濫読筒井作品 ④
仕事に復帰してから、腕を休ませるために睡眠時間を確保せねばならず、読書が進みませんでしたが、一週間かかって、ようやく最大の作品を読み終わりました。
『虚航船団』 84年
この長編は、筒井さんが6年もかけて書き下ろしたという純文学作品です。 恐らく、ご本人の位置づけでは、代表作という事になっていると思います。 この作品の前に『虚人たち』という純文学長編があり、私は若い頃にそちらを読んでいたのですが、面白いか否かは別として、とにかく読み難い作品で、辟易した記憶があったので、『虚航船団』はもっと読み難かろうと勝手に思い込み、今まで手を出さないで来たのです。 しかし、実際に読んでみて、食わず嫌いをやらかしていた事が分かりました。 『虚航船団』は、『虚人たち』より遥かに読み易い作品でした。
三章に分かれていて、第一章は擬人化された文房具が乗り込んでいる大型宇宙船の話です。 コンパスや分度器など、文房具たちの異常な精神状態が克明に描かれています。 一見、文房具の擬人化など奇抜すぎると思うでしょうが、慣れてしまえばおかしさなど感じなくなります。 また、文章の勢いも第一章が最もノリがよく、退屈さを全く感じさせません。
第二章は、第一章とは打って変わって、クォール星という惑星の歴史が記されます。 どうやら、地球から流刑になったらしい、イタチ族の住む星で、クズリやオコジョ、テン、スカンクなどがそれぞれ民族を構成していて、紀元後の人類史によく似た歴史を約2倍のスピードでなぞっていきます。 第一章が面白いので、第二章に入ると全く毛色が変わってしまった内容に少し戸惑いますが、読み進んで行くうちに、やはり面白くなり、話に引き込まれて、現代に近づくに連れどんどん読むスピードが早くなっていきます。 中国史でもローマ史でも、一度歴史に嵌まった人なら誰でも、こういう模倣史を書いてみたくなった事はあると思うのですが、実際に八百年分の歴史を書くのは大変な事で、なかなか書き通せるものではありません。 恐らく筒井さんが最も多く時間を割いたのは、この第二章だと思われます。 この章はこの章で、繰り返して読みたくなるくらい面白いです。
さて、ちと問題があるのは第三章です。 船団の命令により侵略者となった文房具達と、クォール星24億のイタチ族との戦いが描かれます。 この取り組みの設定自体が面白いので、戦いの展開もつまらないはずがなく、実際面白いのですが、変わった書き方をしている為に、些か興が殺がれている面があります。 特に、作者の現実生活の描写が唐突且つ頻繁に挟まれるのには参りました。 筒井さんにしてみれば、新しい文学表現を開拓している真っ最中なので、何を書いてもOKだと判断したのだと思いますが、何せ、ストーリーの進行と全く関係がない事柄なので、早く戦いの行方が知りたいこちらとしては、邪魔で仕方ないのです。 これが唯一の難点ですかねえ。
総体的に見ると、この作品は非常に面白いです。 書けと言われても、他の作家には書けないでしょう。 第一章を読み終えた段階では、文房具たちがその後どうなるのか心配しているのに、第二章を読み終えた時点では、完全にイタチ側の味方になっていて、第三章に入ると、「文房具どもなんぞ、一体残らず惨殺してしまえ!」と歯軋りしているから面白い。 最終的にイタチの星は甚大な被害を受けるわけですが、「あーあー、せっかく築き上げた文明なのにもったいねえなあ・・・」と慨嘆せずにはいられません。 そのくらい作品世界にどっぷり浸ってしまうんですな。 いやあ、こんなに面白いなら、もっと早く読んでおけばよかったです。
『虚航船団』 84年
この長編は、筒井さんが6年もかけて書き下ろしたという純文学作品です。 恐らく、ご本人の位置づけでは、代表作という事になっていると思います。 この作品の前に『虚人たち』という純文学長編があり、私は若い頃にそちらを読んでいたのですが、面白いか否かは別として、とにかく読み難い作品で、辟易した記憶があったので、『虚航船団』はもっと読み難かろうと勝手に思い込み、今まで手を出さないで来たのです。 しかし、実際に読んでみて、食わず嫌いをやらかしていた事が分かりました。 『虚航船団』は、『虚人たち』より遥かに読み易い作品でした。
三章に分かれていて、第一章は擬人化された文房具が乗り込んでいる大型宇宙船の話です。 コンパスや分度器など、文房具たちの異常な精神状態が克明に描かれています。 一見、文房具の擬人化など奇抜すぎると思うでしょうが、慣れてしまえばおかしさなど感じなくなります。 また、文章の勢いも第一章が最もノリがよく、退屈さを全く感じさせません。
第二章は、第一章とは打って変わって、クォール星という惑星の歴史が記されます。 どうやら、地球から流刑になったらしい、イタチ族の住む星で、クズリやオコジョ、テン、スカンクなどがそれぞれ民族を構成していて、紀元後の人類史によく似た歴史を約2倍のスピードでなぞっていきます。 第一章が面白いので、第二章に入ると全く毛色が変わってしまった内容に少し戸惑いますが、読み進んで行くうちに、やはり面白くなり、話に引き込まれて、現代に近づくに連れどんどん読むスピードが早くなっていきます。 中国史でもローマ史でも、一度歴史に嵌まった人なら誰でも、こういう模倣史を書いてみたくなった事はあると思うのですが、実際に八百年分の歴史を書くのは大変な事で、なかなか書き通せるものではありません。 恐らく筒井さんが最も多く時間を割いたのは、この第二章だと思われます。 この章はこの章で、繰り返して読みたくなるくらい面白いです。
さて、ちと問題があるのは第三章です。 船団の命令により侵略者となった文房具達と、クォール星24億のイタチ族との戦いが描かれます。 この取り組みの設定自体が面白いので、戦いの展開もつまらないはずがなく、実際面白いのですが、変わった書き方をしている為に、些か興が殺がれている面があります。 特に、作者の現実生活の描写が唐突且つ頻繁に挟まれるのには参りました。 筒井さんにしてみれば、新しい文学表現を開拓している真っ最中なので、何を書いてもOKだと判断したのだと思いますが、何せ、ストーリーの進行と全く関係がない事柄なので、早く戦いの行方が知りたいこちらとしては、邪魔で仕方ないのです。 これが唯一の難点ですかねえ。
総体的に見ると、この作品は非常に面白いです。 書けと言われても、他の作家には書けないでしょう。 第一章を読み終えた段階では、文房具たちがその後どうなるのか心配しているのに、第二章を読み終えた時点では、完全にイタチ側の味方になっていて、第三章に入ると、「文房具どもなんぞ、一体残らず惨殺してしまえ!」と歯軋りしているから面白い。 最終的にイタチの星は甚大な被害を受けるわけですが、「あーあー、せっかく築き上げた文明なのにもったいねえなあ・・・」と慨嘆せずにはいられません。 そのくらい作品世界にどっぷり浸ってしまうんですな。 いやあ、こんなに面白いなら、もっと早く読んでおけばよかったです。