もともと優秀
どうも、≪エ●ピーダ・メモリ≫と、≪ル●サス・エレクトロニクス≫を混同してしまって、困るのですが、先に倒産したのが、エ●ピーダで、今、やばい状態に陥っているのが、ル●サスの方なんですね。 そういう事で宜しいですね。 いや、間違っているかもしれませんが、いちいち、調べ直すのも面倒なので、そういう事にしておきましょう。
どちらも、日本の半導体メーカーで、どちらも、家電・重電・パソコン各メーカーの半導体部門が、統合して出来たという経歴を持ちます。 いわゆる、寄せ集め会社ですな。 いや、寄せ集めだから、傾いたとは言いませんよ。 確かに、複数の会社が一つになると、旧会社の派閥が幅を利かせて、組織運営に悪影響が出るものですが、統合した会社が、全て、失敗しているわけではありませんからね。
都市銀行なんて、行名だけ聞くと、冗談としか思えないような、凄まじい離合集散を繰り返しましたが、未だに企業番付の上位を占めており、「統合会社のくせに、どうして、そんなに利益が出るんだ?」と、不思議でなりません。 もっとも、「都市銀行が左前になるのは、これからだ」という見方もできるので、あまり誉めるのも考えものですが。
話を戻します。 マスコミは、企業が潰れる時には大騒ぎしますが、統合して新会社が発足した時には、見向きもしないので、そもそも、この二社が、一体、いつ出来たのかも知りませんでした。 統合するならすると、新聞に見開き広告を十日間連続で出すとか、テレビCMを流すとか、印象的な周知をしてもらわないと、カタカナ社名だけに、「一体、どこの国のメーカーだ?」と首を捻ってしまいますな。
二つの半導体メーカーが、急激に業績悪化した原因は、円高や、欧州金融危機による景気減速、新興国企業の追い上げ、など、いろいろあるようですが、なんだか、言い訳っぽい分析ですなあ。 円高は、海外に生産拠点を移さなかったのが悪いのであって、対策は取れたはずですし、欧州金融危機は、新興国企業にも同じ条件で降りかかったわけで、日本企業だけが、ダメージを受けたわけではありません。
残るは、新興国企業の追い上げですが、これは、つまり、日本企業が市場の競争で、負けたというだけの事であって、原因というより、結果でしょう。 スポーツに譬えれば、
「我がチームが負けた原因は、相手チームが強かったからだ」 と言っているようなもの。 アホけ? その強い弱いを決めるのが、勝負やないか。 いや、待てよ。 実際に、こういうセリフを口にする監督というのはいますね。 敗因を訊ねられて、憮然とした態度で、
「敗因も何もありません。 相手が、うちより強かったというだけの事です」
いるいる、確かにいる。 下手な言い訳をするより、潔く弱い事を認めてしまった方が、カッコがつくと思っているのだと思いますが、よく考えてみると、弱い事を認めるなんていうのは、敗因分析以前の問題であって、質問の答えになっていません。 こういう物言いをする監督というのは、合理的な問題解決方法を知らない可能性が高いです。 さっさと、クビにした方がいいでしょう。
また、話を戻します。 エ●ピーダと、ル●サスどちらの会社の人間だったか忘れましたが、幹部だか、技術者だかが、象徴的な言葉を発していました。
「日本の技術が負けるとは思っていなかった」
おおう! もしかしたら、そういう人間がいるのではないかと思ってはいましたが、本当にいたんですねえ。 「勝つと思うな、思えば負けよ」という言葉を知らなかったか、ただの歌の文句に過ぎないと思っていたか、いずれにせよ、こういう人間がいたのでは、その組織は、生き残れますまい。 「絶対、勝てる」と思い込むのは、判断ではなく、単なる信仰です。 宗教の論理が内輪にしか通用しないのと同じで、外の組織との競争には、全く役に立たないばかりか、却って、足枷になってしまいます。
そういえば、1990年前半、つまり、バブル絶頂期から、バブル崩壊の頃ですが、韓国企業が、アメリカ市場に進出し始めた事を伝える報道番組を見ていたら、インタビューを受けた日本の家電メーカーの幹部が、似たような事を言っていました。
「韓国企業には、勝てます」
自信満々という感じではなく、幾分、悲壮な表情を見せつつも、言葉に限って言えば、きっぱり、断言していました。 一方、同じ質問を受けた、日本の自動車メーカーの幹部は、ニタニタ笑いながら、こう答えていました。
「韓国企業にですか? ふふふ、そうですねえ。 追いつかれてしまうかもしれませんねえ」
当時、それを聞いた私は、「家電は、その内、やられてしまうだろうなあ。 車は、もうちょっと、長く踏ん張れるかも知れぬ」と感じました。 家電メーカーの幹部は、韓国企業の追い上げに危機感を抱いていたにも拘らず、負ける可能性がある事を認めなかったわけで、これは、判断ではなく、信仰です。
一方、自動車メーカーの幹部は、「まだ、追いつかれるには、時間がかかるだろう」と分析しつつも、一応、抜かれる可能性について、念頭に置いていたわけで、まずまず、合理的な判断能力があったと言えます。 家電と車の、その時の違いが、20年経過した現在に、結果として現れているのだと思います。
ただし、日本の自動車メーカーが、今後も磐石だというわけでは、もちろん無く、家電よりは、少しは長持ちするという程度の違いです。 自動車メーカーは、家電とは比較にならないほど、国内生産拠点の維持に拘る傾向があり、経済状況の推移次第では、業界全体が一気に崩壊に向かう恐れもあります。
自信というのは、自信の無い者が自分の実力を引き出す為に持つ分には、悪いものではないと思います。 しかし、すでに自信に満ち満ちている者が、余計に自信を持つと、ろくな結果になりません。 自分に、実力以上の能力があると思い込んでしまうわけですから、それ以上の努力など、当然しなくなるわけで、進歩が止まってしまうわけです。 進歩しない者が、不断に進歩している者に勝てるわけがないではありませんか。 それは、個人でも組織でも同じ事です。
かつて、≪ゆとり教育≫というのが行われて、惨憺たる結果に終わりましたが、あれは、日本社会全体の自信過剰が原因で始まったものでした。 国際比較で、日本の学生の成績が良かったものだから、「日本人は、もともと優秀な民族である」と思い込んでしまったのです。 「もともと優秀なのだから、少しカリキュラムを易しくして、浮いた授業数で、日本人の弱点とされている、創造力を養う教育をしよう」と目論み、≪詰め込み教育≫から、≪ゆとり教育≫へと、変換を計ったわけですな。
ところが、≪ゆとり教育≫を始めた途端に、成績が落ち始めました。 日本の学生は、「もともと優秀」だったのではなく、詰め込み教育のおかげで、辛うじて、成績上位を保っていたのです。 それをやめたのだから、アホが続出するのは、自然の摂理。 ≪総合学習の時間≫? なんじゃ、そりゃ? 老人の痴呆予防講習ならいざ知らず、子供にしてみれば、遊んでいるのと変わらないでしょうが。
それでなくても、天才が出て来ない民族性なのに、秀才すら作り出せなくなってしまったのだから、知性も教養もあったもんじゃありません。 「一億総白痴化」なんて言っていた頃が懐かしいですが、昨今の知識人のレベルを見ていると、昔の白痴は、たいそう知性に溢れていたという事になりますな。 ≪詰め込み教育≫の時代の知性レベルを知りたかったら、図書館へ行って、当時の新聞を読んでみるといいです。 今の新聞が、ただの情報紙にしか見えなくなるから。
またまた、話を戻します。 実際には、新興国企業に負けているのに、日本企業はなぜ、「自分達の方が、勝っている、進んでいる、優れている」と信じ込んでしまったのか? 「もともと、そう思い込んでいた」なんて事はありません。 日本企業が、欧米企業に追いついたのは、家電で80年代、車で90年代の事で、それ以前は、明らかに、「追う立場」でした。
家電は、90年代半ばには、新興国企業に追いつかれ、じわじわ抜かれて行きます。 日本企業がトップだった間は、日本企業が中心になって、世界規格を決めていましたが、今、振り返ってみれば、間違いなく世界標準になったのは、ビデオ、CD、DVDくらいのもので、それはもう、80年代の昔です。 その後、MDが不完全燃焼に終わり、ブルーレイが国際市場で無視されている有様をみれば、日本の家電メーカーの天下が、いかに短かったかが分かろうというもの。
薄型テレビでは、しばらく、トップ集団に喰いついていましたが、先頃、有機ELで、韓国企業に致命的な差をつけられ、完全に抜き去られました。 その時、ある日本の家電メーカーの経営者が、記者会見で発した言葉が、印象的、且つ、象徴的でした。
「2015年までには、わが社も有機ELを出します」
生き馬の目を抜くような競争の激しい業界で、三年も先の話をする神経が分かりません。 そのメーカーの株価は、その会見の後、値下がりしましたが、投資家の面々が、この呑気な発言に、ぞーっと背筋を寒くしたのも無理からぬ事です。
有機ELのショックは大きかったらしく、「技術的には、すぐ作れる」だの、「台湾メーカーに技術供与して、生産委託する予定」だの、日本メーカーの発表が相次ぎましたが、こうした発言自体が奇妙奇天烈で、技術的にすぐ作れるなら、なぜ、試作品だけでも、韓国メーカーに先んじて発表しなかったのか分かりませんし、台湾メーカーに供与するほどの技術があるなら、なぜ、高価格帯の製品だけでも、自前で作らないのか分かりません。
もしや、有機ELの技術なんぞ、薬にしたくも持っておらず、単に、自社の株価を落とさない為に、ハッタリを打っただけなのではありまいまいか? とにかく、作れると言うなら、すぐにでも、現物を見せるべきです。
車は、2000年代に入った頃には、韓国車に抜かれていてもおかしくなかったのですが、アジア通貨危機で、韓国企業の世界展開にブレーキがかかったために、言わば敵失で、若干の猶予期間を稼ぎ、更に、ハイブリッド車をたまたま、世界で最初に市場投入できたお陰で、猶予期間を引き延ばす事に成功しました。
ハイブリット技術自体は、エコでもなんでもない、ハッタリ技術だと思いますが、ハッタリだろうが、ごまかしだろうが、買い手さえ騙せれば、競争に勝てるのであって、この点、ト●タやホ●ダは、有用な技術を手に入れたといえます。
しかし、先にも書いたように、日本の自動車メーカーは、国内に主力の工場を維持している限り、利益がジリ貧になるのは目に見えており、今後の世界市場でトップ集団に残るのは難しいでしょう。 今や、日本車程度の性能・品質の車なら、どこの国でも作れるのです。
かくのごとく、日本企業が、世界のトップにいた期間というのは、大抵の日本人が思っているほど、長いものではありません。 家電でも、車でも、ほんの10年ほど、トップにいただけなのですが、まるで、天地開闢以来、連綿と続く名家の出自であるかのような錯覚に囚われてしまったのです。
技術革新が目白押しの業界では、その技術のパイオニアである企業ですら、ちょっとした経営判断のミスで、凋落を免れないのですが、しばらく、トップにいたというだけで、天狗になっていたのでは、落ちて当然、抜かれて当たり前。 「負けるはずがない」などという宗教的信念など、屁のつっぱりにもなりません。
また、日本の技術者達に、極悪の影響を与えているのが、新聞やテレビなどの、≪日本の技術礼賛報道≫です。 NHKの、≪プロジェクトX≫辺りが、その嚆矢だったと思うのですが、とにかく、日本企業や、日本人学者の開発した技術を、誉めて誉めて誉めちぎる。 囃して囃して持て囃す。 節操のかけらもありません。
技術開発部門を持っているところなら、世界中どの国の会社でも、日常的にやっているような些細な事を、針小棒大に引き延ばし、まるで、神話の出来事のように美化して、≪感動の開発秘話≫を作り上げてしまいます。 そんな、映画の元話になるような事例が、そうそうたくさんあるわけがないのであって、しまいには、ネタ切れして、ヤラセ、捏造に走り、番組打ち切りになる始末。
新聞も凄い。 日本の新聞の科学技術面には、日本人の業績しか載りません。 見出しだけ見て、「面白そうだな」と思って、読み始めるのですが、出て来る研究者や開発者が日本人ばかりなので、だんだん、胡散臭さを感じるようになり、まず、人の名前を探して、日本人の研究だと分かった時点で、読むのをやめる事にしました。
オマケに、笑ってしまう事に、外国人の業績になる新発見・新開発のニュースがあると、科学技術面ではなく、三面に出ます。 まるで、「わざわざ、科学技術面に載せるほどの功績ではない」とでも言いたいかの如く。 一体、どういうつもりで、紙面構成をしているやら。 これは、差別以上の重大問題で、宗教を通り越して、記者の精神異常すら疑わせます。
私は、科学技術ほど、国や民族の境が無い分野も無いと思っているのですが、日本の新聞やテレビは、まったく正反対の考え方をしているようで、彼らにとって、科学技術とは、自分の国や民族を自慢するための道具でしかないのです。 ちなみに、日本の新聞で、科学技術面を担当しているのは、理系教育を受けた、≪科学記者≫なのだそうですが、ちゃんちゃらおかしいにも程がある。 肩書きに「科学」の二文字を使う資格なぞ、到底あるまいに。 ただの、低次元な民族主義者ではないですか。
厄介な事に、新聞やテレビの科学技術面や科学技術番組は、文系の門外漢どもが作っているわけですが、読んでいる方、見ている方には、理工系が多いのですよ。 そういう内容に興味がある人であればこそ、記事を読んだり、チャンネルを合わせたりするわけですから。 これが、悲劇の元凶。
職場では研究室に閉じこもって仕事をしていて、外部の情報が伝わり難いところへ持って来て、家に帰れば、新聞やテレビで、「日本の技術は、最高だ!」の大合唱をしているわけです。 もともと、世間知らずな人が多いですから、手も無く騙されて、「そうか、俺のやっている研究は、断トツで、世界一なんだ!」と、信じ込んでしまうわけですな。
実際に、トップであろうがあるまいが、自分の事をトップだと信じ込んでいる人間が、いつまでもトップの座にいられないのは、上にも書いた通りです。 当たり前ですわな。 トップならば、別に努力する必要は無いんですから、呑気に構えている間に、どんどん抜かれます。 で、ある日突然、有機ELのように、圧倒的な技術力の差を見せ付けられて、寝耳に水で、口あんぐりで固まってしまうわけですわ。
良識のある人が、日本企業の姿勢に、警鐘を鳴らして、
「とにかく、負けている事を謙虚に認めて、態勢を立て直すべきだ」
なんて言っても、馬の耳に小判です。 なにせ、マスコミによる長年の刷り込みが功を奏して、「日本の技術は、もともと優秀だ」と信じ込んでいるものだから、そんな言葉は、雑音にしか聞こえません。 「聞きたくない」、「認めたくない」と言った方が、適当ですか。
そういや、「もともと優秀」って、どこかで聞いた言葉ですねえ。 そうですよ、≪ゆとり教育≫の時に出て来た言葉ですよ。 馬鹿だねえ、逆だよ。 もともと優秀でないから、必死に努力して、レベルを保っていたんだよ。 それをやめてしまったら、普通のレベルにさえ留まれないのは、目に見えているではないですか。
そもそも、技術というのは、不断に進歩させなければ、すぐに陳腐化するものであって、「蒔絵の箱に入れて戸棚の奥にしまっておけば、いつまでも価値が減じない」というような種類のものではありません。 科学技術を、≪柳生武芸帳≫や≪伊賀忍法帳≫と、混同しているのではないですか?
「日本の技術は優秀」って、一体、いつの時点の、どの技術の事ですか? 未だに、≪ウォークマン≫の例を引っ張り出して、日本の技術を褒め称えようとする、骨董品のような人間がいますが、いいかげんに、目を覚ましなさいよ。 そんな物には、もう、何の価値も無いのですよ。
ところで、私は、こんな事を書いていますが、「日本企業に復活してもらいたい」などとは、全く思っていません。 昔は、そう思っていたのですが、私自身が、もう人生を折り返して、ギラギラした事に興味を失ってしまい、一切合財、どうでもよくなりました。
また、私が何を言おうが、日本企業の没落は止めようが無いと思うのですよ。 「もはや、手遅れ」というのさえ、当たっていない。 どの時点で、問題点を指摘しても、誰も言う事なんぞ聞かなかったに違いありません。 最初から、上って下る道を進んでいたのです。
いいんですよ。 みんな揃って、「日本の技術は最高だ!」と唱えていれば、それで、幸福なんだから。 没落は没落、破滅は破滅として、その時はその時で、甘んじて受け入れればいいではありませんか。
どちらも、日本の半導体メーカーで、どちらも、家電・重電・パソコン各メーカーの半導体部門が、統合して出来たという経歴を持ちます。 いわゆる、寄せ集め会社ですな。 いや、寄せ集めだから、傾いたとは言いませんよ。 確かに、複数の会社が一つになると、旧会社の派閥が幅を利かせて、組織運営に悪影響が出るものですが、統合した会社が、全て、失敗しているわけではありませんからね。
都市銀行なんて、行名だけ聞くと、冗談としか思えないような、凄まじい離合集散を繰り返しましたが、未だに企業番付の上位を占めており、「統合会社のくせに、どうして、そんなに利益が出るんだ?」と、不思議でなりません。 もっとも、「都市銀行が左前になるのは、これからだ」という見方もできるので、あまり誉めるのも考えものですが。
話を戻します。 マスコミは、企業が潰れる時には大騒ぎしますが、統合して新会社が発足した時には、見向きもしないので、そもそも、この二社が、一体、いつ出来たのかも知りませんでした。 統合するならすると、新聞に見開き広告を十日間連続で出すとか、テレビCMを流すとか、印象的な周知をしてもらわないと、カタカナ社名だけに、「一体、どこの国のメーカーだ?」と首を捻ってしまいますな。
二つの半導体メーカーが、急激に業績悪化した原因は、円高や、欧州金融危機による景気減速、新興国企業の追い上げ、など、いろいろあるようですが、なんだか、言い訳っぽい分析ですなあ。 円高は、海外に生産拠点を移さなかったのが悪いのであって、対策は取れたはずですし、欧州金融危機は、新興国企業にも同じ条件で降りかかったわけで、日本企業だけが、ダメージを受けたわけではありません。
残るは、新興国企業の追い上げですが、これは、つまり、日本企業が市場の競争で、負けたというだけの事であって、原因というより、結果でしょう。 スポーツに譬えれば、
「我がチームが負けた原因は、相手チームが強かったからだ」 と言っているようなもの。 アホけ? その強い弱いを決めるのが、勝負やないか。 いや、待てよ。 実際に、こういうセリフを口にする監督というのはいますね。 敗因を訊ねられて、憮然とした態度で、
「敗因も何もありません。 相手が、うちより強かったというだけの事です」
いるいる、確かにいる。 下手な言い訳をするより、潔く弱い事を認めてしまった方が、カッコがつくと思っているのだと思いますが、よく考えてみると、弱い事を認めるなんていうのは、敗因分析以前の問題であって、質問の答えになっていません。 こういう物言いをする監督というのは、合理的な問題解決方法を知らない可能性が高いです。 さっさと、クビにした方がいいでしょう。
また、話を戻します。 エ●ピーダと、ル●サスどちらの会社の人間だったか忘れましたが、幹部だか、技術者だかが、象徴的な言葉を発していました。
「日本の技術が負けるとは思っていなかった」
おおう! もしかしたら、そういう人間がいるのではないかと思ってはいましたが、本当にいたんですねえ。 「勝つと思うな、思えば負けよ」という言葉を知らなかったか、ただの歌の文句に過ぎないと思っていたか、いずれにせよ、こういう人間がいたのでは、その組織は、生き残れますまい。 「絶対、勝てる」と思い込むのは、判断ではなく、単なる信仰です。 宗教の論理が内輪にしか通用しないのと同じで、外の組織との競争には、全く役に立たないばかりか、却って、足枷になってしまいます。
そういえば、1990年前半、つまり、バブル絶頂期から、バブル崩壊の頃ですが、韓国企業が、アメリカ市場に進出し始めた事を伝える報道番組を見ていたら、インタビューを受けた日本の家電メーカーの幹部が、似たような事を言っていました。
「韓国企業には、勝てます」
自信満々という感じではなく、幾分、悲壮な表情を見せつつも、言葉に限って言えば、きっぱり、断言していました。 一方、同じ質問を受けた、日本の自動車メーカーの幹部は、ニタニタ笑いながら、こう答えていました。
「韓国企業にですか? ふふふ、そうですねえ。 追いつかれてしまうかもしれませんねえ」
当時、それを聞いた私は、「家電は、その内、やられてしまうだろうなあ。 車は、もうちょっと、長く踏ん張れるかも知れぬ」と感じました。 家電メーカーの幹部は、韓国企業の追い上げに危機感を抱いていたにも拘らず、負ける可能性がある事を認めなかったわけで、これは、判断ではなく、信仰です。
一方、自動車メーカーの幹部は、「まだ、追いつかれるには、時間がかかるだろう」と分析しつつも、一応、抜かれる可能性について、念頭に置いていたわけで、まずまず、合理的な判断能力があったと言えます。 家電と車の、その時の違いが、20年経過した現在に、結果として現れているのだと思います。
ただし、日本の自動車メーカーが、今後も磐石だというわけでは、もちろん無く、家電よりは、少しは長持ちするという程度の違いです。 自動車メーカーは、家電とは比較にならないほど、国内生産拠点の維持に拘る傾向があり、経済状況の推移次第では、業界全体が一気に崩壊に向かう恐れもあります。
自信というのは、自信の無い者が自分の実力を引き出す為に持つ分には、悪いものではないと思います。 しかし、すでに自信に満ち満ちている者が、余計に自信を持つと、ろくな結果になりません。 自分に、実力以上の能力があると思い込んでしまうわけですから、それ以上の努力など、当然しなくなるわけで、進歩が止まってしまうわけです。 進歩しない者が、不断に進歩している者に勝てるわけがないではありませんか。 それは、個人でも組織でも同じ事です。
かつて、≪ゆとり教育≫というのが行われて、惨憺たる結果に終わりましたが、あれは、日本社会全体の自信過剰が原因で始まったものでした。 国際比較で、日本の学生の成績が良かったものだから、「日本人は、もともと優秀な民族である」と思い込んでしまったのです。 「もともと優秀なのだから、少しカリキュラムを易しくして、浮いた授業数で、日本人の弱点とされている、創造力を養う教育をしよう」と目論み、≪詰め込み教育≫から、≪ゆとり教育≫へと、変換を計ったわけですな。
ところが、≪ゆとり教育≫を始めた途端に、成績が落ち始めました。 日本の学生は、「もともと優秀」だったのではなく、詰め込み教育のおかげで、辛うじて、成績上位を保っていたのです。 それをやめたのだから、アホが続出するのは、自然の摂理。 ≪総合学習の時間≫? なんじゃ、そりゃ? 老人の痴呆予防講習ならいざ知らず、子供にしてみれば、遊んでいるのと変わらないでしょうが。
それでなくても、天才が出て来ない民族性なのに、秀才すら作り出せなくなってしまったのだから、知性も教養もあったもんじゃありません。 「一億総白痴化」なんて言っていた頃が懐かしいですが、昨今の知識人のレベルを見ていると、昔の白痴は、たいそう知性に溢れていたという事になりますな。 ≪詰め込み教育≫の時代の知性レベルを知りたかったら、図書館へ行って、当時の新聞を読んでみるといいです。 今の新聞が、ただの情報紙にしか見えなくなるから。
またまた、話を戻します。 実際には、新興国企業に負けているのに、日本企業はなぜ、「自分達の方が、勝っている、進んでいる、優れている」と信じ込んでしまったのか? 「もともと、そう思い込んでいた」なんて事はありません。 日本企業が、欧米企業に追いついたのは、家電で80年代、車で90年代の事で、それ以前は、明らかに、「追う立場」でした。
家電は、90年代半ばには、新興国企業に追いつかれ、じわじわ抜かれて行きます。 日本企業がトップだった間は、日本企業が中心になって、世界規格を決めていましたが、今、振り返ってみれば、間違いなく世界標準になったのは、ビデオ、CD、DVDくらいのもので、それはもう、80年代の昔です。 その後、MDが不完全燃焼に終わり、ブルーレイが国際市場で無視されている有様をみれば、日本の家電メーカーの天下が、いかに短かったかが分かろうというもの。
薄型テレビでは、しばらく、トップ集団に喰いついていましたが、先頃、有機ELで、韓国企業に致命的な差をつけられ、完全に抜き去られました。 その時、ある日本の家電メーカーの経営者が、記者会見で発した言葉が、印象的、且つ、象徴的でした。
「2015年までには、わが社も有機ELを出します」
生き馬の目を抜くような競争の激しい業界で、三年も先の話をする神経が分かりません。 そのメーカーの株価は、その会見の後、値下がりしましたが、投資家の面々が、この呑気な発言に、ぞーっと背筋を寒くしたのも無理からぬ事です。
有機ELのショックは大きかったらしく、「技術的には、すぐ作れる」だの、「台湾メーカーに技術供与して、生産委託する予定」だの、日本メーカーの発表が相次ぎましたが、こうした発言自体が奇妙奇天烈で、技術的にすぐ作れるなら、なぜ、試作品だけでも、韓国メーカーに先んじて発表しなかったのか分かりませんし、台湾メーカーに供与するほどの技術があるなら、なぜ、高価格帯の製品だけでも、自前で作らないのか分かりません。
もしや、有機ELの技術なんぞ、薬にしたくも持っておらず、単に、自社の株価を落とさない為に、ハッタリを打っただけなのではありまいまいか? とにかく、作れると言うなら、すぐにでも、現物を見せるべきです。
車は、2000年代に入った頃には、韓国車に抜かれていてもおかしくなかったのですが、アジア通貨危機で、韓国企業の世界展開にブレーキがかかったために、言わば敵失で、若干の猶予期間を稼ぎ、更に、ハイブリッド車をたまたま、世界で最初に市場投入できたお陰で、猶予期間を引き延ばす事に成功しました。
ハイブリット技術自体は、エコでもなんでもない、ハッタリ技術だと思いますが、ハッタリだろうが、ごまかしだろうが、買い手さえ騙せれば、競争に勝てるのであって、この点、ト●タやホ●ダは、有用な技術を手に入れたといえます。
しかし、先にも書いたように、日本の自動車メーカーは、国内に主力の工場を維持している限り、利益がジリ貧になるのは目に見えており、今後の世界市場でトップ集団に残るのは難しいでしょう。 今や、日本車程度の性能・品質の車なら、どこの国でも作れるのです。
かくのごとく、日本企業が、世界のトップにいた期間というのは、大抵の日本人が思っているほど、長いものではありません。 家電でも、車でも、ほんの10年ほど、トップにいただけなのですが、まるで、天地開闢以来、連綿と続く名家の出自であるかのような錯覚に囚われてしまったのです。
技術革新が目白押しの業界では、その技術のパイオニアである企業ですら、ちょっとした経営判断のミスで、凋落を免れないのですが、しばらく、トップにいたというだけで、天狗になっていたのでは、落ちて当然、抜かれて当たり前。 「負けるはずがない」などという宗教的信念など、屁のつっぱりにもなりません。
また、日本の技術者達に、極悪の影響を与えているのが、新聞やテレビなどの、≪日本の技術礼賛報道≫です。 NHKの、≪プロジェクトX≫辺りが、その嚆矢だったと思うのですが、とにかく、日本企業や、日本人学者の開発した技術を、誉めて誉めて誉めちぎる。 囃して囃して持て囃す。 節操のかけらもありません。
技術開発部門を持っているところなら、世界中どの国の会社でも、日常的にやっているような些細な事を、針小棒大に引き延ばし、まるで、神話の出来事のように美化して、≪感動の開発秘話≫を作り上げてしまいます。 そんな、映画の元話になるような事例が、そうそうたくさんあるわけがないのであって、しまいには、ネタ切れして、ヤラセ、捏造に走り、番組打ち切りになる始末。
新聞も凄い。 日本の新聞の科学技術面には、日本人の業績しか載りません。 見出しだけ見て、「面白そうだな」と思って、読み始めるのですが、出て来る研究者や開発者が日本人ばかりなので、だんだん、胡散臭さを感じるようになり、まず、人の名前を探して、日本人の研究だと分かった時点で、読むのをやめる事にしました。
オマケに、笑ってしまう事に、外国人の業績になる新発見・新開発のニュースがあると、科学技術面ではなく、三面に出ます。 まるで、「わざわざ、科学技術面に載せるほどの功績ではない」とでも言いたいかの如く。 一体、どういうつもりで、紙面構成をしているやら。 これは、差別以上の重大問題で、宗教を通り越して、記者の精神異常すら疑わせます。
私は、科学技術ほど、国や民族の境が無い分野も無いと思っているのですが、日本の新聞やテレビは、まったく正反対の考え方をしているようで、彼らにとって、科学技術とは、自分の国や民族を自慢するための道具でしかないのです。 ちなみに、日本の新聞で、科学技術面を担当しているのは、理系教育を受けた、≪科学記者≫なのだそうですが、ちゃんちゃらおかしいにも程がある。 肩書きに「科学」の二文字を使う資格なぞ、到底あるまいに。 ただの、低次元な民族主義者ではないですか。
厄介な事に、新聞やテレビの科学技術面や科学技術番組は、文系の門外漢どもが作っているわけですが、読んでいる方、見ている方には、理工系が多いのですよ。 そういう内容に興味がある人であればこそ、記事を読んだり、チャンネルを合わせたりするわけですから。 これが、悲劇の元凶。
職場では研究室に閉じこもって仕事をしていて、外部の情報が伝わり難いところへ持って来て、家に帰れば、新聞やテレビで、「日本の技術は、最高だ!」の大合唱をしているわけです。 もともと、世間知らずな人が多いですから、手も無く騙されて、「そうか、俺のやっている研究は、断トツで、世界一なんだ!」と、信じ込んでしまうわけですな。
実際に、トップであろうがあるまいが、自分の事をトップだと信じ込んでいる人間が、いつまでもトップの座にいられないのは、上にも書いた通りです。 当たり前ですわな。 トップならば、別に努力する必要は無いんですから、呑気に構えている間に、どんどん抜かれます。 で、ある日突然、有機ELのように、圧倒的な技術力の差を見せ付けられて、寝耳に水で、口あんぐりで固まってしまうわけですわ。
良識のある人が、日本企業の姿勢に、警鐘を鳴らして、
「とにかく、負けている事を謙虚に認めて、態勢を立て直すべきだ」
なんて言っても、馬の耳に小判です。 なにせ、マスコミによる長年の刷り込みが功を奏して、「日本の技術は、もともと優秀だ」と信じ込んでいるものだから、そんな言葉は、雑音にしか聞こえません。 「聞きたくない」、「認めたくない」と言った方が、適当ですか。
そういや、「もともと優秀」って、どこかで聞いた言葉ですねえ。 そうですよ、≪ゆとり教育≫の時に出て来た言葉ですよ。 馬鹿だねえ、逆だよ。 もともと優秀でないから、必死に努力して、レベルを保っていたんだよ。 それをやめてしまったら、普通のレベルにさえ留まれないのは、目に見えているではないですか。
そもそも、技術というのは、不断に進歩させなければ、すぐに陳腐化するものであって、「蒔絵の箱に入れて戸棚の奥にしまっておけば、いつまでも価値が減じない」というような種類のものではありません。 科学技術を、≪柳生武芸帳≫や≪伊賀忍法帳≫と、混同しているのではないですか?
「日本の技術は優秀」って、一体、いつの時点の、どの技術の事ですか? 未だに、≪ウォークマン≫の例を引っ張り出して、日本の技術を褒め称えようとする、骨董品のような人間がいますが、いいかげんに、目を覚ましなさいよ。 そんな物には、もう、何の価値も無いのですよ。
ところで、私は、こんな事を書いていますが、「日本企業に復活してもらいたい」などとは、全く思っていません。 昔は、そう思っていたのですが、私自身が、もう人生を折り返して、ギラギラした事に興味を失ってしまい、一切合財、どうでもよくなりました。
また、私が何を言おうが、日本企業の没落は止めようが無いと思うのですよ。 「もはや、手遅れ」というのさえ、当たっていない。 どの時点で、問題点を指摘しても、誰も言う事なんぞ聞かなかったに違いありません。 最初から、上って下る道を進んでいたのです。
いいんですよ。 みんな揃って、「日本の技術は最高だ!」と唱えていれば、それで、幸福なんだから。 没落は没落、破滅は破滅として、その時はその時で、甘んじて受け入れればいいではありませんか。