨みが発生し、事件が起こるのですが、その、ある人物が、目立たない人なので、終わりの方で、突然、「実は、私が・・・」と告白されると、「えっ! この人が鍵だったの?」と、肩透かしを食わされてしまいます。

  石膏像は出て来ますが、中に死体が入っているわけではないです。 昭二という、耳が聞こえない少年が出て来て、読唇術で、何かを知るというモチーフが使われていて、そこだけ、少し、ゾクゾクしますが、なんと、この少年、何を知ったか喋る前に、殺されてしまいます。 つまらん! 何の為に出て来たのじゃ!


【獣人】 約44ページ
  1956年(昭和10年)9月に、「講談雑誌」に掲載されたもの。

  若い女性のバラバラ死体が発見される。 死体には、棘で刺したような傷が、たくさんついていた。 まだ、警察に入る前の由利麟太郎が、偶然に、事件に関わり、有名な学者の屋敷を調べて、秘密を暴く話。

  こんな梗概では、何も伝わりませんな。 由利先生は、まだ若造で、推理部門の他に、アクション部門も担当し、三津木俊助と大差ないような事をやっています。 鮎川珠枝という、ヒロインが出て来ますが、別に、恋愛関係になるわけではないようです。

  「死の抱擁」という名の鎧が出て来たり、ゴリラが出て来たり、戦後に書かれる、少年向け作品のモチーフが、すでに、使われています。 モチーフが同じという事は、この作品のレベルも、少年向けという事でしょうか。 科学的根拠がない薬品が出て来るのは、推理物としては、失格ですが、その点も、少年向けっぽいですな。



≪青蜥蜴≫

双葉社 1996年7月5日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 こんな本があったとは、知りませんでした。 1996年という事は、横溝作品としては、だいぶ、最近になってから出た本になります。 中編1、短編4、ごく短い随想3の、計8作を収録。 カバー絵は、杉本一文さんのもの。 双葉社の本なのに、角川文庫・旧版を大きくしたような趣きがあります。

  収録作品は、いずれも、1962年から、1966年にかけて、「推理ストーリー」に掲載されたもの。 詳しく調べたわけではありませんが、【百唇譜】と【青蜥蜴】は、この本にしか収録されていないのではないかと思います。 他の作品は、角川文庫・旧版の短編集でも読む事ができます。

  ところで、ふだん、この感想文で、各作品のページ数を、「約○ページ」と書いていますが、なぜ、「約」を付けているかというと、実際のページ数ではなく、目次で、引き算して出している数字だからです。 本によって、1ページ当たりの文字数に違いがあるので、あくまで、目安に過ぎません。 ちなみに、短・中・長編の分類も、短編は、50ページ以下、中編は、51ページ以上、100ページ以下、長編は、101ページ以上という、ざっくりした分け方をしています。


【百唇譜】 約64ページ
  1962年(昭和37年)1月。

  夜、路上駐車された車のトランクから、女の死体が発見される。 それより以前に、女をたらしこんでは、唇の形をとって、コレクションし、かつ、恐喝を働いていた男が殺される事件が起こっていたが、女は、その恐喝対象の一人だったらしい。 女は、自宅で殺されて、運び出される途中、車の故障で放置されたと思われたが、実は・・・、という話。

  原型短編の一つ。 後に、【悪魔の百唇譜】とタイトルを変えて、長編化されます。 冒頭の部分は、ほとんど同じ。 中盤から、エピソードが足されて、複雑な話になって行きますが、それは、【悪魔の百唇譜】の方の話で、こちらは、基本的な謎が解けたところで、スパッと終わるので、先に、【悪魔の百唇譜】を読んでいると、何だか、途中で放り出されたような気分になります。

  プチ・ネタバレさせてしまいますと、両作では、犯人が異なります。 つまりその、推理小説とは、組み合わせのパズルであって、ちょっと組み替えるだけで、犯人を別人にする事もできるという事なんでしょう。 そういう話は、ストーリーの組み立てが緩いわけですが、後から、エピソードを足せるのであれば、どんな作品でも、緩くできると思います。


【猟奇の始末書】 約40ページ
  1962年(昭和37年)8月。

  海岸の別荘の近くにある、岩場の入り江。 そこに、ボートに乗った男女が入り込んでイチャつくのを嫌った洋画家が、洋弓で矢を射掛けて、追い払った。 ところが、その後、その入り江に浮かぶボートの上で、矢が刺さった女の死体が発見される。 洋画家が疑われるが、彼は、岩壁を狙ったと言い、実際、岩壁に矢が当たった痕があった。 別荘に招かれていた、中学時代の後輩に当たる金田一が、謎を解く話。

  舞台や小道具が、長編、【死神の矢】に、少し似ていますが、そちらは、1956年だから、こちらの方が、後になるわけで、原型短編というわけではなさそうです。 長編を、後から、短編化するという事もないでしょう。 また、ダイジェストというには、事件の中身が違い過ぎます。

  【死神の矢】は、ラストが、お涙頂戴で、横溝作品らしくない終わり方でしたが、こちらは、同じ犯人に同情するのでも、かなり、ドライで、読後感は、悪くないです。 とはいえ、本当  に憎い相手を殺さずに、別人を殺して、間接的に陥れるというのは、なんだか、的外れな犯行のような感じがしないでもないですねえ。 弓矢だけに。

  この作品は、角川文庫・旧版の、≪七つの仮面≫に収録されています。


【青蜥蜴】 約50ページ
  1963年(昭和38年)3月。

  都内のホテルや旅館、3軒で、黒づくめの服を着た男が、一緒に入った女の首を絞め、女の胸に青い蜥蜴の絵を描いて姿を消す事件が、連続して起こる。 一人目の女は助かったが、二人目と三人目は、殺された。 金田一耕助が、警察関係者と共に謎を解く話。

  原型短編の一つ。 後に、【夜の黒豹】とタイトルを変えて、長編化されます。 金田一は、どちらにも出ていて、役所は、あまり変わりません。 【青蜥蜴】に、エピソードを書き足して、【夜の黒豹】にしたという格好。 先に【夜の黒豹】を読んでいると、この作品が、何となく、手抜きに感じられますが、夜、眠る前に、一作読むというのなら、断然、こちらの方が、適当です。


【猫館】 約40ページ
  1963年(昭和38年)8月。

  猫をたくさん飼っている占い師の女が、自宅で殺されるが、なぜか、上半身が裸だった。 一方、近くの寺の落ち葉溜めで、占い師の弟子の女の死体が、スカートなしの姿で発見される。 その家は、かつて、いかがわしい写真家の館で、その男は、恐喝を裏の仕事にしていた。 金田一が、現場にもう一人、女がいたのではないかと推理し、謎を解く話。

  以下、ネタバレ、あり。

  占い師の一家、寺の坊さん、幼稚園の先生、写真家、近所の画家と、この短いページ数にしては、関わって来る人物が多すぎて、ちと、ごちゃごちゃしています。 恐喝されていた事が、犯行の動機なわけですが、そのせいで、昔話まで用意しなければならなくなっており、もっと、シンプルな別の動機にした方が、すっきりしたと思います。 ちなみに、タイトルは、「猫館」ですが、猫は、死体発見のきっかけになるだけで、それ以上の役はないです。

  トリックはあるものの、ささやかなもので、読者が頭を悩ますようなものではないです。 謎は、他の作品でも読んだ事があるようなもの。 このページ数で、フー・ダニットは無理があり、犯人が女だと分かった時点で、消去法で、誰か分かります。 まあ、そういう話なんだから、別に、欠点ではありませんが。

  この作品は、角川文庫・旧版の、≪七つの仮面≫に収録されています。


【蝙蝠男】 約44ページ
  1964年(昭和39年)5月。

  ある夜、受験勉強中だった女子高生が、自室の窓から、向かいのアパートの窓に映った影で、女が殺されるのを目撃する。 やがて、そのアパートの住人の女が、勤め先のナイト・クラブの楽屋で、トランクの中から発見される。 女子高生の証言を受け、金田一が、窓の影の謎を解く話。

  60年代半ばは、大学受験をする女子が増えて来ていた頃だったんでしょうねえ。 窓の影を目撃するのは、別に、誰でもいいわけですが、わざわざ、女子高生にしたというのが、面白いです。 横溝作品では、ちょこちょこと、少女趣味が挟まりますな。 もっとも、横溝さんが描く少女は、媚びたところがなく、ドライで、リアルですけど。 娘さんがいたから、現物を観察していたのかもしれません。

  トリックが、謎になっています。 しかし、これは、読みながら推理できるものではなく、ラストの謎解きを読んで、「ああ、そういう事だったのか」と分かるだけです。 それでも、結構、面白いのだから、推理小説の勘所が、必ずしも、「推理しながら読める」点にあるわけではないという事が分かります。

  この作品は、角川文庫・旧版の、≪七つの仮面≫に収録されています。


【歩き、歩き、かつ歩く】 約4ページ
  1964年(昭和39年)9月。

  編集者から逃れる為に、散歩ばかりするようになった事を書いた、随筆。 最後に、オチがついています。


【桜の正月】 約4ページ
  1965年(昭和40年)2月。

  岡山県の桜に疎開していた頃に、兎を飼っていて、その肉を正月に食べたという思い出話。


【ノンキな話】 約6ページ
  1966年(昭和41年)6月。

  時折、懸賞小説に応募する程度の文学青年だった横溝さんが、江戸川乱歩さんのスカウトによって、東京に引っ張り出され、なし崩しに、編集者にされ、更には、作家になってしまった、大雑把な経緯を記したもの。 最後に、オチがついていますが、それは、どうも、創作っぽいです。


  随想3作は、≪金田一耕助のモノローグ≫か何かで、似たような内容の文章を読んだような気がします。 いずれも借りて来た本で、手元にないので、確認できませんけど。




  以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2019年の、

≪金田一耕助の冒険≫が、5月15日から、17日にかけて。
≪毒の矢≫が、5月18日から、21日まで。
≪悪魔の設計図≫が、5月22日から、26日。
≪青蜥蜴≫が、5月29日から、5月31日にかけて。

   いやはや、今回は、短編集ばかり集まってしまいましたな。 短編集の感想文は、一作ごとに、作品データ、梗概、感想を書かねばならず、大変、きついです。 以前、このブログで、感想文の書き方を、ざっと伝授した事がありましたが、その時に、作品データの事も書きましたかね?

  もし、10年以上前に書かれた作品であれば、発表年や、発表誌など、データも書いておけば、そちらから、その作品が書かれた社会的背景や、対象読者層などの方面に、話を膨らませる事ができます。 小学校の時に、そういう技を知っていたら、あんなに頭を悩ませて、原稿用紙と睨めっこしなくても済んだんですがねえ。

  どんなつまらん本でも、今書けば、400字の原稿用紙、5枚10枚くらい、すぐに埋まってしまいますな。 教師から、「おまえは、紙を使い過ぎるから、3枚以上、書くな」とか言われてしまうかも。 もっとも、作品データ、梗概、感想というパターンを使っていたのでは、機械的過ぎて、誉められはしないでしょうねえ。