2020/03/08

読書感想文・蔵出し (57)

  プチ・ツーリングの紹介も、3回続けたら、飽きて来ました。 で、今回は、読書感想文です。 久しぶりですな。 前回、出したのは、去年の10月6日でしたから、5ヵ月も開いてしまいました。 その間も、読書は続けていたので、だいぶ、ストックがあります。 




≪迷路荘の怪人≫

横溝正史探偵小説コレクション④
出版芸術社 2012年5月25日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 この、「横溝正史探偵小説コレクション」シリーズですが、2004年に、①②③が続けて発刊された後、一旦、終わっていたのを、2012年になって、作者の生誕110周年を期に、増刊する事になったとの事。 中編2作と、その2作について作者が書いた付記を、幾つか収録。 中編と言っても、2段組みなので、文庫すれば、100ページを超えます。 表題作の方は、この本でも、100ページを超えていますけど。


【旋風劇場】 約94ページ
  原型になった【仮面劇場】が、1938年(昭和13年)から、1942年にかけて、「サンデー毎日」に、断続的に掲載。 それを、1943年(昭和17年)7月に、【旋風劇場】として、刊行したもの。 題名の変更は、当局から、「仮面」はやめろといわれて、出版社が変えたのだそうです。 戦後、長編化されて、【暗闇劇場】となり、更に、改題されて、最初の【仮面劇場】に戻り、角川文庫旧版の、≪仮面劇場≫に表題作として収録されているのが、それ。

  鳴門の渦に飲み込まれようとしていた小舟から助け出された、盲聾唖の美少年を、近くにいた観光船に乗っていた未亡人が引き取る事になったが、やがて、彼女の交際している男が寄宿している一家で人が死に始め、当初から事件に関っていた由利先生と、引っ張り込まれた三津木俊助が、美少年の正体を明らかにする話。

  【仮面劇場】の方と、続けて読み比べたわけではないので、比較が難しいのですが、そんなに大幅に変わっているわけではないようです。 毒をどうやって扱っていたか、その点が異なるだけ。 いずれにせよ、いかにも、由利・三津木コンビ物らしい、草双紙趣味の活劇でして、戦後の推理ファンを満足させるような内容ではないです。

  もし、由利・三津木コンビ物の代表作を一つ選べと言われたら、この作品になるかもしれません。 【蝶々殺人事件】は、由利・三津木コンビ物としては、異色ですから。 そんな事しか、感想が出ませんなあ。 私は、こういう作品を読んでいると、馬鹿馬鹿しくなってしまうのです。 戦前と戦後で、横溝さんほど、作風が変わった作家も珍しいのでは?


【迷路荘の怪人】 約124ページ
  原型になった短編が、1956年(昭和31年)8月、「オール読物」に掲載され、その後、3倍の長さに加筆されて、1959年に、全集に収録されたのが、この作品。 更にその後、1975年5月に、加筆して長編にされたのが、角川文庫の≪迷路荘の惨劇≫という事になります。

  富士の裾野にある、元華族の別邸が、戦後、新興事業家の手に渡ったが、華族の妻まで、実質的に金で買われる形で、事業家の妻になった。 その屋敷では、十数年前に、華族の当主夫婦が殺され、犯人と思われる男も片腕を切り落とされて、行方不明になるという事件が起こっていた。 屋敷をホテルに改装する前に、事業家が、屋敷に縁のある人達を招く事になったが、そこで、新たな殺人事件が起こる話。

  【迷路荘の惨劇】の方は、手持ちの本にあって、今までに、2回、読んでいます。 舞台になっている場所が、富士市で、私の住んでいる所から近い事もあって、好きな作品です。 で、この作品は、長編化される前の、中途型中編なので、短いのですが、面白さという点では、長編の方に負けていません。 むしろ、追加されたエピソードがない分、纏まりがいいように感じられます。

  トリックより、謎より、舞台設定が、ゾクゾクするのです。 ちらちらと存在を匂わせる片腕の男や、仕込み杖、地下道、みかん倉庫の滑車など、細かい道具立ても、いいですなあ。 長編では、地下道が、自然の洞窟と繋がっていて、そちらの冒険が見せ場になっていますが、こちらでは、地下道だけ。 それでも、充分、見せ場になっています。

  こういう作品を読んでいると、妙に、心豊かな気分になります。 この感覚は、どう分析すればいいんでしょうねえ。 芸術の力とでも、考えるべきなんでしょうか。



≪消すな蝋燭≫

横溝正史探偵小説コレクション⑤
出版芸術社 2012年7月25日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 「横溝正史探偵小説コレクション」シリーズの、2012年になって、作者の生誕110周年を期に増刊された、2冊の内の1冊。 長編1と、短編7、計8作を収録。 2段組みです。 疎開先の岡山で、戦後、執筆再開した時の短編の他、いずれも、岡山が舞台になっている作品を集めたもの。

  内、【消すな蝋燭】、【泣虫小僧】は、≪ペルシャ猫を抱く女≫の時に、【鴉】は、≪幽霊座≫の時に、すでに感想を書いているので、そちらを、参照の事。 ちなみに、【神楽太夫】、【靨】、【蝋の首】は、角川文庫旧版では、≪刺青された男≫に収録されています。 以下、ネタバレ、あり。


【神楽太夫】 約15ページ
  1946年(昭和21年)2月、「週刊河北」に掲載されたもの。 発表順で言えば、戦後第一作に当たる作品。 角川文庫旧版では、≪刺青された男≫に収録。

  村々の祭りを巡回する神楽太夫一行の内、恋敵の関係にあった若い二人が行方不明になり、一人の遺体が、顔が分からない状態で発見される。 当初、服装から、どちらなのかが判断されていたのを、若い警部補が疑念を抱き、関係していた女を呼んで確認させたところ、もう一人の方だった事が分かるが・・・、という話。

  いわゆる、「顔のない死体物」ですが、最後に、もう一回、転回があり、そこが、読ませ所になっています。 事件の真相の方は、推理の余地なく、犯人の自白を伝える形で語られます。 推理物でなければ、ショートショートでも通りそうな、気が利いた話です。


【靨】 約29ページ
  1946年(昭和21年)、「新青年」の、3月4月合併号に掲載されたもの。 「靨」は、「えくぼ」と読みます。

  戦後復員して来た男が、かつて逗留した事がある湯治場を訪ねて来て、10年前に起こった、その宿の婿養子の殺人事件について話を聞き、自らも、語る話。

  一人称の書き手が、実は犯人という、いわゆる、アンフェア物ですが、短いので、騙された感は、ほとんどなく、気にするほどの事ではないです。 また、殺人事件の犯人と言っても、半分、事故ですし。 「靨」というタイトルの意味は、最後で分かりますが、美しいアイデアですな。

  この作品は、金田一物に書き直されていないようですが、金田一を入れてしまうと、一人称の書き手への感情移入が阻害されて、味わいを損なってしまうからでしょう。 その代わり、ノン・シリーズでは、短編集に収録され難くなってしまうわけですが。


【蝋の首】 約13ページ
  1946年(昭和21年)8月、「VAN」に掲載されたもの。

  火災現場から発見された2体の焼死体。 ある学者が、ほぼ白骨化した頭部に肉付けし、複顔を施したところ、一人は、その家に住んでいた妻と確認されたが、もう一人の男は、夫ではなかった。 死体がすり替えられた事が分かり、逃亡していた夫は逮捕されるが、身代わりにした白骨死体の身元が、彼ら夫婦に関係のある人物だった事が分かる話。

  短い割には、よく出来たストーリーで、推理物でなければ、ショートショートで通る話です。 因果の偶然が過ぎるような気がしないでもないですが、短編なればこそ、むしろ、面白さを感じます。


【空蝉処女】 約17ページ
  1946年(昭和21年)に、「群青」向けに書かれたが、掲載されず、作者の没後に発見され、1983年(昭和58年)8月、「月刊カドカワ」に掲載されたもの。 角川文庫旧版にも、同タイトルの本に収録されています。 タイトルの読み方は、「うつせみおとめ」。

  空襲で怪我をして、記憶を失った若く美しい女性を、岡山の山村の、ある家で預かっていた。 歌を歌う以外に、赤ん坊をあやすような仕草をするので、既婚者だったのかと疑われていたが、実は・・・、という話。

  推理物ではなく、一般小説と純文学の中間みたいな話。 記憶を失い、抜け殻のようになった女性が、山村の人気のない場所で、「山のあなた」を歌っているという、その情景を描きたいばかりに書いたんじゃないでしょうか。 女性の正体が分かると、ちと、興醒めしますが、悪い結末ではないです。 タイトルの字に、「乙女」ではなく、「処女」を使っているところが、ちょっとしたヒント。


【首・改定増補版】 約103ページ
  作者の没後に見つかった作品。 角川文庫・旧版、≪花園の悪魔≫に収録されている【首】に、細部の描写を足したもの。

  話の内容は、【首】と同じです。 描写が細かいので、「いかにも、岡山物」という味わいは深くなっています。 都会人の横溝さんにとって、疎開先で見た岡山の山中の印象には、特別なものがあったんでしょうねえ。 【首】、【鴉】、【人面瘡】の3作は、いずれも、岡山の山合いの湯治場が舞台になっていて、雰囲気はそっくりです。 話の中身は、まるで違いますけど。



≪横溝正史探偵小説選 Ⅴ≫

論創ミステリ叢書100
論創社 2016年7月/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館の書庫にあった本。 「論創ミステリ叢書」の、「横溝正史探偵小説選 」は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲと、続き番で出た後、かなり時間を置いて、Ⅳ、Ⅴが出ました。いずれも、単行本や文庫本に収録されいなかった作品を、落ち穂拾いしたもの。 Ⅳは、時代小説だけのようなので、パス。 Ⅴを借りて来ました。


【探偵小僧】 約217ページ
  1952年(昭和27年)2月から、翌年4月まで、「読売新聞」と「同夕刊」に跨って連載されたもの。 

  新日報社の探偵小僧、御子柴進と、敏腕記者、三津木俊助が、宝石を狙う白蝋仮面を相手に、騙し騙され、活劇を演じる話。

  横溝さんの少年向け作品のパターンに則った話。 挿絵入りのせいで、長くなっています。 白蝋仮面ですが、この話では、怪盗らしい、キレを見せています。 しかし、大人が喜ぶような作品ではないです。 これが、新聞に連載されたというのは、かなり、意外。


【仮面の怪賊】 約12ページ
  1931年(昭和6年)6月、「少年倶楽部」に掲載されたもの。 

  宝石を狙う、道化仮面を、保科探偵とその助手、そして、警視庁の篠崎警部が捕えようとする話。

  少年向けですが、スマートに纏まっていて、大人が読んでも、さほど、違和感を覚えないと思います。


【王冠のゆくえ】 約9ページ
  1955年(昭和30年)1月、「幼年クラブ増刊号」に掲載されたもの。 

  病気の母親をもつ女の子と、その友達の男の子二人が、賞金を病院代に当てる為に、宝石店から盗まれた王冠を捜す話。

  雪達磨が鍵になる、割とよくある謎ですが、幼年向けなので、それで、充分。 ハッピー・エンドだから、大人が読んでも、読後感はいいです。


【十二時前後】 約4ページ
  1955年(昭和30年)10月と、12月、「中学生の友」に、問題編・解答に分けて、掲載されたもの。 

  校長室から、試験用紙が盗まれ、寄宿舎の生徒が疑われる。 目撃者が見た時計の針の位置で、アリバイが崩される話。

  これも、横溝作品では、よくある謎。 横溝さんは、子供が相手の作品だと、幼年向けでも、中学生向けでも、同レベルの謎を使うんですな。 中学生向けとしては、かなり、読者をナメていると思います。


【博愛の天使 ナイチンゲール】 約14ページ
  1928年(昭和3年)4月、「少年少女譚海 譚海別冊読本」に掲載されたもの。

  ナイチンゲールと、その幼馴染が、クリミア戦争の戦場で出会う話。

  探偵小説ではないです。 ただの、偉人物語。 横溝作品にしては、あまりにも、捻りがない。 編集者から、「こういうのを書いてください」と、かなり、内容を限定された注文を受けたのではないかと思います。


【不死蝶 雑誌連載版】 約65ページ
  1953年(昭和28年)6月から11月にかけて、「平凡」に連載されたもの。

  内容は、【不死蝶】と同じです。 その原型に当たります。 こちらの方が、話が単純になっている分、無駄がなく、完成度は高いです。 ロミオとジュリエット型のカップルが、何組も出てくるような事もありません。 書き直した方がよくなるわけではないという典型例。


【女怪】 約63ページ
  1927年(昭和2年)11月から、翌年にかけて、「探偵趣味」に連載されたもの。

  複数の男が、ある謎の女の素性を調べる話。

  未完作品でして、途中で終わってしまいます。 文体は、探偵小説というより、大衆小説のそれで、やたら、描写が細かくて、辟易します。 金田一物の、【女怪】とは、全く別物で、重なる所は、一ヵ所もないです。


【猫目石の秘密】 約7ページ
  1927年(昭和2年)7月、「少女世界」に掲載されたもの。

  少女が持っている猫目石を、不審な男が狙う話。

  未完作品。 ページ数を見ても分かる通り、始まったと思ったら、終わってしまいます。


【神の矢】 約35ページ
  1949年(昭和24年)1月から数回、「ロック」に掲載されたもの。 

  復員してきた三津木俊助が、友人に信州のある村へ招かれる。 その村で起こっている、脅迫事件に関って行く話。

  おそらく、完成していれば、由利・三津木コンビ物の、最終作品になったと思われるもので、戦前作品とは比較にならないくらい、細かい設定が施されており、それだけで、ゾクゾクするものがあるのですが、惜しむらく、御神体の矢が盗まれるところで、終わってしまいます。

  もはや叶わぬ望みですが、「この続きが読めたらなあ」と、歯噛みせずにはいられません。 もっとも、たぶん、この作品用に考えていた展開を、【毒の矢】、【黒い翼】、【白と黒】など、脅迫・密告がモチーフの作品に流用して行ったのだと思うので、大体、想像がつかないではないですが。


【失はれた影】 約39ページ
  1950年(昭和25年)1月から数回、「ホープ」に掲載されたもの。

  整形手術で顔を変えた男が、名前も新しくして、何かをしようとする話。

  これ以下は考えられないほど、テキトーな梗概ですが、実は、冒頭しか読んでいません。 主人公が、ゴロツキが集まるようなところへ行ってから、そこの描写が、ダラダラと続き、読むに耐えなくなったのです。 いずれにせよ、未完なので、最後まで読んでも、意味はないです。


  【女怪】から、【失はれた影】までの4作は、未完なのですが、理由は、途中で、雑誌が潰れてしまうとか、横溝さんの健康状態が悪化して、続けられなかったとか、そういう事だったらしいです。



≪蝶々殺人事件≫

角川文庫
角川書店 1973年8月10日/初版 1976年8月10日/11版
横溝正史 著

  2019年5月に、ヤフオクで、角川文庫の横溝作品を、18冊セットで買った内の一冊。 その頃、ヤフオクでは、この≪蝶々殺人事件≫が、単品では、安く出品されていなくて、この本欲しさに、セットを買ったようなところもありました。 その後、安い単品が出て来て、別に、この本の価値が高騰しているわけではなかった事が分かりました。


【蝶々殺人事件】 約272ページ
  1946年(昭和21年)5月から、翌年4月まで、「ロック」に連載されたもの。 この作品は、3年前に、一度、読んでいるので、梗概は、そちらから、移植します。

  新聞記者、三津木俊助は、戦後、ある出版社から、探偵小説を書くように求められ、戦時中に疎開したまま、国立に住んでいる由利麟太郎を訪ねる。 戦前、由利が解決した事件を小説にする許可を得て、三津木が選んだのが、オペラ歌手・原さくらが、「蝶々夫人」の公演の為に、自らが率いる歌劇団ごと乗り込んだはずの大阪で、コントラバス・ケースに詰め込まれた死体となって発見された事件だった。 由利を中心に、警察の捜査陣、新聞記者らが協力し、殺害現場を晦ますトリックや、原さくらと劇団関係者の因縁を明らかにして行く話。

  前回読んだ時の感想が、このブログの過去記事(2016年5月11日)にあるので、細かい事は端折ります。 ≪本陣殺人事件≫と並行して書かれた、横溝さんの戦後第2作で、由利・三津木コンビ物としては、評価が高いのですが、≪本陣≫の方との兼ね合いで、金田一を使えなかったから、戦前の探偵キャラに再登板してもらったというだけの事で、本格物ですから、金田一で書いた方が、しっくり来るような内容です。

  三津木俊介は、本来、アクション担当なのですが、この作品では、今更ながらに、ワトソン役を振られて、物語の記録者という形になっています。 「新聞記者だから、小説くらい書けるだろう」という、かなりの無茶振り。 戦前作品の三津木を知っていれば、彼が小説を書くなど、想像もつきますまい。

  一種のアンフェア物で、「こういう事をするくらいだから、この人間が犯人であるはずがない」と、読者に思わせておいて、実は、そやつが犯人というパターン。 横溝さんは、≪夜歩く≫でも、アンフェア物を書いていますが、こちらでは、もっと捻って、アンフェアと指摘されるのを回避しようと、ひと工夫、施してあります。

  そのせいで、複雑な話になっています。 それでなくても、殺人事件が三つも起きて、それぞれに、トリックや謎があるという複雑さなのに、これ以上、捻る必要があったのかどうか、首を傾げてしまいます。 評価が高いというのは、理解できる一方、面白いかと問われると、どんなものかと思ってしまうのです。


【蜘蛛と百合】 約52ページ
  1933年(昭和8年)7・8月に、「モダン日本」に掲載されたもの。

  三津木俊介の友人と、友人の愛人が、謎めいた未亡人風の女に関わった事で殺されてしまう。 女には、蜘蛛のような奇怪な男と婚約していた過去があった。 三津木俊介は、由利先生の忠告も聞かずに、その女に近づくが、彼も魔性の魅力の虜になってしまう、という話。

  草双紙趣味ですが、活劇ではなく、サイコ・サスペンス風の話です。 硬派の三津木俊助が、手もなく籠絡されてしまうところが面白いですが、それ以外に見るべきところはないです。 最初に殺される二人の描き込みが、殺されキャラにしては、細か過ぎ。 特に、友人の愛人になる女性は、喋り方が、妙に今風で、昭和8年に書かれた作品とは思えないくらい。 でも、すぐに、消えてしまうのです。 何だか、勿体ないキャラですな。

  無理やり、蜘蛛に絡めようとしているのですが、成功していません。 懐中電灯のレンズの中に蜘蛛を入れても、蜘蛛の影を映し出せないと思うのですがねえ。 もっとも、実験してまで確かめようという気になりませんけど。 「蜘蛛みたいな男」に至っては、どういう人なのか、想像力が追いつきません。


【薔薇と鬱金香】 約60ページ
  1933年(昭和8年)8月、「週刊朝日」に掲載されたもの。 

  5年前、愛人に夫を殺された夫人が、再婚した。 新しい夫と、芝居を見に出かけた劇場で、火事が起こり、助けてくれた人物が、かつての愛人、つまり、前夫を殺して、刑務所で死亡したはずの男に良く似ていた。 男の家に招かれた夫妻は、夫人の前夫を殺したのが誰かを告げられて・・・、という話。

  短いのに、いろいろと盛り込んであって、梗概では、内容をうまく伝えられません。 この上、更に、由利・三津木コンビまで出てくるといったら、どれだけ、ややこしいか、分かっていただけるでしょうか。 二回読んで、初めて、話が理解できた次第。 漫然と読んでいると、メイン・ストーリーを見失ってしまいます。

  謎がありますが、一つは、死んだはずの男が、なぜ生きていたのかというもので、答えは、仮死状態になる薬を飲んだというもの。 具体的に、何という薬物なのかまでは触れておらず、いかにも、戦前作品的な、御都合主義です。 もう一つは、歌時計(オルゴール)が途中で止まった理由で、これは、【蝋美人】と同じアイデアです。 こちらの方が、ずっと早いですけど。

  全体的に、草双紙趣味。 最後の章だけ、耽美主義。 一応、謎も入っているから、推理小説の要素も備えているわけで、短い割には、豪勢です。 だけど、面白いかと言われると、全てが、中途半端な感じがしますねえ。 発表当時の読者は、そうは感じなかったかもしれませんが。


  角川文庫旧版で、初めて、由利・三津木コンビ物が登場したのが、この本なので、表題作の【蝶々殺人事件】以外も、由利・三津木コンビ物から選ぼうという事になったのだと思いますが、この2作を選んだのは、まずまず、妥当な線といったところ。 活劇場面が少なく、割と、真面目に読めるからです。 他のなんてもう・・・、いや、今までにも、いくらも感想を書いて来たので、繰り返しませんが・・・。




  以上、四作です。 読んだ期間は、去年、つまり、2019年の、

≪迷路荘の怪人≫が、6月17日から、6月18日にかけて。
≪消すな蝋燭≫が、6月19日から、23日まで。
≪横溝正史探偵小説選 Ⅴ≫が、6月24日から、6月30日。
≪蝶々殺人事件≫が、7月19日から、8月6日にかけて。

  ≪横溝正史探偵小説選 Ⅴ≫から、≪蝶々殺人事件≫まで、半月以上、間が開いているのは、図書館にある横溝作品を読み尽くしてしまったのと、バイク吟味に明け暮れ始めて、しばらく、本を読まなかったからです。 バイク吟味は、その後、8月を挟んで、9月初めまで続くのですから、その没頭ぶりが、つくづく思い返されます。

  ≪蝶々殺人事件≫から、何冊か、手もちの横溝作品を読み、その後、図書館の江戸川乱歩全集に取り掛かりますが、それは、まだ、先の話。