金持ちにゃなれんな
先週の続き。 ≪金持ち父さんシリーズ≫は、四冊で飽きてしまいましたが、その前後に、同じカテゴリーの本を三冊読んだので、その感想も載せておきます。
≪あなたに金持ちになってほしい≫
わはは。 思わず、「そりゃまた、どうして?」と聞き返したくなるタイトルですな。 読者を金持ちにして、この人達に何の得があるのか? と、
それが、あるらしいんですよ。 アメリカにも、第二次世界大戦後のベビーブームでどっと人口が増えた、≪団塊の世代≫があるらしいのですが、今後、その人々が定年を迎えると、老後の蓄えが足りず、生活に行き詰る世帯が大量に出現し、アメリカ経済を破綻させてしまうというのです。 そうなると、彼ら資産家も困るので、今の内に、団塊世代の皆さんに金持ちになって欲しいというわけ。
ドナルド・トランプという人は、アメリカでは知らない人がいない、世界的にも有名な不動産王。 ロバート・キヨサキ氏は、ハワイ出身の日系四世で、≪金持ち父さん 貧乏父さん≫というベストセラー本を書いた人。 ただし、キヨサキ氏は、本を書く前から金持ちであり、印税で潤って、財を築いたわけではありません。
キヨサキ氏は百万長者、トランプ氏は億万長者で、この本は、トランプ氏がキヨサキ氏に、共著の出版を持ちかけたもの。 ベストセラー作家にあやかろうというわけですな。 トランプ氏も本を出していますが、筆はキヨサキ氏の方が立つので、この本ではまず、キヨサキ氏が文章を書き、各テーマごとに、後からトランプ氏が加筆する形を取っています。
キヨサキ氏の文章は、≪金持ち父さん 貧乏父さん≫シリーズを通した内容を要約したもので、さほど新味はありません。 トランプ氏が何を考えているか、その方が興味深いですが、隠しているのか、言葉にするような考え方をしていないのか、書いている事に、あまり特徴は感じられません。
金持ちになる方法が書いてあるわけですが、株の選び方とか、不動産物件の見つけ方とか、具体的な事ではなく、発想の転換という基本的なレベルについて、ヒントを与えてくれるだけなので、期待のしすぎは禁物です。
≪となりの億万長者≫
書名には、「億万長者」とありますが、実際には、100万ドル以上の資産を持っている人を対象にしているので、「百万長者」ですな。 90年代後半に書かれた本ですから、当時の相場で考えると、日本円では、大体、一億円くらい。 著者は、アメリカの経済学者二人で、マーケティングが専門です。 富裕層相手の商売ノウハウを研究する過程で分かった、実際の金持ち達の生態をまとめたもの。
アメリカで、百万長者になっている人達の大半は、必ずしも収入が多いわけではなく、いわゆる、「締まり屋」で、支出の方を抑えて、比較的質素な生活をしているのだそうです。 逆に、収入は多いけれど、金持ちぶって、片っ端から使ってしまうために、資産がほとんど無い、≪似非金持ち≫も多いのだとか。 ≪刑事コロンボ≫で犯人になるような人達は、この、似非金持ちですな。 貯める事を知らないわけで、資産家ではないのです。
面接調査の際、金持ちをもてなそうと思って、高級ワインやキャビアを用意しておいたら、呼んだ金持ち達は、そんな物には一切手をつけず、クラッカーばかり食べていたのだとか。 金持ちのイメージとして、世間一般に想像されているのとは、生活レベルが全く違うんですねえ。 車に金を掛け過ぎないのも特徴で、みんな国産(アメ車)の大型車に乗っているのだとか。 外車を買う場合でも、中古を狙うのだそうです。 うーむ、金持ちらしくない。
ただし、支出を押さえると言っても、必ずしも、ケチというわけではなく、教育費などには、支出を惜しまないのだとか。 その一方で、子供に財産を渡す事には慎重で、経済的に完全に一人立ちしてからでないと、遺産が受け取れないようにしておくのだそうです。 子供に金を好きなだけ与えていると、駄目人間になってしまう事を知っているんですな。
もう、10年以上前の本なので、経済状況などの細部に、少々ズレが出ていますが、おおまかに、金持ちの実態を知る分には、面白い本だと思います。
≪敗者復活≫
アメリカでは、その名を知らない人が無い不動産王、ドナルド・トランプ氏の著書。
・・・なんですが、これは、改まって感想を書くような内容ではありませんでした。 一言で表現すると、「個人的な、ビジネスに関する思い出話」でして、学術的研究でもなければ、ハウツー本でもなく、およそ、参考になるところが見当たりません。
この本を読んでも、不動産取引に関して詳しくなるわけではなく、ただ、トランプ氏の大胆なビジネス手法を、ごく表面的に見せつけられるだけ。 「一目見て、その建物が気に入った」というような、感覚的な表現が多いのですが、もちろん、感覚のみに頼って、莫大な金額が動かせるわけがないですから、他にも、裏づけのある調査をしているのでしょう。
この人、ロバート・キヨサキ氏とは全く違っていて、自分の手の内を公にするつもりは、全く無いようです。 逆に言えば、同じビジネスマンであっても、トランプ氏の方が、厳しい世界に住んでいるんですな。 一歩間違えれば、莫大な資産が、一夜にして、莫大な負債に化けてしまうような。
この書名は、90年頃に不動産不況に見舞われて、借金だらけになってしまってから、再び事業を立て直した事を指しているのですが、本の全体がその事について書かれているわけではありません。 女性遍歴や、芸能人、スポーツ選手との交友など、雑多なテーマで、細切れのエピソードを寄せ集めたという体裁です。
はっきり言って、鼻摘みなのであって、知的な面白さを全く感じません。 トランプ氏は、ビジネスマンとしては超一流ですが、本の書き手としては、明らかに三流です。 もっとも、大変忙しい人ですから、本人が書いているかどうかすら怪しいですけど。
とまあ、以上、三冊でした。 最後に読んだ≪敗者復活≫がつまらな過ぎたせいも多分にあるのですが、いい加減、金持ちになる空想を膨らませるのにも飽きてしまい、ここで、パッタリと、その路線は途絶えてしまいました。 どうして、金持ちになる話に飽きてしまったのかというと、違和感がどんどん増幅してきて、自分を騙せなくなってしまったからだと思います。
ロバート・キヨサキ氏は、至って真面目に、金持ちになる方法を読者に伝授しようとしているのですが、キヨサキ氏当人も経験している通り、ただ考え方を変えるだけでは駄目で、リーダーシップを身につけたり、セールス技術を会得したりするには、馬鹿にならない時間と労力がかかります。 それが、私にできるとはとても思えないのです。 私だけでなく、すでに大人になっていて、Eクワドラントや、Sクワドラントで働いている人達の大部分が、この条件を欠いていると思います。 おいそれと真似られるような事ではないのです。
次に、もっと根本的な問題として、「金持ちになろうとしている人間の全てが、金持ちになれるわけではない」という、摂理があります。 金持ち父さんが教える金持ちになる方法は、≪起業≫と、≪投資≫が両輪を成していますが、どちらにも、勝者と敗者が存在します。 特に、投資の方は、「敗者がいるからこそ、勝者が存在しえる」というシステムになっています。
投資というと聞こえがいいですが、やっている事は、ギャンブルと同じなのであって、原理的には、競馬や競輪と、全く変わりません。 勝者が得るお金はどこから出て来たかといえば、敗者が賭けたお金なのです。 たくさんの敗者がいるからこそ、僅かの勝者が成立するんですな。 宝くじの原理も似ていますが、宝くじの場合、賭ける際に技量は関係してこないので、やはり、競馬・競輪の方が近いです。
金持ちゲームに参加する事は誰にでもできますが、金持ち父さんの分析では、参加者の9割は敗者になり、勝者は残りの1割だけという事になります。 ゲームの参加者は、多ければ多いほど、勝者の取り分は大きくなるので、キヨサキ氏やトランプ氏が、参加者を増やすために、自著の読者にノウハウを教える事は、必ずしも、利他行為とは言えません。 彼らは、ゲームの勝者になる自信があるので、カモの数は多ければ多いほどいいのです。
私も、金持ちにはなりたいのは山々ですが、才覚も無いのに、鵜の目鷹の目で他人の財産を分捕ってやろうと狙っている連中の中に入って行ったのでは、身包み剥がされる危険性が、非常~に高い。 自殺行為にも等しいです。 投資には、ある程度、元手が必要なわけですが、今まで、骨身を削ってコツコツ稼いで来たお金を、そんな危なっかしい事に使えますかね? ライバルがみんな間抜けだと言うなら、「ちっと、出し抜いてやろうか」とも思いますが、実際には、その逆でしょう。 間抜けは新参者の方であって、周りはほとんど、百戦錬磨のつわものなわけだ。 とてもと~ても、渡り合えたもんじゃないですよ。
金持ち父さんは、「だから、ファイナンシャル・リテラシーを高めるための勉強が必要なのだ」と言うわけですが、それも、どーだか・・・。 これから死ぬまで、不断の努力で、金持ちになるための勉強を続けるんですか? それは確かに、≪勉強≫ではあるけれど、≪学問≫ではないですよね。 どんなに高度なレベルに達しても、人に教えるわけには行きませんから、自分と自分の子供くらいにしか伝えられません。 何だか、意義の無い研究だとは思いませんか。
現に、キヨサキ氏は、ただ金持ちになるだけでは飽き足らず、実の父親の職業であった、≪教師≫にもなりたいと思って、金持ちになるためのノウハウを教えるボード・ゲームを作ったり、金持ち講座を開いたりしているわけですが、それ即ち、金持ちになる事が、それだけでは、人生の目標となりえない事の証明ではありますまいか。
実感として、近所に、金持ちが住んでいたとして、その人を無条件に尊敬できるかというと、そんな事は全然無いでしょう。 むしろ、金持ちというのは、近所の人から、忌み嫌われているのが普通です。 人間というのは、お金だけ持っていても、評価はされないんですな。
こういう事を書くと、金持ちの方は、「他人から評価されるためではなく、自分の人生のために、金持ちになるんだ」と言うでしょうが、単に自分の人生のためだけなら、一生かかっても使い切れないような資産は、不要ではありませんか? どんなにお金を儲けても、食べられる物の量や、楽しめる時間の長さは、普通の人達と変わらないんですから。
一千万円を超える高級車でも、50万円の中古軽自動車でも、車としての用途に変わりはありません。 クルーザーか、ヘリコプターでも買いますか? そんなもの、ただの厄介物でしょう。 いちいち、乗りに行くのも面倒くさい。 豪華客船でクルージング? 死ぬほど退屈な日々になりそうですねえ。 あ゛~、想像するだけで、うんざりだ。 人間が貪れる楽しみなんて、高が知れているんですよ。
惨めな敗者になる危険を冒してまで、挑戦するような事ですかね、金持ちになるという目標は? 要は、借金をするほど貧乏にならなければいいのであって、金持ちになる必要は無いと思うのです。 「金はいくらあっても困らない」とか、「あればあるほどいい」というのは、真っ赤な嘘であって、あり過ぎると、金銭感覚が麻痺して、間違いを起こし易くなります。 両津勘吉化するといえば、ピンと来るでしょうか。 何事も、≪ほどほど、適度≫に優る事は無いんですな。
ただ、借金地獄に堕ちて人生を棒に振ってしまわないために、ファイナンシャル・インテリジェンスを磨いておくというなら、それは有益だと思います。 「起業や投資で儲けて、楽して暮らそう」などと不埒な考えを抱くのではなく、世の中に張り巡らされたお金絡みの罠を避けるために、その仕組みを知っておくのです。 もっとも、防御目的で身につけた武術でも、攻撃用に簡単に転用できるのと同じで、「絶対に、金儲けには使わない」という、強い自制心が必要になり、そこが結構難題で、「むしろ、何も知らないでいた方が、人生通して見れば、いい結果になるのでは」という気もせんでもないですが。
とにかく、「金持ちになる方法はある。 しかし、全ての人間が金持ちになれるわけではない」という事は、よーく肝に銘じておくべきですな。 単に、能力の有無の問題ではなく、起業や投資で金持ちになるという事は、他人に物を売ったり、他人からお金を分捕ったりする事に他ならず、そういう行為は、物を買ったり、お金を分捕られる側の人間がいなければ、成立しません。 全員が全員、儲ける側に回るという事は、原理的・構造的に不可能なのです。
そして、その割合は、儲ける側が1に対して、喰われる側が9だというのです。 随分と割に合わない賭けではありませんか。 10人で1脚を奪い合う、椅子取りゲームだと言っても宜しい。 勝つ自信がありますか? 私は、ありません。 年中無休、朝から晩まで、お金の事ばかり考えている連中と、勝負なんて、とてもできませんよ。 ゲームの達人から身を守る唯一の方法は、ゲームに参加しない事なのです。
≪あなたに金持ちになってほしい≫
わはは。 思わず、「そりゃまた、どうして?」と聞き返したくなるタイトルですな。 読者を金持ちにして、この人達に何の得があるのか? と、
それが、あるらしいんですよ。 アメリカにも、第二次世界大戦後のベビーブームでどっと人口が増えた、≪団塊の世代≫があるらしいのですが、今後、その人々が定年を迎えると、老後の蓄えが足りず、生活に行き詰る世帯が大量に出現し、アメリカ経済を破綻させてしまうというのです。 そうなると、彼ら資産家も困るので、今の内に、団塊世代の皆さんに金持ちになって欲しいというわけ。
ドナルド・トランプという人は、アメリカでは知らない人がいない、世界的にも有名な不動産王。 ロバート・キヨサキ氏は、ハワイ出身の日系四世で、≪金持ち父さん 貧乏父さん≫というベストセラー本を書いた人。 ただし、キヨサキ氏は、本を書く前から金持ちであり、印税で潤って、財を築いたわけではありません。
キヨサキ氏は百万長者、トランプ氏は億万長者で、この本は、トランプ氏がキヨサキ氏に、共著の出版を持ちかけたもの。 ベストセラー作家にあやかろうというわけですな。 トランプ氏も本を出していますが、筆はキヨサキ氏の方が立つので、この本ではまず、キヨサキ氏が文章を書き、各テーマごとに、後からトランプ氏が加筆する形を取っています。
キヨサキ氏の文章は、≪金持ち父さん 貧乏父さん≫シリーズを通した内容を要約したもので、さほど新味はありません。 トランプ氏が何を考えているか、その方が興味深いですが、隠しているのか、言葉にするような考え方をしていないのか、書いている事に、あまり特徴は感じられません。
金持ちになる方法が書いてあるわけですが、株の選び方とか、不動産物件の見つけ方とか、具体的な事ではなく、発想の転換という基本的なレベルについて、ヒントを与えてくれるだけなので、期待のしすぎは禁物です。
≪となりの億万長者≫
書名には、「億万長者」とありますが、実際には、100万ドル以上の資産を持っている人を対象にしているので、「百万長者」ですな。 90年代後半に書かれた本ですから、当時の相場で考えると、日本円では、大体、一億円くらい。 著者は、アメリカの経済学者二人で、マーケティングが専門です。 富裕層相手の商売ノウハウを研究する過程で分かった、実際の金持ち達の生態をまとめたもの。
アメリカで、百万長者になっている人達の大半は、必ずしも収入が多いわけではなく、いわゆる、「締まり屋」で、支出の方を抑えて、比較的質素な生活をしているのだそうです。 逆に、収入は多いけれど、金持ちぶって、片っ端から使ってしまうために、資産がほとんど無い、≪似非金持ち≫も多いのだとか。 ≪刑事コロンボ≫で犯人になるような人達は、この、似非金持ちですな。 貯める事を知らないわけで、資産家ではないのです。
面接調査の際、金持ちをもてなそうと思って、高級ワインやキャビアを用意しておいたら、呼んだ金持ち達は、そんな物には一切手をつけず、クラッカーばかり食べていたのだとか。 金持ちのイメージとして、世間一般に想像されているのとは、生活レベルが全く違うんですねえ。 車に金を掛け過ぎないのも特徴で、みんな国産(アメ車)の大型車に乗っているのだとか。 外車を買う場合でも、中古を狙うのだそうです。 うーむ、金持ちらしくない。
ただし、支出を押さえると言っても、必ずしも、ケチというわけではなく、教育費などには、支出を惜しまないのだとか。 その一方で、子供に財産を渡す事には慎重で、経済的に完全に一人立ちしてからでないと、遺産が受け取れないようにしておくのだそうです。 子供に金を好きなだけ与えていると、駄目人間になってしまう事を知っているんですな。
もう、10年以上前の本なので、経済状況などの細部に、少々ズレが出ていますが、おおまかに、金持ちの実態を知る分には、面白い本だと思います。
≪敗者復活≫
アメリカでは、その名を知らない人が無い不動産王、ドナルド・トランプ氏の著書。
・・・なんですが、これは、改まって感想を書くような内容ではありませんでした。 一言で表現すると、「個人的な、ビジネスに関する思い出話」でして、学術的研究でもなければ、ハウツー本でもなく、およそ、参考になるところが見当たりません。
この本を読んでも、不動産取引に関して詳しくなるわけではなく、ただ、トランプ氏の大胆なビジネス手法を、ごく表面的に見せつけられるだけ。 「一目見て、その建物が気に入った」というような、感覚的な表現が多いのですが、もちろん、感覚のみに頼って、莫大な金額が動かせるわけがないですから、他にも、裏づけのある調査をしているのでしょう。
この人、ロバート・キヨサキ氏とは全く違っていて、自分の手の内を公にするつもりは、全く無いようです。 逆に言えば、同じビジネスマンであっても、トランプ氏の方が、厳しい世界に住んでいるんですな。 一歩間違えれば、莫大な資産が、一夜にして、莫大な負債に化けてしまうような。
この書名は、90年頃に不動産不況に見舞われて、借金だらけになってしまってから、再び事業を立て直した事を指しているのですが、本の全体がその事について書かれているわけではありません。 女性遍歴や、芸能人、スポーツ選手との交友など、雑多なテーマで、細切れのエピソードを寄せ集めたという体裁です。
はっきり言って、鼻摘みなのであって、知的な面白さを全く感じません。 トランプ氏は、ビジネスマンとしては超一流ですが、本の書き手としては、明らかに三流です。 もっとも、大変忙しい人ですから、本人が書いているかどうかすら怪しいですけど。
とまあ、以上、三冊でした。 最後に読んだ≪敗者復活≫がつまらな過ぎたせいも多分にあるのですが、いい加減、金持ちになる空想を膨らませるのにも飽きてしまい、ここで、パッタリと、その路線は途絶えてしまいました。 どうして、金持ちになる話に飽きてしまったのかというと、違和感がどんどん増幅してきて、自分を騙せなくなってしまったからだと思います。
ロバート・キヨサキ氏は、至って真面目に、金持ちになる方法を読者に伝授しようとしているのですが、キヨサキ氏当人も経験している通り、ただ考え方を変えるだけでは駄目で、リーダーシップを身につけたり、セールス技術を会得したりするには、馬鹿にならない時間と労力がかかります。 それが、私にできるとはとても思えないのです。 私だけでなく、すでに大人になっていて、Eクワドラントや、Sクワドラントで働いている人達の大部分が、この条件を欠いていると思います。 おいそれと真似られるような事ではないのです。
次に、もっと根本的な問題として、「金持ちになろうとしている人間の全てが、金持ちになれるわけではない」という、摂理があります。 金持ち父さんが教える金持ちになる方法は、≪起業≫と、≪投資≫が両輪を成していますが、どちらにも、勝者と敗者が存在します。 特に、投資の方は、「敗者がいるからこそ、勝者が存在しえる」というシステムになっています。
投資というと聞こえがいいですが、やっている事は、ギャンブルと同じなのであって、原理的には、競馬や競輪と、全く変わりません。 勝者が得るお金はどこから出て来たかといえば、敗者が賭けたお金なのです。 たくさんの敗者がいるからこそ、僅かの勝者が成立するんですな。 宝くじの原理も似ていますが、宝くじの場合、賭ける際に技量は関係してこないので、やはり、競馬・競輪の方が近いです。
金持ちゲームに参加する事は誰にでもできますが、金持ち父さんの分析では、参加者の9割は敗者になり、勝者は残りの1割だけという事になります。 ゲームの参加者は、多ければ多いほど、勝者の取り分は大きくなるので、キヨサキ氏やトランプ氏が、参加者を増やすために、自著の読者にノウハウを教える事は、必ずしも、利他行為とは言えません。 彼らは、ゲームの勝者になる自信があるので、カモの数は多ければ多いほどいいのです。
私も、金持ちにはなりたいのは山々ですが、才覚も無いのに、鵜の目鷹の目で他人の財産を分捕ってやろうと狙っている連中の中に入って行ったのでは、身包み剥がされる危険性が、非常~に高い。 自殺行為にも等しいです。 投資には、ある程度、元手が必要なわけですが、今まで、骨身を削ってコツコツ稼いで来たお金を、そんな危なっかしい事に使えますかね? ライバルがみんな間抜けだと言うなら、「ちっと、出し抜いてやろうか」とも思いますが、実際には、その逆でしょう。 間抜けは新参者の方であって、周りはほとんど、百戦錬磨のつわものなわけだ。 とてもと~ても、渡り合えたもんじゃないですよ。
金持ち父さんは、「だから、ファイナンシャル・リテラシーを高めるための勉強が必要なのだ」と言うわけですが、それも、どーだか・・・。 これから死ぬまで、不断の努力で、金持ちになるための勉強を続けるんですか? それは確かに、≪勉強≫ではあるけれど、≪学問≫ではないですよね。 どんなに高度なレベルに達しても、人に教えるわけには行きませんから、自分と自分の子供くらいにしか伝えられません。 何だか、意義の無い研究だとは思いませんか。
現に、キヨサキ氏は、ただ金持ちになるだけでは飽き足らず、実の父親の職業であった、≪教師≫にもなりたいと思って、金持ちになるためのノウハウを教えるボード・ゲームを作ったり、金持ち講座を開いたりしているわけですが、それ即ち、金持ちになる事が、それだけでは、人生の目標となりえない事の証明ではありますまいか。
実感として、近所に、金持ちが住んでいたとして、その人を無条件に尊敬できるかというと、そんな事は全然無いでしょう。 むしろ、金持ちというのは、近所の人から、忌み嫌われているのが普通です。 人間というのは、お金だけ持っていても、評価はされないんですな。
こういう事を書くと、金持ちの方は、「他人から評価されるためではなく、自分の人生のために、金持ちになるんだ」と言うでしょうが、単に自分の人生のためだけなら、一生かかっても使い切れないような資産は、不要ではありませんか? どんなにお金を儲けても、食べられる物の量や、楽しめる時間の長さは、普通の人達と変わらないんですから。
一千万円を超える高級車でも、50万円の中古軽自動車でも、車としての用途に変わりはありません。 クルーザーか、ヘリコプターでも買いますか? そんなもの、ただの厄介物でしょう。 いちいち、乗りに行くのも面倒くさい。 豪華客船でクルージング? 死ぬほど退屈な日々になりそうですねえ。 あ゛~、想像するだけで、うんざりだ。 人間が貪れる楽しみなんて、高が知れているんですよ。
惨めな敗者になる危険を冒してまで、挑戦するような事ですかね、金持ちになるという目標は? 要は、借金をするほど貧乏にならなければいいのであって、金持ちになる必要は無いと思うのです。 「金はいくらあっても困らない」とか、「あればあるほどいい」というのは、真っ赤な嘘であって、あり過ぎると、金銭感覚が麻痺して、間違いを起こし易くなります。 両津勘吉化するといえば、ピンと来るでしょうか。 何事も、≪ほどほど、適度≫に優る事は無いんですな。
ただ、借金地獄に堕ちて人生を棒に振ってしまわないために、ファイナンシャル・インテリジェンスを磨いておくというなら、それは有益だと思います。 「起業や投資で儲けて、楽して暮らそう」などと不埒な考えを抱くのではなく、世の中に張り巡らされたお金絡みの罠を避けるために、その仕組みを知っておくのです。 もっとも、防御目的で身につけた武術でも、攻撃用に簡単に転用できるのと同じで、「絶対に、金儲けには使わない」という、強い自制心が必要になり、そこが結構難題で、「むしろ、何も知らないでいた方が、人生通して見れば、いい結果になるのでは」という気もせんでもないですが。
とにかく、「金持ちになる方法はある。 しかし、全ての人間が金持ちになれるわけではない」という事は、よーく肝に銘じておくべきですな。 単に、能力の有無の問題ではなく、起業や投資で金持ちになるという事は、他人に物を売ったり、他人からお金を分捕ったりする事に他ならず、そういう行為は、物を買ったり、お金を分捕られる側の人間がいなければ、成立しません。 全員が全員、儲ける側に回るという事は、原理的・構造的に不可能なのです。
そして、その割合は、儲ける側が1に対して、喰われる側が9だというのです。 随分と割に合わない賭けではありませんか。 10人で1脚を奪い合う、椅子取りゲームだと言っても宜しい。 勝つ自信がありますか? 私は、ありません。 年中無休、朝から晩まで、お金の事ばかり考えている連中と、勝負なんて、とてもできませんよ。 ゲームの達人から身を守る唯一の方法は、ゲームに参加しない事なのです。