2022/11/27

EN125-2Aでプチ・ツーリング (38)

  週に一度、「スズキ(大長江集団) EN125-2A・鋭爽」で出かけている、プチ・ツーリングの記録の、38回目です。 その月の最終週に、前月に行った分を出しています。 今回は、2022年10月分。





【内浦三津・三津坂隧道 / 旧三津坂隧道】

  2022年10月4日に、バイクで、沼津市・内浦三津と、伊豆の国市・伊豆長岡の間にある、「三津坂隧道」と、「旧三津坂隧道」へ行って来ました。

≪写真1≫
  三津坂隧道の、伊豆長岡側。 割と普通のトンネルです。 昭和36年、1961年に竣工。 ちなみに、「隧道(ずいどう)」と「トンネル」は、入れ換えが利く言葉です。 正式名称が、「○○隧道」でも、「○○トンネル」と呼ばれている所は、普通にあります。

≪写真2≫
  三津側。 向こうの光が見えていますが、そのくらいの長さのトンネルです。

  注意看板の位置まで、反対側と、そっくりですな。 上の大きな看板には、「トンネル内 自転車あり トンネル内 走行注意」。 下の縦長の看板には、「自転車に注意」とあります。 どちらも、新しい物。 このくどさは、最近、自転車の事故でもあったんですかね?

≪写真3≫
  三津側を出て、ちょっと行った所に、説明板が立っていました。 明治29年に竣工した、「旧三津坂隧道」が、近くにあるとの事。 これは、行かずばなりますまい。 左の道から、入って行くようです。

≪写真4左≫
  しばらく登って行くと、ありました。 このトンネル、有名な、「旧天城トンネル」よりも、8年も早く、造られたのだとか。 それは、凄い。 トンネル自体の保存状態は良いようでしたが、道がぐちゃぐちゃで、これ以上、近寄れませんでした。

≪写真4右≫
  旧トンネル入口の向かい側に停めた、EN125-2A・鋭爽。 コケた後、補修して、初めて、出かけましたが、バイクの方は、機能上、問題なし。 走りゴケだったら、そうは行かなかったでしょう。 私の腰の方が、ダメージが大きく、この時にも、まだ、ギクシャクしていました。





【伊豆の国市長瀬・溜池】

  2022年10月11日に、伊豆の国市長瀬・溜池に行って来ました。 住宅地図に載っていたところ。

≪写真1≫
  伊豆長岡の、市役所がある交差点から、三津坂峠に登り、三津坂トンネルのちょっと手前を右に下りると、あります。 幹線道路から見える、すぐそこ。

  溜池としては、普通の大きさ。 擬木の柵あり。 注意看板の内容は、

長岡南小PTA危険箇所
キケン、あぶない!
あそぶな、釣るな
ちかよるな!
市立長岡南小学校PTA郊外指導部

  SNSで吊るし上げられないか、心配になる力強さですな。 子供に言う事を聞かせたい場合、こういう言葉を並べるより、

水の事故が起こると、救助や捜索に
大勢の人出と、莫大なお金がかかり
地域社会に大きな迷惑をかけます
水が溜まっている場所には
近寄らないようにしましょう

  とでも書いた方が、効くと思います。 救助費用が、自分の親にかかって来るかも知れない、と匂わせるのが、味噌。

≪写真2≫
  西の方、長辺方向を見た様子。 水草が浮いています。 あまり、綺麗な感じはしません。 溜池だから、仕方ないか。

≪写真3≫
  北の方、短辺方向を見た様子。 周囲の岸は、コンクリート・ブロック垣で固められています。 水門のバルブがあります。 溜池だから、当然ですが。

≪写真4左≫
  池の畔と言うか、道路と言うか、中途半端な所に停めた、EN125-2A・鋭爽。 コケた後、バイクは直して、ほぼ元の状態に戻っていますが、私の腰が治らず、この日も、ギクシャクしたまま、行って帰って来ました。

  この溜池、個人の住宅の裏手にあり、何となく、雰囲気が良いです。 水がもっと綺麗で、周囲に、花など咲かせ、洒落たベンチでも置けば、名所になりそうな雰囲気。

≪写真4右≫
  レイアウトの関係上、ここに持って来たのですが、この日、最初に行ったのは、旧三津坂隧道の東側出入口でした。 前回、西側しか見なかったので、その補足。

  写真には写っていませんが、手前に仕切りがあり、ここまでしか近づけません。 トンネル内も、通行不可。 しかし、安全を確認した上で、産業遺産公園として整備すれば、客が来そうな気もしますねえ。





【伊豆の国市長岡・皆沢大黒天①】

  2022年10月20日、バイクで、伊豆長岡の、皆沢という所にある、「大黒天」へ行って来ました。 実は、古い地図で、市役所の近くに出ている、「丸山古墳」を目指したんですが、見つけられず、代わりに、大黒天に寄ったのです。 主祭神が、大黒様というのは、珍しい。

≪写真1≫
  伊豆の国市役所の少し北。 住宅街の中にあります。 道の曲がり方が、いかにも、昔ながらの街並みという感じ。

≪写真2≫
  社殿。 トタン寄棟で、お寺の本堂のような形をした屋根。 拝殿の名額には、「大黒天」とありました。 大黒天は、神様ですから、神社なんですが、ネット地図には、「大黒堂」と出ており、 普通、「○○堂」とあったら、仏教系ですから、普通の神社とは、少し違うのかも知れません。 鳥居は、なかったです。

≪写真3左≫
  社殿を側面から。 拝殿と本殿が、廊下で繋がっている型式ですが、本殿が、拝殿にめり込んでいるような感じです。 本殿の屋根も、寄棟方形で、「お堂」っぽいです。

≪写真3右≫
  拝殿前に置かれた、賽銭箱。 右から、「奉納」とあります。 打ち出の小槌が描かれているのは、大黒天らしい。 防犯に、大きな南京錠がかけてありました。

≪写真4左≫
  石燈籠。 これは、一基だけ。 「文化十年」。 1813年。 江戸後期、徳川家斉の治世。 よくもっています。 形に無理がないから、壊れにくいんでしょうか。 火袋は、作り直しているのかも知れません。

≪写真4右≫
  石燈籠。 こちらは、一対。 柱が円柱、火袋が六角柱です。 仏教っぽいですが、神社でも、こういうタイプは、見られないではないです。





【伊豆の国市長岡・皆沢大黒天②】

≪写真1左≫
  境内にあった、忠魂碑、その他の石碑。

  忠魂碑と、大黒様は、似合いませんが、他に建てる所がなかったんでしょうな。 ブロック塀で囲んであるのは、異質感を減じるのが目的かも知れません。

  その他の石碑は、別の場所から、移されてきたのでは?

≪写真1右≫
  漱盤。 欠けてしまって、もはや、用を為しません。

≪写真2左≫
  もう一つ、漱盤。 こちらも、同じような欠け方をしています。 まさか、同一人が壊したわけではあるまいね?

≪写真2右≫
  土俵。 たぶん、子供相撲用。

≪写真3≫
  路肩に停めた、EN125-2A・鋭爽。 坂コケ後の補修の後、バイクの調子はいいです。 問題は、私の腰でして、どうも、一生残るのではないかと思うような痛み方。 この時も、ギクシャクしながら、行って帰って来ました。

≪写真4左≫
  以下は、行き帰りに、沼津市・大平で撮った写真。

  遠くに、オレンジ色が見えたので、花が咲いているのかと思ったら、柿の実でした。 そういう季節になったんですな。

≪写真4右≫
  セイタカアワダチソウ。 この花、一本ずつ見ても、堂々としているし、群生していても、美しいです。 雑草にしておくのは惜しい。

≪写真5≫
  パンパスグラス。 これは、お見事! 本来、こういう、ちょっと広い所に、独立して生える植物なんでしょう。 一つの世界を形成している観あり。





【伊豆の国市南條・伊豆箱根鉄道・伊豆長岡駅】

  2022年10月24日、バイクで、伊豆長岡・南條にある、「伊豆箱根鉄道 伊豆長岡駅」へ行って来ました。 正確に言うと、中には入ら なかったから、駅前です。 鉄道駅は、目的地としては、些か安直ですが、私は、伊豆箱根鉄道に乗った事が一度もないので、駅も乗り下 りした事がなく、新鮮と言えば新鮮でした。

≪写真1≫
  駅舎の、ほぼ全景。 このくらいが、ちょうど良いと感じさせる大きさです。 ローカル鉄道とはいえ、温泉地の駅なので、乗降客は 、多いと思います。 私が行った時には、ほとんど、人がいませんでしたが、たまたま、列車が着かない時刻だったのでしょう。

  駅前は、そこそこ広くて、バス・ターミナルもあります。 しかし、脚に自信がある人なら、温泉街まで、歩けない距離ではありませ ん。 荷物が重い場合は、バスか、タクシーの方が、お勧め。

≪写真2左≫
  駐車場。 有料。 駅に人を送って来た程度なら、ここを使わなくても、停める場所はあります。 ホームで見送るとなると、話は違 って来ますけど。

≪写真2右≫
  奥に、駐輪場があります。 遠いので、見に行きませんでした。 有料か無料かは、不詳。

≪写真3≫
  駐車場の前に停めた、EN125-2A・鋭爽。 スポーツ・バイクは、田舎の方が似合いますが、こういう、ちょっと都会っぽい背景に置い ても、そこそこ、絵になりますな。

≪写真4≫
  帰りに、狩野川の土手道を通ったんですが、河川敷に、ススキ、もしくは、荻(オギ)と、セイタカアワダチソウが、群生していまし た。 秋ですなあ。

  ちなみに、ススキと荻の見分けですが、山の中にあれば、間違いなく、ススキ。 水に近い所にある場合、ススキか荻か分かりません 。 荻は、根から放射状に茎が出ますが、群生していると、それも、見分けられません。




  今回は、ここまで。

  坂コケした後なので、腰がきつい状態で出かけた月でした。 週を重ねるごとに、ギクシャク感は、少なくなって行きました。 一時は、死ぬまで治らないかと恐れていたのですが、少しずつでも、回復してくれて、助かりました。 中には、限界を超えて、腰を痛めてしまい、結局、治らずに、寝た切りになったり、車椅子生活になったりする人もいる事でしょう。 幸運だったと、感謝するしかありません。

  バイクの方の補修記事を、先に出してありますが、バイクのダメージは、簡単に直せる程度というか、そもそも、あまり、気にならない程度でした。 車と違って、複雑な形状をしているので、多少、外観に難が出ても、目につかないんですな。 バイクは、車以上に、「走って、ナンボ」の乗り物なのでしょう。

2022/11/20

実話風小説⑩ 【社内押し売り】

  「実話風小説」の10作目です。 普通の小説との違いは、情景描写や心理描写を最小限にして、文字通り、新聞や雑誌の記事のような、実話風の文体で書いてあるという事です。




【社内押し売り】

  その会社で、A氏は、中途採用だった。 20代に、3回、職を換わり、30歳間際に、その会社に入社したのである。 現在は、45歳になっている。 A氏の経歴を、最初に断っておくのは、彼が、学卒入社の社員より、世間知が多かった事を、念頭に置いておいてもらいたいからだ。 人間、転職を繰り返していれば、嫌でも、知恵がつく。


  A氏は、通勤に、○○という名前の車を使っていた。 20年ほど前に、生産・販売が終わった車種で、特に評判が高かったわけではないから、旧車と呼ぶ程ではないが、もう、どこを走っていても、同じ車種を目にする事がないくらい、珍しい車になっていた。 古い車だが、よく整備されていて、外観も、新車同様だった。

  ある日の昼休み。 職場の休憩所で、たまたま、車の話題になった。 「Aさんの○○は、もう、貴重だよねえ」、「綺麗にしてるよなあ。 持ち主の性格が出るねえ」と、皆がプラス方向の評価をしていた。 そういう事は、もう、5年くらい前から、多くの人に言われて来ていて、「いやあ、金がないから、買い換えられないのさ」と、謙遜するのが、いつもの事だった。 いつもと違っていたのは、その場に、他の部署の若い社員が、一人加わっていた事だった。 友人と話をしに、たまたま、そこに来ていたのだ。

  その後、数日が経った。 いつものように、昼休みに、休憩所で、5・6人が集まり、世間話をしていると、他の部署の男、Bがやって来た。 40代半ば、つまり、A氏と同じくらいの年格好。 煮ても焼いても食えないような、ふてぶてしい態度である。 顔も、そんな態度に相応しい顔だったが、顔は事件と関係ないから、深くは触れない。

  年配の社員は、そのBが、コネ入社した男で、仕事ができず、あちこち、職場を移った挙句、資材管理部で、構内運搬トラックの運転をしている事を知っていた。 本来、定年前の高齢者がやる仕事なのだが、コネを利かせて、前任者を他へ追いやり、自分がそこに居座ってしまったのである。

  Bは、馴れ馴れしい態度で、ぶっきらぼうに、こう言った。

「Aさんて、どの人? ○○に乗ってる人」

  A氏は、スマホを弄ったまま、目も上げなかったが、年下の同僚が、A氏を指さしたので、分かってしまった。 Bは、馴れ馴れしい言葉遣いで、A氏に言った。

「○○のオプション部品があるんだけど、買わない?」
「要らない」
「そう、あっさり、断るなよ。 わざわざ、昼休み潰して、来てやってるんだからよ」
「そんな事、頼んでない」

  A氏は、礼儀正しい人柄で、常日頃、面識のない相手には、丁寧語で喋っていたので、同僚達は、意外に思った。 その時、A氏の顔を見た者は、普段とは全く違う、厳しい表情が出ているのに気づき、驚いた。 Bは、A氏の返事を無視して、勝手に話を進めた。

「いいよ。 今度、持って来てやるよ。 見れば、欲しくなるよ」
「持って来なくていい。 というか、持っ・て・来・る・な」
「そういう言い方はないだろ」
「俺は、はっきり断ったからな。 ちゃんと、覚えとけよ」
「ちっ。 変な奴!」

  Bは、ブツブツ言いながら、帰って行った。 いなくなると、年下の同僚が、A氏に言った。

「Aさん、どうしたの? 珍しく、怒っちゃって」
「ああいうのが、たまにいるんだよ。 全く知らない奴だが、どうせ、ろくな奴じゃないだろう」

  年上の同僚が言った。

「でも、あいつ、あれじゃ、引き下がらないかも知れんな」

  A氏が、暗い表情で、応えた。

「確かに、ああいうタイプは、人の言う事なんか、聞きませんよね」


  三日後、Bが、またやって来た。 驚いた事に、大きくて、白くて、細長い物を持っていた。 車のフロント・バンパー下に付ける、スポイラーである。 長さが、2メートル近い。 箱には入っておらず、剥き出しだった。 長い間、埃を被っていたのを、濡れ雑巾で拭いたような痕がついていた。

「これこれ! ほら、いいだろ? ほとんど、使ってないからよー」

  A氏は、スマホを弄ったまま、無視している。 年下の同僚が、気まずい雰囲気になるのを嫌って、口を開いた。

「ほとんど使ってないって事は、一度、付けてるんですか?」
「おお。 うちの嫁が、昔、○○に乗っててよー。 その時、オプションで買って、付けたんだけど、嫁が、暴走族みたいで嫌だって言うから、外したんだよ。 女は、やっぱ、車の事が分からないんだなー。 それから、ずっと、物置に入れてたから、大きな傷はないよ」
「という事は、小さな傷はあるんですね」
「Aの車って、青だろ。 どうせ、塗り直す事になるから、小さい傷は、見えなくなるよ」

  いつのまにか、A氏の事を呼び捨てである。 A氏は、ようやく、顔を上げ、決然とした語気で言った。

「買わないって、前に言っただろ。 持って来るなとも言ったよな。 なんで、持って来るんだ? 言葉の意味が分からないのか?」
「わざわざ持って来てやったのに、なんで、怒るんだよ。 変なんじゃねーの?」
「変なのは、お前だ! いいから、持って帰れ!」

  その場には、他に、5人いたが、全員、変なのは、Bの方だと思っていた。 この話をここまで読んで来た人も、きっと、同感だろう。

  Bは、帰って行ったが、入れ替わりに、以前、友人と話をしに、この休憩所に来ていた、他の部署の若い社員が顔を出した。 Bが帰るまで、物陰に隠れて、様子を見ていたのだ。

「すみません。 Bさんに、○○が、Aさんの車だって話しちゃったの、僕です。 まさか、あんな物を売りつけに行くとは思わなかったんで・・・」

  A氏は、しばらく、若い男の顔を見ていたが、別に怒りもせずに言った。

「いや、いいよ。 あの馬鹿、どうせ、駐車場で、俺の車を見てて、前々から、スポイラーを売りつけてやろうと考えてたんだろう。 お前さんが言わなくても、いずれ、他から聞きつけて、やって来ただろうよ」
「ほんと、すみませんでした」

  年上の同僚が言った。

「だけど、あいつ、まだ、引き下がらないかも知れんな」

  A氏は、うんざりした表情を見せた。


  悪い予感は的中した。 その日、退勤して、A氏が駐車場に行くと、Bが、A氏の車の所で、待っていた。 A氏の青い○○の、フロント・バンパーの下には、白いスポイラーが、ガム・テープで貼り付けられていた。 Bは、ニカニカ笑っていた。

「ほら、こんな感じ。 カッコいいだろ? 買った時は、10万だったけど、中古だから、8万でいいよ」

  これには、A氏が、激怒した。

「何をやってるんだ! この馬鹿野郎! 他人の車だぞ! お前は、頭がおかしいのか!」

  すぐに、ガム・テープを剥がしにかかった。 スポイラーが、アスファルト面に落下するのを、Bが慌てて支えた。

「そんなに怒る事ないだろ。 ガム・テープで貼っただけなんだからよー」

  ところが、それだけではなかった。 剥がしたガム・テープの痕が、ベタベタと残ったのは、まだ、何とかできるとして、片側の側面に回り込んだ部分が、明らかに、歪つに曲がっており、バンパーの青い塗装を引っ掻いて、黒のウレタン素地が露出していた。

「この野郎! 人の車にキズをつけやがって!」
「大丈夫だよ。 スポイラーを付ければ、隠れるって」
「見て分からないのか! これは、セダン用のスポイラーだ! この車は、ハード・トップだ! 同じ、○○でも、車型が違うんだ! 幅も違うんだ。 付くわけないだろ! この大馬鹿野郎が!」

  Bは、絶句した。 道理で、嵌まり難かったわけだ。 この男、○○が、もう、20年も前の車なので、どんな車型があったのか忘れていたわけだが、たとえ、覚えていたとしても、スポイラーを売りつけたい一心で、無理やり嵌め込もうとしたかも知れぬ。

  A氏は、スポイラーを抱えて、ぼっ立っているBに、人指し指を突きつけて言った。

「バンパーの傷は、修理代を弁償してもらうからな! この色、今じゃ、廃番になってて、作ってもらう事になるから、高いぞ! 10万は、覚悟しておけよ!」

  Bは、ハスを尖らせて、ボソボソと言った。

「冗談じゃねーよ。 誰が、そんな金、払うかよ」
「払わなきゃ、警察だ! 明々白々、器物損壊罪だからな!」

  ここで、騒ぎを聞いて近くに来ていた、A氏の同僚が、口を出した。

「おいおい。 即、警察は、ちょっと、まずいだろう。 会社内で起こった事だし。 とりあえず、上司に相談した方がいいんじゃないか?」
「おお。 いい事言うな。 そうしよう」

  A氏は、車についた傷を、スマホで撮影してから、会社の方へ引き返して行った。 Bは、ぼそぼそ、独り言を言いながら、自分の車の方へ、歩いて行った。


  さて、A氏だが、会社に戻ると、自分の上司ではなく、Bの上司を訪ねた。 資材管理部の係長である。 その辺にいた人に、Bの名前を出して、誰が上司か訊ねたら、すぐに居場所を教えてくれた。 幸い、係長は、まだ退勤せずに、残務をしていた。 A氏よりも、5歳くらい、若い男だった。 Bにとっては、年下の上司という事になる。

  A氏は、極力、客観的に、事情を説明したのだが、途中から、係長の顔が、「やれやれ、そんな話か」と言いたそうな表情に変わった。

「そういう事は、当人同士で、話し合ってくれないかなあ。 俺も、仕事が忙しくてさあ」

  A氏は、それを予測していたかのように、きっぱりと言った。

「当人同士というと、警察に行く事になりますが、それでいいですか?」
「えっ! 警察? 何を言ってるんだ? そんな大ごとか?」
「器物損壊罪は、刑事犯罪ですよ」
「ちょっちょっちょっと、待ってくれ!」

  ここで、初めて、係長は、A氏の顔をまともに見た。 これ以上はないというくらい、冷めた表情である。 しかも、係長の人物を見切ったような目つきをしている。 係長の顔から血の気が引き、真っ青になった。 係長は、Bに電話した。 Bは、車で帰宅途中だったが、「すぐに、会社に戻れ!」と怒鳴りつけられて、30分ほどして、戻って来た。 「売りつけようとした物を、持って来い!」とも言われていたので、スポイラーを持っていた。 現物を見て、係長の眉間の皺が、ざっくり深く切れ込んだ。

「これか・・・。 こんな物を、会社に持って来やがって・・・」
「だって、係長が、持って来いって・・・」
「そうじゃねーよ! この人に売りつける為に、昼間、会社まで持って来たんだろう! それ自体が非常識だと言うんだ!」
「・・・・・」
「いいから、傷をつけたバンパーを弁償しろ!」
「10万なんて、払えませんよ。 それでなくても、息子が中学に上がったせいで、俺の小遣いが減らされて、それを補う為に、これを売ろうと思ったんだから」
「もう・・・、もう・・・、あんたの面倒なんて、見れんわ! それが、大人の言い訳かよ! 俺は、小学生を相手に喋っているのか? 一体、何なんだ、あんたは!」

  係長は、縋るような目で、A氏を見た。

「申し訳ないですが、穏便に収めてもらえませんか。 弁償は、何とか・・・、いやあ、10万は、私も出せないなあ。 何とか、なりませんか?」
「弁償してもらえなければ、警察に行きます」
「それは、勘弁して下さい。 大ごとになると、困るんです」
「だから、大ごとにする前に、ここへ来ているんですよ。 この一件、私には全く落ち度がないですから、弁償代を値切られても、応じる義理なんて、ないですよ」
「困ったなあ・・・、困ったなあ・・・」
「あなたに対処する力がないなら、あなたの上司に当たります。 課長は、何さんですか?」
「それも、困るんですよ。 あまり、イジめないで下さいよ」
「イジめちゃいませんよ。 社内での問題解決の、手続きを踏もうとしているだけです」

  そこへ、退勤しようとする、課長が通りかかった。 50歳くらいの男である。 廊下から、ガラス窓越しに、室内に人が残っているのを見て、その内の一人が、細長い白い物を持っているのに興味を引かれ、入って来たのである。

「いつまでも、残ってるなよ。 もう、電気消すぞ」

  そう言ってから、どうやら、悶着が起こっているらしい事に気づいた。 顔を知らない、A氏がいたので、何事か訊いた。 A氏は、事情を説明した。 係長は、依然として、青くなっている。 Bは、つまらなそうな顔で、机に尻を載せ、片足をブラブラさせていた。 話を聞いた課長の判断は、速かった。

「それは、Bが弁償するのが、当然だな」

  Bは、係長に言ったのと、同じ言い訳を繰り返そうとしたが、途中で、課長に遮られた。

「社会人の世界じゃ、そんな言い訳は通用しないんだ。 お前の家庭の事情なんて、この人の知った事か。 警察沙汰になれば、起訴されて、裁判だぞ」

  その上で、A氏に向き直って、真剣な顔で言った。

「確実に弁償させますから、安心して下さい。 とりあえず、今日は、引き取っていただけますか。 私の連絡先をお教えしておきます」

  この課長は、真っ当な人物だった。


  この一件は、更に上まで、報告された。 重役会議である。 なぜなら、Bのコネ元が、常務だったからだ。 ただし、常務は、病気で入院中で、常務代理が立てられていた。 常務は、末期癌であり、もう復帰の見込みはなくなっていたが、創業社長の片腕を長く務めた功労者だったので、肩書きは維持され、他の重役達からも、敬意を払われていた。

  寝たきりの常務のもとにも、この件が報告された。

「また、Bか・・・。 あんな馬鹿の事なんか、知らんわ。 クビにしてくれ。 俺はもう死ぬから、俺の事は気にしなくていい」

  Bは、常務のコネで入社して以来、何度となく、問題を引き起こしていた。 常務は、そのたびに、尻拭いをして来たのである。 仕事上のミスで、会社に損害を及ぼす事もあったが、損失の穴埋めを、常務が自費でしていた。 Bは、常務の妻の弟の息子で、義理の甥に当たるのだが、妻の一族は、女が優秀な代わりに、男は駄目人間ばかりで、Bもその典型だった。 常務も、血縁の甥なら、とっくにクビにしていたのだが、姻戚だと、妻の実家に遠慮があり、思いきった対処ができなかったのだ。

  とはいえ、常務の意向だけで、社員一人をクビにできないので、Bの素行について、調査が行なわれた。 今回の一件も、その対象になったわけだが、A氏が、スマホで録っていた、音声データが、大いに物を言った。 A氏は、Bのようなタイプを、以前に勤めていた会社でも、経験しており、犯罪に発展するのを予見して、最初から、やり取りを録音していたのである。 用意のいい事だった。 「先に売ってくれと言ったのは、A君の方だから・・・」といった、調査開始当初に、Bが口にした言い訳は、ことごとく、嘘である事がバレた。

  社内調査をしたところ、Bが社内押し売りを始めてから、それまでの、10年ほどの間に、Bから物を売りつけられた被害者が、29人も出て来た。 ほとんどが、新入社員の時に、カモにされていた。 Bは、独身寮の食堂に出入りし、新入社員がいるテーブルへ合席して、「何でも、相談して」などと言って、知り合いになり、自分が使い古した物を、売りつけていたのだ。

  金額は、3万円以下が多かったが、初期の32型液晶テレビを、10万円で売りつけられた者もいた。 「買った時は、20万円もした」と言われたらしい。 しかし、その頃には、すでに値崩れして、新品が、5万円以下で買える時代になっていたのを、「初期の方が、国産パネルだから、性能がいい」などと、いい加減な事を言い、無理やり売りつけたのである。

  ついでながら、そのテレビ、枠の部分に、大きなプリクラのシールが貼ってあったので、何かと訊いたら、「子供が、イタズラで貼ったんだろう」との軽い返事。 プリクラの写真は、顔の所だけ、マジック・インキで塗り潰してあった。 買い取った後で剥がして見たら、フレームが割れていて、液晶画面も、その付近だけ、歪んでいた。

  一番、金額が大きかったのは、スクーターで、これは、使い古しではなく、フリー・マーケットで、3万円で買った物を、自分では一度も乗らないまま、雨曝しにしておいたのだが、新入社員の一人に、スクーターを探してる者がいると聞いて、12万円で売りつけたのである。 現物を見せられて、あまりのボロさに仰天したが、その青年、上昇志向があり、Bは常務にコネがあると聞いていたから、取り入るつもりで買ったのである。

  ついでながら、そのスクーター、エンジンが完全に固着していて、全く動かなかったらしい。 何とか修理しようと思って、バッテリーを買い換えたり、バイク屋に預けたりしたが、結局、不動。 修理できなかったのに、修理代を、3万円も取られた上に、廃車費用が、1万円かかったというから、ひどい話だ。

  被害者の中に、商品企画部のエースが混じっていて、重役達、全員、その青年の名前を知っていたので、驚いた。 まだ、20代後半なのだが、大変なアイデア・マンで、会社の利益の3分の1を、その青年の頭が稼ぎ出していた。 常に、ライバル社からの引き抜きが警戒されていて、会社側は、特別に優遇措置を取り、腫れ物に触るような扱いをしていた。

  そのエースが、Bのカモにされていたというのである。 売りつけられたのは、自作パソコン・キットで、Bが自分用に買ったはいいが、組み立てられずに、放置してあったのを、5万円で譲ってやるというので、OSを確認してから、買った。 ところが、いざ、現物を見てみると、OSだけ、比較的新しい物を中古で買い足したもので、その他のハード部品は、15年も前のものだった。 一応、組み立ててはみたが、動画の処理能力が低過ぎて、使い物にならなかった。

  Bに対して、詐欺ではないかと、文句を言ったら、睨みつけられて、人がいない所へ引っ張って行かれ、「変な言いがかりは、つけるなよ。 俺が、常務の甥っ子だって事は、知ってるよな。 お前を辞めさせるなんて、その気になりゃ、簡単なんだぞ」と、凄まれた。

  その一件があった頃、エースの青年は、周囲に、「こんな会社、辞めようかなあ」と、頻りに漏らしていたらしいが、無理もない。 それを思い留まったのは、仕事の方で、直接、常務と話をする機会があり、その人柄を知って、Bごときの讒言を聞き入れる人物ではないと分かったからであった。

  その調査報告を聞いた重役達の、冷や汗掻くまい事か、憤るまい事か。

「冗談じゃない! 彼に辞められたら、大損失だ! Bのクズ野郎! とんでもない事をしやがる! クビだ、クビ!」

  誰も反対する者はいなかった。 懲戒解雇になるところを、常務の功績に免じて、お情けで、自己都合退職の形にしてやり、会社から、放り出した。 常務は、その直後に、他界した。 今はの際に、うわ言のように繰り返していたのは、「Bを庇って来た事で、会社に大きな迷惑をかけてしまった」という後悔の言葉だった。

  Bの上司だった係長にも、譴責があった。 A氏の弁償要求を退けようとしたり、値切ろうとしたのが、問題視されたのだ。 しかし、A氏が、「Bさえ、処分してもらえば、他の人に恨みはないです」と申し出たので、それ以上の処分は免れた。

  結局、Bは、A氏に弁償できないまま、会社を辞めた。 払えるお金がなかったのである。 「確実に弁償させるから」と約束した、資材部の課長が、自費で弁償しようと考えていた矢先、亡くなった常務の妻が、会社を訪ねて来て、A氏に修理代を払っただけでなく、他の被害者にも、Bが巻き上げたお金を返して回った。 総額、100万円を超えた。

  常務の妻は、「私の甥が、大変なご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」と、涙を零しながら、謝った。 その様子を見て、A氏は、「周囲が、こういう優しい人ばかりだったから、Bは、駄目人間になってしまったのかも知れないな」と思った。 だが、Bに同情する気は、微塵もなかった。

  Bについて、一時期、仲が良かった同年輩の同僚が、証言をしている。 Bは、仕事ができずに、あちこちの職場を盥回しにされている事を気の毒がられて、ニヤニヤ笑いながら、こう言ったらしい。

「いいんだよ。 俺は副業で天下を取ってるから」

  仕事で無能と見做されている劣等感を、社内押し売りに励む事で、騙した相手に対して優越感を稼ぎ出し、自尊心を保っていたのだろう。 努力の方向性を間違えているのだが、それに気づかない精神年齢の低さは、隠しようがない。 せいぜい、世間知らずの新入社員だけ相手にしていれば良かったものを、スポイラーを金に換えたいばかりに、A氏のような、自分と年齢的に差がなく、精神的にずっと成熟している上に、遥かに社会経験が豊富な人物を、カモろうとしたのが、大失敗だったのだ。

  Bから、物を売りつけられていた面々は、A氏に感謝した。 自分達ができなかった事を、してくれたからである。 A氏の一件がなかったとしても、常務が他界すれば、Bの天下は終わったわけだが、その場合、Bが鳴りを潜めるだけで、やった悪事に相応しい罰を与える事はできなかっただろう。

  A氏は、若い頃、十年ほど、他の会社を渡り歩いた分、学卒で入社した者達より、世間を多く知っていた。 その経験が、Bという社内犯罪者を追い詰めるのに、役立ったのである。 問題を起こした者の責任は、その上司へ、更にその上司へと辿っていけば、いずれ解決するのだが、普通の社員は、そんな事は知らずに、泣き寝入りしてしまうのだ。


  Bだが、失職後、妻に呆れられて、離婚された上に、家から追い出された。 すでに、両親は他界して、実家はなくなっていたので、行く所がなくて、またぞろ、伯母を頼り、故常務の家に転がり込んだ。 伯母は、あからさまな迷惑顔だったが、Bは、「自分がクビになったのは、常務が死んだのが大きな原因だから、伯母さんにも責任がある」などと、呆れた屁理屈を捏ね、「再就職するまで」と言いながら、そのまま居ついてしまった。

  再就職するにしても、もはや、コネはなく、年齢も行っている事で、なかなか、見つからない。 そもそも、無能で、何の実績もないから、書類審査で落とされてしまうのだった。 それでも、「安全運転には自信があるから」と言って、ハロー・ワークで、ルート配送の仕事を紹介してもらって、何とか、職に就いた。

  Bの性格や能力を考えると、車の運転だけ、まともにできるはずはないが、これは、元いた会社で、構内トラック運転の仕事に配属される際に、故常務から、「構内の運転だからって、絶対に事故を起こすなよ。 この仕事は、事故を起こしたら、即、外されるからな。 そうなったら、もう、この会社に、お前の居場所はないぞ」と、くどくど念を押されたから、それ以来、安全運転をする習慣がついたのである。

  ところが、ルート配送の仕事を始めて、一ヵ月もしない内に、大事故を起こした。 交差点に、赤信号で突っ込み、交差車両を避けようとして、急ハンドルを切ったところ、歩道に乗り上げて、信号機の支柱に衝突。 車は大破し、Bは、心肺停止で病院に搬送されたが、その後、死亡が確認された。

  病院に駆けつけた伯母は、他の親族と一緒に泣いていたが、正直、厄介者が死んでくれて、ほっとした気持ちの方が、ずっと強かった。

「かわいい子だったのに・・・」

  もちろん、子供の頃の話である。

  Bが運転していた配送車には、ドライブ・レコーダーがついていた。 事故直前、すれちがった白い車があり、その車種は、○○のセダンだった。 大方、「あのスポイラーを、売りつけてやれないかな・・・」と考えていて、信号を見落としたのだろう。

2022/11/13

EN125-2A補修 ⑭

  プチ・ツーリングに愛用しているバイク、EN125-2A・鋭爽の補修の記録です。 今年は、もう、オイル交換以外、やる事がないと思っていたのですが、9月26日に、複数個所を損傷して、補修せざるを得なくなりました。 内浦重寺の白山神社に登る超急坂で、停まってしまい、下りてバックさせている間に、バイクを支えきれずに、コケてしまったのです。 10月3日から、10日まで、ちょこちょこと作業しました。 コケてから、補修を始めるまでに、日数が開いているのは、私が腰を痛めてしまい、補修どころではなかったからです。





【ステップ / ラバー / センター・スタンド足かけ】

≪写真1左≫
  左のステップ。 明らかに、上に曲がっています。

≪写真1右≫
  こちらは、正常な右ステップ。 写真の撮り方のせいで、少し、上向きに見えますが、実際には、水平です。

≪写真2≫
  ネット情報では、「ラバーを外して、芯の金属棒に、パイプを挿して、少しずつ戻せ」とあったのですが、ラバーが外せませんでした。 やむなく、ステップに雑巾をかけ、ゴム・ハンマーで叩いたら、少し戻りました。 なかなか捗らないので、業を煮やし、大きな金属ハンマーで叩いたら、ほぼ、水平まで、戻りました。

  ゴムの凹凸の一部がなくなっていますが、これは、中古で買った時から、そうなっていました。 全く気にせずに、3年間、乗って来ました。

≪写真3左≫
  端が削れてしまったラバー。 これは、みっともない。 買い直すと、送料込みで、左右セットが、1500円くらい。 ただのゴムとは思えないほど、高い。 とりあえず、直してみる事にしました。

≪写真3右≫
  まず、鉄工鑢を当ててみたのですが、うまく、削れません。 木工鑢を使ったら、ずっと効率よく、削れました。 しょっちゅう、目をやる所ではないから、こんなもんで、充分でしょう。 もともと、新品同様というわけではありませんでしたし。

≪写真4左≫
  センター・スタンドの、足をかける部分も、地面に当たったようで、削れていました。

≪写真4右≫
  紙鑢をかけ、ペイントうすめ液で脱脂した後、艶あり黒の塗料を、筆で手塗りしました。 まあ、こんなもんでしょう。





【左後ろウインカー / ヘルメット / スニーカー】

≪写真1≫
  左後ろウインカーの、黒い部分にキズがつきました。 紙鑢で軽く削り、コンパウンドをかけ、最後に、シリコン・スプレーを吹きました。 まだ、キズが見えますが、完全に見えなくなるほど削ると、全体が変形してしまうのが怖いので、このくらいにしておきました。

≪写真2左≫
  猛暑期用ヘルメット、「ネオ・ライダース MA03」にも、キズが。 点々程度ですが。

  シルバーの塗料を注しておきましたが、色が違い過ぎて、却って、目立ってしまった観あり。 しかし、これ以上、明るいシルバーがありません。 また、色を完全に合わせたとしても、凹みがあるので、キズが見えなくなるわけではないです。

≪写真2右≫
  アップ。 やはり、目立つか。 とはいえ、素材の色が剥き出しになっていないだけでも、何もしないよりは、マシ。 そもそも、他人のヘルメットに、小さいキズがあるかないかなど、見ている者は、まず、いませんから、自分自身が気にしないのなら、問題なし。

  ちなみに、これを、元通りに直すとなると、パテで凹みを埋め、全体を塗り直す事になります。 そんな大手間をかける気は、全くないです。

≪写真3≫
  バイク用のスニーカー。 買ってから、3年。 週に一度の出番で、まだ、新品同様でしたが、穴が開いてしまいました。 大きさから見て、センター・スタンドの足かけに、押し潰されたのではないかと思います。

≪写真4≫
  合成皮革を、直径3センチくらいの円形に切り、靴底補修ボンドで貼り着けました。 写真だと、露出の原理上、明るめに写るので、分かりますが、実際には、黒の上に黒なので、目を近づけなければ、分かりません。 これで、充分でしょう。

  千円くらいで買った靴ですが、一ヵ所、穴が開いただけで買い直すのは、どうにも、馬鹿馬鹿しい。 これも、私が気にしないのなら、それで、問題なし。 こんな所を、わざわざ見る他人なんか、いませんから。 そもそも、他人がいる所へ行きませんし。




  以上です。

  全て、素人修理ですが、まあ、元々、中古で買ったバイクだから、こんなところで、充分でしょう。 本文記事にも書いてありますが、道路上にいる他人のバイクを、ジロジロ見る人間は、ほとんど、いないので、自分が気にしないのなら、何の問題もないです。 よほど、ひどく壊れていても、そもそも、見ている人がいないのだから、気づかれる心配はありません。

  見ている人がいないどころの話ではなく、普通の人は、バイクが近くにいると、目を背けますよねえ。 汚物から目を背けるように。 バイク乗り同士だと、下手にジロジロ見て、相手が凶暴な奴で、「何見てんだよ! 文句でもあるのか!」なんて言われたら厄介だから、やはり、目を背けるし。 バイクそのものが、注目度が低いんですな。

  ただし、それは、あくまで、自分が乗って、道路上にいる場合の話でして、バイクだけで停めてあると、事情は全く違って来ます。 特に、店舗や施設の駐輪場に停めてあって、近くに持ち主がいないと、近づいて、ジロジロ見たり、図に乗って、ハンドル・レバーを握ったり、あろう事か、跨ったりする馬鹿がいるので、要注意です。 一体、どうして、赤の他人のバイクに跨れると思うのか、常識的には、理解に苦しみますが、常識がないのが、馬鹿の馬鹿たる所以なのでしょう。

2022/11/06

物不足インフレとプーチン氏の目的

  ここ半年ばかり、父の七回忌・その他、いろいろな厄介事があり、とどめに、バイクでコケて腰を痛めるなど、私事で手一杯。 その上、加齢に因る、世事に対する興味の減退もあり、時事問題について、考える事はあっても、文章にする機会がありませんでした。 ウクライナ問題なんぞ、うっちゃらかしだったのですが、先日、少し、日記ブログの方に書く事があったので、それを移植します。 まずは、その基になった、8月の日記から。 例によって、日記には、他の事も書いていますが、関係のない部分は、削除してあります。





【2022/08/17 水】

  西側諸国の中央銀行、及び、政府の面々よ。 いくら金利を操作しても、このインフレの大波は、解消せんぞ。 中国やロシアに対する経済制裁で、様々な品目の輸入ができなくなり、物不足が原因で起こっているインフレですから、金利操作程度では、果物ナイフで、鯨を解体するようなもの。 全く、力が足りません。

  数字で説明するなら、物不足で起こるインフレが、10000くらいの影響力を持つとしたら、金利操作で戻せるのは、1とか、10とか、そのレベルであって、焼け石に水以外の何ものでもないです。 日本で、延々と、超低金利政策を続けて来たのに、人為的なインフレを引き起こすのに、完全に失敗していたのを見ても分かる事。 物不足になったら、2パーセントのインフレ目標なんて、たちまち、突破してしまいましたけど。

  アメリカの場合、そもそもは、トランプ政権が始めた、中国製品の高関税化が発端ですが、「中国からの輸入品を制限すれば、アメリカ国内に雇用が戻ってくる」というのは、世界経済のメカニズムを無視した、大変、軽薄な見通しでして、そんな事には、絶対なりません。 高価な品ならいざ知らず、中国から輸入していたのは、安い価格帯の製品ですから、それを、アメリカ国内で作ったら、賃金が高い分、値段が高くなってしまい、全く採算が合わなくなるのは、よほどの経済音痴でも分かる事だと思います。

  たとえば、バケツのような単純な製品を、アメリカで作ったとして、10年経っても、中国からの輸入品と、価格で戦えるところまで、値段を下げられないと思います。 「少々高くても、国産品を買う」という人がいたとしても、10倍も値段の差があれば、さすがに、安い方を選ぶのでは? インフレが続けば、尚の事です。

  1990年代の半ば頃から、物のやり取りは、世界規模になっていて、今更、一部の国の都合で、変える事はできないのです。 人体に譬えれば、血管網の血流を、部分的に止められないのと同じです。 無理に止めたら、下流の細胞が壊死してしまいます。 アメリカが、中国やロシアに対してやっている事は、自分の体を壊死させているのと同じ、と言ったら、このインフレの恐ろしさが、少しは想像できるでしょうか。

「冷戦時代には、共産圏に対して、ずっと経済制裁をしていたが、アメリカ経済は健全に発展して来たではないか」

  その頃とは、世界経済の構造が変わっているのです。 言わば、冷戦時代は、人体が、二つ、もしくは、それ以上あったわけだ。 今のように、世界全体がリンクしていたわけではありません。 今、同じ事をやれば、体は一つしかありませんから、血流を止めた先は壊死するだけです。

  それを理解する前に、西側諸国は死んでしまいそうだな。 残念ながら、日本も含む。 日本のインフレが、欧米ほどではないのは、中国との貿易を、ほんの一部しか止めていないからです。 頼むから、軽々しく、アメリカに同調して、中国製品に高関税をかけるなんて言い出さないでくれよ。 たちどころに、壊死してしまうぞ。




【2022/10/21 金】

  なに、イギリスの首相が、1ヵ月半で辞任? まあ、それはいいとして、有力な後継者が、前首相? 冗談はよしなさい。

  辞任の主な理由は、インフレと、エネルギー不足だそうですが、対中輸入制限と、対ロ制裁が、物不足・エネルギー不足を引き起こし、それが、インフレの原因になっているのだから、対ロ強硬派の前首相が返り咲いたら、もっと、悪化するでしょう。 結局、ハイパー・インフレまで行ってしまうのでは?

  イギリスだけでなく、西側諸国は、軒並み、インフレに苦しんでいますが、前にも書いたように、金利操作なんて、いくら思い切ってやっても、焼け石に水ですよ。 物不足で起こるインフレは、物不足が解消しない限り、収まりません。 だって、必要な物がないんだもの。 そりゃ、値段は上がりますよ。 金利が変わったって、ない物が、降って湧くわけではありません。

  そんな事は、各国の中央銀行関係者も分かっているはずですが、他にやれる事がないし、何かやっていないと、文句を言われてしまうので、「最大限の努力はしている」というポーズとして、金利操作をしているのでしょう。 情けない話だて。 経済学の限界を見るようだ。 結局、その程度の学問でしかなかったわけだな。

  ちなみに、日本を襲っている円安も、アメリカのインフレ対策である、金利上げが原因で起きているので、日本も巻き込まれている事になります。 ただし、今のところ、日本の物不足は、欧米ほどではないです。 本格的に巻き込まれない為には、

「ロシア非難は、するなとは言わないが、程々にしておくべし」
「中国との貿易を阻害する行為は、絶対に避けるべし」

  この二つを、愚直に守る事ですな。 ハイパー・インフレになってからでは、もう、グッチャグチャになってしまうのだぜ。 給料は、もらった次の日には、一桁価値が下がり、預金は、1000万が、10万や、1万の価値になってしまうのだぜ。 コロナ禍どころではない。 食い詰めた自殺者続出で、火葬場に棺桶の行列が出来る事でしょう。

  「エネルギーは、ロシア以外から買えばいいい」と、安直に考えない方がいいです。 他の国も、同じ事を考えているのだから、取り合いになって、やはり、価格は高騰します。


  うーむ・・・、これは、多くの部分を推測で補った見方ですが、もしかしたら、プーチン氏が、ウクライナ侵攻を実行した目的は、西側諸国の経済を破壊して、世界史の流れを変える事なのかも知れませんなあ。

  どうも、「ドンバス地方の併合」程度では、やっている事と、目的のスケール感が合わないと思っていたのです。 それが、「ウクライナ全土の併合」であっても、やはり、これほど大掛かりな侵攻をするにしては、得られる利益と、バランスが取れない。 しかし、「世界史の流れを変える」のが、真の目的であれば、スケール感は合います。

「ウクライナに攻め込めば、西側諸国は、経済制裁をかけて来るに決まっている。 そうなれば、経済的に困るのは、西側諸国の方である。 下地として、対中輸入制限があり、物不足になっているところへ、ロシアからのエネルギーが止まれば、猛烈なインフレに見舞われ、致命的な大打撃を受けるであろう。 一方、ロシア経済は、中国と貿易をしていれば、インフレになる事はない。 西側諸国で作っている物で、中国で作っていない物は、贅沢なブランド品くらいのものだが、必要な物は、量的質的に、全て、中国から買う事ができるからだ」

  たぶん、侵攻前に、この驚くべき大胆な構想について、中国とインドには、それとなく、相談をしてあったのでは? かつて、植民地化や半植民地化で、西側諸国から辛酸を舐めさせられた、中国・インドですから、「それは、面白い」と思ったはず。 協力はしないが、見て見ぬフリくらいならしてやろうと・・・。

  もし、そうだとすればですが、対ロ制裁の強化をすればするほど、プーチン氏の思惑通りになるわけで、西側諸国は、完全に罠に嵌まっている事になります。 「ロシアのウクライナ侵攻は、大誤算の大失敗」などという批判は、そもそもが、全くの的外れで、「西側諸国経済の破壊」という的は、見事にど真ん中を射抜き、大当たりのコンコンチキ状態、という事になります。

  発案者は、プーチン氏本人でしょうな。 他人が思いついた構想を採用したにしては、やる事が大掛かり過ぎるからです。 プーチン氏から、構想について打ち明けられているのは、政府や軍の上層部の、ごく僅かな人数でしょうが、その面々、聞かされた時には、「そんなに、うまく行くのか?」と思っていたのが、現実に、西側諸国の経済が大激震に揺さぶられ始めると、魔法を見るかのように驚いたのではありますまいか。

  そう考えると、プーチン氏が、戦争の状況に、関心がないように見えるのが、説明できます。 「プーチンは、追い詰められている」と言っているのは、そう思いたい、西側諸国の政府やマスコミであって、普通に見たら、笑顔か、無表情かのどちらか。 ゼレンスキー氏の、眉間の皺がどんどん深くなる、苦虫噛み潰した顔とは、対照的です。 気の毒なのは、ウクライナで、西側諸国を潰す為のダシに使われているわけですが、プーチン氏にしてみれば、乾坤一擲、ロシアの国運を賭けた、世界史レベルの大博打であり、ウクライナの犠牲は、念頭にないのでは?

  さっさと占領してしまおうとせず、せっかく、包囲しかけた首都近郊から撤退してしまうなど、戦争を長引かせているように見えるのも、説明できます。 長引けば長引くほど、西側諸国経済の打撃が大きくなるからです。 プーチン氏が軍に対して求めたのは、具体的な目標ではなく、長引かせる事だけで、やり方は、軍に任せているのかも知れません。 だから、戦局に関心がないんだわ。

  ロシア軍の兵士が、「劣勢になると、大型の兵器を置いて逃げてしまう」というのも、説明できる。 要は、戦争を続けて、西側諸国の対ロ制裁を長引かせればいいのであって、どんな場所であっても、「死守する」など、馬鹿げた話。 「いいから、やられそうになったら、逃げろ」と、命令されているのではないでしょうか。

  ちょっと、いろんな説明が、でき過ぎかな? 却って、嘘臭くなってしまうな。

「西側諸国との貿易を遮断したいだけなら、何も、戦争を起こす必要はないではないか。 一方的に、貿易をやめてしまえばいいではないか」

  ところが、何の理由もなしに、それをやろうとすると、ロシア国内の経済界を説得できないでしょう。 対外貿易で儲けている政商なんて、真っ先に、猛反対しますわな。 しかし、戦争を始めてしまえば、経済界は、何も言えなくなってしまうんですよ。 そういうものなのです。

  さて、西側諸国ですが、現下の経済危機を脱する為に、最も効果的なのは、対ロ制裁をやめてしまう事だと思います。 ロシアの都合を無視して、やめてしまうわけです。 否が応でも、貿易を再開せざるを得なくしてしまえば、恐らく、プーチン氏は、大弱りするでしょう。 だけど、アメリカ大統領を始め、西側諸国の首脳達に、そんな大胆な決断ができるとは、到底、思えませんな。 エネルギー危機から逃れられる、国民の多くは、秘かに歓迎すると思いますが。


  とまあ、好き勝手に、想像を逞しくして書きまくりましたが、あくまで、「もしかしたら」の話に過ぎないので、大いに納得して、よそで吹聴などしないように。 間違っていて、後々、大恥を掻いても、私は責任を持ちません。





  日記からの移植は、以上です。

  物不足インフレについて、私のインフレ感覚の元になっているのは、本で読んだ知識でして、日本の敗戦後、長期間、包囲された、満州・新京で、外部から、全く物が入って来なくなったせいで、「大根一本、三億円」になったというエピソードです。

  インフレというのは、為替相場や金融政策でも左右されますが、それらの影響は、微々たるもので、必要な物が手に入らなくなる事の方が、本質的、且つ、圧倒的に大きな原因となりうるわけですな。 「制裁」などという、おこがましい発想で、輸入をどんどん止めてしまえば、物がなくなるのは、理の当然。 それが、予想できなかったというのが、不思議です。

  「サプライ・チェーンの再構築」なんて、一体、何十年かかるのよ? 目前に迫る冬を越すエネルギーが買えないというのに、何十年も先の話をしていて、何とする? 「サプライ・チェーンの再構築」こそ、無責任な言葉遊びの、最たるものではありますまいか。 大体、誰が主導して、再構築するのだ? 言葉を口に出せば、勝手に再構築がなされると思っているのか? いい加減な。 民間企業は、経済原則に従うので、損をしてまで、政治に合わせて、再構築に努力したりしません。

  「世界経済のデカップリング」というのは、トランプ氏が始めた事ですが、あの人、企業経営者の癖に、世界経済については、基礎知識すらなかったようですな。 デカップリングしたら、どうなるか、分からなかったんでしょう。 こうなるんですよ。 今、物不足、エネルギー不足で、インフレの大波に襲われ、一気に崖っ縁に追い込まれている西側諸国の様が、デカップリングの結果です。


  プーチン氏の目的については、想像の域を出ませんが、もし、当っているとすると、報道番組やワイド・ショーで、軍事専門家をよんで、戦争の帰趨だけ議論しているのは、途轍もない的外れである事になり、あまりの頓珍漢ぶりに、背筋が凍る思いがします。 「ハイマースが、ゲーム・チェンジャーになる」? わははは! 何を寝ぼけた事を言っているんだ。 考えている事の次元が、全く違うではないか。

  もし、プーチン氏が、ウクライナの領土を欲しがっているだけだと言うのなら、今、目の前で起こっている、破壊的なインフレを、どう、説明するのだ? ウクライナ侵攻とは何の関係もなく、偶然、ロシアの得になる状況が出現したと言うのか? そんな、うまい偶然があるものかね。

  プーチン氏がやろうとしているのは、正に、「世界経済のデカップリング」そのものですが、トランプ氏が言い始めた時、プーチン氏は、他の人間とは、全然違う捉え方をして、「これは、使える」と思ったんでしょう。 トランプ氏のように、ただ、ライバル(中国)が気に食わないから、絶交するといった、子供的発想ではなく、世界戦略として使えると判断したわけだ。


  西側諸国を経済的に破滅させて、世界の主導的地位から追い落とし、露・中・印の三国連合で、取って代わる。 そうなる可能性もありますが、世界は、複雑な構造をしているので、そう単純には進まないかも知れません。 対ロ制裁に加わっている西側諸国の中から、インフレに耐え兼ねて、制裁解除に流れる国が出て来るという事も考えられます。

  一国出て来ると、その国は、インフレが収まり、急速に経済が立ち直りますから、右倣えする国が続いて、対ロ制裁グループは、崩壊して行く事になるのでは? 対ロ制裁をしている時と、やめた後で、何が変わるかというと、西側という括りが希薄になって、アメリカの主導力が衰退する事でしょうな。

「アメリカの言う事を聞いていたら、国が潰れてしまう。 コロナでもそうだったが、もう、アメリカには、世界をリードする能力はない」

  そう考える国が増えるだけでも、世界史の大きな転換点になるでしょう。 プーチン氏が、現実的に狙っているのは、その辺りかも知れません。