読書感想文・蔵出し (56)
読書感想文です。 前回に引き続き、前文に書く事がないので、私の近況を書きますと、ヤフオクで買ったバイクの補修を続けています。 中古ですから、承知してはいたものの、新車ならありえない問題点が続々と見つかり、「なるほど、これでは、前の持ち主が手放したのも、出品者のバイク店が、ノークレーム・ノーリターンを断っているのも、むべなるかな」と、つくづく納得した次第。 まあ、直して、乗りますけどね。
≪赤い水泳着≫
横溝正史探偵小説コレクション①
出版芸術社 2004年9月15日/初版
横溝正史 著
沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 横溝さんの、投稿時代から、戦中までの作品、14作を収録。 一応、ページ数を書きますが、二段組なので、そのつもりで。 【悲しき郵便屋】は、角川文庫版、≪恐ろしき四月馬鹿≫で、【薔薇王】は、同、≪悪魔の家≫で、感想を書いているので、省きます。
以下、ネタバレ、あり。 数が多いので、いちいち、気にしてられません。 大丈夫。 ショートショートではなく、短編ですから、ネタバレしても、大した問題はありません。 面白いものは面白いし、つまらないものはつまらないです。 発表年と掲載雑誌のデータは、ややこしくなるので、割愛。
【一個のナイフより】 約7ページ
手に入れた、一本のナイフの様子から、その持ち主を推理する話。
ホームズがよくやる、観察と分析で、相手の素性を言い当てる、あれですな。 元を辿れば、デュパンの特技ですが。 推理は当たっていたが、犯人ではなかったという、毒気の薄い話になっています。
【紫の道化師】 約21ページ
スリが、すろうとした相手に捕まり、ある屋敷に連れて行かれて、命令のような言葉を羅列した文章を読まされる。 その翌日、検事の屋敷で、その息子が殺される。 数年前に姿を消した凶賊、「紫の道化師」が、犯人かと思われたが、実は・・・、という話。
草双紙趣味の活劇です。 なので、面白いといっても、知れています。 催眠術と、マイク、スピーカーを使い、遠隔殺人を行なわせるというのは、戦後の少年向け作品で再利用されています。 電気仕掛けは、当時としては、最先端のトリックだったのでしょう。
【乗合自動車の客】 約11ページ
終列車を逃した客が利用するバスで、たまたま乗り合わせた男に、一ヵ月前に手術した腕の傷痕を見せてくれと言われた人物が、しぶしぶ、見せようとすると、突然、相手の男が、刑事に逮捕されてしまい・・・、という話。
ほんの短い話なりに、内容が希薄。 そもそも、不思議なところも、奇妙なところもないのだから、面白がりようがありません。
【赤い水泳着】 約15ページ
海辺のホテルで、風景画を描いていた女性が、遠くに干してあった赤い水泳着から、赤い液体が垂れているのを見て、犯罪が行なわれた事に気づく話。
表題作ですが、全然、大した事はありません。 この作品、戦後になって、【赤の中の女】という、金田一物の短編に書き改められますが、さすがに、「赤い水着なので、付着した血が分からなかった」という謎は、子供騙しっぽいと思ったのか、謎の部分は、他の物に入れ替えられています。
【死屍を喰う虫】 約17ページ
丘の上にある、三軒の家。 一軒の主が、掘っている途中の井戸に落ちて死に、事故死として処理されたのを、その息子が、罠を仕掛けて、犯人を炙り出す話。
登場人物が少ないので、犯人はすぐに分かります。 この作品の読ませ所は、犯人を炙り出す方法と、井戸にどうやって落としたか、その謎なのですが、どちらも、至って他愛ないもので、一見面白そうに感じられる舞台設定の細かさと、吊り合っていません。
角川文庫版、≪恐ろしき四月馬鹿≫収録の【丘の三軒家】が原型になったらしいです。 梗概と感想は同じなので、そちらから、移植しました。
【髑髏鬼】 約24ページ
髑髏のような顔をした人物が、夜な夜な目撃され、騒ぎになっている界隈。 資産家の屋敷で、その家の令嬢が、秘密を握る男に脅され、結婚を迫られていた。 それ以前に、その屋敷で養われていた兄妹の内、兄の方が行方不明になっていて・・・、という話。
髑髏男が不気味なだけで、別に、面白いところはありません。
【迷路の三人】 約23ページ
ある夜、廃墟の迷路へ、肝試しに行った三人連れの内、一人が殺される。 たまたま、近くにいた由利先生が、ショールに付いた燐から、犯人を特定する話。
これは、外国作品の翻案らしいです。 由利先生を引っ張り出すほどのボリュームではないです。 好ましい性格の人物が殺されてしまうので、何となく、読後感が悪いです。
【ある戦死】 約14ページ
新聞を読んでいて、かつて、友人の妻を奪って逃げた男が戦死した事を知った主人公が、病身の友人から、雑誌に出ていた映画女優のしている指輪の出所を調べてくれるように頼まれる。 その指輪は、友人が妻に贈った物だった。 ある青年が指輪を手に入れた経緯を語り、真相が明らかになる話。
面白いです。 この短編集の中だけでなく、私が今までに読んだ横溝さんの短編の中で、最も面白かったです。 書き方が巧みで、事件の様子が、少しずつ分かって来るところが、秀逸。
【盲人の手】 約12ページ
本州で食い詰めて、北海道へ流れて行く船の中で、小金を持っている老人に誘われ、妻になった女が、老人が変死した後、一人で、本州へ戻る船に乗るが、その船には、老人が飼っていた犬も乗っていて・・・、という話。
作品よりも、この梗概の方が面白そうだな。 一見、社会派風ですが、シンプルなストーリーに、それっぽく肉付けしただけです。 ラストは、なぜ、そうなるのか、よく理解できません。
【木馬に乗る令嬢】 約14ページ
毎日、アメリカ人女性と、回転木馬に乗りに行く令嬢が、実は、スパイの手伝いをさせられていた、という話。
回転木馬の、様々な色の木馬に乗り移る事で、暗号を伝えていたというトリック。 横溝さんが書きたかったのは、トリックの方で、スパイの暗号にしたのは、戦時下に、戦争協力しているように装わないと、作品が検閲で落とされる恐れがあったからだと思います。
【八百八十番目の護謨の木】 約ページ
ある殺人事件で残された、「○谷」というダイイング・メッセージが、「大谷」ではなく、ボルネオ島のゴム農園にある、「○八八○」番の木の事ではないかと気づいて、わざわざ、ボルネオまで訪ねて行く話。
これも、戦時下シフトの作品。 謎が、子供騙し過ぎます。 これなら、【木馬に乗る令嬢】の方が、よく出来ていました。
【二千六百万年】 約17ページ
遠い未来に、人類社会がどうなっているかを、睡眠によって、時を超え、見に行く話。
もろ、SF。 自力で空を飛べる未来人類が出て来ますが、背中に翼を付けるのではなく、蝙蝠に近い皮膜にしてあるのは、さすが、理系の作者だと思わせます。 全体のアイデアは、ユートピア小説というより、ウェルズの、≪タイムマシン≫が元になっているのではないでしょうか。
実は、これも、戦時下シフト作品で、どうせ、探偵小説が検閲で落とされるのなら、SFにしてしまえという、開き直りで書いたもののようです。 そんなに面白いものではないです。 ちなみに、横溝さんのSF趣味は、戦後の少年向け作品で、いくらも見る事ができます。
≪深夜の魔術師≫
横溝正史探偵小説コレクション②
出版芸術社 2004年10月20日/初版
横溝正史 著
沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 戦中期の作品、11作を収録。 表題作の、【深夜の魔術師】だけ、中編。 他は、短編。 2段組みです。
【深夜の魔術師】 約82ページ
1938年(昭和13年)8月から、1939年1月まで、「新少年」に連載されたもの。
無音航空機の設計図を狙って、「深夜の魔術師」と名乗る怪人が凶行を繰り返し、由利・三津木コンビが、翻弄される話。
活劇で、戦前の、大人向けの由利・三津木物と、戦後の少年向け作品を足して、2で割ったような内容です。 地下通路で水攻めとか、川の上の追撃戦とか、お決まりのパターンも含まれています。 軍事技術がモチーフになっている点や、犯人の国籍など、いかにも、戦時下シフトという感じの設定。
【広東の鸚鵡】
【三代の桜】
【御朱印地図】
【沙漠の呼声】
【焔の漂流船】
【慰問文】
【神兵東より来る】
【玄米食婦人】
【大鵬丸消息なし】
【亜細亜の日月】
タイトルを見ても分かると思いますが、この10作は、戦時下シフトを通り越して、国策賛美小説として、書かれたもの。 国策を皮肉ったようなところはなく、純然たるプロパガンダです。 解説によると、国策協力の作品を載せないと、雑誌を発行できなくなってしまっていたようです。
横溝さんは、戦争は虫唾が走るほど嫌いで、とりわけ、探偵小説を発表できない状況に追い込まれた事で、軍部に対する恨みには、ドス黒いほどのものがあり、こんな小説を好んで書くわけがないのですが、出版社の都合とか、家族を養う為に致し方なくとか、そういった理由で書いたのではないかと思います。
戦争嫌いの横溝さんですら、こういう作品を書かざるを得なかったのですから、他の作家は、どんなものを書いていたのか、想像するのも恐ろしい。 言うまでもなく、自ら進んで、戦争賛美をやっていた作家は、敗戦と同時に息の根を止められて、廃業。 今では、古書を漁らない限り、その作品を読む事はできなくなっています。 戦後から見ると、嘘や妄想を事実のように書いたものばかりなので、研究者以外は、価値を認めないでしょう。
横溝さんの作品に話を戻しますが、「横溝さんの作品だから、プロパガンダでも、読む価値がある」という事はないです。 国策賛美小説である事が前面に出ていて、そこだけ外して、他の部分を楽しむという事はできません。 プロパガンダの浸潤が甚だし過ぎるのです。 ちなみに、活劇部分はありますが、トリックは見られず、謎も希薄です。
角川文庫・旧版は、批評家の中島河太郎さんが、全作網羅を目指していたとの事ですが、こういう国策賛美作品は、入っていません。 中島さんが、これらの作品の存在を知らなかったとは思えませんから、意識して外したのでしょう。 おそらく、これらの作品は、横溝さんが、最も、後世に残したくなかったものなのではないかと思います。 もし、ご本人が存命だったら、この本の出版を許さなかったんじゃないでしょうか。
≪扉の影の女≫
角川文庫
角川書店 1975年10月30日/初版
横溝正史 著
私の手持ちの本。 1995年9月頃に、沼津・三島の古本屋を回って、横溝正史作品を買い漁った内の一冊です。 長編2作が、収録されていて、どちらも、この24年の間に、何回か読み返しています。 にも拘らず、話の内容をすっかり忘れてしまうのは、不思議です。 逆に考えると、忘れ易い話だからこそ、何度も読み返したくなるのかも知れません。
【扉の影の女】 約248ページ
1961年(昭和36年)1月に刊行。 元は、短編だったのを、長編化したもの。
築地入船橋下で水死体となって発見されたホステスが、実は、西銀座の袋小路にある稲荷神社の境内で殺されていた事が分かる。 犯人らしき人影を目撃してしまったという、別のホステスの依頼で、事件に関った金田一が、すぐ近くにあるレストランの店員や客、依頼人の色であるボクサー、事件現場にいた車の持ち主など、多過ぎる関係者を相手に、警察とは適度な距離を置きつつ、多門修を使って、捜査を進める話。
これ、ほんとに、何度も読んでいます。 レストランの裏口のドアが、タイトルにある「扉」でして、その辺が細かく書き込まれているので、ビジュアル的に、頭に焼き付いているのだと思います。 だけど、犯人は誰か、謎は何だったか、その辺のところは、何度読んでも、すぐに忘れてしまいます。
短編だったものを、長編化した横溝作品に、共通していますが、後から、エピソードを足しているせいか、二つの話がダブっているような感じがします。 絡め合わせ、結び付けてあるんですが、紐帯が弱く、最初から長編として考案した作品と比べると、分裂感を覚えるのです。 それが複雑な印象を与えるのだと思うのですが、面白さに繋がっていない複雑さは、美点とは言えません。
これまた、短編を長編化した横溝作品によく見られる事ですが、会話が多くなるのも、弱点になります。 聞き取りの会話場面というのは、長引くと、読むのがつらくなって来ます。 この作品では、ボクサーの青年と、多門修が、若者言葉で喋るのですが、それが、また、口語丸出しで、長ったらしいので、しんどい。
だけど、この作品、内容的には、メジャー長編に負けないものがあると思います。 都会を舞台にした金田一物の代表作と言ってもいいのでは? 出来は、【夜の黒豹】よりも、上なんじゃないでしょうか。
【鏡が浦の殺人】 約101ページ
1957年(昭和32年)8月に、「オール読物」に掲載されたもの。
鏡が浦の海水浴場。 読唇術を会得している大学教授が、海に浮かぶヨットを双眼鏡で見ていて、乗っている二人が、殺人計画について話しているのを、読み取ってしまう。 その翌日に開催された、ミス・カガミガウラ・コンクールの会場で、教授が死亡し、当初、心臓発作かと思われたが、ある人物の強い要請で、高名な法医学者が呼ばれ、検死がやり直された結果、毒殺と分かり・・・、という話。
休暇で滞在していた金田一と、招待された等々力警部が出てきます。 海辺を舞台にした話として、【赤の中の女】や、【死神の矢】がありますが、舞台設定は、みな、よく似ています。 トリックや謎は、違いますけど。 等々力警部は、いつも、金田一に誘われて、遊びにやって来ては、事件が起こってしまい、地元署の捜査に引きずり込まれるというパターン。 でも、警部は何もせず、全て、金田一が片付けます。
トリックは、子供騙しレベルですが、それが話の中心ではないので、問題ありません。 むしろ、分裂感の方が、問題です。 事件が起こった後に、犯人候補の面々が集まって来るので、何となく、後出しをされたような気分になります。 しかし、それは、錯覚で、事件が起こる前に、リップ・リーディングの場面が一山あるせいで、推理小説の定番ストーリー・パターンが崩されているだけなんですな。
リップ・リーディングが、メインのモチーフで、初めて、読んだ時には、ゾクゾクしました。 大学教授の他に、もう一人、それを会得している子供が出て来て、後半で、一場面、盛り上げますが、そちらは、オマケのようなもので、その子供のお陰で、事件が解決するわけではありません。
終わりの方、お涙頂戴に流れそうになる当たり、【死神の矢】に少し似ていますが、【死神の矢】ほど、不自然ではないです。 やっぱり、犯人は悪党でなければ、いけませんねえ。 その点、まともな話です。
≪聖女の首≫
横溝正史探偵小説コレクション③
出版芸術社 2004年11月20日/初版
横溝正史 著
沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 戦中期から、戦後間もない頃までの短編・中編、11作を収録。 2段組みです。
【金襴護符】 約24ページ
1943年(昭和18年)5月、「新青年」に掲載されたもの。
慰問袋に入れられていたお守りに隠された、家宝の地図を巡って、滑稽な奪い合いが演じられる話。
戦時下作品にしては、オチのある喜劇で、まともな作品です。 しかし、最終的には、「欲しがりません、勝つまでは」という国の宣伝を援ける内容になっており、苦しさは隠せません。
【海の一族】
【ナミ子さん一家】
【剣の系図】
【竹槍】
この4作は、国策賛美小説として書かれ、いずれも、「新青年」に掲載されたもの。 検閲を突破する為に、いろいろと工夫を凝らしたのは分かりますが、戦争協力してしまっている事に変わりはなく、評価のしようがありません。 これらも、横溝さんは、後世に残したくなかったでしょうねえ。 この本を出版した人達は、あの世で、横溝さんに、口も利いてもらえないと思います。
【聖女の首】 約24ページ
1948年(昭和23年)2月、「東京」に掲載されたもの。
実家の牧場が傾いて、東京の喫茶店で働いていた美しい娘が、彫刻家のモデルになって、胸像を作ってもらった後、三人の男から求婚されるが、ある時を境に、三人から一遍に、フラれてしまう。 実は彫刻家は、他にも、娘をモデルに、様々な表情の胸像を作っていて・・・という話。
後に、金田一物に書き改められて、【七つの仮面】になります。 そちらの方が、長いです。 こちらは、原型短編という事になりますが、先に、【七つの仮面】を読んでいると、エピソードが少ないせいで、ちょっと、物足りなく感じます。 アイデアは、面白いです。
【車井戸は何故軋る】 約51ページ
1949年(昭和24年)1月、「読物春秋」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、【車井戸はなぜ軋る】になります。 ≪本陣殺人事件≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
【悪霊】 約27ページ
1949年(昭和24年)2月、「キング・夏の増刊」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、【首】になります。 ≪首≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
【人面瘡】 約32ページ
1949年(昭和24年)12月、「講談倶楽部」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、同題異作の、【人面瘡】になります。 ≪人面瘡≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
【肖像画】 約16ページ
1952年(昭和27年)7月、「りべらる・増刊」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、【ペルシャ猫を抱く女】になります。 ≪ペルシャ猫を抱く女≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
以上、原型短編の5作ですが、長さが異なる【聖女の首 → 七つの仮面】は別として、【車井戸は何故軋る → 車井戸はなぜ軋る】、【悪霊 → 首】、【人面瘡 → 人面瘡】、【肖像画 → ペルシャ猫を抱く女】は、改作後も、内容は、ほとんど同じです。 無理やり、登場人物の一人を、金田一に差し替えたもので、改作後の方が、むしろ、出来が悪いです。 金田一物に書き換えざるを得ない理由が、何かあったんでしょうねえ。
【黄金の花びら】 約18ページ
1953年(昭和28年)1月、「少年クラブ・増刊」に掲載されたもの。
以下、ネタバレ、あり。
仏像蒐集家の屋敷に泥棒が入り、射撃がうまい少年が、2階から威嚇射撃したところ、犯人の背中にあたり、殺してしまった。 屋敷にいた自称・小説家の男が、実験を行なって、銃弾の角度から、少年が撃った弾が殺したわけではない事を証明する話。
少年向けの作品。 金田一が出て来ますが、最後まで、名前と職業を詐称しているので、読んでいる間は分かりません。 服装は、金田一そのものなんですが、それだけでは、確信が持てないので・・・。
死体に撃ち込まれた弾丸の角度が、60度で、直立した人形で実験したら、同じ60度だったから、「それ見た事か、少年が撃った弾だ」と言うのを、自称・小説家が、「逃げる時には、前傾姿勢になるから、60度では、おかしい」と指摘するのですが、それも、おかしな話です。 走っている土地が下り坂になっているのなら、前傾姿勢で走ったら、怖いでしょうに。 下り坂では、体を起こし気味で走る事になるから、直立姿勢に近くなるんじゃないでしょうか。
そういう事は、承知の上で、少年向けだから、シンプルな話にしたのだと思いますが、ちょっと、安直過ぎる感じがしないではないですねえ。
以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2019年の、
≪赤い水泳着≫が、5月31日から、6月6日にかけて。
≪深夜の魔術師≫が、6月6日から、9日まで。
≪扉の影の女≫が、4月28日から、6月12日。
≪聖女の首≫が、6月12日から、13日にかけて。
≪扉の影の女≫は、図書館で借りてきた本の合間に、ちょこちょこと読んでいたので、期間が長くなっています。 すでに、何度か読んでいる作品の読み返しだから、一気に読んでしまおうという気にならないのです。
日記ブログの方にアップした、読書感想文に追いついてしまったので、とりあえず、このシリーズは、今回まで。 次回からは、バイク生活復活計画の話になります。
≪赤い水泳着≫
横溝正史探偵小説コレクション①
出版芸術社 2004年9月15日/初版
横溝正史 著
沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 横溝さんの、投稿時代から、戦中までの作品、14作を収録。 一応、ページ数を書きますが、二段組なので、そのつもりで。 【悲しき郵便屋】は、角川文庫版、≪恐ろしき四月馬鹿≫で、【薔薇王】は、同、≪悪魔の家≫で、感想を書いているので、省きます。
以下、ネタバレ、あり。 数が多いので、いちいち、気にしてられません。 大丈夫。 ショートショートではなく、短編ですから、ネタバレしても、大した問題はありません。 面白いものは面白いし、つまらないものはつまらないです。 発表年と掲載雑誌のデータは、ややこしくなるので、割愛。
【一個のナイフより】 約7ページ
手に入れた、一本のナイフの様子から、その持ち主を推理する話。
ホームズがよくやる、観察と分析で、相手の素性を言い当てる、あれですな。 元を辿れば、デュパンの特技ですが。 推理は当たっていたが、犯人ではなかったという、毒気の薄い話になっています。
【紫の道化師】 約21ページ
スリが、すろうとした相手に捕まり、ある屋敷に連れて行かれて、命令のような言葉を羅列した文章を読まされる。 その翌日、検事の屋敷で、その息子が殺される。 数年前に姿を消した凶賊、「紫の道化師」が、犯人かと思われたが、実は・・・、という話。
草双紙趣味の活劇です。 なので、面白いといっても、知れています。 催眠術と、マイク、スピーカーを使い、遠隔殺人を行なわせるというのは、戦後の少年向け作品で再利用されています。 電気仕掛けは、当時としては、最先端のトリックだったのでしょう。
【乗合自動車の客】 約11ページ
終列車を逃した客が利用するバスで、たまたま乗り合わせた男に、一ヵ月前に手術した腕の傷痕を見せてくれと言われた人物が、しぶしぶ、見せようとすると、突然、相手の男が、刑事に逮捕されてしまい・・・、という話。
ほんの短い話なりに、内容が希薄。 そもそも、不思議なところも、奇妙なところもないのだから、面白がりようがありません。
【赤い水泳着】 約15ページ
海辺のホテルで、風景画を描いていた女性が、遠くに干してあった赤い水泳着から、赤い液体が垂れているのを見て、犯罪が行なわれた事に気づく話。
表題作ですが、全然、大した事はありません。 この作品、戦後になって、【赤の中の女】という、金田一物の短編に書き改められますが、さすがに、「赤い水着なので、付着した血が分からなかった」という謎は、子供騙しっぽいと思ったのか、謎の部分は、他の物に入れ替えられています。
【死屍を喰う虫】 約17ページ
丘の上にある、三軒の家。 一軒の主が、掘っている途中の井戸に落ちて死に、事故死として処理されたのを、その息子が、罠を仕掛けて、犯人を炙り出す話。
登場人物が少ないので、犯人はすぐに分かります。 この作品の読ませ所は、犯人を炙り出す方法と、井戸にどうやって落としたか、その謎なのですが、どちらも、至って他愛ないもので、一見面白そうに感じられる舞台設定の細かさと、吊り合っていません。
角川文庫版、≪恐ろしき四月馬鹿≫収録の【丘の三軒家】が原型になったらしいです。 梗概と感想は同じなので、そちらから、移植しました。
【髑髏鬼】 約24ページ
髑髏のような顔をした人物が、夜な夜な目撃され、騒ぎになっている界隈。 資産家の屋敷で、その家の令嬢が、秘密を握る男に脅され、結婚を迫られていた。 それ以前に、その屋敷で養われていた兄妹の内、兄の方が行方不明になっていて・・・、という話。
髑髏男が不気味なだけで、別に、面白いところはありません。
【迷路の三人】 約23ページ
ある夜、廃墟の迷路へ、肝試しに行った三人連れの内、一人が殺される。 たまたま、近くにいた由利先生が、ショールに付いた燐から、犯人を特定する話。
これは、外国作品の翻案らしいです。 由利先生を引っ張り出すほどのボリュームではないです。 好ましい性格の人物が殺されてしまうので、何となく、読後感が悪いです。
【ある戦死】 約14ページ
新聞を読んでいて、かつて、友人の妻を奪って逃げた男が戦死した事を知った主人公が、病身の友人から、雑誌に出ていた映画女優のしている指輪の出所を調べてくれるように頼まれる。 その指輪は、友人が妻に贈った物だった。 ある青年が指輪を手に入れた経緯を語り、真相が明らかになる話。
面白いです。 この短編集の中だけでなく、私が今までに読んだ横溝さんの短編の中で、最も面白かったです。 書き方が巧みで、事件の様子が、少しずつ分かって来るところが、秀逸。
【盲人の手】 約12ページ
本州で食い詰めて、北海道へ流れて行く船の中で、小金を持っている老人に誘われ、妻になった女が、老人が変死した後、一人で、本州へ戻る船に乗るが、その船には、老人が飼っていた犬も乗っていて・・・、という話。
作品よりも、この梗概の方が面白そうだな。 一見、社会派風ですが、シンプルなストーリーに、それっぽく肉付けしただけです。 ラストは、なぜ、そうなるのか、よく理解できません。
【木馬に乗る令嬢】 約14ページ
毎日、アメリカ人女性と、回転木馬に乗りに行く令嬢が、実は、スパイの手伝いをさせられていた、という話。
回転木馬の、様々な色の木馬に乗り移る事で、暗号を伝えていたというトリック。 横溝さんが書きたかったのは、トリックの方で、スパイの暗号にしたのは、戦時下に、戦争協力しているように装わないと、作品が検閲で落とされる恐れがあったからだと思います。
【八百八十番目の護謨の木】 約ページ
ある殺人事件で残された、「○谷」というダイイング・メッセージが、「大谷」ではなく、ボルネオ島のゴム農園にある、「○八八○」番の木の事ではないかと気づいて、わざわざ、ボルネオまで訪ねて行く話。
これも、戦時下シフトの作品。 謎が、子供騙し過ぎます。 これなら、【木馬に乗る令嬢】の方が、よく出来ていました。
【二千六百万年】 約17ページ
遠い未来に、人類社会がどうなっているかを、睡眠によって、時を超え、見に行く話。
もろ、SF。 自力で空を飛べる未来人類が出て来ますが、背中に翼を付けるのではなく、蝙蝠に近い皮膜にしてあるのは、さすが、理系の作者だと思わせます。 全体のアイデアは、ユートピア小説というより、ウェルズの、≪タイムマシン≫が元になっているのではないでしょうか。
実は、これも、戦時下シフト作品で、どうせ、探偵小説が検閲で落とされるのなら、SFにしてしまえという、開き直りで書いたもののようです。 そんなに面白いものではないです。 ちなみに、横溝さんのSF趣味は、戦後の少年向け作品で、いくらも見る事ができます。
≪深夜の魔術師≫
横溝正史探偵小説コレクション②
出版芸術社 2004年10月20日/初版
横溝正史 著
沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 戦中期の作品、11作を収録。 表題作の、【深夜の魔術師】だけ、中編。 他は、短編。 2段組みです。
【深夜の魔術師】 約82ページ
1938年(昭和13年)8月から、1939年1月まで、「新少年」に連載されたもの。
無音航空機の設計図を狙って、「深夜の魔術師」と名乗る怪人が凶行を繰り返し、由利・三津木コンビが、翻弄される話。
活劇で、戦前の、大人向けの由利・三津木物と、戦後の少年向け作品を足して、2で割ったような内容です。 地下通路で水攻めとか、川の上の追撃戦とか、お決まりのパターンも含まれています。 軍事技術がモチーフになっている点や、犯人の国籍など、いかにも、戦時下シフトという感じの設定。
【広東の鸚鵡】
【三代の桜】
【御朱印地図】
【沙漠の呼声】
【焔の漂流船】
【慰問文】
【神兵東より来る】
【玄米食婦人】
【大鵬丸消息なし】
【亜細亜の日月】
タイトルを見ても分かると思いますが、この10作は、戦時下シフトを通り越して、国策賛美小説として、書かれたもの。 国策を皮肉ったようなところはなく、純然たるプロパガンダです。 解説によると、国策協力の作品を載せないと、雑誌を発行できなくなってしまっていたようです。
横溝さんは、戦争は虫唾が走るほど嫌いで、とりわけ、探偵小説を発表できない状況に追い込まれた事で、軍部に対する恨みには、ドス黒いほどのものがあり、こんな小説を好んで書くわけがないのですが、出版社の都合とか、家族を養う為に致し方なくとか、そういった理由で書いたのではないかと思います。
戦争嫌いの横溝さんですら、こういう作品を書かざるを得なかったのですから、他の作家は、どんなものを書いていたのか、想像するのも恐ろしい。 言うまでもなく、自ら進んで、戦争賛美をやっていた作家は、敗戦と同時に息の根を止められて、廃業。 今では、古書を漁らない限り、その作品を読む事はできなくなっています。 戦後から見ると、嘘や妄想を事実のように書いたものばかりなので、研究者以外は、価値を認めないでしょう。
横溝さんの作品に話を戻しますが、「横溝さんの作品だから、プロパガンダでも、読む価値がある」という事はないです。 国策賛美小説である事が前面に出ていて、そこだけ外して、他の部分を楽しむという事はできません。 プロパガンダの浸潤が甚だし過ぎるのです。 ちなみに、活劇部分はありますが、トリックは見られず、謎も希薄です。
角川文庫・旧版は、批評家の中島河太郎さんが、全作網羅を目指していたとの事ですが、こういう国策賛美作品は、入っていません。 中島さんが、これらの作品の存在を知らなかったとは思えませんから、意識して外したのでしょう。 おそらく、これらの作品は、横溝さんが、最も、後世に残したくなかったものなのではないかと思います。 もし、ご本人が存命だったら、この本の出版を許さなかったんじゃないでしょうか。
≪扉の影の女≫
角川文庫
角川書店 1975年10月30日/初版
横溝正史 著
私の手持ちの本。 1995年9月頃に、沼津・三島の古本屋を回って、横溝正史作品を買い漁った内の一冊です。 長編2作が、収録されていて、どちらも、この24年の間に、何回か読み返しています。 にも拘らず、話の内容をすっかり忘れてしまうのは、不思議です。 逆に考えると、忘れ易い話だからこそ、何度も読み返したくなるのかも知れません。
【扉の影の女】 約248ページ
1961年(昭和36年)1月に刊行。 元は、短編だったのを、長編化したもの。
築地入船橋下で水死体となって発見されたホステスが、実は、西銀座の袋小路にある稲荷神社の境内で殺されていた事が分かる。 犯人らしき人影を目撃してしまったという、別のホステスの依頼で、事件に関った金田一が、すぐ近くにあるレストランの店員や客、依頼人の色であるボクサー、事件現場にいた車の持ち主など、多過ぎる関係者を相手に、警察とは適度な距離を置きつつ、多門修を使って、捜査を進める話。
これ、ほんとに、何度も読んでいます。 レストランの裏口のドアが、タイトルにある「扉」でして、その辺が細かく書き込まれているので、ビジュアル的に、頭に焼き付いているのだと思います。 だけど、犯人は誰か、謎は何だったか、その辺のところは、何度読んでも、すぐに忘れてしまいます。
短編だったものを、長編化した横溝作品に、共通していますが、後から、エピソードを足しているせいか、二つの話がダブっているような感じがします。 絡め合わせ、結び付けてあるんですが、紐帯が弱く、最初から長編として考案した作品と比べると、分裂感を覚えるのです。 それが複雑な印象を与えるのだと思うのですが、面白さに繋がっていない複雑さは、美点とは言えません。
これまた、短編を長編化した横溝作品によく見られる事ですが、会話が多くなるのも、弱点になります。 聞き取りの会話場面というのは、長引くと、読むのがつらくなって来ます。 この作品では、ボクサーの青年と、多門修が、若者言葉で喋るのですが、それが、また、口語丸出しで、長ったらしいので、しんどい。
だけど、この作品、内容的には、メジャー長編に負けないものがあると思います。 都会を舞台にした金田一物の代表作と言ってもいいのでは? 出来は、【夜の黒豹】よりも、上なんじゃないでしょうか。
【鏡が浦の殺人】 約101ページ
1957年(昭和32年)8月に、「オール読物」に掲載されたもの。
鏡が浦の海水浴場。 読唇術を会得している大学教授が、海に浮かぶヨットを双眼鏡で見ていて、乗っている二人が、殺人計画について話しているのを、読み取ってしまう。 その翌日に開催された、ミス・カガミガウラ・コンクールの会場で、教授が死亡し、当初、心臓発作かと思われたが、ある人物の強い要請で、高名な法医学者が呼ばれ、検死がやり直された結果、毒殺と分かり・・・、という話。
休暇で滞在していた金田一と、招待された等々力警部が出てきます。 海辺を舞台にした話として、【赤の中の女】や、【死神の矢】がありますが、舞台設定は、みな、よく似ています。 トリックや謎は、違いますけど。 等々力警部は、いつも、金田一に誘われて、遊びにやって来ては、事件が起こってしまい、地元署の捜査に引きずり込まれるというパターン。 でも、警部は何もせず、全て、金田一が片付けます。
トリックは、子供騙しレベルですが、それが話の中心ではないので、問題ありません。 むしろ、分裂感の方が、問題です。 事件が起こった後に、犯人候補の面々が集まって来るので、何となく、後出しをされたような気分になります。 しかし、それは、錯覚で、事件が起こる前に、リップ・リーディングの場面が一山あるせいで、推理小説の定番ストーリー・パターンが崩されているだけなんですな。
リップ・リーディングが、メインのモチーフで、初めて、読んだ時には、ゾクゾクしました。 大学教授の他に、もう一人、それを会得している子供が出て来て、後半で、一場面、盛り上げますが、そちらは、オマケのようなもので、その子供のお陰で、事件が解決するわけではありません。
終わりの方、お涙頂戴に流れそうになる当たり、【死神の矢】に少し似ていますが、【死神の矢】ほど、不自然ではないです。 やっぱり、犯人は悪党でなければ、いけませんねえ。 その点、まともな話です。
≪聖女の首≫
横溝正史探偵小説コレクション③
出版芸術社 2004年11月20日/初版
横溝正史 著
沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 戦中期から、戦後間もない頃までの短編・中編、11作を収録。 2段組みです。
【金襴護符】 約24ページ
1943年(昭和18年)5月、「新青年」に掲載されたもの。
慰問袋に入れられていたお守りに隠された、家宝の地図を巡って、滑稽な奪い合いが演じられる話。
戦時下作品にしては、オチのある喜劇で、まともな作品です。 しかし、最終的には、「欲しがりません、勝つまでは」という国の宣伝を援ける内容になっており、苦しさは隠せません。
【海の一族】
【ナミ子さん一家】
【剣の系図】
【竹槍】
この4作は、国策賛美小説として書かれ、いずれも、「新青年」に掲載されたもの。 検閲を突破する為に、いろいろと工夫を凝らしたのは分かりますが、戦争協力してしまっている事に変わりはなく、評価のしようがありません。 これらも、横溝さんは、後世に残したくなかったでしょうねえ。 この本を出版した人達は、あの世で、横溝さんに、口も利いてもらえないと思います。
【聖女の首】 約24ページ
1948年(昭和23年)2月、「東京」に掲載されたもの。
実家の牧場が傾いて、東京の喫茶店で働いていた美しい娘が、彫刻家のモデルになって、胸像を作ってもらった後、三人の男から求婚されるが、ある時を境に、三人から一遍に、フラれてしまう。 実は彫刻家は、他にも、娘をモデルに、様々な表情の胸像を作っていて・・・という話。
後に、金田一物に書き改められて、【七つの仮面】になります。 そちらの方が、長いです。 こちらは、原型短編という事になりますが、先に、【七つの仮面】を読んでいると、エピソードが少ないせいで、ちょっと、物足りなく感じます。 アイデアは、面白いです。
【車井戸は何故軋る】 約51ページ
1949年(昭和24年)1月、「読物春秋」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、【車井戸はなぜ軋る】になります。 ≪本陣殺人事件≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
【悪霊】 約27ページ
1949年(昭和24年)2月、「キング・夏の増刊」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、【首】になります。 ≪首≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
【人面瘡】 約32ページ
1949年(昭和24年)12月、「講談倶楽部」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、同題異作の、【人面瘡】になります。 ≪人面瘡≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
【肖像画】 約16ページ
1952年(昭和27年)7月、「りべらる・増刊」に掲載されたもの。
後に、金田一物に書き改められて、【ペルシャ猫を抱く女】になります。 ≪ペルシャ猫を抱く女≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。
以上、原型短編の5作ですが、長さが異なる【聖女の首 → 七つの仮面】は別として、【車井戸は何故軋る → 車井戸はなぜ軋る】、【悪霊 → 首】、【人面瘡 → 人面瘡】、【肖像画 → ペルシャ猫を抱く女】は、改作後も、内容は、ほとんど同じです。 無理やり、登場人物の一人を、金田一に差し替えたもので、改作後の方が、むしろ、出来が悪いです。 金田一物に書き換えざるを得ない理由が、何かあったんでしょうねえ。
【黄金の花びら】 約18ページ
1953年(昭和28年)1月、「少年クラブ・増刊」に掲載されたもの。
以下、ネタバレ、あり。
仏像蒐集家の屋敷に泥棒が入り、射撃がうまい少年が、2階から威嚇射撃したところ、犯人の背中にあたり、殺してしまった。 屋敷にいた自称・小説家の男が、実験を行なって、銃弾の角度から、少年が撃った弾が殺したわけではない事を証明する話。
少年向けの作品。 金田一が出て来ますが、最後まで、名前と職業を詐称しているので、読んでいる間は分かりません。 服装は、金田一そのものなんですが、それだけでは、確信が持てないので・・・。
死体に撃ち込まれた弾丸の角度が、60度で、直立した人形で実験したら、同じ60度だったから、「それ見た事か、少年が撃った弾だ」と言うのを、自称・小説家が、「逃げる時には、前傾姿勢になるから、60度では、おかしい」と指摘するのですが、それも、おかしな話です。 走っている土地が下り坂になっているのなら、前傾姿勢で走ったら、怖いでしょうに。 下り坂では、体を起こし気味で走る事になるから、直立姿勢に近くなるんじゃないでしょうか。
そういう事は、承知の上で、少年向けだから、シンプルな話にしたのだと思いますが、ちょっと、安直過ぎる感じがしないではないですねえ。
以上、四作です。 読んだ期間は、今年、つまり、2019年の、
≪赤い水泳着≫が、5月31日から、6月6日にかけて。
≪深夜の魔術師≫が、6月6日から、9日まで。
≪扉の影の女≫が、4月28日から、6月12日。
≪聖女の首≫が、6月12日から、13日にかけて。
≪扉の影の女≫は、図書館で借りてきた本の合間に、ちょこちょこと読んでいたので、期間が長くなっています。 すでに、何度か読んでいる作品の読み返しだから、一気に読んでしまおうという気にならないのです。
日記ブログの方にアップした、読書感想文に追いついてしまったので、とりあえず、このシリーズは、今回まで。 次回からは、バイク生活復活計画の話になります。
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