新社会人
毎年、この時期になると、新社会人達に向けて、「先輩からのアドバイス」といった趣きの、おこがましい記事が、新聞に出るようになります。 「五月病」という社会現象があり、仕事に就いてから、一ヵ月くらい経った頃が、最も脱落し易いので、それを防ごうというつもりなのでしょう。 そういう発想自体が、実に、おこがましい。 人の心配するよりも、自分が、リストラされないように気をつけるべきだと思います。 「用なし社員」になっているのは、あんた自身じゃないのかい?
その点、私は、すでに引退しており、子供もなく、自分が死んでしまえば、後は、どんな世の中になろうが知った事ではない、お気楽この上ない身分なので、新社会人の面々にも、なんら利害関係がなく、お為ごかしではない、忌憚ない意見を申し述べる資格があろうというもの。 言い方を変えると、えーから加減な事を書き散らすつもりなので、話半分に読んで下さい。
私の場合、中途採用だったので、五月病の経験はないのですが、新入社員を見ていて、そういう傾向があるのを見て取れたのは、確かです。 たとえ、一ヵ月もっても、二ヵ月はもたない。 いずれにせよ、早々と辞めてしまうのです。 原因は、仕事ができない場合と、人間関係がうまくいかない場合があります。
仕事に関しては、新入社員は、みんな素人ですから、最初のスタート・ラインは同じなのですが、適性の違いで、すぐに差が出てしまう事があります。 文系出身者や体育会系出身者に、数字を扱わせたら、ミスだらけで使いものにならないと思いますし、人付き合いが苦手な性格の人間に、折衝系の仕事を宛がったら、瞬く間に、ノイローゼになります。
そのくらいの事は、人事部門で、予め、適性別に振り分ければ良さそうなものですが、どんな会社でも、人事部門ほど、いい加減で、無能な部署はなく、人の適性を見分けるなどという、高度な能力は、望むも愚か。 名前と顔も一致しないのに、リストだけを見て、テキトーに割り振って、駄目だったら駄目で、「当人の問題」と、知らぬ顔を決め込むのが、お得意のパターンです。
ちなみに、人事の能なし馬鹿どもが、でかい面を見せるのは、入社試験の面接の時だけです。 買い手市場の時に就活して、入社試験で、人事のキチガイどもに、下司サイテーな嫌味とか言われた経験がある人もいるでしょうが、全く気にする必要はないです。 この世で、最も駄目な会社員が、人事の連中だからです。 それが証拠に、人事のやつらがリストラされると、どこも雇ってくれません。 人事同士で、使えないのが分かっているから、雇わないんですな。 様ぁいい。
全く向かない仕事を宛がわれてしまい、頭か体がおかしくなってしまうような、つらい日々が続いた場合、「続けるか、辞めるか」で、本気で悩むところまで追い詰められたら、もう、辞める事を決心した上で、一か八か、上司に、配置換えを申し出てみるのも、一つの手です。 仕事が変わると、苦もなく、こなせるようになるケースが、非常に多くあるからです。 それまで、死にそうな顔をしていた人間が、仕事が変わった途端に、ケタケタ笑って冗談を飛ばす、明るい人に変身した事例など、枚挙に暇なし。
最初に宛がわれた仕事で潰れて、会社を辞めてしまった人には、ほんとに気の毒だと思いますが、実際に、そんな例は、いくらでもあるのですよ。 逆のケースもあり、最初に、楽な部署に配属されて、嬉々として働いていた人が、何かの都合で、他の部署に回されたところ、あまりの辛さに、たちまち、音を上げ、「これでは、追い出し部屋と同じだ!」と、上司に訴えたりします。 いやー、最初の所が、楽過ぎただけだと思うんですがね。 元の部署に戻してもらえれば、幸運。 駄目なら、辞めるしかないですな。
これは、社会問題にもなっていますが、飲食店チェーン業界で、正社員として、店に配属されたら、潰れるまで、扱き使われると覚悟しておいた方がいいです。 私だったら、そういう業界には、最初から、近づきません。 辞める事を見越して、必要数よりも多くの新入社員を採用しているので、就活生にとっては、入り易い業界だと思うのですが、大量に採っているところは、大量に辞めさせているのであって、「自分だけは、耐えられる」とか、「すぐに、這い上がって、使う側になってやる」とか目論んでいても、例外になれる確率は、甚だ低いです。
「10年我慢すれば、現場から離れられる」とか言われていても、その10年間で、体の方が壊れてしまうのですよ。 睡眠も満足に取れないような生活では、10年どころか、10日でもフラフラになってしまいます。 精神力に自信があって、「やって、やれない事はない」と信じており、「辞めて行くやつらは、ただの負け犬だ」と思っている者ほど、自分自身に対しても、同様のハードルを課してしまうので、危険な領域まで追い込まれ易いです。 バイク乗りの世界で、「うまい人ほど、事故り易い」と言われたり、川下りの舟が転覆した時、「泳げる人ほど、溺れ易い」と言われたりしますが、それに似ていますな。
ちなみに、バイクの方は、うまい人ほど、マシンの限界性能を引き出そうとするので、カーブで倒し過ぎたり、スピードを出し過ぎたり、強引なすり抜けをしたりと、危険な走り方になり易いというわけ。 川下り舟の転覆の方は、泳げない人は、岩や舟につかまって、助けを待つのに対し、泳げる人は、自力で岸まで泳ごうとして、急流に呑まれてしまうという理由です。
特定の会社が悪いというのではなく、飲食店チェーン業界全体が、人を使い潰す事によって、利益を得ているのですよ。 常識外れに安いメニューとか見たら、何かが、おかしいと思わなければいけません。 「一体、どこで、利益を出しているんだろう?」と考えれば、人を安く使って、人件費を抑えている以外に、答えがないじゃありませんか。 経済原則に照らば、容易に分かる事です。
ブラック企業として、会社を訴えるという、最後の手段もありますが、そういう事をすると、必ず、会社の上層部から睨まれるので、その後の社員生活は、針の筵になります。 「いい会社になって欲しいからこそ、訴えた」なんてセリフは、経営者側から見ると、裏切り者の屁理屈にしか聞こえますまい。 思うような出世も、できないでしょうねえ。 どの会社にも、社員のブラック・リストが存在し、一度、それに名前が載ると、出世できません。 ヒラで通す気なら、却って、好都合なのですが、結婚や、子育てを人生計画に入れているのなら、生涯ヒラは、大きなマイナスになります。
就活時の甘い考えで、つい、ブラック企業に入ってしまったという人に忠告ですが、「もう、限界だ・・・」が口癖になり、「自殺」の二文字が脳裏にちらつくようになったら、思い切って、辞めた方がいいです。 親や友人に相談してはいけません。 特に、親は駄目です。 必ず、「もう少し、頑張ってみたら」とか、「お前は、子供の頃から、堪え性がない」とか、事情も知らずに、手前勝手な事を言って、辞めさせまいと試みます。 それが、親の務めだと思っているから、始末が悪い。 本心は、親戚や友人知人に、自分の子供が会社を辞めたと知れるのが、恥ずかしいからだと思いますが。
それで、息子や娘が自殺すると、会社を訴えるわけですが、ちゃんちゃらおかしい。 てめーらが、辞めさせないように追い詰めたんだろうが。 会社と親は、共同正犯だわ。 また、マスコミもマスコミで、判で押したように、親の味方について、企業を吊るし上げるのに躍起。 親が、自殺した本人に、どんなアドバイスをしていたか、まず、それを聞き出してから、味方をするべきでしょう。 「そんな会社、辞めちゃいな」なんて言っている親は、まーあ、いないと思いますぜ。
友人も、相談相手としては、よくないです。 そういう相談を持ちかけられた友人が、一番困るのは、「お前の勤め先で、雇ってくれないかなあ」と言い出される事です。 溺れる者は藁にも縋るので、誰でも当てにするのですが、その友人だって、まだ若くて、社内での地位なんて、ないも同然なんですから、コネなんか、使えるわけがありません。 で、面倒な事にならないように、「もう少し、頑張ってみたら」とか、「どの仕事も、きついと思うぜ」とか、手前勝手な事を言って、辞めさせまいと試みるのです。
私、経験がありますよ。 勤めた自動車業界の工場が、思っていた以上に、体がきつい仕事だったので、ファミレスでバイトしていた時の知り合いで、家電業界の工場に勤めていた人に電話をかけ、「そっちの会社で、募集してない?」と訊いたのです。 その時の、相手の反応が、今でも忘れられません。 「うーん・・・」と唸ってから、しばらく間を置いて、これ以下はないくらい、テンションの低い声で、「今は、どこでも、中途は取ってないと思うよ・・・」と、ぼそぼそっと言ったのです。 あれだけ、迷惑そうな答え方も、なかなか、例がない。
笑ってしまう事に、それから、半年くらいしたら、その人から電話がかかって来て、「三交替勤務がきついから、辞めたいと思っている」と告白した後で、「そっちの会社で、募集してない?」と訊いて来ました。 さすがの私も、目が点ですな。 半年前に、私に向かって、自分が何と言ったか、打ち忘れておるのでしょう。 で、半年前に言われた事を、言い方を少しだけ和らげて、返してやりました。 別に、嫌味ではなく、私には、社内で使えるコネなどなかったから、事実を伝えるしかなかったのです。
かくのごとく、本人が、会社でどんな仕事をさせられているか知らないやつらに相談しても、有効なアドバイスなど貰えるはずがないのは、道理中の道理。 辞める時に、頼りになるのは、自分の判断力だけです。 そんなに難しい判断ではありません。 ハムレットと同じ、「生きるべきか、死ぬべきか」だけを決めれば宜しい。 「生きるべき」という答えが出たら、再就職先など考えなくてもいいから、すぐに辞めてしまいなさい。 アルバイトで喰い繋いでも、自殺するよりは、明らかにマシではありませんか。
人件費を削って、利益を出している業界は、みんな同じでして、魔法のような経営アイデアなど、そうそうあるわけがなく、絞れるところから絞るのは、そういう会社では当然の事なのです。 使い潰すのを前提に、人を雇っているのですから、それに気づいたら、もはや、逃げるに如かず。 何をためらう事があろうか、いーや、あるはずかない。 できれば、就職する前に、気づきたいものですが、そういう会社に限って、商品が安くて、客の受けはいいから、客側の視点では、気づかないんでしょうな。
五月病で辞めてしまう、もう一つの大きな理由は、職場の雰囲気に、その人の人格が合わない事ですな。 昼休みや休憩時間などに、新人が一言も喋らない状態が長く続いたら、十中八九、辞めてしまいます。 上司や先輩が話しかけても、すぐに会話が途切れてしまうという場合、元々、おとなしいとか、遠慮しているとかではなく、「いるだけで、辛い」と思っているのであって、当人は、静かな拷問を受け続けているのです。
大人が集まっていると、話題が大体決まっており、ギャンブル、スポーツ、異性ネタで、9割は埋まります。 真面目な学生だった人にとって、突然、そういう、下司な世界に放り込まれてしまうのは、耐えられない事でしょう。 言っとくけど、テレビ番組の話なんて、できないですよ。 見ている番組が、人それぞれですから、話が合わないのですよ。 映画なんて、尚の事。
困った事に、ギャンブル、スポーツ、異性ネタで大盛り上がりする人達というのは、そういう話題は、誰でも興味があると信じ込んでいて、黙っている新人に、無理やり、話を振って来たりします。 最初の一言が、「パチンコとか、行く?」だったりすると、「行きません」で、終わりですな。 「野球(サッカー)は、どこファン?」というのも同じ。 返事は、「あまり、興味がありません」で、おしまい。 ぐっと、一般化させて、「趣味は何?」という質問なら、まだ、配慮がある方ですが、正直に答えると、訊いて来た方が、そんな世界は全く知らずに、絶句してしまいます。
異性ネタは、また、困るんだよな。 そういうのが好きな奴が一人いると、口を開けば、ナンパや風俗店での武勇伝、過去の異性遍歴といった事を、引っ切りなしに、喋りまくります。 それだけでも迷惑なのに、面倒見がいいところを見せようと、新人の肩を叩いて、「よし、今度、俺が、風俗に連れてってやる」などと、とんでもない事を言い出します。 冗談じゃねーよ! 会社のつきあいで、病気でも貰った日には、誰が責任とってくれるねん? ほっといてくれよ、この下司野郎が!
学者や技術者が集まるような職場でもない限り、知性的な会話というのは、ほとんど、交わされません。 一般的な職場では、読書階層なんて、存在しないと思った方が宜しい。 たとえ、いたとしても、読んでいる本は、人それぞれですから、話が合う人を見つけるのは、至難の業でしょう。 仕事についての話は、最初から、複雑極まりない仕事を与えられるような事はないですから、発展性が望めません。 何度も同じ質問など繰り返していたら、話のネタになるどころか、逆に怒られてしまいます。
たまたま、趣味が同じ先輩がいて、その人とだけ意気投合するケースが、間々見られますが、それ以外の人と、全く喋れないのでは、やはり、困ります。 その趣味が特殊だったりすると、その先輩まで、周囲から孤立していて、他の人とのパイプ役を果たしてくれない事もあります。 オタク系が、その典型でして、どこの職場にも、一人二人はいるものの、決して、多数派ではないので、常に、孤立を強いられているわけですな。
その点、取り立てて、知性派ではない人間は、楽です。 先輩達との下司度が、ほぼ同じだと、一週間もしない内に、難なく溶け込んで、もう、何年も一緒に働いているような図々しさを見せる者もいます。 バイト歴が豊富で、様々な職場環境に慣れている人間に、そういうのが多い。 そういうタイプは、馴れ馴れしさが行き過ぎてしまって、先輩から嫌がられる事もありますが、まあ、自分から辞める事はないです。
ただし、仕事ができない場合は、別です。 私は、在職中、新入社員はもちろんの事、派遣社員や期間工で、新しく入って来る人間を、嫌というほど目にしましたが、大きく分けて、仕事を覚える事を優先する人と、人間関係を優先する人の、二つのタイプがありました。 両者のバランスが取れていれば、ベストなのですが、そんな器用な人は、ほとんど、いません。 で、どちらか一方を優先しなければならないとなると、仕事を優先した人の方が、確実に、残る率が高かったです。
「仕事ができなくても、上司や先輩と仲良くなってしまえば、庇ってもらえる」という、人脈優先主義の人達は、おそらく、過去に、集団で一つの仕事をやるような、割と楽なバイトを経験していて、そういう処世術を身に着けて来たのだと思いますが、文字通り、一人前の仕事をこなす事を要求される実社会では、通用しないです。 なまじ、お調子者で、人受けが良かった分、仕事ができないと、面目丸潰れで、この下なく惨めな立場に追い込まれ、逃げるように辞めて行く事になります。 全く、格好がつかない。
極端な事を言えば、仕事さえできれば、同僚と一言もしゃべらなくても、文句を言われるような事はないんですよ。 「あまり、喋らない奴」くらいで済まされ、それなりの居場所を与えられます。 逆に、いくら、「いい奴」、「面白い奴」と言われても、仕事ができないのでは、同僚として認めてもらえません。 なぜなら、そいつができない分を、同僚がカバーしなければならなくなり、大迷惑を被るからです。 一人だけ、楽な仕事をやって、給料が同じだったら、それはそれで、腹立たしい話。
あからさまに、口にこそ出しませんが、仕事ができない人間には、「早く辞めて欲しい」と、みんなが思っています。 好悪感情云々ではなく、迷惑なんですよ。 私自身、退職を決意した、最も大きな理由は、自分が、他の人間と同じだけの仕事に耐えられなくなった事を認識したからでした。 ゴネて、楽な仕事を探して貰えば、定年までいられたと思いますが、大きな会社では、そういう、往生際の悪い年寄りが、あまりにも多く、「ああなったら、おしまいだ」と、かねがね、思っていたので、自分がそうなるのを避けたという次第。
とにかく、新しく職場に配属されたら、人脈を構築しようなどとは思わず、仕事を一日も早く、覚える事ですな。 一人前できるようになってしまえば、こっちのもので、後は、ゆとりが出て来たら、先輩達と、話すようにすればいいのです。 そうそう、同期とばかり喋るのは、あまり、よくないです。 立場が近いので、情報交換には有効ですが、休み時間のたびに、よその職場にいる同期の所へ喋りに行ってしまっていたのでは、同じ職場の人と、いつまで経っても、仲良くなれません。
最初の一年くらいは、「自分の事を知って欲しい」という欲望は抑えて、先輩達の事を知るように努めた方がいいです。 自分の事は、訊かれた事にだけ答えているくらいが、ちょうどいい。 先輩というのは、出しゃばる新人を、一番嫌うからです。 出しゃばるよりは、「おとなしい奴」と思われていた方が、ずっとマシ。 中には、子分が出来たと勘違いして、高飛車な態度を取って来る先輩もいると思いますが、どうせ、こちらは、新人ですから、「はい、分かりました」を繰り返していれば、それで済んでしまいます。
どんな職場でも、必ず、嫌な奴というのはいます。 だけど、新人の間は、喧嘩など最優先禁止事項ですし、陰口でさえも、聞き役に徹した方が無難。 先輩同士の喧嘩に巻き込まれる事もあるので、どちらとも、適度な距離を取っておく、用心深さが必要です。 この種の処世訓は、職場が異動になるたびに、初心に帰って、実行するようにした方がいいでしょう。 会社人生の中で、最終的に、勝利者になるのは、仕事ができるだけでなく、人間的にも尊敬される人物です。 そういう人は、新しい職場に移っても、決して、大きな態度など、取らないものです。
最初から、キレっ放しで、年中、怒鳴っているとか、無茶苦茶な指示を出すとか、「大丈夫かよ、この人・・・」と、目を見張るような上司がいる場合がありますが、そういうのは、えーと・・・、大丈夫じゃないです。 つまりその、すでに、精神的に壊れてしまっているんですな。 一言で言うと、キチガイでして、そういう奴の部下になってしまったら、戦々兢々で毎日を過ごさなければなりません。 あまり、ひどい場合は、その上の上司に相談して、配置換えしてもらうのがいいかも知れません。 その場合でも、辞職する覚悟が必要ですが。
これも、私自身の経験ですが、狂った上司というのは、結局、そいつが諸悪の根源なのであって、他の職場に逃げれば、居心地が、地獄から天国ほどに改善する事があります。 こっちのせいじゃなかったわけだ。 一度、頭がおかしくなってしまった人間というのは、治りませんから、近くに寄らない以外に、有効な対処方法がありません。 そういう奴に対しては、周囲の者全員が、「早く、自殺してくれんかなあ」とか、「とりあえず、辞めてくれるだけでもいいんだけどなあ」と、心から願っているのです。
少し、切り口を変えますが、子供の頃から、いい小学校、いい中学、いい高校、いい大学と進み、一流企業に入社したという人達は、全く、気の毒な事ながら、結局、定年で会社を辞めるまで、他人と競争を続けなければならない運命にあります。 「上へ上へ」で、押し通して来た経歴上、会社に入ったら、出世を目指さざるを得なくなってしまうんですな。
こんな事を書くと、「そんなの、当たり前じゃないか」と思う人も多いと思いますが、それこそが、親や世間から、刷り込みを受けている証拠。 他の価値観を否定するように仕向けられて、育ってしまったんですなあ。 気の毒に・・・。 百歩譲って、出世を目標にする事を認めるとしても、その仕方に、問題がある。 同じ出世でも、仕事の実力で上がるか、他人を蹴落として上がるかで、大きく、評価が変わって来ます。
「仕事ができる」というのと、「他人を蹴落とす」というのは、全く異なる才能でして、どちらが早く出世するかというと、残念ながら、後者です。 「名馬は多いが、伯楽は少ない」のであって、仕事の実績を認めてくれる人が少ないので、実力で勝負している人間より、他人を蹴落とす工作に専念している人間の方が、確実に早く、上に行くのです。
で、子供の頃から、人生の目標が、「一流企業での出世」になっていた人達が、入社後、より有利な手段として、他人を蹴落とす方向へ流れ易いのです。 当人達は、出世が会社員の本分だと信じているので、大変、始末が悪い。 実力のあるなしに関わらず、出世に拘らない人間を、「負け犬」などと、嘲笑うわけですが、その実、自分達が、他人を蹴落とす以外に能がない、「実力ゼロ社員」になっている事に気づいていません。
単に、実力がないだけなら、馬鹿にされるだけで済みますが、他人という他人を、「ライバル」か、「ライバルを蹴落とす為に利用する手駒」だと思っているから、気がついた時には、周囲に味方が誰もいない状態になっています。 そういう人間、たくさん、見ましたよ。 出世欲満々で、早々と現場を離れて、「長」がつく身分になったものの、人望がない、というか、人望がマイナスなので、どこへ行っても、うまく人を使えず、行き場がなくなって、しまいには、一日ごとに、直上の上司の指示で、あっちへ手伝いに行ったり、こっちへ回されたり・・・。
一度、そういう目で見られてしまうと、周囲は、決して、許してくれません。 下手に気を許すと、また、利用されてしまうかもしれないから、全力で警戒するのです。 私は、割合、過去の事を水に流してしまうタイプなのですが、世の中は、そうでない人の方が多いようです。 問題の人物がいる時には、和気藹々とやっていても、いなくなった途端に、悪口の嵐になります。 一度、ひどい目に遭わされると、恨みを忘れない人が、こんなにも多いものかと、驚いてしまいますな。
子供の頃から、ずっと、それを人生目標にして、育って来たわけですから、「出世を目指すな」とは言いませんが、他人の蹴落としは、厳に避けた方がいいです。 そんな技術を、いくら磨いても、決して、自分の利益になりません。 人生トータルで見れば、確実にマイナスですし、会社員生活だけで勘定しても、やはり、マイナスです。 上に上がるなら、仕事の実力で、上がって下さい。 実力がある人なら、恨まれるどころか、逆に、皆から頼りにされます。
会社は、あくまで、営利組織であって、遊びでやっているわけではないので、実力がない蹴落とし組の人間が、重要な部署についたりすると、すぐに経営に支障が出ます。 大企業でも、時折、「何段飛び」のように、下の序列の者が、社長に抜擢されたりしますが、そういう事が行なわれる会社というのは、重役クラスが、蹴落とし組ばかりになってしまって、経営が傾き始め、倒産しては一大事と、大慌てで、実力がある人間を、上に持ち上げたんですな。
これは、会社組織に入ってみれば、すぐに見えて来る事ですが、実のところ、「人の上に立つ人物」というのは、人格的に、決まっています。 年上・年下に関係なく、「その人の指示なら、素直に聞ける」という人は、いるのです。 新入社員でも、「あ、こいつは、いずれ、上に行くな」というのが、分かります。 人格が、もろに出る能力なんですな。 上に立つ事に向かない人は、どんなに努力しても、せいぜい、ヒラより一段上くらいまでしか行けませんし、無理に上がろうとすると、蹴落とし組になってしまい、人生そのものを過ります。
そもそも、「いい小学校、いい中学、いい高校、いい大学、一流企業で出世」というコースを、至上のものと思い込んでしまっているのが、宜しくない。 それが、人生の成功の証しだと思っているなら、とんだ勘違いです。 結婚とか、子育てとか、私生活上の事を除いて、仕事だけに限定して考えても、「一流企業で出世」は、別に、最上の成功とは言えません。 所詮、人に雇われている、サラリーマンではありませんか。 出世を極め、社長になったとしても、サラリーマンである事に変わりはないのです。
自分で会社を興した、創業社長から見れば、サラリーマン社長など、同列に語るに値しない、ただの「使用人フゼイ」です。 独立する能力も度胸もない、情けない奴として、小馬鹿にされているのですよ。 世は格差が広がっていると言われていますが、サラリーマン社長が、富豪になったなんて話も聞きません。 いくら、収入が多くても、所詮、給料やボーナスですから、資産額など、知れているわけです。 あなた方が、必死で目指している、成功とは、その程度のものなのです。
ところで、蹴落とし組をやっていると、裏工作の為に、金を結構使うので、高給を貰っていても、出て行く分も多くて、「会社に、リストラが入って、放り出されたら、無一文だった」なんて事も多いです。 ちなみに、リストラには、社内型と社外型の、二種類がありますが、経営危機が深刻で、社外のリストラ請負会社が指揮した場合、一番先に切られるのは、蹴落とし組です。 社内政治力が通用しないので、逃れられないんですな。 社外の人間から見ると、誰が必要な社員で、誰が不要かは、一目瞭然に分かります。 蹴落とし組の中間管理職なんて、全員切ってしまっても、会社の仕事に、何の支障も出ませんから、そこから手を着けるのは、当然の事。
かくのごとく、蹴落とし組に過ぎないのに、「俺は、同期の出世頭だ」などと、独りで悦に入っているのは、愚の骨頂です。 他人を蹴落として這い上がった崖の上で、ゲラゲラ笑っているものの、足元の地面に、ビキビキと地割れが走っているのに気づいていないだけ。 お前なんぞ、会社に要らんと言うのよ。 いや、どの会社へ行っても、同じ事をやるのなら、世の中に要らんと言うのよ。 他人から利益を吸いだすだけで、何も返さない奴など、社会に不要です。
だいぶ、焦点の定まらない話になってしまいましたが、長くなったから、このくらいにしておきましょうか。 とにかく、自分の能力でできる事だけを引き受けていれば、大きな失敗は避けられると思います。 背伸びは、良くないです。 全く気が進まない仕事を、やり続けるのも、非常に、よくない。 無理を続けると、結局、自分だけでなく、他人にも、迷惑をかけてしまいます。
もし、学生時代の友人や、同期入社の連中に対して、恥を掻くのが嫌で、辞職をためらっている自分を発見したら、根本から、考えを変えた方がいいです。 自分の人生を成り立たせるのが、真の目標なのですから、恥なんぞ、掻き捨ててしまえば、宜しい。 そいつらの手前、面子を保っても、そいつらが助けてくれるわけじゃないですから。 どんな所で、どんな仕事をしていようと、生きる為に、真面目に働いていれば、それを馬鹿にできる人間など、この世にいないと思います。
そういや、同期のライバル意識も、有害ですなあ。 出世競争で、同期に抜かれただけで、腹を立てて、辞めてしまった人を、何人か見ましたが、「そんな下らない事で、失業なんて、信じられん・・・」と、心底、驚きました。 私は中途採用で、同期がいなかったから、そういう意識に煩わされずに済んで、幸せだったんですなあ。 人間とは、なんと、下らない動物である事よ。
その点、私は、すでに引退しており、子供もなく、自分が死んでしまえば、後は、どんな世の中になろうが知った事ではない、お気楽この上ない身分なので、新社会人の面々にも、なんら利害関係がなく、お為ごかしではない、忌憚ない意見を申し述べる資格があろうというもの。 言い方を変えると、えーから加減な事を書き散らすつもりなので、話半分に読んで下さい。
私の場合、中途採用だったので、五月病の経験はないのですが、新入社員を見ていて、そういう傾向があるのを見て取れたのは、確かです。 たとえ、一ヵ月もっても、二ヵ月はもたない。 いずれにせよ、早々と辞めてしまうのです。 原因は、仕事ができない場合と、人間関係がうまくいかない場合があります。
仕事に関しては、新入社員は、みんな素人ですから、最初のスタート・ラインは同じなのですが、適性の違いで、すぐに差が出てしまう事があります。 文系出身者や体育会系出身者に、数字を扱わせたら、ミスだらけで使いものにならないと思いますし、人付き合いが苦手な性格の人間に、折衝系の仕事を宛がったら、瞬く間に、ノイローゼになります。
そのくらいの事は、人事部門で、予め、適性別に振り分ければ良さそうなものですが、どんな会社でも、人事部門ほど、いい加減で、無能な部署はなく、人の適性を見分けるなどという、高度な能力は、望むも愚か。 名前と顔も一致しないのに、リストだけを見て、テキトーに割り振って、駄目だったら駄目で、「当人の問題」と、知らぬ顔を決め込むのが、お得意のパターンです。
ちなみに、人事の能なし馬鹿どもが、でかい面を見せるのは、入社試験の面接の時だけです。 買い手市場の時に就活して、入社試験で、人事のキチガイどもに、下司サイテーな嫌味とか言われた経験がある人もいるでしょうが、全く気にする必要はないです。 この世で、最も駄目な会社員が、人事の連中だからです。 それが証拠に、人事のやつらがリストラされると、どこも雇ってくれません。 人事同士で、使えないのが分かっているから、雇わないんですな。 様ぁいい。
全く向かない仕事を宛がわれてしまい、頭か体がおかしくなってしまうような、つらい日々が続いた場合、「続けるか、辞めるか」で、本気で悩むところまで追い詰められたら、もう、辞める事を決心した上で、一か八か、上司に、配置換えを申し出てみるのも、一つの手です。 仕事が変わると、苦もなく、こなせるようになるケースが、非常に多くあるからです。 それまで、死にそうな顔をしていた人間が、仕事が変わった途端に、ケタケタ笑って冗談を飛ばす、明るい人に変身した事例など、枚挙に暇なし。
最初に宛がわれた仕事で潰れて、会社を辞めてしまった人には、ほんとに気の毒だと思いますが、実際に、そんな例は、いくらでもあるのですよ。 逆のケースもあり、最初に、楽な部署に配属されて、嬉々として働いていた人が、何かの都合で、他の部署に回されたところ、あまりの辛さに、たちまち、音を上げ、「これでは、追い出し部屋と同じだ!」と、上司に訴えたりします。 いやー、最初の所が、楽過ぎただけだと思うんですがね。 元の部署に戻してもらえれば、幸運。 駄目なら、辞めるしかないですな。
これは、社会問題にもなっていますが、飲食店チェーン業界で、正社員として、店に配属されたら、潰れるまで、扱き使われると覚悟しておいた方がいいです。 私だったら、そういう業界には、最初から、近づきません。 辞める事を見越して、必要数よりも多くの新入社員を採用しているので、就活生にとっては、入り易い業界だと思うのですが、大量に採っているところは、大量に辞めさせているのであって、「自分だけは、耐えられる」とか、「すぐに、這い上がって、使う側になってやる」とか目論んでいても、例外になれる確率は、甚だ低いです。
「10年我慢すれば、現場から離れられる」とか言われていても、その10年間で、体の方が壊れてしまうのですよ。 睡眠も満足に取れないような生活では、10年どころか、10日でもフラフラになってしまいます。 精神力に自信があって、「やって、やれない事はない」と信じており、「辞めて行くやつらは、ただの負け犬だ」と思っている者ほど、自分自身に対しても、同様のハードルを課してしまうので、危険な領域まで追い込まれ易いです。 バイク乗りの世界で、「うまい人ほど、事故り易い」と言われたり、川下りの舟が転覆した時、「泳げる人ほど、溺れ易い」と言われたりしますが、それに似ていますな。
ちなみに、バイクの方は、うまい人ほど、マシンの限界性能を引き出そうとするので、カーブで倒し過ぎたり、スピードを出し過ぎたり、強引なすり抜けをしたりと、危険な走り方になり易いというわけ。 川下り舟の転覆の方は、泳げない人は、岩や舟につかまって、助けを待つのに対し、泳げる人は、自力で岸まで泳ごうとして、急流に呑まれてしまうという理由です。
特定の会社が悪いというのではなく、飲食店チェーン業界全体が、人を使い潰す事によって、利益を得ているのですよ。 常識外れに安いメニューとか見たら、何かが、おかしいと思わなければいけません。 「一体、どこで、利益を出しているんだろう?」と考えれば、人を安く使って、人件費を抑えている以外に、答えがないじゃありませんか。 経済原則に照らば、容易に分かる事です。
ブラック企業として、会社を訴えるという、最後の手段もありますが、そういう事をすると、必ず、会社の上層部から睨まれるので、その後の社員生活は、針の筵になります。 「いい会社になって欲しいからこそ、訴えた」なんてセリフは、経営者側から見ると、裏切り者の屁理屈にしか聞こえますまい。 思うような出世も、できないでしょうねえ。 どの会社にも、社員のブラック・リストが存在し、一度、それに名前が載ると、出世できません。 ヒラで通す気なら、却って、好都合なのですが、結婚や、子育てを人生計画に入れているのなら、生涯ヒラは、大きなマイナスになります。
就活時の甘い考えで、つい、ブラック企業に入ってしまったという人に忠告ですが、「もう、限界だ・・・」が口癖になり、「自殺」の二文字が脳裏にちらつくようになったら、思い切って、辞めた方がいいです。 親や友人に相談してはいけません。 特に、親は駄目です。 必ず、「もう少し、頑張ってみたら」とか、「お前は、子供の頃から、堪え性がない」とか、事情も知らずに、手前勝手な事を言って、辞めさせまいと試みます。 それが、親の務めだと思っているから、始末が悪い。 本心は、親戚や友人知人に、自分の子供が会社を辞めたと知れるのが、恥ずかしいからだと思いますが。
それで、息子や娘が自殺すると、会社を訴えるわけですが、ちゃんちゃらおかしい。 てめーらが、辞めさせないように追い詰めたんだろうが。 会社と親は、共同正犯だわ。 また、マスコミもマスコミで、判で押したように、親の味方について、企業を吊るし上げるのに躍起。 親が、自殺した本人に、どんなアドバイスをしていたか、まず、それを聞き出してから、味方をするべきでしょう。 「そんな会社、辞めちゃいな」なんて言っている親は、まーあ、いないと思いますぜ。
友人も、相談相手としては、よくないです。 そういう相談を持ちかけられた友人が、一番困るのは、「お前の勤め先で、雇ってくれないかなあ」と言い出される事です。 溺れる者は藁にも縋るので、誰でも当てにするのですが、その友人だって、まだ若くて、社内での地位なんて、ないも同然なんですから、コネなんか、使えるわけがありません。 で、面倒な事にならないように、「もう少し、頑張ってみたら」とか、「どの仕事も、きついと思うぜ」とか、手前勝手な事を言って、辞めさせまいと試みるのです。
私、経験がありますよ。 勤めた自動車業界の工場が、思っていた以上に、体がきつい仕事だったので、ファミレスでバイトしていた時の知り合いで、家電業界の工場に勤めていた人に電話をかけ、「そっちの会社で、募集してない?」と訊いたのです。 その時の、相手の反応が、今でも忘れられません。 「うーん・・・」と唸ってから、しばらく間を置いて、これ以下はないくらい、テンションの低い声で、「今は、どこでも、中途は取ってないと思うよ・・・」と、ぼそぼそっと言ったのです。 あれだけ、迷惑そうな答え方も、なかなか、例がない。
笑ってしまう事に、それから、半年くらいしたら、その人から電話がかかって来て、「三交替勤務がきついから、辞めたいと思っている」と告白した後で、「そっちの会社で、募集してない?」と訊いて来ました。 さすがの私も、目が点ですな。 半年前に、私に向かって、自分が何と言ったか、打ち忘れておるのでしょう。 で、半年前に言われた事を、言い方を少しだけ和らげて、返してやりました。 別に、嫌味ではなく、私には、社内で使えるコネなどなかったから、事実を伝えるしかなかったのです。
かくのごとく、本人が、会社でどんな仕事をさせられているか知らないやつらに相談しても、有効なアドバイスなど貰えるはずがないのは、道理中の道理。 辞める時に、頼りになるのは、自分の判断力だけです。 そんなに難しい判断ではありません。 ハムレットと同じ、「生きるべきか、死ぬべきか」だけを決めれば宜しい。 「生きるべき」という答えが出たら、再就職先など考えなくてもいいから、すぐに辞めてしまいなさい。 アルバイトで喰い繋いでも、自殺するよりは、明らかにマシではありませんか。
人件費を削って、利益を出している業界は、みんな同じでして、魔法のような経営アイデアなど、そうそうあるわけがなく、絞れるところから絞るのは、そういう会社では当然の事なのです。 使い潰すのを前提に、人を雇っているのですから、それに気づいたら、もはや、逃げるに如かず。 何をためらう事があろうか、いーや、あるはずかない。 できれば、就職する前に、気づきたいものですが、そういう会社に限って、商品が安くて、客の受けはいいから、客側の視点では、気づかないんでしょうな。
五月病で辞めてしまう、もう一つの大きな理由は、職場の雰囲気に、その人の人格が合わない事ですな。 昼休みや休憩時間などに、新人が一言も喋らない状態が長く続いたら、十中八九、辞めてしまいます。 上司や先輩が話しかけても、すぐに会話が途切れてしまうという場合、元々、おとなしいとか、遠慮しているとかではなく、「いるだけで、辛い」と思っているのであって、当人は、静かな拷問を受け続けているのです。
大人が集まっていると、話題が大体決まっており、ギャンブル、スポーツ、異性ネタで、9割は埋まります。 真面目な学生だった人にとって、突然、そういう、下司な世界に放り込まれてしまうのは、耐えられない事でしょう。 言っとくけど、テレビ番組の話なんて、できないですよ。 見ている番組が、人それぞれですから、話が合わないのですよ。 映画なんて、尚の事。
困った事に、ギャンブル、スポーツ、異性ネタで大盛り上がりする人達というのは、そういう話題は、誰でも興味があると信じ込んでいて、黙っている新人に、無理やり、話を振って来たりします。 最初の一言が、「パチンコとか、行く?」だったりすると、「行きません」で、終わりですな。 「野球(サッカー)は、どこファン?」というのも同じ。 返事は、「あまり、興味がありません」で、おしまい。 ぐっと、一般化させて、「趣味は何?」という質問なら、まだ、配慮がある方ですが、正直に答えると、訊いて来た方が、そんな世界は全く知らずに、絶句してしまいます。
異性ネタは、また、困るんだよな。 そういうのが好きな奴が一人いると、口を開けば、ナンパや風俗店での武勇伝、過去の異性遍歴といった事を、引っ切りなしに、喋りまくります。 それだけでも迷惑なのに、面倒見がいいところを見せようと、新人の肩を叩いて、「よし、今度、俺が、風俗に連れてってやる」などと、とんでもない事を言い出します。 冗談じゃねーよ! 会社のつきあいで、病気でも貰った日には、誰が責任とってくれるねん? ほっといてくれよ、この下司野郎が!
学者や技術者が集まるような職場でもない限り、知性的な会話というのは、ほとんど、交わされません。 一般的な職場では、読書階層なんて、存在しないと思った方が宜しい。 たとえ、いたとしても、読んでいる本は、人それぞれですから、話が合う人を見つけるのは、至難の業でしょう。 仕事についての話は、最初から、複雑極まりない仕事を与えられるような事はないですから、発展性が望めません。 何度も同じ質問など繰り返していたら、話のネタになるどころか、逆に怒られてしまいます。
たまたま、趣味が同じ先輩がいて、その人とだけ意気投合するケースが、間々見られますが、それ以外の人と、全く喋れないのでは、やはり、困ります。 その趣味が特殊だったりすると、その先輩まで、周囲から孤立していて、他の人とのパイプ役を果たしてくれない事もあります。 オタク系が、その典型でして、どこの職場にも、一人二人はいるものの、決して、多数派ではないので、常に、孤立を強いられているわけですな。
その点、取り立てて、知性派ではない人間は、楽です。 先輩達との下司度が、ほぼ同じだと、一週間もしない内に、難なく溶け込んで、もう、何年も一緒に働いているような図々しさを見せる者もいます。 バイト歴が豊富で、様々な職場環境に慣れている人間に、そういうのが多い。 そういうタイプは、馴れ馴れしさが行き過ぎてしまって、先輩から嫌がられる事もありますが、まあ、自分から辞める事はないです。
ただし、仕事ができない場合は、別です。 私は、在職中、新入社員はもちろんの事、派遣社員や期間工で、新しく入って来る人間を、嫌というほど目にしましたが、大きく分けて、仕事を覚える事を優先する人と、人間関係を優先する人の、二つのタイプがありました。 両者のバランスが取れていれば、ベストなのですが、そんな器用な人は、ほとんど、いません。 で、どちらか一方を優先しなければならないとなると、仕事を優先した人の方が、確実に、残る率が高かったです。
「仕事ができなくても、上司や先輩と仲良くなってしまえば、庇ってもらえる」という、人脈優先主義の人達は、おそらく、過去に、集団で一つの仕事をやるような、割と楽なバイトを経験していて、そういう処世術を身に着けて来たのだと思いますが、文字通り、一人前の仕事をこなす事を要求される実社会では、通用しないです。 なまじ、お調子者で、人受けが良かった分、仕事ができないと、面目丸潰れで、この下なく惨めな立場に追い込まれ、逃げるように辞めて行く事になります。 全く、格好がつかない。
極端な事を言えば、仕事さえできれば、同僚と一言もしゃべらなくても、文句を言われるような事はないんですよ。 「あまり、喋らない奴」くらいで済まされ、それなりの居場所を与えられます。 逆に、いくら、「いい奴」、「面白い奴」と言われても、仕事ができないのでは、同僚として認めてもらえません。 なぜなら、そいつができない分を、同僚がカバーしなければならなくなり、大迷惑を被るからです。 一人だけ、楽な仕事をやって、給料が同じだったら、それはそれで、腹立たしい話。
あからさまに、口にこそ出しませんが、仕事ができない人間には、「早く辞めて欲しい」と、みんなが思っています。 好悪感情云々ではなく、迷惑なんですよ。 私自身、退職を決意した、最も大きな理由は、自分が、他の人間と同じだけの仕事に耐えられなくなった事を認識したからでした。 ゴネて、楽な仕事を探して貰えば、定年までいられたと思いますが、大きな会社では、そういう、往生際の悪い年寄りが、あまりにも多く、「ああなったら、おしまいだ」と、かねがね、思っていたので、自分がそうなるのを避けたという次第。
とにかく、新しく職場に配属されたら、人脈を構築しようなどとは思わず、仕事を一日も早く、覚える事ですな。 一人前できるようになってしまえば、こっちのもので、後は、ゆとりが出て来たら、先輩達と、話すようにすればいいのです。 そうそう、同期とばかり喋るのは、あまり、よくないです。 立場が近いので、情報交換には有効ですが、休み時間のたびに、よその職場にいる同期の所へ喋りに行ってしまっていたのでは、同じ職場の人と、いつまで経っても、仲良くなれません。
最初の一年くらいは、「自分の事を知って欲しい」という欲望は抑えて、先輩達の事を知るように努めた方がいいです。 自分の事は、訊かれた事にだけ答えているくらいが、ちょうどいい。 先輩というのは、出しゃばる新人を、一番嫌うからです。 出しゃばるよりは、「おとなしい奴」と思われていた方が、ずっとマシ。 中には、子分が出来たと勘違いして、高飛車な態度を取って来る先輩もいると思いますが、どうせ、こちらは、新人ですから、「はい、分かりました」を繰り返していれば、それで済んでしまいます。
どんな職場でも、必ず、嫌な奴というのはいます。 だけど、新人の間は、喧嘩など最優先禁止事項ですし、陰口でさえも、聞き役に徹した方が無難。 先輩同士の喧嘩に巻き込まれる事もあるので、どちらとも、適度な距離を取っておく、用心深さが必要です。 この種の処世訓は、職場が異動になるたびに、初心に帰って、実行するようにした方がいいでしょう。 会社人生の中で、最終的に、勝利者になるのは、仕事ができるだけでなく、人間的にも尊敬される人物です。 そういう人は、新しい職場に移っても、決して、大きな態度など、取らないものです。
最初から、キレっ放しで、年中、怒鳴っているとか、無茶苦茶な指示を出すとか、「大丈夫かよ、この人・・・」と、目を見張るような上司がいる場合がありますが、そういうのは、えーと・・・、大丈夫じゃないです。 つまりその、すでに、精神的に壊れてしまっているんですな。 一言で言うと、キチガイでして、そういう奴の部下になってしまったら、戦々兢々で毎日を過ごさなければなりません。 あまり、ひどい場合は、その上の上司に相談して、配置換えしてもらうのがいいかも知れません。 その場合でも、辞職する覚悟が必要ですが。
これも、私自身の経験ですが、狂った上司というのは、結局、そいつが諸悪の根源なのであって、他の職場に逃げれば、居心地が、地獄から天国ほどに改善する事があります。 こっちのせいじゃなかったわけだ。 一度、頭がおかしくなってしまった人間というのは、治りませんから、近くに寄らない以外に、有効な対処方法がありません。 そういう奴に対しては、周囲の者全員が、「早く、自殺してくれんかなあ」とか、「とりあえず、辞めてくれるだけでもいいんだけどなあ」と、心から願っているのです。
少し、切り口を変えますが、子供の頃から、いい小学校、いい中学、いい高校、いい大学と進み、一流企業に入社したという人達は、全く、気の毒な事ながら、結局、定年で会社を辞めるまで、他人と競争を続けなければならない運命にあります。 「上へ上へ」で、押し通して来た経歴上、会社に入ったら、出世を目指さざるを得なくなってしまうんですな。
こんな事を書くと、「そんなの、当たり前じゃないか」と思う人も多いと思いますが、それこそが、親や世間から、刷り込みを受けている証拠。 他の価値観を否定するように仕向けられて、育ってしまったんですなあ。 気の毒に・・・。 百歩譲って、出世を目標にする事を認めるとしても、その仕方に、問題がある。 同じ出世でも、仕事の実力で上がるか、他人を蹴落として上がるかで、大きく、評価が変わって来ます。
「仕事ができる」というのと、「他人を蹴落とす」というのは、全く異なる才能でして、どちらが早く出世するかというと、残念ながら、後者です。 「名馬は多いが、伯楽は少ない」のであって、仕事の実績を認めてくれる人が少ないので、実力で勝負している人間より、他人を蹴落とす工作に専念している人間の方が、確実に早く、上に行くのです。
で、子供の頃から、人生の目標が、「一流企業での出世」になっていた人達が、入社後、より有利な手段として、他人を蹴落とす方向へ流れ易いのです。 当人達は、出世が会社員の本分だと信じているので、大変、始末が悪い。 実力のあるなしに関わらず、出世に拘らない人間を、「負け犬」などと、嘲笑うわけですが、その実、自分達が、他人を蹴落とす以外に能がない、「実力ゼロ社員」になっている事に気づいていません。
単に、実力がないだけなら、馬鹿にされるだけで済みますが、他人という他人を、「ライバル」か、「ライバルを蹴落とす為に利用する手駒」だと思っているから、気がついた時には、周囲に味方が誰もいない状態になっています。 そういう人間、たくさん、見ましたよ。 出世欲満々で、早々と現場を離れて、「長」がつく身分になったものの、人望がない、というか、人望がマイナスなので、どこへ行っても、うまく人を使えず、行き場がなくなって、しまいには、一日ごとに、直上の上司の指示で、あっちへ手伝いに行ったり、こっちへ回されたり・・・。
一度、そういう目で見られてしまうと、周囲は、決して、許してくれません。 下手に気を許すと、また、利用されてしまうかもしれないから、全力で警戒するのです。 私は、割合、過去の事を水に流してしまうタイプなのですが、世の中は、そうでない人の方が多いようです。 問題の人物がいる時には、和気藹々とやっていても、いなくなった途端に、悪口の嵐になります。 一度、ひどい目に遭わされると、恨みを忘れない人が、こんなにも多いものかと、驚いてしまいますな。
子供の頃から、ずっと、それを人生目標にして、育って来たわけですから、「出世を目指すな」とは言いませんが、他人の蹴落としは、厳に避けた方がいいです。 そんな技術を、いくら磨いても、決して、自分の利益になりません。 人生トータルで見れば、確実にマイナスですし、会社員生活だけで勘定しても、やはり、マイナスです。 上に上がるなら、仕事の実力で、上がって下さい。 実力がある人なら、恨まれるどころか、逆に、皆から頼りにされます。
会社は、あくまで、営利組織であって、遊びでやっているわけではないので、実力がない蹴落とし組の人間が、重要な部署についたりすると、すぐに経営に支障が出ます。 大企業でも、時折、「何段飛び」のように、下の序列の者が、社長に抜擢されたりしますが、そういう事が行なわれる会社というのは、重役クラスが、蹴落とし組ばかりになってしまって、経営が傾き始め、倒産しては一大事と、大慌てで、実力がある人間を、上に持ち上げたんですな。
これは、会社組織に入ってみれば、すぐに見えて来る事ですが、実のところ、「人の上に立つ人物」というのは、人格的に、決まっています。 年上・年下に関係なく、「その人の指示なら、素直に聞ける」という人は、いるのです。 新入社員でも、「あ、こいつは、いずれ、上に行くな」というのが、分かります。 人格が、もろに出る能力なんですな。 上に立つ事に向かない人は、どんなに努力しても、せいぜい、ヒラより一段上くらいまでしか行けませんし、無理に上がろうとすると、蹴落とし組になってしまい、人生そのものを過ります。
そもそも、「いい小学校、いい中学、いい高校、いい大学、一流企業で出世」というコースを、至上のものと思い込んでしまっているのが、宜しくない。 それが、人生の成功の証しだと思っているなら、とんだ勘違いです。 結婚とか、子育てとか、私生活上の事を除いて、仕事だけに限定して考えても、「一流企業で出世」は、別に、最上の成功とは言えません。 所詮、人に雇われている、サラリーマンではありませんか。 出世を極め、社長になったとしても、サラリーマンである事に変わりはないのです。
自分で会社を興した、創業社長から見れば、サラリーマン社長など、同列に語るに値しない、ただの「使用人フゼイ」です。 独立する能力も度胸もない、情けない奴として、小馬鹿にされているのですよ。 世は格差が広がっていると言われていますが、サラリーマン社長が、富豪になったなんて話も聞きません。 いくら、収入が多くても、所詮、給料やボーナスですから、資産額など、知れているわけです。 あなた方が、必死で目指している、成功とは、その程度のものなのです。
ところで、蹴落とし組をやっていると、裏工作の為に、金を結構使うので、高給を貰っていても、出て行く分も多くて、「会社に、リストラが入って、放り出されたら、無一文だった」なんて事も多いです。 ちなみに、リストラには、社内型と社外型の、二種類がありますが、経営危機が深刻で、社外のリストラ請負会社が指揮した場合、一番先に切られるのは、蹴落とし組です。 社内政治力が通用しないので、逃れられないんですな。 社外の人間から見ると、誰が必要な社員で、誰が不要かは、一目瞭然に分かります。 蹴落とし組の中間管理職なんて、全員切ってしまっても、会社の仕事に、何の支障も出ませんから、そこから手を着けるのは、当然の事。
かくのごとく、蹴落とし組に過ぎないのに、「俺は、同期の出世頭だ」などと、独りで悦に入っているのは、愚の骨頂です。 他人を蹴落として這い上がった崖の上で、ゲラゲラ笑っているものの、足元の地面に、ビキビキと地割れが走っているのに気づいていないだけ。 お前なんぞ、会社に要らんと言うのよ。 いや、どの会社へ行っても、同じ事をやるのなら、世の中に要らんと言うのよ。 他人から利益を吸いだすだけで、何も返さない奴など、社会に不要です。
だいぶ、焦点の定まらない話になってしまいましたが、長くなったから、このくらいにしておきましょうか。 とにかく、自分の能力でできる事だけを引き受けていれば、大きな失敗は避けられると思います。 背伸びは、良くないです。 全く気が進まない仕事を、やり続けるのも、非常に、よくない。 無理を続けると、結局、自分だけでなく、他人にも、迷惑をかけてしまいます。
もし、学生時代の友人や、同期入社の連中に対して、恥を掻くのが嫌で、辞職をためらっている自分を発見したら、根本から、考えを変えた方がいいです。 自分の人生を成り立たせるのが、真の目標なのですから、恥なんぞ、掻き捨ててしまえば、宜しい。 そいつらの手前、面子を保っても、そいつらが助けてくれるわけじゃないですから。 どんな所で、どんな仕事をしていようと、生きる為に、真面目に働いていれば、それを馬鹿にできる人間など、この世にいないと思います。
そういや、同期のライバル意識も、有害ですなあ。 出世競争で、同期に抜かれただけで、腹を立てて、辞めてしまった人を、何人か見ましたが、「そんな下らない事で、失業なんて、信じられん・・・」と、心底、驚きました。 私は中途採用で、同期がいなかったから、そういう意識に煩わされずに済んで、幸せだったんですなあ。 人間とは、なんと、下らない動物である事よ。