子供社長
ト○タの社長、アメリカ議会の公聴会の後、支援者の会合で泣いてましたが・・・、子供店長ならぬ、子供社長かと思いましたぜ。 この切迫した状況で、泣くかね? 泣かんでしょう。 宜しくない。 実にまずい。 涙を流す事で、≪誠意≫を示せたと考えているのだとしたら、途轍もない思い違いをしている事になります。 今回の一件は、人の生死が関っている上に、事がグローバル化しており、そんな腹芸に効果を期待できるような次元の問題ではありません。
支援者の会合の様子も、アメリカのマスコミは報道したと思われるので、結果的に、アメリカ社会全体に対する泣き落とし戦術のようになってしまいましたが、そんなベタな手法は、今日日、日本ですら通用しません。 まして、「大人の男は、人前で涙など見せないもの」という考え方をする英米文化圏では、呆れられる事はあっても、同情など微塵もしてもらえないでしょう。 大体、同情して貰った所で、欠陥車が消えて無くなるわけではありません。
わざと泣いて見せたわけではなく、感極まって泣いてしまったのだとしても、それはそれで別の問題が発生します。 公聴会で3時間も責め立てられて、どん底まで意気消沈していた人が、支援者が集まっている場所へ来た途端、安心して涙が出てしまった。 こりゃもう、子供そのものの反応ではありませんか。 もし、欠陥車をディーラーに持ち込んだお客に対し、店長が泣き始めたら、どう思いますかね? 誠意があると思いますかね? 冗談じゃないですよ。 泣きたいのは欠陥車を掴まされたお客の方ですぜ。 責任を取らなきゃならない方が泣いていたら、一体誰が車を直すんじゃい! ≪泣く≫なんて対応は、大人の社会には無いんですよ。 アメリカでも、日本でもね。
アメリカ議会やト○タ車のユーザーが求めているのは、社長の涙でも、言葉を飾ったスピーチでもなく、欠陥の原因を究明し、技術的な解決策を提示して、責任持って車を直してくれる、メーカーの姿勢でしょうに。 本当に誠意があるのなら、欠陥について、現在分かっている事と分かっていない事をはっきり公表し、対策が取れる物は直し、取れない物は、ユーザーに当面の間車に乗らないように頼むしかありますまい。 当然の事ながら、安全性が疑わしい車を新規に売るなど、言語道断です。 ますます、危険な車が増えるではありませんか。 ナイチンゲール戦闘部隊かいな(註1)。
今の社長は、リーマン・ショックで大損こいた後に担ぎ上げられた、創業家一族の人ですが、会社が大赤字を垂れ流し、派遣社員や期間工をざくざくクビにしている時に、個人の趣味でカー・レースに出て、それが会社のイメージ・アップに繋がると思い込んでいたという能天気な性格。 たぶん、記者会見に出ても、技術的な事も、経営上の事も、うまく答えられないんじゃないかと思っていたんですが、予想通りで、「私は技術の事は分からない」を連発したらしいです。
技術上の問題が最大の焦点になっているのに、「技術は分からん」とは、呆れた言い草ですな。アメリカ議会の方も、「やっぱり、呼ぶ相手を間違えたかな」と、心の隅で思った事でしょう。 でもねえ、社長というのは企業の最高責任者であって、その企業が売った製品について最終責任を負うのは当然の事なので、呼び出し自体は間違っていないのです。 社長なのに、自社製品の品質について、観念的な事しか答えられない方がおかしい。
この社長、今回の問題で、表舞台に姿を見せ始めてから、聞き捨てならないようなセリフをいくつか口にしています。
「ト○タが全能だとは思っていない」
て事は、つまり、「ト○タは全能だと思われている」と思っていたという事ですな。 驚くべき驕慢。 確かに、ト○タの経営を手放しで誉めそやすエコノミストはたくさんいましたが、ト○タ自身もそう思っていたとしたら、それは、大変いやらしいです。 全能どころか、ブレーキやアクセルに欠陥がある車を作っている自動車会社なんて、無能より尚悪いでしょう。 車の基本中の基本機能じゃないのさ。
「社長然としていられないので、出て来た」
なんじゃ、そりゃ? ≪社長然≫て、具体的に、どういう態度よ? 専用車で社長出勤して来て、社長室の椅子に座って、日がな一日ゆったりのんびり過ごす事かね? 冗談じゃないよ。 どこの社長も、みんなそんな閑人だと思ったら大間違いだで。 「会社の中で一番忙しいのが社長」、「会社の危機には、土下座でも靴舐めでもするのが社長」、そのくらいでなけりゃ、活気ある企業とは言えませんぜ。
「ユーザーの皆さんに、ト○タ車は安全ですと申し上げたい」
何を言っているんですか。 安全じゃないから、こんな大騒ぎになっているんでしょう? そういう物言いが、ごまかしだと言うんですよ。 どの客もこの客も、みんなト○タ車から逃げ出してしまったら会社が潰れてしまうから、安心させるためにそう言っているんでしょうが、本気で安心させたかったら、原因を探って、車を直すしかないんですよ。 なぜ、言葉でごまかそうとするかな? 言葉なんかいくら並べたって、急加速し始めた車は止められないでしょうが。
「ト○タの車には、すべて私の名前が入っている」
これが一番呆れました。 あなたの名前じゃなくて、創業家の苗字がベースに使われているだけですよ。 あなた、「とよだ」さんでしょう? 社名は、「とよた」。 違うじゃん。 そういう細かい事は言わないにしても、まるで、企業を私物扱いしているように聞こえますぜ。 一体、何様じゃ?
「ト○タ車の安全を一番願っているのは、私」
当たり前の事を、大仰に言うのはよしましょう。 社長なんだから当然です。 ちなみに言わせて貰えば、ト○タ車のユーザーや、ト○タ車の前後左右を走っている他社の車のユーザーも、あなたに負けず劣らず、ト○タ車の安全を願っています。 命が懸かってますからね。
社長だけでなく、重役も、奇妙な事を言っています。
「リコールはしたが、法律上の安全基準は満たしている」
これは、プ○ウスのブレーキが利かなくなる件でリコールした時に、副社長の一人が吐いたセリフ。 でもよー、ブレーキが1秒利かなくなる車が安全基準を満たしているとしたら、そんな安全基準にゃ何の価値もないで。
「アメリカで、(法律上)やってはいけないような事は、何もしていない」
いやいやいや、アメリカの法律に関しては、あなた方より、アメリカ議会の方が、桁違いに詳しいと思いますよ。 なにせ、アメリカの法律を作っているのは、他ならぬアメリカ議会ですからね。 より詳しい方が、より詳しくない方を追求しているんだから、大きな事は言わない方がいいんじゃないの?
アメリカ人が最も疑念を持っているのは、欠陥の根本原因を突き止めていないのに、直し易い所のみリコールして、この窮地だけを乗り切ろうとしているように見えるト○タの態度だと思います。 企業絡みの訴訟が日常茶飯事のアメリカでは、「企業は嘘をつくもの」という見方が定着しており、その嘘のつき方のパターンも知れ渡っています。 日本人が相手ならごまかせるような事でも、百戦錬磨のアメリカ人にはすぐ見透かされてしまいます。 「なめとんのか?」と思われているのは疑いないところでしょう。
急発進・急加速の問題について、「電子制御に問題は無い」と言い切ってしまっているのは、非常によくありません。 「問題があるか無いか、分からない」というのが正解でしょう。 自動車メーカーは機械屋であって、電子装備は専門外ですから、そんなにはっきり断言などできるはずが無いのです。 おそらく、「電子制御に問題がある」と認めてしまうと、アメリカだけでなく、全世界で売った車全てがリコール対象になってしまうので、それを恐れているのだと思いますが、欠陥は欠陥なのであって、メーカー側の都合で随意に瞞着できるものではありますまい。
アクセルが戻り難くなる欠陥で、「アメリカの部品メーカーが設計したアクセルに問題があった」と、まるで、アメリカ側のミスのように言ったのも、アメリカ人を怒らせたと思います。 言うまでもなく、製品の品質の最終責任は、販売ブランドを持っているメーカーに帰するのであって、設計したのがどの国の下請けだろうが、ト○タの責任は一厘たりとも減じはしません。 ト○タは、アメリカの部品メーカーが作ったアクセルのみの問題である事を強調し、別部品を使っている日本や他国に飛び火するのを避けたかったのかもしれませんが、その為に犠牲にされるには、アメリカ世論の怒りは大き過ぎたわけです。 無思慮ゆえに、対策が完全に裏目に出た格好。
日本の世論では、「これは、アメリカ議会による吊るし上げであり、ト○タはスケープ・ゴートにされたに過ぎない」と見る向きもあるようですが、ちゃんちゃらおかしいです。 鋭く裏を見抜いているような口を利いて、その実、問題の本質が全然分かっていないのは、滑稽としか言いようがありません。 アメリカ議会の公聴会というのは、GMだろうが、フォードだろうが、問題を解決するためには、どこの誰でも呼び出して訊問するのであって、日本メーカーだからといって、差別するような事は無いです。 そもそも、呼び出している議員達も、自身や家族の中に、ト○タ車を使っている者がいるのであって、吊るし上げなどしたら、自分で自分の首を絞めてしまうではありませんか。
下司の勘繰りに血道を上げている日本人に是非薦めたいのですが、科学的・技術的根拠も無しに、自国メーカーの肩を持つより、自分が乗っている車が大丈夫かどうか、まずそちらを心配した方がいいと思います。 ちなみに、日本では、車の欠陥が原因で事故が起きても、ほぼ100%が、運転者の操作ミスにされます。 車を対象にした事故調査委員会が存在しないため、警察レベルでは、メーカーの責任を追求する所まで事を大きくできないからです。
日本の政府閣僚が、この問題について、対岸の火事みたいな感想を述べているのは、滑稽を通り越して、驚嘆に値します。 自分の国のメーカーが欠陥車を売ったというのに、危機意識ゼロ。 「公聴会に社長自らが出向けば、納得してもらえるだろう」などと、まるで、ト○タの関係者みたいな事を言っていますが、完全に立場を履き違えています。 政府の役割は企業を監督する事であって、肩入れする事ではありますまい。 むしろ、アメリカ議会と同様に、ト○タの社長を国会に呼び出し、独自に喚問しなければならないのです。 日本の道路には、アメリカ以上に、大量のト○タ車が走っているのですから。 何を寝惚けているのやら。
つい二年ほど前まで、ト○タは、≪失敗しない会社≫と言われて、その経営手法を神業と看做すような風潮がありましたが、よくもまあ、これだけ、急転直下に信用が失墜したものです。 これでは、タイヤ・ハブの欠陥やリコール隠しで糾弾された時の三◇の醜態と選ぶ所がありません。 企業のイメージというのは、思った以上に、薄い氷の上に乗っているものなんですなあ。
エコノミストや自動車関係のジャーナリストの中には、「この問題を乗り越えた後、ト○タはどのように再生すべきか」など論じている者が多いですが、気が早いにも程があります。 乗り越えられるかどうかすら、まだ分かっていないではありませんか。 確たる根拠も無いのに、未来当てごっこに興じるなっつーのよ。
前例として参考になるのは三◇ですが、確かに現在、三◇に対する批判の声はすっかり静まっていますが、では、三◇が立ち直ったのかというと、そんな事はないのであって、パジェロやら、FTOやら、ランエボやら、GDIエンジンやら、最も勢いが盛んだった頃に比べれば、火が消えたように人気が落ち込んでいます。 三◇グループ以外の一般顧客の信頼を、未だに取り戻せていないのです。 ト○タがそうならない保証はどこにもありません。 車を買う客は、危険な車を最も敬遠するのであって、そのブランドが三◇であるか、ト○タであるかに、大した違いは無いと思います。
「これを契機に、ト○タは、社内の気風を改め、顧客第一主義に立ち戻るべきだ」とかなんとか、これは、外部の批評家だけでなく、ト○タの経営陣の口からも出ている意見ですが、事はそんな、すっきり単純な話ではありません。 ≪顧客第一主義≫は、ト○タが一貫して実践して来た方針で、事業規模が急拡大した間中も、一時として途切れた事は無いです。 それは、ト○タ・グループの内部にいる人間なら、派遣社員ですら知っています。
「顧客第一主義を蔑ろにしたから、欠陥車が出た」のではなく、「顧客第一主義を実践して来たにも拘らず、欠陥車が出た」のです。 だからこそ、問題が深刻なのです。 「社内の気風を変えろ」などと簡単に言いますが、今までにも全力でやって来たのに、どこをどう変えろというのか、逆に訊いてみたいです。
そういえば、日本のマスコミも、今回は、ト○タをボロクソに叩いてますが、リーマン・ショックの直前までは、「世界に誇るカンバン方式」だの、「無駄を徹底的に省くト○タ生産方式」だの、「社員の創意工夫を最大限に生かすQC・提案制度」だの、「ついにGMを抜いて、世界最大の自動車メーカーに躍り出た」だのと、御用マスコミもビックリの持ち上げぶりだったのを、すっかり忘れてしまったようですな。 変節というか、宗旨変えといか、それだけ露骨に態度を豹変させて、よく恥ずかしくないよねえ。
ト○タが調子が良かった頃には、自分自身はト○タと何の関係も無いにも拘らず、ただ自国メーカーであるというだけの理由で、自分が世界一になったかのように自慢高慢し、大口叩いていた奴らが、ト○タがコケた瞬間、まるで親の仇である事に気づいたかの如く、口を極めて扱き下ろす側に回ったのです。 卑怯千万! 先祖の顔が見てみたい。 ≪太平記≫の武士かよ。 少しは恥を知りな。
(註1)
【ナイチンゲール戦闘部隊】
敵兵を、撃っては治し撃っては治し、攻撃と治療を繰り返す、従軍看護婦で組織された戦闘部隊の事。 殺したいのか治したいのか目的不明だが、結果的に死傷者が増える事だけは確か。 転じて、目的が相反する行為を同時に行なう事で、損害をどんどん増やしてしまう愚行を指す。
支援者の会合の様子も、アメリカのマスコミは報道したと思われるので、結果的に、アメリカ社会全体に対する泣き落とし戦術のようになってしまいましたが、そんなベタな手法は、今日日、日本ですら通用しません。 まして、「大人の男は、人前で涙など見せないもの」という考え方をする英米文化圏では、呆れられる事はあっても、同情など微塵もしてもらえないでしょう。 大体、同情して貰った所で、欠陥車が消えて無くなるわけではありません。
わざと泣いて見せたわけではなく、感極まって泣いてしまったのだとしても、それはそれで別の問題が発生します。 公聴会で3時間も責め立てられて、どん底まで意気消沈していた人が、支援者が集まっている場所へ来た途端、安心して涙が出てしまった。 こりゃもう、子供そのものの反応ではありませんか。 もし、欠陥車をディーラーに持ち込んだお客に対し、店長が泣き始めたら、どう思いますかね? 誠意があると思いますかね? 冗談じゃないですよ。 泣きたいのは欠陥車を掴まされたお客の方ですぜ。 責任を取らなきゃならない方が泣いていたら、一体誰が車を直すんじゃい! ≪泣く≫なんて対応は、大人の社会には無いんですよ。 アメリカでも、日本でもね。
アメリカ議会やト○タ車のユーザーが求めているのは、社長の涙でも、言葉を飾ったスピーチでもなく、欠陥の原因を究明し、技術的な解決策を提示して、責任持って車を直してくれる、メーカーの姿勢でしょうに。 本当に誠意があるのなら、欠陥について、現在分かっている事と分かっていない事をはっきり公表し、対策が取れる物は直し、取れない物は、ユーザーに当面の間車に乗らないように頼むしかありますまい。 当然の事ながら、安全性が疑わしい車を新規に売るなど、言語道断です。 ますます、危険な車が増えるではありませんか。 ナイチンゲール戦闘部隊かいな(註1)。
今の社長は、リーマン・ショックで大損こいた後に担ぎ上げられた、創業家一族の人ですが、会社が大赤字を垂れ流し、派遣社員や期間工をざくざくクビにしている時に、個人の趣味でカー・レースに出て、それが会社のイメージ・アップに繋がると思い込んでいたという能天気な性格。 たぶん、記者会見に出ても、技術的な事も、経営上の事も、うまく答えられないんじゃないかと思っていたんですが、予想通りで、「私は技術の事は分からない」を連発したらしいです。
技術上の問題が最大の焦点になっているのに、「技術は分からん」とは、呆れた言い草ですな。アメリカ議会の方も、「やっぱり、呼ぶ相手を間違えたかな」と、心の隅で思った事でしょう。 でもねえ、社長というのは企業の最高責任者であって、その企業が売った製品について最終責任を負うのは当然の事なので、呼び出し自体は間違っていないのです。 社長なのに、自社製品の品質について、観念的な事しか答えられない方がおかしい。
この社長、今回の問題で、表舞台に姿を見せ始めてから、聞き捨てならないようなセリフをいくつか口にしています。
「ト○タが全能だとは思っていない」
て事は、つまり、「ト○タは全能だと思われている」と思っていたという事ですな。 驚くべき驕慢。 確かに、ト○タの経営を手放しで誉めそやすエコノミストはたくさんいましたが、ト○タ自身もそう思っていたとしたら、それは、大変いやらしいです。 全能どころか、ブレーキやアクセルに欠陥がある車を作っている自動車会社なんて、無能より尚悪いでしょう。 車の基本中の基本機能じゃないのさ。
「社長然としていられないので、出て来た」
なんじゃ、そりゃ? ≪社長然≫て、具体的に、どういう態度よ? 専用車で社長出勤して来て、社長室の椅子に座って、日がな一日ゆったりのんびり過ごす事かね? 冗談じゃないよ。 どこの社長も、みんなそんな閑人だと思ったら大間違いだで。 「会社の中で一番忙しいのが社長」、「会社の危機には、土下座でも靴舐めでもするのが社長」、そのくらいでなけりゃ、活気ある企業とは言えませんぜ。
「ユーザーの皆さんに、ト○タ車は安全ですと申し上げたい」
何を言っているんですか。 安全じゃないから、こんな大騒ぎになっているんでしょう? そういう物言いが、ごまかしだと言うんですよ。 どの客もこの客も、みんなト○タ車から逃げ出してしまったら会社が潰れてしまうから、安心させるためにそう言っているんでしょうが、本気で安心させたかったら、原因を探って、車を直すしかないんですよ。 なぜ、言葉でごまかそうとするかな? 言葉なんかいくら並べたって、急加速し始めた車は止められないでしょうが。
「ト○タの車には、すべて私の名前が入っている」
これが一番呆れました。 あなたの名前じゃなくて、創業家の苗字がベースに使われているだけですよ。 あなた、「とよだ」さんでしょう? 社名は、「とよた」。 違うじゃん。 そういう細かい事は言わないにしても、まるで、企業を私物扱いしているように聞こえますぜ。 一体、何様じゃ?
「ト○タ車の安全を一番願っているのは、私」
当たり前の事を、大仰に言うのはよしましょう。 社長なんだから当然です。 ちなみに言わせて貰えば、ト○タ車のユーザーや、ト○タ車の前後左右を走っている他社の車のユーザーも、あなたに負けず劣らず、ト○タ車の安全を願っています。 命が懸かってますからね。
社長だけでなく、重役も、奇妙な事を言っています。
「リコールはしたが、法律上の安全基準は満たしている」
これは、プ○ウスのブレーキが利かなくなる件でリコールした時に、副社長の一人が吐いたセリフ。 でもよー、ブレーキが1秒利かなくなる車が安全基準を満たしているとしたら、そんな安全基準にゃ何の価値もないで。
「アメリカで、(法律上)やってはいけないような事は、何もしていない」
いやいやいや、アメリカの法律に関しては、あなた方より、アメリカ議会の方が、桁違いに詳しいと思いますよ。 なにせ、アメリカの法律を作っているのは、他ならぬアメリカ議会ですからね。 より詳しい方が、より詳しくない方を追求しているんだから、大きな事は言わない方がいいんじゃないの?
アメリカ人が最も疑念を持っているのは、欠陥の根本原因を突き止めていないのに、直し易い所のみリコールして、この窮地だけを乗り切ろうとしているように見えるト○タの態度だと思います。 企業絡みの訴訟が日常茶飯事のアメリカでは、「企業は嘘をつくもの」という見方が定着しており、その嘘のつき方のパターンも知れ渡っています。 日本人が相手ならごまかせるような事でも、百戦錬磨のアメリカ人にはすぐ見透かされてしまいます。 「なめとんのか?」と思われているのは疑いないところでしょう。
急発進・急加速の問題について、「電子制御に問題は無い」と言い切ってしまっているのは、非常によくありません。 「問題があるか無いか、分からない」というのが正解でしょう。 自動車メーカーは機械屋であって、電子装備は専門外ですから、そんなにはっきり断言などできるはずが無いのです。 おそらく、「電子制御に問題がある」と認めてしまうと、アメリカだけでなく、全世界で売った車全てがリコール対象になってしまうので、それを恐れているのだと思いますが、欠陥は欠陥なのであって、メーカー側の都合で随意に瞞着できるものではありますまい。
アクセルが戻り難くなる欠陥で、「アメリカの部品メーカーが設計したアクセルに問題があった」と、まるで、アメリカ側のミスのように言ったのも、アメリカ人を怒らせたと思います。 言うまでもなく、製品の品質の最終責任は、販売ブランドを持っているメーカーに帰するのであって、設計したのがどの国の下請けだろうが、ト○タの責任は一厘たりとも減じはしません。 ト○タは、アメリカの部品メーカーが作ったアクセルのみの問題である事を強調し、別部品を使っている日本や他国に飛び火するのを避けたかったのかもしれませんが、その為に犠牲にされるには、アメリカ世論の怒りは大き過ぎたわけです。 無思慮ゆえに、対策が完全に裏目に出た格好。
日本の世論では、「これは、アメリカ議会による吊るし上げであり、ト○タはスケープ・ゴートにされたに過ぎない」と見る向きもあるようですが、ちゃんちゃらおかしいです。 鋭く裏を見抜いているような口を利いて、その実、問題の本質が全然分かっていないのは、滑稽としか言いようがありません。 アメリカ議会の公聴会というのは、GMだろうが、フォードだろうが、問題を解決するためには、どこの誰でも呼び出して訊問するのであって、日本メーカーだからといって、差別するような事は無いです。 そもそも、呼び出している議員達も、自身や家族の中に、ト○タ車を使っている者がいるのであって、吊るし上げなどしたら、自分で自分の首を絞めてしまうではありませんか。
下司の勘繰りに血道を上げている日本人に是非薦めたいのですが、科学的・技術的根拠も無しに、自国メーカーの肩を持つより、自分が乗っている車が大丈夫かどうか、まずそちらを心配した方がいいと思います。 ちなみに、日本では、車の欠陥が原因で事故が起きても、ほぼ100%が、運転者の操作ミスにされます。 車を対象にした事故調査委員会が存在しないため、警察レベルでは、メーカーの責任を追求する所まで事を大きくできないからです。
日本の政府閣僚が、この問題について、対岸の火事みたいな感想を述べているのは、滑稽を通り越して、驚嘆に値します。 自分の国のメーカーが欠陥車を売ったというのに、危機意識ゼロ。 「公聴会に社長自らが出向けば、納得してもらえるだろう」などと、まるで、ト○タの関係者みたいな事を言っていますが、完全に立場を履き違えています。 政府の役割は企業を監督する事であって、肩入れする事ではありますまい。 むしろ、アメリカ議会と同様に、ト○タの社長を国会に呼び出し、独自に喚問しなければならないのです。 日本の道路には、アメリカ以上に、大量のト○タ車が走っているのですから。 何を寝惚けているのやら。
つい二年ほど前まで、ト○タは、≪失敗しない会社≫と言われて、その経営手法を神業と看做すような風潮がありましたが、よくもまあ、これだけ、急転直下に信用が失墜したものです。 これでは、タイヤ・ハブの欠陥やリコール隠しで糾弾された時の三◇の醜態と選ぶ所がありません。 企業のイメージというのは、思った以上に、薄い氷の上に乗っているものなんですなあ。
エコノミストや自動車関係のジャーナリストの中には、「この問題を乗り越えた後、ト○タはどのように再生すべきか」など論じている者が多いですが、気が早いにも程があります。 乗り越えられるかどうかすら、まだ分かっていないではありませんか。 確たる根拠も無いのに、未来当てごっこに興じるなっつーのよ。
前例として参考になるのは三◇ですが、確かに現在、三◇に対する批判の声はすっかり静まっていますが、では、三◇が立ち直ったのかというと、そんな事はないのであって、パジェロやら、FTOやら、ランエボやら、GDIエンジンやら、最も勢いが盛んだった頃に比べれば、火が消えたように人気が落ち込んでいます。 三◇グループ以外の一般顧客の信頼を、未だに取り戻せていないのです。 ト○タがそうならない保証はどこにもありません。 車を買う客は、危険な車を最も敬遠するのであって、そのブランドが三◇であるか、ト○タであるかに、大した違いは無いと思います。
「これを契機に、ト○タは、社内の気風を改め、顧客第一主義に立ち戻るべきだ」とかなんとか、これは、外部の批評家だけでなく、ト○タの経営陣の口からも出ている意見ですが、事はそんな、すっきり単純な話ではありません。 ≪顧客第一主義≫は、ト○タが一貫して実践して来た方針で、事業規模が急拡大した間中も、一時として途切れた事は無いです。 それは、ト○タ・グループの内部にいる人間なら、派遣社員ですら知っています。
「顧客第一主義を蔑ろにしたから、欠陥車が出た」のではなく、「顧客第一主義を実践して来たにも拘らず、欠陥車が出た」のです。 だからこそ、問題が深刻なのです。 「社内の気風を変えろ」などと簡単に言いますが、今までにも全力でやって来たのに、どこをどう変えろというのか、逆に訊いてみたいです。
そういえば、日本のマスコミも、今回は、ト○タをボロクソに叩いてますが、リーマン・ショックの直前までは、「世界に誇るカンバン方式」だの、「無駄を徹底的に省くト○タ生産方式」だの、「社員の創意工夫を最大限に生かすQC・提案制度」だの、「ついにGMを抜いて、世界最大の自動車メーカーに躍り出た」だのと、御用マスコミもビックリの持ち上げぶりだったのを、すっかり忘れてしまったようですな。 変節というか、宗旨変えといか、それだけ露骨に態度を豹変させて、よく恥ずかしくないよねえ。
ト○タが調子が良かった頃には、自分自身はト○タと何の関係も無いにも拘らず、ただ自国メーカーであるというだけの理由で、自分が世界一になったかのように自慢高慢し、大口叩いていた奴らが、ト○タがコケた瞬間、まるで親の仇である事に気づいたかの如く、口を極めて扱き下ろす側に回ったのです。 卑怯千万! 先祖の顔が見てみたい。 ≪太平記≫の武士かよ。 少しは恥を知りな。
(註1)
【ナイチンゲール戦闘部隊】
敵兵を、撃っては治し撃っては治し、攻撃と治療を繰り返す、従軍看護婦で組織された戦闘部隊の事。 殺したいのか治したいのか目的不明だが、結果的に死傷者が増える事だけは確か。 転じて、目的が相反する行為を同時に行なう事で、損害をどんどん増やしてしまう愚行を指す。