2023/03/19

実話風小説 ⑭ 【お通夜ホーム・パーティー】

  「実話風小説」の14作目です。 普通の小説との違いは、情景描写や心理描写を最小限にして、文字通り、新聞や雑誌の記事のような、実話風の文体で書いてあるという事です。





【お通夜ホーム・パーティー】

  一流の工作機械メーカー、X社では、「R技術」を使った新機種を開発する事を決めた。 R技術は、10年前に登場し、次第に、時代の流行になりつつあったが、X社では、ほとんど、手付かずの状態だった。 R技術関連の特許を持っている、フリーの技術者、A氏と、技術顧問の契約を交わす方針が決まったが、ライバルのY社も、A氏のスカウトを検討しているという情報があり、急いで、A氏に接触しなければならなくなった。

  最初に、企画部の部長が、A氏に会ったが、これは、成功とは言えなかった。 技術者にありがちな性格だが、A氏には、気難しいところがあり、部長クラスの、横柄な態度が滲み出ている人間が出て行ったのでは、嫌がられるのは、無理からぬ事である。 一向に話が進まないので、A氏との交渉は、接待が得意な、営業部の課長クラスに任される事になった。 B氏である。

  営業部の課長は、10人以上いたが、その中から、B氏が選ばれたのは、彼が、元は、開発部に在籍していたからだ。 工科大学を出て、技術者として入社したが、そちらの方面では、力が出せず、他の部署に異動させられる事になった。 人事部が、駄目元で、営業部に回したら、水が合ったようで、平均以上の成績を上げ始め、順調に昇進して、40代半ばで、課長になっていたのだ。 元が技術者だから、A氏とも話が合うのではないかと、期待されたのである。

  B氏は、有能な技術者の変人ぶりを知っていたので、「厄介な事になったぞ」と思ったが、その一方で、「この仕事を、うまくやってのければ、次の昇進に、大きなプラスになるだろう」と、皮算用もしていた。 元が技術者だけに、R技術が、今後の社運を左右する重要なものである事を、理解していたのだ。


  特定の人物の接待をするには、相手が何を望んでいるかを知らなければならない。 A氏は、フリーの技術者だったので、プロフィールが公開されていたが、B氏は、それを、ざっと見ただけで、眉間に皺を寄せた。 顔写真が出ていないのは、資産が多いから、犯罪者に目をつけられるのを、警戒しているのだろう。 価値が高い特許を幾つも持っているのだから、収入が多いのは当然だが、一介のサラリーマンに過ぎないB氏には、そこがまず、カチンと来た。

  略歴に目をやると、中学卒業後、海外に留学していた。 これにも、カチンと来た。 怠惰な学生だったB氏は、就職を一年でも遅らせようと、大学を終える前に、指導教授に、海外留学の希望を出した事があった。 ところが、「お前さんの成績じゃ、行っても、相手にされない」と、一言のもとに却下されてしまい、それが、嫌な記憶として残っていたのだ。 ムシャクシャしながら、A氏の略歴の下の方へ目を飛ばすと、20代後半で、記述が途切れていた。

「なんだ、古い資料か。 こんなの役に立たん。 もっと、活きた情報が必要だな」 

  B氏は、社内で、A氏の事を知っている者を探してみた。 すると、Cという人物が、かつて、A氏と一緒に仕事をした事があるらしいと分かった。 C氏は、8年前に、X社に吸収合併された、Z社の開発部門にいた人物である。 Z社は、10年前に、A氏と半年間、技術顧問契約を結んでいたのだ。 C氏は、合併後、X社に移籍していたが、開発部門には入れず、資料室で冷や飯を食わされていた。 移籍した時、すでに、40歳間近で、技術者としては、時代遅れになっていたからである。

  B氏は、資料室の詰め所に、C氏を訪ねた。 C氏は、同年輩の気安さからか、初対面であるにも拘らず、気さくに話をしてくれた。

「Aさん? ああ、A博士の事ですね」
「博士?」
「ええ。 海外の大学の博士号をもってるんですよ。 私らは、A博士、A博士って呼んでました」

  そう聞いても、B氏は、特段、感心するような事はなかった。 一流メーカーの開発部門では、博士号を持った技術者は、さほど、珍しくないからだ。 それを、わざわざ、「A博士」などと呼んでいたという、Z社の開発部門が、レベルが低いような印象さえ受けた。

「Aさんというのは、どういう方なんですか」
「うーん。 ちょっと、気難しいところがあって、なかなか、本心を見せないんですが、腹に一物あるというタイプではないです。 こちらが、礼儀正しく接すれば、向こうも、礼儀正しく応えてくれましたねえ。 他人と話すのが苦手で、気が弱そうだけど、芯はしっかりしているというか・・・。 特に、仕事となると、いい加減な事はしないし、他の人間が、いい加減な事をするのも許さない人でしたねえ。 フリーで、技術一本で食っているわけですから、自然にそうなるのかも知れませんが・・・」
「そもそも、Z社は、どうやって、A氏をスカウトしたんですか?」
「いや、特に、苦労はしなかったみたいですよ。 10年前は、A博士は、そんなに高名だったわけではないし、普通に、話を持ちかけたら、普通に、応じてくれたようです。 今は、どうですかね? A博士を狙っているという事は、R技術でしょ? あちこちから、引きがあって、簡単には行かないかも知れませんね」
「それは、分かっているんですがね。 ズバリ訊きますが、Aさんの弱点はなんでしょうかね?」
「弱点ですか? うーん・・・、時間にルーズな事ですかね。 自宅の研究室で研究に夢中になって、約束の時間に、半日遅れたという事がありました。 逆に、スケジュールが空いてしまって、約束の時間より・・・」
「いやいや、弱点と言っても、そういう事ではなく、Aさんを口説き落とすのに、どんな接待が有効かを知りたいんですが」
「ああ、接待ですか。 接待ねえ・・・。 よくある接待なら、やめた方がいいと思いますよ」
「どういう事ですか?」
「A博士は、酒を飲まないわけではないですが、水商売の女性にベタベタされるのが、大嫌いなんです。 Z社の時、A博士のお陰で、成果が上がったんで、次長が、ご褒美のつもりで、A博士と、開発部の主だった者を、キャバクラへ連れて行ったんですが、A博士、店に入った時から、仏頂面だったのが、キャバ譲から、下品な冗談を浴びせかけられて、腹を立てて、途中で帰ってしまったんですよ。 その後、すぐに、Z社と契約解消してしまいました。 次長も逆ギレして、怒っていましたが、もし、A博士との契約が続いていたら、Z社も、身売りしないで済んだかも知れません」

  怖い話だ。 B氏は、「自分も、同じ轍を踏まないように、気をつけなければ」と思った。

「ゴルフはしますかね?」
「しません。 スポーツは、何も、やりません。 無理に誘うと、怒り出すんじゃないでしょうか。 スポーツ全般に興味がなくて、野球やサッカーなど、プロ・スポーツの話題にも、全く乗って来ません」
「芸能情報は? 好きな、お笑い芸人とか、好きな、歌手とか?」
「そういう話も、しませんでしたね。 A博士とは、技術関係の話以外で、盛り上がった事がなかったと思います」
「映画とか、舞台劇とかは?」
「そんな話も出ませんでした。 ガチガチの理工系ですから、芸術の方に疎いのは、仕方ないですが」

  B氏は、困ってしまった。 取り入る隙がないではないか。

「何か、Aさんが、好きな事はなかったですか?」
「うーん・・・」

  C氏は、腕組みをして、首を捻って、考えた。

「そうだ! 通夜だ!」
「つや?」
「あの、お通夜ですよ。 葬式の前にやる」
「ああ、お通夜・・・。 ええっ! お通夜が好きなんですか?」
「お通夜の雰囲気が好きだと言ってました。 今の、葬祭会館でやる、お通夜じゃなくて、昔の、個人宅に、親戚や、近所の人達、それに、故人の友人・知人が大勢集まって、ワイワイ・ガヤガヤしながら、酒を酌み交わす、あの雰囲気ですね」
「ああ。 何となく、分からないでもないですね」
「たぶん、A博士が子供の頃に、そういう、お通夜を経験した事があったんでしょう」
「なるほど。 しかし、本物のお通夜に、A博士をよんで、接待するわけにも行かないなあ」
「それは、その通りです。 だけど、似たような雰囲気なら、いいんじゃないですか? Z社で一緒に働いていた時、私の上司が、家を新築しまして、記念に、ホーム・パーティーを開いたんです。 A博士も招かれたんですが、いつになく、ニコニコしていましたねえ。 他の面子みんなと親しいわけじゃなくて、知らない人の方が多かったのにね。 ああいう雰囲気が好きなんでしょう。 後片付けの手伝いまで、してましたからねえ」
「それは、普通のパーティーではいけないんですか? 会社が催す、立食パーティのような」
「A博士を接待するのが目的なら、そういう大掛かりなパーティーは、まずいんじゃないですか? ついでに接待していると思われてしまう恐れがありますよ。 そもそも、大きなパーティーには、A博士が出て来ないと思いますねえ」
「なるほど。 ホーム・パーティーですか。 なるほど・・・」

  資料室を後にしたB氏は、歩きながら、めまぐるしく、脳の中を回転させた。 ホーム・パーティーをやるとしたら、自分の家でやるしかない。 他の家でやったのでは、自分の手柄にならないからだ。 ホーム・パーティーは、新婚の頃、何回か、やった経験がある。 妻が嫌がるようになったので、その後、やめてしまったが、今回は、重要な仕事だから、昇進がかかっていると言って頼めば、妻も協力してくれるだろう。


  家に戻って、その話をすると、B氏の妻は、あからさまに、嫌そうな顔をした。 子供は、すでに高校生で、全寮制の学校に入っており、子育ての負担がなくなった妻は、専業主婦をやめて、再就職していた。 勤め人である点は、夫と変わらない。 自分にとっても、週末の休みは貴重なのに、その内の一日を、夫の為に犠牲にするのには、大きな抵抗があった。

  夫の昇進に、確実に寄与するというのなら、協力するのに吝かではないが、営業部には、10人以上の課長がおり、その中から、次期部長の座を伺う事が、いかに難しいかを、そもそも、職場結婚で、X社内の事情に詳しかった妻は、よく知っていた。 うまくやっても、評価されず、うまくいかなければ、出世は、むしろ、遠のいてしまう。 夫の昇進など当てにするより、自分で稼いで、家のローンの返済や、老後資金の蓄えに当てる方が、優先だと思っていた。

  新婚の頃にやった、というか、夫にやらされた、ホーム・パーティーが、B氏の妻には、不快な記憶となって残っていた。 最初の一回で、あまりの大変さに参ってしまった。 夫は、準備こそ、一緒にやったが、パーティーの後は、酔い潰れて、眠ってしまい、後片付けは、ほとんど、妻一人でやらなければならなかった。

  「お客に招いた人達に、後片付けを手伝わせるわけには行かない」と言っていたのは、夫だが、それで、自分は眠ってしまうのだから、勝手である。 妻が、寿退社で、専業主婦になっていたのを幸い、翌朝、「今日一日かけて、ゆっくり片付ければいいじゃん」などと、無責任な事を言って、自分は、泊まった同僚達と、遊びに行ってしまった。

  お金も、大変。 お客を、10人よべば、一晩で、10万円近く消えてしまうのだ。 若い頃で、蓄えも少ないのに、10万も消えたのではたまらない。 ホーム・パーティーをやった月は、家計が必ず、赤字になった。 半年の間に、3回やった後、4回目をやると夫が言い出した時、家計簿を見せて、「こんな調子で、ホーム・パーティーを続けていたら、家のローンが払えなくなって、破産してしまう」と訴え、やめさせたのである。 家は、頭金を、夫の親に出してもらい、35年ローンで買った、新築の分譲住宅だった。

  ホーム・パーティーというと、「お客も、食べ物・飲み物を持ち寄って」というケースを想像する人もいるだろうが、そちらに期待できるのは、客一組当り、缶ビール6本パック程度である。 おかずも、コンビニの唐揚げ程度。 そんなんで、10人規模のパーティーができるものかね。 結局、招く側で、身銭を切って、8割以上のものを揃える事になるのである。 しょぼいパーティーは、嫌がられる。 ケチな家と思われてしまう。 そんな悪評が立つくらいなら、最初から、やらない方がいいのだ。

  B氏の妻は、A氏の接待パーティーを開くに当たって、条件を出した。

1. お金は、全額、会社の経費で落とす事。
2. 手伝いの人間を、最低3人は、会社からよこす事。 彼らには、準備だけでなく、後片付けもさせる事。
3. 自分は、ホステス役はやらないから、必要なら、女性社員を用意する事。

  「1」は、当然と言えば、当然。 元は重役会の指示から出た話なので、もちろん、かかった費用は、会社に請求できる。 問題なし。

  「3」に関しては、A博士の性質から考えて、不要だと判断した。 下手に、女性社員なんぞよぶと、A博士に、無理やり話し相手を宛がったようで、不自然である。 その女性社員が、A博士に相手にしてもらえなかった場合、他の男性社員とイチャついて、A博士を不快にさせる恐れもある。 そんな厄介な存在は、最初から、よばないのが一番だ。

  存外、障碍になったのは、「2」だった。 折り悪く、決算期に入っていて、営業部門は、どこも忙しい。 せめて、週末くらいは、自分の家で、のんびりしたい。 仕事でやるホーム・パーティーなんか、出ていられるか。 まして、手伝いなど、手当てが出ると言われても、真っ平御免。 というわけで、人手が確保できなかったのである。

  熱心に、声をかけた結果、営業部と開発部の、B氏の知り合いで、何とか、7人を確保した。 それでは、少な過ぎるので、上司に相談したところ、あちこちに掛け合って、警備部から、3人出せるという話になった。 しかも、その3人は、出勤扱いにするから、手伝いもさせていいというのである。 太っ腹で知られている、警備部部長の鶴の一声だったらしいが、これは、ありがたい。

  これで、A氏とB夫妻を入れて、13人。 B氏は、もう一人くらい欲しいと思い、資料室の、C氏に声をかけた。 C氏は、最初、渋っていたが、B氏から、「Aさんが、話し相手がいなくなってしまったら、白けるから、昔馴染みのCさんにも、是非出てもらいたい」と口説かれて、承諾した。 C氏が心配したのは、B氏ではなく、A博士の事だった。 B氏の事は、よく知らないが、営業の飯を長く食べて来た人間だけに、些か脂ぎったところがあり、神経質なA博士と、反りが合うようには思えなかったのだ。

  A氏には、C氏を通して、連絡してもらった。 真の目的は伏せて、「会社の同僚のホーム・パーティーがあるから、参加してみませんか」と問い合わせてみたところ、C氏の事を、好意的に覚えていたA氏は、遠慮は見せたものの、最終的には、承諾してくれた。 C氏は、日時と場所を、A氏に伝えた。


  いよいよ、ホーム・パーティーの日が迫って来た。 B氏の妻は、前日まで、何の準備もしていなかった。 いや、当初は、前日、金曜の夜から、準備を始めるつもりでいたのだが、夫が急に、「土曜の午前中は、営業部と開発部のパーティー出席者と、レジャー施設に遊びに行く」と言い出したので、馬鹿馬鹿しくなって、やめてしまったのだ。

  B氏は、「彼らには、無給で、パーティーに出てもらうんだから、サービスしておかなきゃな」などと言っていたが、自分が、パーティーの準備から逃げる為の口実としか思えなかった。 本人が、そんな調子なのに、「なんで、私だけが、苦労しなきゃなんないの?」と臍を曲げたわけだ。 どうせ、会社から、手伝いが来るのだから、そいつらを扱き使うつもりでいた。

  妻は、念の為、B氏に問い質した。

「手伝いの人達は、ちゃんと、午前中から、来てくれるんだよね。 3人は欲しいって、伝えてある?」

  B氏が答えるのに、少し間が開いた。

「・・・もちろん。 何度も確認したよ」

  妻の不信感は、逆に増大した。 B氏には、何をやるにも、細部の詰めが甘いところがあり、大まかな事だけ決めると、後は、他人に押し付けてしまう傾向がある。 また、自信がない時ほど、大口を叩いて、ごまかそうとする。 「何度も確認した」というのは、そういう時に、B氏の口から出る常套句で、後でまずい結果になった時に、他人のせいにする為の手管だった。 「自分は何度も確認したが、相手がいい加減で、こんな結果になってしまったのだ」という風に・・・。

  その会話の後、B氏が、誰かに電話をしている姿が見られた。 話し方からして、自分の部下のようだった。 

「いやあ、今からじゃ、警備部の方に確認をとるのは、無理だ。 早目に来てくれとは言っといたけど、パーティーは、夕方からだから、さすがに、昼前には来ないだろう。 しょうがないから、お前だけでも、午前中から来てくれ。 10時頃でいいから」


  ホーム・パーティー当日の午前10時頃、のんびりした顔つきの青年が、B宅を訪れた。 この青年は、B氏の部下で、昨年の新入社員だった。 B氏の妻とも面識があり、すぐ、家に引き入れられた。 その時、B氏の妻は、門の外に、もう一人、20代後半くらいの、貧相な容貌の青年がいる事に気づいた。 知らない顔だが、警備の方から手伝いがよこされると聞いていたので、その一人かも知れないと思い、声をかけてみた。

「あんたも、パーティーに来た人?」
「はい」
「じゃあ、入って。 急がないと」

  B氏の妻は、パーティー会場になる、二間続きの洋室に、二人を案内し、家具を動かして、部屋全体を掃除するように命じた。 大きな食器棚があり、中身を出さないと、とても、動かせない。 二人が尻込みしていると、B氏の妻は、ピシャリと言い放った。

「言われた通りにして! 時間がないんだから! 掃除しないで、お客を入れたら、恥を掻くのは、私なんだからね!」

  B氏の妻の機嫌は悪かった。 「最低でも、3人」と言っておいたのに、二人しか来ない。 とことん、いい加減な亭主だ。 誰の為に、こんな面倒な事を引き受けてやっていると思っているのだ。 こうなったら、この二人を、使い潰すつもりで、働かせるしかない。

  一方、二人の青年だが、こうなったら、仕方がない。 B氏の妻の指図通り、食器棚を動かす難業に取り組み始めた。 これは、パーティーの準備というより、大掃除である。 食器棚が大き過ぎて、年末の大掃除では手をつけられないので、手伝いが来たのに乗じて、掃除させてしまおうという、図々しくも虫のいい計算なのだ。

「床は、ちゃんと、雑巾がけしてよ。 雑巾は、そこ。 洗面所の流しは汚さないで、庭の流しを使って」

  3月初頭なので、外は、零下である。 庭の地面には、霜柱が立ち、流しにあるバケツの水は、凍っていた。 何年も掃除していない、食器棚の裏は、分厚く埃が溜まって、何度も、バケツの水を取り替えなければならなかった。

  ようやく、洋室の掃除が終わり、家具を戻し終わると、次は、外周りの掃除を命じられた。 落ち葉一つ残さないように、との指示。 家中の窓を拭かされ、玄関ポーチにも、雑巾をかけさせられた。

  何とか、終わらせて、寒さで、ガタガタ震えながら、家の中に戻ったが、電気ストーブにあたる暇もない。 B氏の妻は、容赦なく、トイレの掃除を命じた。

「いちいち、言われるたびに、嫌そうな顔をしないで、さっさとやる! 午後になったら、お客さんが来ちゃうんだよ!」

  B氏の妻は、結婚前、X社で働いていた頃から、切れ者と言われていたが、再就職してからも、たまたま、その職場に、指導役がいなかったせいで、瞬く間に、女帝のような立場に登り詰め、部下を仕切り倒すようになっていた。 B氏の妻から見ると、大学を出たての若い男なんぞ、遊ぶ事ばかり達者で、糞の役にも立たない、無能揃いであり、顎で使い捲って、辞めるなら、辞めれば良し。 10人中、一人残れば、マシな方、という、残忍な考え方をもっていた。

  これは、社会の厳しさを総合的に見た場合、あながち、間違った考えとは言えないが、真っ当な社会人であれば、初めての相手に対して、取る態度ではない。 二人の青年の内、一人は、初対面なのだから、もっと、人間的に扱うよう、配慮すべきであろう。

  パーティー会場は1階だが、2階のトイレまで、掃除させられた。 10人以上の客が来るのだから、2階トイレも使う可能性があると言うのである。 終わったと言うと、B氏の妻が確認に来て、洋式便器の後ろに埃が溜まっている事を指摘し、そこにも、雑巾をかけさせられた。 次は、浴室。 酔い潰れて、泊まる客が出た場合、朝風呂を使う可能性かあるからというのが、その理由だった。

  それが終わる寸前に、家の電話が鳴った。

「ええっ? どういう事? それは、そっちの都合でしょ? 配達まで込みで、あの値段で頼んだんだから、配達できないなら、もちろん、その分、安くしてもらえるんでしょうね。 ああ、そう、分かりました。 今から、人をやるから、そいつらに、渡して」

  電話を切ると、二人の青年に向かって、命じた。

「隣町の仕出し屋まで、行って来て! 料理を頼んであるから、受け取って来て!」
「あの・・・、どうやって?」
「車で行ってよ!」
「車って?」
「あ、そうか! 亭主が乗って行ったのか。 あんた達、バスで来たの?」
「はい」
「あ~、駄目だ~。 バスじゃ、仕出し屋まで行けないわ! しょうがない、自転車で行って! 私のと、息子のと、2台あるから、何とかなるでしょ! 向こうで、ダンボール箱かなんかもらって、荷台に縛って来てよ」
「あの・・・、タクシーは?」
「いい若いもんが、何、楽しようとしてるの! 夕飯の料理だから、時間は間に合う。 どうせ、あんた達は、もう、家の中でやる事はないから、遊んでないで、自転車で行きなさい!」

  くどいようだが、繰り返すと、外は、厳寒である。 雪こそ降っていないが、張った氷が、正午を過ぎても融けないくらいだから、立っているだけでも、滅茶苦茶、寒い。

  しかも、息子の自転車は、長く乗っていなかったのか、後輪タイヤがパンクしていた。 B氏の妻に言うと、にべもなく、「物置に、道具があると思うから、直して行って」と言われた。 B氏の部下は、パンク修理の経験がなかった。 もう一人の青年が、やると言い、かじかんだ指先に苦労しながら、20分ほどかけて、終わらせた。

  修理がなると、二人で、自転車を漕ぎ、隣町まで、片道、8キロを走った。 幹線道路だと、事故が怖いので、全道程の3分の2くらい、川の土手道を通ったのだが、冷たい川風が吹きつけて、目を開けているのも、つらい。 並んで走りながら、B氏の部下が言った。

「大変な事になりましたねえ」
「うん。 まさか、こんな事になるとはねえ・・・」
「警備部の方は、手当てが出るんでしょう? ぼくらなんて、無給ですよ」
「ああ、そうですか。 大変ですねえ」

  寒過ぎて、それ以上、話が弾まない。 二人は、また、黙り込んで、自転車を漕ぎ続けた。

  仕出し屋では、呆れられた。

「自転車で運ぶんですか? 無理ですよ。 14人前もあるのに。 前籠なんて、横にしなきゃ入れられないから、おかずが寄って、グジャグジャになってしいますよ。 荷台だけだと、一台当り、7人前でしょう? 無理無理!」
「ダンボール箱はありませんか?」
「そんな大きな段ボール箱じゃ、荷台から、すぐにズレ落ちてしまいますよ」
「仕方がない。 タクシーを呼びます」

  やって来たタクシーに、仕出し料理を積み込み、B氏の部下が一緒に乗り込んで、B宅へ向かう事になった。 あの奥さんでは、先に言い訳しないと、タクシーの運転手を怒鳴りつけかねないと、もう一人の青年が言ったからだ。 B氏の部下が、持ち合わせがないと言うので、もう一人の青年がタクシー代を出す事になった。 財布を預かった、B氏の部下が言った。

「後で、B課長に精算してもらいますから」
「いや、いいですよ。 こういう運命だったんでしょう」

  自転車2台は、もう一人の青年が、一人で押して帰る事になった。 土手道では、1台に乗って、もう1台を引っ張って走ろうとしてみたが、すぐに、倒れそうになり、キズでもつけては、厄介な事になると思って、やめた。 しばらく、2台の自転車の間に入って、押していたが、これでは、普通に歩くのより、ずっと遅い。 ざっと計算して、B宅に着くのに、3時間くらい、かかるだろうか。
 
  青年は、一旦、立ち止まり、自転車のスタンドをかけて、2台の自転車を、じっと見ていた。 ハッと思いつき、1台に鍵をかけて、土手道の端に置くと、もう1台に乗って、仕出し屋へ引き返した。 小さめのダンボール箱をもらうと、畳んで、前籠に入れ、土手道へ戻った。 1台の自転車の後輪部分の横に、もう1台の自転車の前輪部分を、荷紐で縛りつけた。 傷がつかないように、接触する部分に、ダンボールを巻いた上でだ。

  これで、2台が連結された。 青年が押してみると、問題なく前に進める。 恐る恐る、乗ってみると、速度は遅いものの、割とスムーズに、漕げる事が分かった。 こんな状態で、公道では乗れないので、土手道を下りてからは、押して歩いたが、この工夫のお陰で、3時間かかるところを、1時間ちょっとで、戻る事ができた。

  B宅へ戻ると、すでに、招待客が到着し始めていた。 B氏の部下が出て来て、もう一人の青年に、財布を返しながら、言った。

「警備部の人達が来てますよ」
「そうですか」
「でも、人数が多いんですよ。 3人って話だったのに、5人も来てるんです。 あなたを入れて、6人ですよね」
「いや、私は、警備部ではないです」
「え? ああ、そうなんですか。 それにしても、警備部が、5人も来たら、料理が足りなくなるなあ」

  嫌な予感がした。 二人で、中に入ると、B氏の妻が、5人の客と話をしていた。 自分達に対するのとは打って変わって、気持ちが悪くなるような、媚びた態度をとっていた。 中でも、ピシッとスーツを着こなし、銀縁眼鏡をかけた、理知的な顔つきの40代の男性に、特に、愛想を振りまいているようだった。 B氏の部下が呟いた。

「あの人が、メイン・ゲストなのか。 すると、全員が警備部じゃないんだな。 そうか、そうか」

  B氏の妻が、廊下へ出て来て、B氏の部下と、もう一人の青年の腕を引っ張り、台所へ連れて行った。

「ちょっと、悪いけど、人数が増えちゃったみたいだから、あんた達二人、帰ってくんない? いや、後片付けがあるから、夜の9時頃、また来て欲しいんだけど、とりあえず、ここにいても、食べる物ないから、一旦、帰ってよ」
「はあ。 でも、あの人達、開発部の人も含まれてるんじゃないんですか?」
「誰が、開発部か、営業部かなんて、私には分からないの! 今さっき、亭主から電話があって、これから、7人連れてくって言うんだから、今そこに、5人いて、私と亭主を入れたら、14人で、それ以上、料理がないじゃないの! 簡単な計算でしょ!」
「それはそうですねえ・・・」

  B氏の妻と、B氏の部下が話しているのを、黙って聞いていたもう一人の青年が、B氏の部下の袖を引っ張った。

「しょうがないから、帰りましょう。 駅前で、私が何か、奢りますよ」
「そうですか。 どうも、すいません。 何せ、懐がさみしくて」

  昼食を食べていないので、二人とも、空きっ腹である。 外へ出ると、雪がちらついていた。 バス停へ向かって歩いていると、B氏が運転する車と、もう一台の車が、連なって、やって来た。 B氏が、車を停め、窓を開けて、B氏の部下に言った。

「なんだ。 どこへ行くんだ?」
「一旦、帰ります。 仕出し料理の数が足りなくなっちゃって、二人分、ないって言うんで」
「そんなはず、ないだろう。 人数は、何度も確認したぞ。 どこから、余分に来たんだ?」
「分かりません。 メイン・ゲストの人は、もう、来てるみたいですよ」
「そうか。 それじゃ、急がなきゃな」
「ぼくは、夜9時頃、後片付けに、また来ます」

  B氏は、もう一人の青年に、声をかけた。

「おーい、そっちのも、夜来るのか?」
「私は・・・、私は、もう来ません」
「そうか。 だけど、お前、そんな不貞腐れたような態度とるのは、感心しないな。 嫌なのは、お前だけじゃないよ。 俺だって、休みの日に、接待パーティーなんて、やりたくないよ。 ここにいるみんな、そうだよ。 仕事だから、仕方なくやってんだよ。 お前、仕事をナメてると、先々、とんだ目に遭うぞ」

  相手が、B氏の目を見もせずに、ムスッとしたままなので、B氏は呆れてしまい、説得を諦めた。

「まあ、後片付けは、どうにでもなるから、いいけどな。 好きにしな。 もう、来なくていいよ」
「・・・・・」

  B氏は、窓を閉めて、助手席に座っている、同僚に向かって言った。

「うちみたいな一流企業にも、あんな、しょぼい奴がいるんだなあ。 応援だからって、使えない奴、よこしやがって」
「今時の若いもんだから、きついこと言うと、辞めちゃうかもしれませんよ」
「それならそれで、いいさ。 我が社とは縁がなかったって事だ」

  B氏の車は、行ってしまった。 後ろの車が、続いて走り去った。 その後席には、資料室のC氏が乗っていて、寒そうに立ち去って行く青年達の方を、振り返って見ていた。


  B氏は、先に来ていた5人の中から、40代の男性が、A氏であると見て、丁寧に挨拶をした。 すぐに、仕事の話など持ち出しはしない。 今日は、とりあえず、顔繋ぎ。 ホーム・パーティーを楽しんでもらえるようなら、何回か繰り返し、こちらの誠意が伝わってから、仕事の話を切り出すつもりでいた。

  時刻は、午後5時過ぎ。 仕出し料理を皿に盛り付け直したものが出され、B氏の妻が作った料理も並べられた。 酒が配られ、健康を祝して、乾杯。 和気藹々とした雰囲気。 誰も、仕事の話はしない。 B氏から、そう言われているのである。 しかし、開発部の一人が、我慢しきれなくなり、40代の男性に、R技術について、それとなく、質問をした。 ところが、返って来た答えは、パーティー会場を凍りつかせた。

「いいええ。 私は、Aさんじゃありませんよ」

  驚いたB氏が、先に来た5人に向かって訊いた。

「じゃあ、どなたが、Aさんなんですか?」

  40代の男性が答えた。

「私達5人は警備部の者です。 Aさんの顔は知りません」

  B氏と、その妻が、呆気に取られていると、部屋の隅にいた、C氏が、おずおずと、発言した。

「あのう・・・、Bさん。 A博士なら、さっき、車に乗っている時に、すれ違いましたよ。 Bさんと、話をしてたじゃありませんか」
「なにっ!? 私が話をしていたのは、警備部の・・・。 ちょっと待った! 警備部から来ているのは、あんた方、5人だけなのか?」
「そうです」
「じゃあ、あの若僧が、Aさん? そんなはずないだろ! どう見ても、20代にしか見えなかったぞ!」

  C氏が言った。

「A博士は、まだ、30歳になっていませんよ」
「だって、10年前に、Z社と契約して、一緒に仕事をしたんじゃないのか!?」
「あの頃、19歳でしたからね」
「そんな事、聞いてないぞ!」
「知ってると思ってましたよ。 プロフィールに、年齢は出てたでしょう?」
「だって、だって、博士だったんだろう!?」
「ええ。 18歳で、博士号をとったそうです。 海外の大学だと、もっと若い例もありますよ」

  B氏は、顔を真っ赤にして、C氏に、八つ当たりした。

「あの人が、Aさんだって、どうして、もっと早く言わないんだ!」
「後ろの車から見ていたら、Bさんと、A博士が話をしていたから、てっきり、A博士に何か用事が出来て、出直して来るのかと思ってたんですよ」

  B氏、言葉が出なくなってしまった。 顔色が、見る見る、真っ青になって行く。 妻は、もっと前から、真っ青である。 開発部の人間も、そこそこ、青い。 営業部と、警備部の面々は、事の重大さが、今一つ分かっていない。

  B氏は、廊下に出ると、カタカタ震える手で、一旦帰った部下に、電話をした。

「おい! まだ、さっきの人と、一緒にいるか!?」
「いえ、たった今、別れました。 いやあ、えらい御馳走になっちゃいましたよ。 駅前で奢ってくれるって言うから、ラーメンか蕎麦を想像してたんですが、高級な和食の店に連れてかれちゃって、いきなり、うな重ですわ。 そのあと、まだ、体が温まらないからって、スッポン鍋を・・・」
「それはいい! 追いかけられないか!?」
「無理です。 車で帰りましたから。 駅前の駐車場に、置いてあったようです。 凄い高級車でしたよ。 『ホーム・パーティーに出るのに、こんな車で乗りつけたら、白けるから、バスに乗り換えて行った』って言ってました」
「電話番号は聞いてないか!?」
「聞いてません。 ちゃんと、お礼は言いましたけど。 一体、何なんですか?」
「戻ってもらいたいんだ」
「ぼくがですか?」
「お前じゃないっ! その奢ってくれた人の方だっ!」
「えーと、そのー、やめた方がいいんじゃないですかね。 食事中、課長の奥さんに扱き使われた話題で、大盛り上がりに盛り上がりまして・・・。 相当、怒ってましたよ」
「こっ!こっ!こっ! 扱き使ったあ?」
「いや、ぼくは、何とも思ってませんけど」

  B氏は、電話を切ると、背後に来ていた妻を振り返った。

「お前、一体、Aさんに、何をやらせたんだ?」
「だって、知らなかったんだもん!」

  妻の口から、詳しい事を聞かされたB氏は、絶句した。 謝って済む限界を超えていた。 全身から、力が抜けた。 もはや、A氏に、言い訳もできないと思って、全てを諦めてしまった。

  料理と酒がもったいないので、一応、飲食は行なわれた。 しかし、それは、パーティーと言えるような、華やかなものでも、和やかなものでもなかった。 A氏が好きだという、お通夜に近い雰囲気だったのは、皮肉である。


  これが、ドラマなら、紆余曲折はあったけれど、誤解である事が分かり、何も彼も水に流して、大団円。 というところだが、実際には、そう、うまくは運ばない。 X社は、A氏との契約に失敗し、R技術は、入手できずに終わった。 A氏は、ライバルのY社と契約し、R技術を提供。 それが元で、X社は、Y社に、市場シェアを奪われ、最終的には、Y社に吸収合併されてしまった。

  契約を取り逃がした後、B氏は、重役会議に引き出された。 寄ってたかって、峻烈な叱責を浴びせかけられた上で、懲戒処分を受け、平社員に降格となった。 左遷されて、しばらく、地方支社にいたが、吸収合併の時に解雇された。 再就職に失敗し、その後は、妻の収入で食わせてもらっている。 妻は、文句を言わない。 言えるわけがない。 自分が、相手をよく確かめもせずに、奴隷同然に扱き使った事が、主な原因だからだ。

  どうでもいい事だが、A氏がパンクを修理した、B氏の息子の自転車は、その後、3年以上、一度も空気が抜ける事がなかった。 さすが、理工系博士の仕事である。 しかし、乗り手がなくて、結局、捨てられてしまった。 資源ゴミに出しに行ったB氏は、錆だらけになった自転車の、後輪タイヤだけが、空気パンパンである事に気づきもしなかった。

  ところで、A氏が、土手道で、自転車2台を連結させる方法を思いついた事を、ご記憶だろうか? 機械工学に詳しい人なら、もしやと思ったかもしれないが、そのもしやである。 A氏が、数年後に発表した、「S理論(S連結)」は、この、自転車を連結するアイデアを元に、発想されたものである。 A氏、30代、最大の功績で、「10年に一度の、コロンブスの卵的アイデア」と、世界的に賞賛された。 S理論の特許で、数十億円稼いだというが、それは問題ではない。 優れた人というのは、常に頭を働かせていて、転んでも、ただでは起きないものだ、と言いたいのである。


  話を戻すが、細かい事を言うなら、ホーム・パーティーの一件で、B氏や、その妻だけを責めるのは、片手落ちである。 警備部が、予定していた3人ではなく、5人を送り込んだ事も、原因の一つだからだ。 大した理由ではなかった。 警備部の部長が、体育会系出身の豪傑タイプで、「パーティーなんて、頭数が多い方が盛り上がるに決まってる。 3人と言わず、5人で押しかけてやれ」と命じたのだそうだ。

  雑な性格だから、料理の都合など、細かい事まで、考えが及ばなかったのだろう。 その部長、ホーム・パーティーによばれた事はあっても、自分で開いた事は、一度もなかったに違いない。 「好き勝手に飲み食いしてもいい場所」くらいにしか思っていなかったのではなかろうか。 悪意があったわけではないが、常識がないと、こういう結果を招きかねないという例である。

  B氏が責任追及された重役会議に、その部長も加わっていたが、終始、知らぬ顔を決め込んでいた。 元々、神経が図太い上に、定年が近かったので、会社の将来の事など、どうでもよかったのである。 周囲も、「どうせ、もうすぐ、いなくなる人だから」と思って、何も言わなかった。


  C氏とA氏の関係だが、この一件で、こじれたかと思いきや、C氏が、A氏のもとを訪ねて、事情を説明し、深く謝ったので、許してもらえた。 その際、C氏は、B夫妻を庇う事は、一切しなかった。 誤解以前の問題として、人間としてどうかと思うような事をしていたからである。 B氏の妻は、人を人とも思っていない人間のクズ。 B氏は、とても、一緒に重要な仕事などできない、いい加減な男であった。

  C氏は、ホーム・パーティーをするほど、友人・知人が多くなかったが、家族で祝い事があった時などに、家族パーティーを開いて、A氏を招くようになった。 A氏は、とうに両親を失っていた上に、独身で、侘しい生活をしていたので、そんなささやかなパーティーでも、ニコニコして、とても、嬉しそうにしていたという事だ。