2023/10/29

EN125-2Aでプチ・ツーリング (49)

  週に一度、「スズキ(大長江集団) EN125-2A・鋭爽」で出かけている、プチ・ツーリングの記録の、49回目です。 その月の最終週に、前月に行った分を出しています。 今回は、2023年9月分。





【沼津市筒井町・消防団第24分団】

  2023年9月3日。 沼津市・筒井町にある、「消防団第24分団」へ行って来ました。 市街地を北に向かい、国道1号線の、すぐ南です。 前回辿り着かなかったので、ネット地図で移転先を調べ、万全を期して、探し当てた次第。

≪写真1≫
  全景。 建物は、消防分団のものとしては、普通サイズですな。 この日の午前中に、津波避難訓練があり、もしかしたら、午後も、人がいるかと警戒していたんですが、取り越し苦労でした。

≪写真2≫
  シャッター絵。 移転したのが最近だけあって、絵も今風です。 レゴのアニメみたいなタッチ。 この中には、やはり、消防車が入っているんですかねえ?

≪写真3≫
  建物の前に、無造作に停めた、EN125-2A・鋭爽。 実は、曲がる交差点を間違えて、ロストしました。 そんなに広い地域ではないので、虱潰しに探して、三本目の通りで、見つけたのです。 住宅地だから、音のうるさいバイクで、目的地を探し回るのは、ヒヤヒヤです。 こういう場合は、自転車の方が、適しています。

≪写真4≫
  消防分団の前から、東側を見た景色。 もろに、住宅地ですな。 まずいまずい。 本来なら、こういう場所は、ツーリングの目的地としては、避けなければなりません。 もちろん、バイクのエンジン音が、近所迷惑だからです。




【沼津市西沢田・消防団第25分団】

  2023年9月12日。 沼津市・西沢田にある、「消防団第25分団」まで行って来ました。 ここのところ、分団をハシゴしている次第。 消防だけに。

≪写真上≫
  国道1号線の、北側に、ちょっと入った所にあります。 うーむ。 ここの分団は、建物だけなんですなあ。 裏側は見て来ませんでしたが。 シャッター絵は、なし。

  バイクは、道路を挟んだ、反対側に停めました。 手前は、駐車場になっていますが、月極めか、何かの施設の駐車場だと思うので、無関係者が、車を停める事はできません。

≪写真中≫
  近くの、国道1号線。 交通量は、多いです。 信号交差点も多いので、渡るのに、さほど、不便はありません。 ここは、流れが速いから、125㏄だと、6千回転くらい回さなければ、ついていけません。 つくづく、125ccは、遠出向きのバイクではないんですな。

≪写真下≫
  分団の近くに、何かの会社の敷地があり、その一角に、庭と池が造られていました。 水が、ジャボジャボ、惜しげもなく、流れています。 循環させているのかも知れません。




【沼津市東椎路・消防団第26分団】

  2023年9月20日。 沼津市・東椎路にある、「消防団第26分団」へ行って来ました。 市立病院の近く。 根方街道沿いにあります。

≪写真上≫
  根方街道沿いなのて、敷地が狭い事は予想していましたが、何とか、建物の前に車を停める空間は、取ってあるようです。 左側に、火の見櫓、というか、半鐘塔があります。 分団では、珍しいのでは?

≪写真中≫
  シャッター絵。 愛鷹中学の創作部が、令和2年に描いたもの。 配色が良いですな。 強いて、粗を探せば、人物が、些か漫画っぽいか。 とはいえ、中学生で、このレベルの絵を描けるのは、大したものだと思います。

≪写真下左≫
  根方街道。 西の方角を見た様子。 一見、生活道路のようですが、その実、幹線道路です。 狭いんですよ。 この道を、バスが通るから、怖い。 普通の車だけでも、交通量は多いです。

≪写真下右≫
  歩道なのか、ただの路肩なのか、よく分からない場所に停めた、EN125-2A・鋭爽。 バイクでなければ、こんな所には、来れんなあ。 分団の建物前に停めるのは、どうかと思いますし。




【沼津市東原・消防団第27分団 / 愛鷹地区センター】

  2023年9月26日。 沼津市・東原にある、「消防団第27分団」へ行って来ました。 根方街道沿いにある、「愛鷹地区センター」の隣なのですが、隣というより、センターの敷地内にあるという感じでした。 「愛鷹」は、「あしたか」と読みます。 「一富士・二鷹」の、鷹は、愛鷹山の事。

≪写真上≫
  建物。 シャッターが開いていて、ブルー・シートで、入口を覆ってありました。 隙間から見たら、中に、消防車がありました。 本当に、入っているんですねえ。

  EN125-2A・鋭爽は、路肩に停めました。 少し北へ行けば、グラウンドに入れられたのですが、知らなかったもので。 この帰り、ヘッド・ライトの、LED球が切れてしまい、帰ってすぐに、ハロゲン球に戻しておきました。 ハロゲン球は、3個もあるのです。

≪写真中左≫
  建物には、名前がなかったのですが、立て看板に、「沼津市消防団 第27分団」と書いてありました。 間違いないようです。

≪写真中右≫
  愛鷹地区センターの、グラウンド。 古い建物などもあって、どうも、雰囲気が、学校っぽい。 家に帰ってから、母に訊いてみたら、昔、愛鷹小学校が、ここにあったとの事。 なるほど、このグラウンドは、小学校の校庭だったわけだ。 ちなみに、母は、現役時代、給食の調理師をしていて、市職員だったので、小学校関係には詳しいのです。

≪写真下≫
  グラウンドの北の端に立っていた、トーテム・ポール。 実に、昔の小学校らしい。 本来、宗教的なものですが、北米先住民の宗教は、感覚的に遠いから、公共施設に立てても、問題がなかったのでしょう。





  今回は、ここまで。

  9月は、消防団の分団巡りで、埋まりました。 分団は、建物のシャッター絵が特徴で、バイクに限らず、分団巡りをしている人は多いようです。 神社と違って、撮るものが少ないので、組み写真を作るのは、楽です。 プチ・ツーの目的地としては、好適かも知れませんな。

2023/10/22

実話風小説 (21) 【袋ラーメン】

  「実話風小説」の21作目です。 実は、このシリーズ、前回で、やめようと思っていたんですが、もう一作 出来てしまったので、出します。 来月までに、次が出来れば、続けますが、いつ終わっても、おかしくないという事は、ご承知おき下さい。




【袋ラーメン】

  A氏は、60歳で定年退職した後、市街地外縁にあった家を売り、郊外に中古住宅を買って、引っ越した。 近所づきあいの鬱陶しさを嫌い、家が疎らな環境へ移ったのである。

  移転先で、町内会に入らなかったのも、引退後は、他人に気を使わずに生きたかったからだ。 ゴミ集積所も使えなくなるとの事だったが、生ゴミは、庭で土に戻し、それ以外のゴミは、ある程度 溜めてから、車で処分場へ持ち込むようにした。 有料だが、3ヵ月に1回も行かないので、大した出費ではなかった。 

  20代の頃に、5年間弱、結婚していたが、子供が出来てから、養育方針の違いで、妻と不仲になり、離婚していた。 娘一人は、妻が連れて行った。 妻は、すぐに再婚した。 1年ちょっと経った頃、妻の母親から電話があり、「孫は、妻の再婚相手を父親と思っているから、会いに来ないで欲しい。 連絡もしないで欲しい」と、言われた。 そちらとの音信は、それっきりである。

  その後、A氏は、一人暮らしを通したが、他に家族がいないだけに、近所づきあいが、利点より、面倒の方が多いという事を痛感した。 特に、近所の家の大半が、高齢者家族だと、相対的に若い人間は、何かにつけ、仕事を押し付けられて、扱き使われてしまうのだ。 祭りだの、運動会だの、やらなくてもいいような行事が生きていて、否も応もなく、引っ張り出されてしまうのである。

  高齢者達は、「こういう事は、やっぱり、若い人じゃないとね」などと、笑顔で言うが、それが、相手を利用している言い分けなのだから、虫がいいにも程がある。 それでいて、自分達の子供は、高校卒業するや、さっさと家を出てしまって、寄り付きもせず、まるで、当てにならないのだ。 そんな図々しい隣人に、いいように利用されるのが嫌で、逃げ出した、A氏の気持ちが分かってもらえるだろうか。


  A氏が買った家は、築40年の二階家で、かなり古ぼけていたが、特に、損傷している部分は見られなかった。 敷地は、50坪あったが、胸くらいの高さの生垣が取り巻いている、その外は、360度 畑で、開放感は、この上ないものがあった。 庭に、前の持ち主が造った、あずまやがあり、木製の、テーブルと長椅子が置いてあった。 A氏は、最初の夏、その椅子で、何度か、昼寝をした。 涼しくて、気持ちが良かった。

  家から、半径100メートル以内には、建物と言ったら、木造のアパートが、一軒あるきりだった。 玄関ドアの枚数で見ると、8室ある。 もう、古いので、入居者は、半分以下のようだ。 どの街からも離れていて、交通不便だから、そんなものなのだろう。 一番近いスーパーまで、500mくらい。 徒歩で、買い物に行くには、荷物を持った帰りが厳しい。 家が少な過ぎるのも、防犯上、嫌われていたのだろう。

  A氏は、定年後、働くつもりがなかったので、倹約して暮らそうと決めていた。 預金や、65歳から受給する予定でいる、年金金額を計算して、一日に使える額を決めた。 車も処分を検討したが、買い物は自転車でも、どうにかなるものの、ゴミを処分場に持ち込むのに、車一台単位で料金が決まるので、手放せなかったのである。 維持費を切り詰める為に、引退前に買い換えた、軽の貨物車を、動かなくなるまで、乗るつもりでいた。


  ある年の4月初め頃、A氏は、だいぶ、暖かくなったと思い、庭のあずまやで、昼食を食べる事にした。 遠くの山に、桜が咲いていて、それを眺めながら、食事をするのが、風流だと思ったのだ。 北の方に、アパートがあって、ベランダに干してある洗濯物が揺れている以外、目障りになるものはなかった。

  A氏の昼食は、袋ラーメンに決まっていた。 5袋1パックで、250円くらい。 近所のスーパーで売っている、最も安い品である。 醤油味、味噌味、塩味、豚骨味など、合計50食分くらい、買い置きしてあって、その日の気分で、味を選んで、食べていた。 葱のほか、ゆで卵や、ソーセージを載せるのが普通だった。

  「せっかく、庭で食べるのだから」と思って、カセット・ガス・コンロを出し、あずまやのテーブルで、調理した。 家の中で食べるより、ずっと、おいしく感じられた。 コンロや器を運ぶのが、ちょっと手間だったが、どうせ、閑な引退者だし、少々の手間は、覚悟の上だ。

  三日連続、庭で昼食を食べた。 その三日目の事である。 ラーメンを煮ている時に、人の気配がした。 生垣の向こう側に、誰かいる。 話し声がするから、二人だ。 生垣は、胸までの高さしかないから、しゃがんでいるのかと思ったが、声の調子からして、子供のようだった。

  そちらを見ていると、やがて、男の子が、顔の上半分を出した。 すぐに引っ込み、しばらくすると、また、出した。 もう一人の子供と、何か、話しているが、言葉数は多くない。 A氏は、ラーメンの火を止めてから、生垣に近づいて行った。 生垣の外を覗くと、男の子と女の子がいた。

  男の子は、7・8歳くらい。 女の子は、5・6歳くらいである。 顔が似ているから、兄妹ではなかろうか。 男の子は、眉が太くて、意思が強そうな顔つき。 女の子は、線が細く、不細工というのではないが、何となく、貧相な感じがした。 二人とも、少し痩せていた。 小学生だと思うが、月曜日なのに、学校は、どうしたのだろう? ああ、そうか。 今日は祭日だったな。

  A氏は、子供達を怯えさせないように、なるべく優しく、声をかけた。 

「何してるんだ?」

  答えない。 しかし、逃げもしない。

「もう、お昼だろ。 家に帰んな」

  答えない。 二人で、しゃがみこんで、顔を見合わせている。

「どこの家の子だ?」
「そこのアパート」

  やっと、男の子が答えた。

「家に、大人がいないのか」
「お母さんがいるけど、寝てる」
「病気か?」

  男の子は、首を横に振った。

「仕事が夜だから、昼間は、寝てる」

  ああ、水商売なのか。 A氏は、推量した。

「お昼、食べられないのか?」

  男の子は、首を縦に振った。 女の子は、ずっと、下を向いている。 A氏は思った。 この二人は、アパートの窓から、こちらを見ていて、ラーメンを食べているA氏を羨ましいと思い、やって来たのだろう。 お相伴に預かれれば、運がいいとでも考えて。 図々しい感じもしたが、相手は子供だ。 無碍に追い返すのも、気の毒だ。 そして、言った。

「ラーメン、食べるか?」

  男の子と女の子は、顔を見合わせた。 そして、二人で、頷いた。

  A氏は、二人に指図して、家の表側に回らせ、門から入れて、庭へ通した。 あずまやの椅子に座らせ、醤油味のラーメンを二つ作った。 ゆで卵を剥き、包丁で、二つに切って、一切れずつ、載せてやった。 葱を入れるかと聞くと、二人とも、首を横に振った。 子供らしい好みである。

  二人は、朝飯も食べていないのか、ガツガツと、ラーメンを食らった。 食べ終わると、男の子が言った。

「いくらですか?」

  A氏は、代金を取る事を考えていなかったので、虚を突かれたが、ちょっと考えて、

「一杯、50円だな」

  と、答えた。 家の事情で、昼飯が食べられないのだとしたら、これからも、ここを当てにするかも知れない。 タダでいいと言うと、却って、来づらくなってしまうかも知れない。 子供が払える程度の代金を取っておいた方が、むしろ、いいだろうと考えたのだ。 ゆで卵代や、ガス代、手間賃を合わせれば、50円で出来るわけがないが、子供は、そんな事まで考えないものだ。

「はい」

  男の子は、ポケットから、100円玉を出すと、A氏に手渡し、女の子を促して、逃げるように帰って行った。 「ごちそうさまでした」と言うかと思ったが、言わなかった。 その種の教育を受けていないのだろう。


  幼い兄妹は、それから、土日・祭日になると、やって来た。 おそらく、母親の仕事が、土日・祭日でも、休みになっていないのだろと思われた。 おずおずしていたのは、最初の三回くらいまでで、それ以降は、来て当然のような顔をして、庭に入って来た。

  A氏が、この二人を受け入れたのは、ご近所付き合いをやめてしまった事の反動が大きな理由だった。 人間、他人が煩わしいと思っても、所詮、社会的動物である。 時には、他人と話がしたくなる事もある。 そこへ、この二人が来るようになったのである。 100円玉を持って、やって来て、きっちり、ラーメンだけ食べて、帰って行く。 一言も喋らない日もあるが、それは、むしろ、ありがたかった。 大人のように、世間話で間をもたせるような気遣いは要らない。 そこが、気楽だった。

  A氏は、男の子の方には、自分自身の子供の頃を重ね、女の子には、自分の娘の姿を重ねて見ていた。 顔は、全然違うのだろうが、自分の娘も、このくらいの歳だった時期があったのだろうな、と想像していた。 もし、生きていたら、すでに、30歳を過ぎているはずで、結婚して、子供がいてもおかしくない年齢だったのだが、A氏は、離婚して以来、一度も会った事がなかったのだ。

  余談になるが、A氏の娘は、元妻の再婚相手の男に、折檻されて、3歳の時に、死んでいた。 ニュースにもなったのだが、よくある名前だった上に、姓が変わっていたので、A氏は気づかなかったのだ。 元妻も、その両親も、煩わしい悶着を嫌って、A氏に伝えなかった。 元妻は、服役している夫と別れ、すぐに、再々婚し、子供が二人出来た。 A氏は、そんな事も、全く知らない。 元妻の母親から言われた、「連絡するな」という指示を守っていたのだ。

  A氏は、60歳を過ぎて、自分の人生を省みる境地に入っていた。 仕事は、まずまず、無難にこなして、乗り切ったが、私生活では、結婚に失敗していたので、いい人生だったと思う事が、なかなか、できなかった。 幼い兄妹に、昼飯を食べさせてやる事で、少しは、人生の評価点が上がるかな、と期待する心もあった。


  夏になると、暑くなり過ぎて、正午に庭で食事をするのは、無理になった。 A氏は、二人を家の中に入れ、冷房を利かせて、ラーメンを食べさせた。 食後、一時間くらい、昼寝して行く事もあった。 A氏は、一人でいる時には、エアコンを使わないのだが、二人が来ている時は、惜しまずに使った。

  ラーメンは、相変わらず、袋ラーメンだったが、載せるものが、次第に増えていった。 ゆで卵のほかに、ソーセージ、ハム、海苔、メンマ、缶詰のコーンなど。 もやしは、一度入れたら、嫌がられたので、入れなくなった。 焼き豚を入れてやりたかったが、高いので、いつも、スーパーの売り場でためらっては、買えなかった。

  生ラーメンなら、もっと、おいしいと思うだろうとは思ったが、生ラーメンは、スープを別に買わなければならないから、高くなってしまう。 袋ラーメンの、3倍はする。 一度、うまいものを食べてしまうと、袋ラーメンをうまいと感じなくなる事が予想された。 そうなったら、ずっと、生ラーメンを食べさせる事になり、一杯50円では、大赤字になってしまう。

  A氏は、悩んだ。 二人には、いつまでも、来てもらいたいが、出費が大きくなると、蓄えが減って、生活設計が狂ってしまう恐れがあり、そちらも避けたかった。 後で考えれば、そんな心配は、無用だったのだが。

  秋口にさしかかった、ある日、A氏は、スーパーの練り物コーナーで、「なると」を見つけた。 懐かしいと思った。 自分が子供の頃、家で、ラーメンの出前を頼むと、上に、なるとが載っていた。 白地に赤い渦巻きがある、蒲鉾である。 蒲鉾だから、特に、味はない。 しかし、白地に赤の色合いが、なんとなく、おいしそうに見えるのである。

  A氏は、なるとを買った。 焼き豚よりは、ずっと、安かった。 もし、二人が喜んだら、これからは、毎日、なるとを載せてやろうと思った。

  ところが、なるとは、不評だった。 今の子供達は、甘い物を食べ慣れているので、味がない蒲鉾など、「変なもの」としか思えないようなのだ。 二人とも、少し齧っただけで、残して帰って行った。 A氏は、自分の子供の頃と重ね過ぎていたと、反省した。


  この問題は、それだけでは済まなかった。 翌日の午前中に、30代くらいの女性が、駐在の警官と一緒に、A氏の家を訪ねて来たのだ。 女性は、最初から、怒っていた。 話をしに来たというより、一方的に捲し立てに来たのだった。

「うちの子供達に、何を食べさせたんですか! あんた、一体、何なんですか! 他人の子供に、何するんですか!」

  興奮して、掴みかからんばかりの勢いなので、警官が女性を抑え、代わりに説明した。 この女性の二人の子供が、昨夜から、腹痛を訴え始め、今朝、救急車で、病院に運ばれた。 食中毒らしい。 男の子が、A氏の家で、「変な物を食べた」と言うので、事情を訊きに来たというのだ。 A氏は、未開封の袋ラーメンを持って来て、見せた。

「このラーメンと、ゆで卵と、海苔と、あと、昨日だけですが、なるとを入れました」
「何か、腐ってたんでしょう!」
「ゆで卵は、一昨日買って来た卵を、昨日、ゆでました。 なるとも、一昨日に買って来たものです。 腐るような事はないと思いますが・・・。 私も食べましたし」
「大体、それ以前の問題として、よその子供に、勝手に物を食べさせるなんて、非常識だと思わないんですか!」

  A氏は、弱ってしまった。 言われてみれば、確かに、常識的とは言えない行為だ。 半分は、人恋しさから、もう半分は、二人が不憫で、ついつい、何ヵ月も続けてしまったが、本来、昼食を食べさせるのは、親がやるべき事で、他人が、代行するような事ではない。 二人が心配なら、親に意見してやる方が、常識に適っていただろう。

  奇妙に感じたのは、この母親が、子供がラーメンを食べに来たのが、昨日一日だけだと思っているらしい事である。 何ヵ月も通っていた点については、一言も触れないのだ。 しらばっくれているのではなく、知らないのだと思われた。 子供達が、親に内緒で来ていたのは、想像していたが、本当にそうだったわけだ。 親に嘘をついていたわけだが、嘘をつかなければならない事情があったのだろうと思って、A氏の方からは、何も言わなかった。

  母親は、憤懣やる方ないという体で、「常識が! 常識が!」と繰り返していたが、長くは続かなかった。 顔色が、だんだん、青くなり、やがて、紫色になると、「痛い、痛い!」と、腹を押さえて、その場に、くずおれてしまったのだ。 救急車が呼ばれた。 食中毒だった。

  後で分かった事だが、食中毒の原因は、母親が、職場の上司から、出張土産にもらった、魚卵製品だった。 まだ、残暑厳しい季節なのに、要冷蔵である事に気づかず、常温で、二日間 置いておいたものを、持って来たのである。 職場で、同じ土産をもらった、6人と、その家族、合わせて、15人が入院した。 幸い、死者は出なかった。

  駐在警官の報告で分かったのだが、子供達の母親の職業は、飲食店の調理担当で、いわゆる水商売ではなかった。 離婚したシングル・マザーで、給料がいい遅番勤務を選んでいたのだ。 未明に帰宅して、昼間、眠っている点では、水商売と変わらなかったが。

  その一件以来、二人が、A氏の家へ来る事はなくなった。 母親も、来なかった。 ひどい剣幕で、A氏を罵ったので、罰が悪かったのだろう。 そして、一ヵ月もしない内に、アパートから、引っ越して行った。



  A氏は、また、一人になった。 引退後の時間は、経つのが早い。 一年二年は、瞬く間に過ぎて行く。 土日・祭日になると、つい、生垣の外を見てしまう。 今でも、天気のいい日には、庭のあずまやで、ラーメンを煮て食べた。 あの二人は、元気で暮らしているだろうか。 何ヵ月も来ていたんだから、A氏を忘れるような事はないだろう。 最初の数回は、本当に、おいしそうに食べていたな。 あのなるとは、失敗だったな。

  とりとめのない思い出が、次々と、脳裏に浮かんでは消えた。 ガス・コンロや、器を片付けもしないまま、長椅子に横になり、昼寝する事が多かった。

「おじさん。 おじさん」

  体を揺すられて、目を覚ますと、中学の制服を着た、あの男の子が、上から顔を覗き込んでいた。 太い眉に特徴があるから、すぐに分かった。 隣に、女の子もいる。 こちらも、中学の制服を着ていた。 線が細く、相変わらず、何となく、貧相な感じだ。

「ああ、君達か。 大きくなったなあ」

  A氏は、身を起こそうとしたが、なぜか、体が言う事を聞かなかった。 男の子が言った。

「ラーメン、何度も御馳走になって、ありがとうございました」

  女の子が言った。

「兄と私は、おじさんのお陰で、命が繋がったようなものです」

  A氏は、思わず、口元がほころんだ。 照れ臭そうに言った。

「いやあ、そんな大層な事じゃないよ」

  男の子が言った。

「おじさんは、僕達の命の恩人です」
「大袈裟だなあ。 ただの、袋ラーメンだよ」

  A氏が、ようやく、体を起こすと、二人の姿が消えていた。 夢だったのだ。

  同じ内容の夢を、A氏は、何度も見た。 歳月が経つに連れ、二人は大きくなり、土産を持って来るようになった。 土産は、だんだん、高価な物になった。 結婚したと言って、相手を連れて来た。 子供が出来たと言って、子供を連れて来た。 家中に、人が溢れた。 A氏は、みんなに、袋ラーメンを作ってやった。 みんな、「おいしい、おいしい」と、喜んで食べた。

  全て、夢だったが、そんな夢を見て、目覚めると、暖かい気持ちになっていた。 二人の子供と過ごした年から、20年。 これといって、趣味もないA氏が、一人でも、精神的に、おかしくならずに生きて来れたのは、そんな夢を見続けていたからだと言っても、過言ではない。

  A氏は、二人が、また来たら、食べさせてやろうと思って、生ラーメンと、スープ、焼き豚を、常に買い置きするようになった。 そして、期限が来る前に、自分で食べ、また、新しい物を買って来た。 その習慣は、20年間 続いた。



  ある晩、A氏の家に、泥棒が入った。 こんな事は、初めてだった。 家は、買った時よりも、更に古ぼけており、車も、30年物の骨董品。 泥棒に狙われるような家ではなかったからだ。 盗まれたのは、台所の茶箪笥の引き出しに入れてあった、小銭入れだけだった。 警察が来たが、現場を見たベテラン刑事が口にしたのは、「犯人は、家の中の事情を知っている奴だ」という見解だった。 他が荒らされておらず、小銭入れが入った引き出しだけ狙われていたからだ。

  しかし、A氏には、すぐには、思い当たる人物が浮かばなかった。 四半世紀近く、人付き合いをせずに生きて来たからだ。 その間、客なんか、一人も・・・。 一人も・・・。

  犯人は、三日もしない内に、また、押し入って来た。 今度は、泥棒ではなく、強盗になっていた。 ベッドで眠っていたA氏は、突然、天井灯が点いたので、眩しさで目を開けた。 目出し帽をかぶった男が、寝室の入口に立っていた。 両手で、果物ナイフを持っているが、慣れていないのか、震えているように見える。

  A氏は、ハッとした。 目出し帽の、右目の穴が、上にズレていて、眉毛が内側半分、見えていたのだ。 太い眉毛が。 A氏は、思わず、ボロボロと涙を流した。

「君だろ! 君なんだろ! 元気だったか?」
「るせーっ! おまえなんか、知るかーっ!」
「お金・・・、お金、欲しいのか?」
「当たり前だーっ!」
「少ししかないけど・・・」

  A氏は、箪笥から財布を出し、中から、あるだけの紙幣を掴み出して、強盗に渡した。

「ほら、ほら、持ってきな」
「お、おう・・・」
「妹さん、元気か?」
「知るか、んな事!」
「腹減ってないか。 ラーメン食べてくか? 生ラーメン、あるよ。 袋のより、ずっと、おいしいよ。 焼き豚もあるよ」
「るせーっ! 馬鹿野郎っ!」

  強盗は、外に飛び出した。 そこへ、5人の大柄な男達が飛びかかって、取り押さえた。 強盗は、ナイフを持っていたが、刑事に手首を捻じ上げられて、取り落とした。 遡る事、数時間前の夕刻、巡邏の警官から、A氏宅の付近を、うろうろしている男がいると報告を受け、泥棒騒ぎの時に担当したベテラン刑事が、「今度は、叩きに来やがったな」と見て、張り込んでいたのだ。

  犯人を、パトカーに押し込んだ後、ベテラン刑事が、A氏宅に入ると、A氏は、まだ寝室にいて、呆然としていた。

「警察です。 大丈夫ですか。 怪我はありませんか」
「あの子は?」
「逮捕しました。 いくら、盗られました?」
「盗られてません。 私が、やったんです」
「知り合いなんですか?」
「知ってます」
「名前は?」
「名前は知りません」

  A氏は、食中毒騒ぎの時に、母親の姓名を聞いていたが、子供達の名前は聞いていなかったせいか、その姓を忘れてしまっていた。 母親の姓と、子供達が、結びつかなかったのだ。 子供達の事は、いい思い出だが、母親との悶着は、その逆だったから、積極的に忘れたかったのであろう。

  翌日、覆面パトカーが迎えに来て、A氏は、事情を聞く為に、警察署に連れて行かれた。 だだっ広い会議室の片隅で、ベテラン刑事と、その部下の若い刑事を相手に、20年前の事を話した。 夢の事も、多少、脚色して、話した。 また、ボロボロと涙が溢れて来た。 若い人には分らないかも知れないが、A氏は、もう、80代半ば。 長い孤独な生活に、精神が崩壊しかけていたのだ。

  強盗の身元は、本人が自供したせいで、すぐに割れた。 少し、馬鹿な男で、嘘を言って、罪を免れようという知恵すらないようだった。 ベテラン刑事は、余罪があると見ていたが、十数件の窃盗を、ベラベラ喋った。 本人は、自慢しているつもりだったが、刑事相手に、そんな事が自慢になるわけがない。

  A氏宅に押し入ったのは、家の中の様子を知っていたからだった。 子供の時に、何度か入った事があると言った。 A氏の事を、「ラーメン・ジジイ」と言って、小馬鹿にしていた。

「あのジジイ、てめえから、金出してやんの! 馬鹿じゃねーの? 俺の事を、自分のガキだとでも思ってたんだろう」

  これには、取り調べをしていた刑事二人も、呆れた。 ベテラン刑事が言った。

「なんだ。 何度も、ラーメン食べさせてもらって、恩義のかけらも感じなかったのか?」
「金払ってたもん! なんで、恩義なんて!」
「50円で、ラーメン出せるわけないだろ。 具だって、ガス代だってかかるのに」
「そんなの知るかっ! ジジイが、50円でいいって言ったんだよっ!」

  まるで、ケダモノのような態度だった。 犯行は認めるが、罪とは思っていない、何の反省もないタイプなのだ。 ベテラン刑事は、諭すように言った。

「だけどなあ。 お前ら、親から、昼飯を食わせてもらってなかったんだろう? 下手すりゃ、栄養失調で死んでたぞ。 それを助けてくれたんだから、普通、感謝するもんなんじゃないのか?」
「いやあ。 昼飯代は、もらってたよ。 毎日、二人分で、千円」
「それをどうしたんだ?」
「○○カード、買ってた」
「何カードだって?」
「昔 流行ってた、カード・ゲームのカードだよ」
「・・・・! それを買う為に、昼飯を、Aさんのところで食べて、900円、浮かしてたのか?」
「そうさ。 でなきゃ、あんな、セコいジジイの所なんか、行くもんか」

  呆れ果てた。 こういうのは、頭がいいというのではない。 狡賢いというのとも違う。 誰でも思いつくような事だが、普通はやらない。 この男は、人を騙す事を何とも思っていないのだ。 子供の頃から、犯罪者気質だったのである。 道理で、こんなケダモノに育つわけだ。

「おまえ、人間のクズだな」

  自分と同年輩の若い刑事から、そう言われて、男は、目を剥いた。

「何だと~お! そんなこと言って、いいのか~あ? 名誉毀損で訴えるぞ~っ!」

  しかし、若い刑事は、負けていなかった。 汚物を見る目で、男を睨み、吐き捨てるように言った。

「何が、訴えるだ。 馬鹿で、馬鹿で、救いようがない。 それは、金持ちが言うセリフだ。 おまえみたいに、日銭を盗んで暮らしている奴が、どうやって、訴えるんだ。 弁護士費用は、どこから、持って来るんだ? 法律どころか、常識も知らないで、生きて来たんだろう。 この地獄行きの馬鹿がっ!」

  その後、身柄送検、起訴され、有罪判決。 余罪多数につき、懲役5年の実刑。 だけど、こんな人間は、何十年、刑務所に入れても、直らないだろう。



  さて、時間を戻して、強盗事件から、一週間後の事。 A氏は、事件以来、ガックリ来ていた。 生きる気力がなくなってしまったような気分だった。 男の子が、犯罪者になったのは、A氏の責任ではないのだが、20年間も、健やかに成長している事を、夢に見て来ただけに、勝手な想像をしていた自分が、罪深く感じられたのだ。

  そんなA氏を、若い女性が訪ねて来た。 線が細く、不細工というわけではないが、何となく、貧相な顔。 すぐに、あの子供達の、妹の方だと分かった。 もちろん、妹の方も、A氏と分かっていて、訪ねて来たのだった。

「子供の頃に、大変 お世話になりました。 おじさんのご恩は、いっときも忘れた事がありません」

  夢で聞いた言葉と、ほぼ同じだった。 A氏は、ボロボロと涙を零した。 この子は、立派な大人になったのだ。 20年前、あどけない顔をして、A氏が作ってやったラーメンを頬張っていた女の子が、こんなに大きくなって、お礼を言いに来てくれた。 これが、泣かずにいられようか。

  彼女は、高校卒業まで、母親と暮らしていたが、その後は、都会に出て、一人で暮らしている。 保険会社に勤めている。 まだ、独身だが、結婚する予定の相手がいる。 そんな事を話した。 A氏は、何を聞いても、嬉しくて、笑いながら、涙を拭き続けていた。 だが、その内、妙な事に気づいた。 話の中に、兄の事が出て来ないのだ。 A氏は、それとなく、訊いてみた。 妹は、少し間を置いてから、答えた。

「兄は・・・、兄は、外国にいます。 東南アジアで、何か、事業をやっているそうなんですが、滅多に連絡して来ないんですよ」

  おかしい。 すでに、逮捕されているのだから、家族が知らないわけがない。 どこで逮捕されたかも、知っているはずではないか。 A氏は、老いた頭で、考えられる可能性を探した。 そして、思い至った。 家族、つまり、母親と、連絡を取っていないのは、兄ではなく、この妹の方ではないのか? だから、兄の消息を知らないのだろう。

  妹の話は、いつしか、保険商品の勧誘に移っていた。 すごく利回りのいい、貯蓄型保険があるから、どうかと言うのである。 人数制限があるが、子供の頃のお礼に、おじさんに勧めようと思って、真っ先に持って来たと言うのだ。 A氏は、思った。

(ああ、妹の方は、詐欺師になったんだなあ・・・) 

  顔には出さなかったが、言葉が出ないほど、落胆した。 兄も妹も、自分の責任で、道を踏み外したのではないかと思えた。 そんな事はないのだが、精神的に参っている時だったから、何もかも、自分が悪いと思えてしまうのだった。 A氏は、少し考えを纏めてから、こう言った。

「もう、俺は、歳だから、貯蓄型保険はいいよ。 それより、生命保険はないかな? あんたとお兄さんを受取人にして、入りたいんだが」
「えっ? 生命保険? 生命保険は、えーと・・・」

  妹は、鞄の中を、ごそごそやっていたが、何も見つけられないようだった。 A氏は、思った。

(ああ、保険会社に勤めているというのも、嘘なんだなあ・・・)

  A氏は、優しく言った。

「いや、いいよ。 担当じゃないから、資料を持ってないんだろう? 次に来た時でいいよ」
「ごめんなさい。 そう言ってもらうと助かります。 すぐに、出直して来ますから」

  妹は、A氏宅から、外に出た。 兄の時と違うのは、昼間だった事だが、同じように、4人の大柄な男と、1人の俊敏そうな女が、バラバラと飛び出して来て、周囲を取り囲んだ。 妹の名前を確認してから、逮捕状を見せた。

「10時50分! 詐欺容疑で逮捕する!」

  手錠をかけて、覆面パトカーに押し込み、去って行った。 残ったのは、兄を逮捕したベテラン刑事だった。 玄関まで出て来たA氏に、事情を説明した。

「うちの署のヤマじゃないんですが、兄の方を取り調べてたら、妹が、保険金詐欺の常習犯だと分かりましてね。 何年も会っていなかったそうなんですが、半月くらい前に、レジャー施設で、偶然 出くわしたんだそうです。 昔話をしていたら、Aさんの話になって、カモにできるんじゃないかと思ったらしいんですよ。 こりゃあ、早晩、妹の方も、狙って来るなと思って、担当している署に連絡を取ったんです。 張り込んでいたら、案の定、妹がやって来たというわけです」
「常習犯ですか・・・」
「高齢者専門に、30件くらい、やってたみたいですね」
「・・・・・」

  20年前の事まで、事情を全て知っているベテラン刑事は、A氏のしょげきった様子を見るに忍びず、言い添えた。

「Aさんのせいじゃないですよ。 たまたま、ああいう連中だったんです」

  A氏は、刑事の言葉を聞いているのかいないのか、ボソッと、呟くように言った。

「焼き豚を・・・」
「えっ?」
「いや、なるとじゃなくて、焼き豚を入れてやれば良かったと思ってるんですよ。 そしたら、あの子らの人生も変わっていたかも知れない・・・」

  ベテラン刑事は、そうは思わなかったが、敢えて、A氏に逆らわなかった。

「はあ・・・・。 そうかも知れませんねえ」



  冒頭で書いたように、A氏は、町内会に入っていなかったのだが、85歳にして、名誉会員になり、表彰を受けた。 近隣の市町村で、高齢者相手に保険金詐欺を働いていた女が逮捕され、それが、A氏のお陰だと知れ渡ったからだ。 A氏は、ちっとも嬉しくなかったが、町内会長の許可が出て、ゴミを集積所に出せるようになったのは、ありがたかった。

2023/10/15

セルボ・モード補修 (35)

  車の修理・整備記録のシリーズ。 もう、毎年、同じ事しかやっていません。 ドレス・アップなんて、考える事もなくなりました。 もう、そんな部品も手に入りませんし。 基本的な部分が壊れないのは、ありがたい事です。 「車の整備は、オイル交換だけしていれば、大丈夫」という大雑把な格言は、強ち、嘘でもなかったんですな。





【ワックスがけ / ヘッド・ライト磨き】

  2022年11月13日、車に、ワックスがけをしました。 年に2回、5月と11月の、10日過ぎに、やっているもの。

≪写真1≫
  前側から見ました。 エンジン・フードを見ると、塗装の劣化が進んでいる事が分かります。 ワックスをかけても、艶は出ませんが、塗装面保護の為に、かけておいた方がマシ、と判断している次第。

≪写真2≫
  後ろ側から見ました。 フードやルーフに比べれば、バック・ドアの方が、まだ、塗装に光沢が残っています。 しかし、クリアが剥がれている部分もあり、近づいて見られるのには、耐えられません。

≪写真3≫
  ヘッド・ライトも、コンパウンドで磨きました。 半年に一度、磨いていれば、まずまず、黄ばみが目立たない状態を維持できます。 向かって右より、向かって左の方が、黄ばんでいますが、向かって右は、中古を買って、交換したものであるのに対し、向かって左は、元から付いていたものだからです。

≪写真4≫
  ワックスと、コンパウンド。

  ワックスは、亡き父が、コロナに乗っていた頃に、トヨタのディーラーから、もらったもの。 薄緑色の半ネリ・タイプで、研磨剤は入っていません。 濡らしたスポンジにつけて塗り、塗り終わったら、すぐに、乾いた布で拭き取ります。

  コンパウンドは、ソフト99の、メタリック車用。 乾いたタオルにつけて、磨いた後、濡れタオルで拭き取ります。 このコンパウンドは、白色をしています。 白いコンパウンドでないと、ヘッド・ライトの黄ばみがとれません。 茶色のコンパウンドを使うと、細かい凹凸に、コンパウンドが残って、却って、黄ばんでしまいます。




【オイル交換】

  2022年11月22日、車のオイル交換をしました。 年に2回、5月と11月の10日過ぎにやっている事。 今までにも、何回も同じ様子を紹介しているので、ざっと、やっつけます。

≪写真上≫
  作業前に、図書館と銀行へ行き、暖機運転して来ました。

  庭に敷いているプラスチック・パネルと、コンクリート・ブロックを使った、カー・ステップを組み、その上に、前輪を載せて、10センチ持ち上げ、下に潜り込んで、作業します。

  今回も、廃油を、コンクリート面に零してしまいました。 なかなか、うまく行きません。 ビニールを敷いてやっても、その外まで廃油が飛び出すのだから、困ったもの。

≪写真下左≫
  商品券カードで買って来た、「テクノ・パワー」のエンジン・オイル。 1780円。 高くなりました。 しかし、4リットルで、2回分あるので、まだ、1回分、千円は超えていません。

≪写真下右≫
  エンジンの上から、新しいオイルを入れます。 ブリキの漏斗は、父が作ったもの。 重宝しています。

  車のオイル交換をしている人を、最近は、めっきり見なくなりました。 新車のオイル交換間隔が長くなった事が、最も大きな理由でしょうか。 それにしても、一台の車を所有している間に、10回くらいは、オイル交換が必要になると思うのですが、大方、ディラーの整備工場任せにしているんでしょうねえ。 自分でやれば、オイル代と、廃油ポイ代だけで済むから、遥かに安いです。




【ワックスがけ / ヘッド・ライト磨き / 排気管汚れとり】

≪写真上≫
  2023年5月11日、車に、ワックスをかけました。 半年に一度、やっています。

  使っているのは、亡父が、トヨタのディーラーでもらった、半ネリ・ワックス。 羽根ばたきで埃を取り、霧吹きしてから、スポンジでワックスを塗り、すぐに拭き取る、という手順。 軽でも、結構、疲れます。

  カー・ポートの下に置いて、雨に濡れた後は、水滴を拭き取っていても、塗装は、じわじわと劣化していきます。

≪写真中≫
  ヘッド・ライトのレンズも、コンパウンドで磨きました。 右側は、元から付いていたレンズで、よほど、こすっても、黄ばみが完全には取れません。 たぶん、レンズの内側が黄ばんでいるのではないかと思います。 しかし、まあ、この程度なら、充分か。

≪写真下≫
  排気管の先のメッキ・カバーが、黒く汚れるので、ペイントうすめ液で、拭き取りました。 後ろについた車から見ると、こういう所の汚れが、結構、目立つものです。


  このセルボ・モードですが、父を病院へ送迎する為に、2016年7月26日に、中古車ディーラーで買って、そろそろ、7年になります。 こんなに長く使う事になるとは、思わなかった。 車に心があったら、廃車寸前の状態から、また買われて、こんなに長く生き延びるとは、思いもしなかったでしょう。 1997年製なので、もう、26歳。 よく走っているなあ。




【オイル交換】

  2023年5月21日、車のオイル交換と、タイヤの空気圧点検をしました。

≪写真上≫
  オイル交換をしている途中。 セルボ・モードになってから、12回目なので、作業自体は、慣れたものですが、カー・ステップを組むのには、やはり、手間がかかります。 歳を取るにしたがって、きつくなる一方。

≪写真下≫
  そして、何度やっても、廃油を零してしまいます。 オイル・パンの廃油口が、真後ろを向いているせいで、ドレン・ボルトを外すと、水平方向へ噴き出してしまうのです。 何とか、零さずに、バットへ入れる方法を考えなければなりません。

  ちなみに、コンクリート面に零した廃油は、バケツに中性洗剤溶液を作って、束子につけて、ゴシゴシこすり、雑巾で吸い取れば、ほとんど、消す事ができます。 それを知っているから、本格的な対策を取る気にならないのかも知れません。 「後で、洗えばいいか」という事で。


  タイヤの空気圧は、4輪とも、減っていませんでした。




【エアコン漏れ修理剤・ガス追加】

  毎年 恒例になった、車のエアコンの復帰作業。 今年(2023年)は、去年より、一ヵ月粘り、7月25日にやりました。

≪写真上≫
  ゲージ付き・エアコン・ホースは、2018年の7月に、1790円で買ったもの。

  小さい缶は、漏れ修理剤。 今年、6月に、1361円で買いました。

  大きい缶は、エアコン・ガスで、2021年の6月に、3本セットで買ったものの、最後の一本。 一本当り、814円。

≪写真下≫
  追加充填の様子。 何度も紹介しいてるので、細かい事は、割愛。


  一応、復帰しましたが、効いたのは、翌日の買い出しまでで、次の買い出しでは、生ぬるくなり、10日後の買い出しでは、全く効かなくなりました。 いよいよ、駄目なようです。 隙間が大きくなって、漏れ修理剤では、塞ぎきれなくなったのでしょう。

  整備工場に頼んで、漏れ箇所を本格的に修理すれば、何年かはもつようになりますが、安くても、10万円以上かかるようで、古い車や、安く買った車では、選択肢に入りません。

  今後は、窓を開けて、風を入れるしかありませんな。 一年の内、どうしても、そうしなければならないのは、梅雨明けから、9月半ばくらいまででして、うちのように、ひと月に6・7回しか車を使わず、1回の使用時間が、10分以下という場合、致命的に大きな問題にはならないと思います。




  以上です。

  今回分の記事で、いつもと違うのは、エアコンが、完全にイカれてしまったという事ですかね。 で、8月初めには、使えなくなり、その後、8月、9月と、エアコンなしで乗りましたが、前席左右の窓を、3分の1くらい開けて走れば、風が入るので、暑いという感じはしません。 弱った状態のエアコンよりも、むしろ、涼しいくらいです。

  意外なようですが、車に、エアコンが、ほぼ、標準装備されるようになったのは、1980年代の後半頃でして、それまでは、冷房機能がない車が、大半でした。 それでも、別に、不満もなく、乗っていたのです。 窓ガラスを開ける事で、風を入れ、気温調節ができたからにほかなりません。

2023/10/08

EN125-2A補修 ⑮

  プチ・ツーリングに愛用しているバイク、EN125-2A・鋭爽の補修の記録です。 定期的な整備も含みます。 





【オイル交換】

  2022年11月22日、車のオイル交換に続いて、バイクの方も、オイル交換しました。 一遍にやれば、廃油の処理が、一度で片付くからです。

≪写真上≫
  車と違って、バイクのオイル交換は、簡単にできます。 普段、停めている位置から、動かしもしませんでした。 エンジンを、1分間かけ、ドレン・ボルトを外して、廃油を落とします。

≪写真中≫
  中心の金色のが、ドレン・ボルト。 ボルトが付いている、三角に近い形の部品は、ドレン・ボルトが入る孔のネジ山をなめてしまった時、三角形の部品ごと、交換できるようになっているのです。 

≪写真下左≫
  アマゾンで買った、カストロールの4サイクル用バイク・オイル。 733円。 初めて使います。 今までは、ホンダの、旧G1でした。

≪写真下右≫
  左から、ドレン・ボルト。 使用済みのドレン・パッキン。 未使用のドレン・パッキン。

  このドレン・ボルト、二面幅が、21ミリもあり、うちにある、一番大きなメガネ・レンチでなければ、回せませんでした。 純正品ではなく、以前の持ち主が、マグネット付きのボルトに、交換したのだと思います。

  ドレン・パッキンは、アルミ製で、強く締めると、押し潰される事で、隙間をなくす方式。 車のと同じサイズなので、以前に買った、30個入りのを、どしどし使っています。




【ギア・インジケーター「1」LED球交換】

  2023年1月9日に、バイクの補修。 点かなくなってしまった、ギア・インジケーター「1」の、LED球を交換しました。 

≪写真1左≫
  分解前の様子。 センター・スタンドで立てて、ハンドルを真っ直ぐにしてあります。 前輪泥除けの上と、タンクの上に、養生用のタオルを置いてあります。

≪写真1右≫
  まず、ビス2本を抜いて、ライトを外します。 前輪泥除けの上に敷いたタオルは、ライト部品を載せる為のもの。 今回、ライトを弄るわけではないので、コネクター類には、触れません。

  分解の仕方は、ネットで調べれば、誰かか、詳しく書いてくれていると思います。 このブログでも、過去に、そこそこ細かく書いた事があるかも。

≪写真2左≫
  左右のボルト2本を外して、ライト・ケースを外します。 速度計と回転計のワイヤーを抜きます。 ビス3本抜いて、メーター・ケースを外します。 ナット3個を外して、メーターも浮かせます。

≪写真2右上≫
  ギア・インジケーター・ランプは、メーターの裏側に、ビス留めされているので、それ2本と、ケーブルを留めているビス1本を外します。 基板は、マイナス・ドライバーで、こじ開ければ、抜けて来ます。

  ランプが点いている基板を、メーターの下に引っ張り出して、後ろ側から見た様子。 「1」を、ゴム製のソケットごと、外してあります。

  まず、今まで付いていたLED球の脚に、シリコン・オイルを塗ってみましたが、一度は点いたものの、その後、点かなくなりました。 やはり、交換するしかないようです。

≪写真2右下≫
  交換しました。 今度は、問題なく、点きます。 このタイプのLED球は、ネットで売っている状態そのままだと、頭が擂り鉢状に窪んでいて、光が小さくなってしまうので、鑢とコンパウンドで削って、頭を平らにしてあります。

≪写真3≫
  ダンボールの上に置いた、部品、ビス、ボルト類。 分解順に並べてあります。 工具は、組みスパナと、差し替えドライバー、六角レンチなど、一般的なもの。 右上にあるのは、ダイヤル式ワイヤー・ロック。 左上の折り畳んだティッシュは、シリコン・オイルを浸み込ませたもの。 

≪写真4≫
  ギア・インジケーター「1」が、復活しました。 その内、また、切れてしまうでしょうが、そのつど、交換するしかありません。 「1」だけ、抵抗を付けていないので、切れ易いのだと思います。




【タイヤ空気圧点検 / ギア・インジケーター「1」LED球交換】

≪写真上≫
  2023年5月21日、車のオイル交換をした後、タイヤの空気圧点検もしたのですが、ついでに、バイクの方も、空気圧を見ました。 車は減っていませんでしたが、バイクの方は、4分の1くらい、減っていました。

  空気入れで、追加。 車やバイクの米式バルブでも、自転車用の空気入れで、普通に入れられます。 同じ空気入れを二つ買って、一つは、米式バルブ用、もう一つは、自転車の英式バルブ用にしています。 口金を切り替えていると、壊れ易いので。

  他に必要な道具は、空気圧ゲージと、入れ過ぎた時に、バルブの芯を押して、空気を抜く為の、+ドライバー。 空気入れに、ゲージが付いたものもありますが、あれは、おおまかな目安くらいにしかなりません。 空気入れが壊れたら、ゲージごと捨てなければなりませんし。 単独の空気圧ゲージは、壊れるようなものではなく、一回買えば、一生使えますから、買ってしまった方がいいです。 

≪写真中≫
  5月24日、また、切れてしまった、ギア・インジケーター「1」の、LED球を交換しました。 何度もやっていて、そのつど、紹介しているので、細かい説明は、割愛。 オン・ロード系なら、どのバイクでも、大体 似たようなものだと思いますが、ライトから外し、計器のワイヤーを外し、メーターの下カバーを外す、という手順です。 養生に、タオルを使っています。

≪写真中右下≫
  道具は、+ドライバーと、コンビネーション・レンチ・セット。 私のバイクは、ライト・ブラケットのボルトにヘキサ・ボルトを使っているので、ヘキサ・レンチも。 外した、ボルト・ナット・ビス類は、順番に並べておきます。

  組み直した時に、ライトの角度が気になると思いますが、特に、印を付けておかなくても、普通に見て、「こんなもんだろう」と、違和感を感じなければ、それで、OKです。 夜間に走る事があって、上過ぎとか、下過ぎとか、気になるようなら、後で修正すればいい事。

≪写真下≫
  交換なった、ギア・インジケーター「1」。 ギア・インジケーターは、最初からついていない車種も多く、なくても、問題ないんですが、買い置きのLED球が、まだあるので、それを使い切るまでは、交換し続けようと思っています。 LED球の脚に、抵抗をつければ、長持ちするのは分かっているんですが、私には、その加工をする技術がありません。




【ギア・インジケーター・ランプ「1」に麦球 / スニーカー当て合皮の貼り替え】

  2023年7月19日に、「岡宮1号公園」へ行った時、また、ギア・インジケーター・ランプ「1」が、切れてしまいました。 前回 換えたのが、5月24日だから、2ヵ月くらいしか もたなかった事になります。

  いい加減、LED球に愛想が尽きて、麦球にしてみる事にしました。 標準だと、麦球なのです。 元の状態に戻そうというわけですな。

≪写真1左≫
  アマゾンで、7月20日に注文し、22日に届きました。 アマゾンの緩衝封筒。 ゆうパケットで、郵便受けに入れられました。

≪写真1右≫
  100個入りのパッケージ。 699円のところ、アマゾン・ポイント11円を使って、688円でした。

  小さな箱で、本当に、100個も入っているのかと思いますが、面倒臭いので、数える気はありません。 たぶん、入っているんでしょう。 このパッケージの中は、直接ではなく、ビニール袋の中に入っていました。

≪写真2≫
  1個、取り出して、拡大。 径4ミリ。 12ボルト、12ワット。 脚は、長過ぎるので、7ミリくらい 切りました。

≪写真3≫
  7月24日の午前中に、交換作業をしました。 試しに、ギアを入れてみたら、ちゃんと、点きましたよ。 いかにも、電球的な色ですな。 ほんの一瞬、エジソンになった気分を味わった、と言ったら、大袈裟か。

≪写真4≫
  組み立て直して、インジケーターを撮影。 「1」が、点いているのが、分かるでしょうか。 この色は、赤ですな。 アマゾンの商品ページの説明では、「温白色」となっていたんですが、これは、「赤」でしょう。 別に、間違った品が届いたわけではなく、この色しかないようです。

  その日の午後に、プチ・ツーに出かけました。 炎天下の強烈な日差しの下でも、ちゃんと、点いている事は分かりました。 ただ、「2、3、4、5」が、白で、はっきり見えているのに比べると、明らかに、暗いです。 

≪写真5≫
  これは、バイク用にしているスニーカー。 去年の9月に、坂ゴケした時に、穴が開いてしまった所を、合成皮革を丸く切った当てもので、塞いであったのですが、半年 過ぎた頃から、縁が剥がれて来てしまいました。

  で、一旦、剥がして、新しく、当て合皮を切り、貼り直しました。 前回は、靴底修理ボンド(ゴム糊)を使ったんですが、今回は、Gクリヤーを使いました。 ゴム糊と違って、乾くと、ある程度 硬くなるので、剥がれ難くなるのではないかと期待しての起用です。




  以上です。

  いやはや、ギア・インジケーター・ランプ「1」に、いかに苦しめられているかが、如実に伝わって来ますな。 で、今現在、麦球でやっているわけですが、夏場で、日射しが強い事もあり、やはり、色が赤では、見難いです。 点いている事は分かるから、機能的には、問題ないのですが。

  もし、麦球が切れたら、LED球に、抵抗をハンダ付けしてみようかと、検討している次第。 えらい細かい作業ですが、ハンダ鏝を工夫すれば、できるかもしれません。 もっとも、これは、まだ、構想の域を出ていないのですが。

2023/10/01

読書感想文・蔵出し (108)

  読書感想文です。 一冊を除き、クリスティー文庫の短編集が続きます。 長くて、心底、申し訳ない。 今月の蔵出しも、一回だけなので、御容赦ください。





≪魔性の月光≫

角川文庫 6680
角川書店 1987年2月25日/初版
笹沢佐保 著

  母の本棚にあった文庫本です。 長編、1作を収録。 【魔性の月光】は、1983年に、カドカワノベルズとして刊行されたもの。 新書版の書き下ろしだった、という事でしょうか。 図書館から借りて来た本を、早く読み終えてしまい、母の本棚にあった、読んでいない本を手に取ったら、一気に読んでしまった、という次第。


  カメラマンをしている20代後半の女性。 親友から、「不倫相手の妻を殺してしまった」という告白を受けるが、その事件は、不倫相手の男と、その妻による狂言で、実際には、誰も殺されていなかった。 裏切られた形になった親友は、手切れ金を毟って、男と別れた。 ところが、今度は、男の妻が、本当に殺されてしまい・・・、という話。

  80年代というと、2サス・ブームが波に乗り、旺盛な需要に引っ張られて、推理作家達が、粗製乱造していた頃ですが、この作品は、有名な作者のものだけあって、粗製でも乱造でもなく、長編推理小説として、しっかりした結構を備えています。 ちなみに、笹沢佐保さんの作品で、有名なところというと、2サスのシリーズ、≪タクシー・ドライバーの推理日誌≫を挙げれば、「あーあ!」と、誰もが頷くんじゃないでしょうか。

  この作品は、アリバイ・トリック物で、東京から、長崎まで、かなりの距離を移動します。 本体は、アリバイ・トリックですが、特徴としては、動機の特殊性があり、「妻は、どうして、愛人を、別荘に迎え入れたか?」で、一旦、謎解きが詰まった後、捜査が行なわれ、その謎が解ける流れになります。 この、捜査で明らかになる事情が、些か、後出しっぽいですが、トリックの本体とは関係ないので、批判したくなるほど、違和感は覚えません。

  難があるとすれば、ヒロインのキャラでしょうか。 ヒロインの視点で話が進みますが、この人、別に、探偵役ではなく、ただの、色ボケ女。 たまたま知り合った、スペイン人の青年・農場経営者と、性関係になり、事件解決までの間、色ボケの限りを尽くします。 こんなヒロインて、アリか?

  で、そのスペイン青年が、探偵役なのですが、どうもねえ。 日本で生まれ育ったならともかく、大きくなってから来日した程度で、殺人事件の謎解きができるほど、日本語が達者になるような気がしませんなあ。 まあ、語学の習熟進度は、人それぞれですから、そんなところを突ついても、栓ない事ですが。

  推理小説部分は、明らかに、よく出来ている方ですが、官能小説部分があるのは、いかがなものか。 80年代だから、読者サービスという事で、出版社から、求められたのかも知れませんなあ。 なまじ、官能描写が巧いから、逆に、鬱陶しいとも言えます。

  作品の批評とは関係ない事ですが、作中に出て来る、男の妻の車、「コロナ・ハードトップ」は、たぶん、7代目コロナのハードトップだと思います。 角型デザインで、カッコいい車でした。




≪愛の探偵たち≫

クリスティー文庫 61
早川書房 2004年7月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
宇佐川晶子 訳

  沼津図書館にあった文庫本です。 短編、8作を収録。 【愛の探偵たち】は、元は、【三匹の盲目のねずみ・他】で、コピー・ライトが、1925年から、1948年になっています。 早川書房で、表題作を変えた上で、一作省き、再編集したもの。 本全体のページ数は、約352ページ。 ノン・シリーズ、マープル物、ポワロ物、クィン氏物の寄せ集め。


【三匹の盲目のねずみ】 約130ページ

  若い夫婦が始めたゲスト・ハウスに、予約が3名、飛び入りが1名、計4名が、初めての客として、泊まりに来る。 大雪で、外界と隔絶してしまったところへ、「殺人犯が、復讐の為に、客に紛れているかも知れない」と、警察から連絡があり、一人の警官がスキーを使って、乗り込んで来る。 ところが、犠牲者が出てしまい・・・、という話。

  ページ数からすると、短編というよりは、中編。 元は、ラジオ・ドラマ用に書き下ろした話らしく、その関係で、珍しく、中編になった模様。 中編は、中途半端になりがちですが、この作品は、そういう事はなくて、よく出来ています。 大雪で、宿に閉じ込められて、電話線まで切られてしまうという、些か、月並みな設定が、巧く活かされていて、ゾクゾク感を、存分に味わう事ができます。

  フー・ダニット物にしては、人数が少な過ぎで、なんと、宿の経営者まで、容疑者の頭数に入って来ます。 もう一人、最も怪しくない人物まで、容疑者になりますが、読み手によっては、アン・フェアと取られる危険性があります。


【奇妙な冗談】 約26ページ

  ある人物が、財産を遺すと甥や姪に言いおいて、他界したた。 甥・姪は、女優ジェーンから、マープルを紹介されて、宝探しをしてもら。 マープルは、現場を見て、いとも容易に、机の隠し物入れから、手紙の束を見つけ出すが・・・、という話。

  映画、≪シャレード≫ですな。 もちろん、こちらの方が早いですが、たぶん、このアイデアは、クリスティーさんが発祥ではなく、推理小説界で、多くの作家に使い回されていたものではないかと思います。 もし、オリジナルだったら、短編に使う事はないでしょう。


【昔ながらの殺人事件】 約30ページ

  仕立物師の女性が、仕事を頼まれて、ある家を訪ねたら、その家の夫人が殺されていた。 容疑は、夫にかかるが、マープルは、最初に現場に入った警官が拾った針に着目し・・・、という話。

  マープルは、人格を分類して、推理を進めるタイプですが、そのせいで、「この人は、人殺しをしたりしない」と、決め付ける癖があり、最終的に、それが、事実だと分かると分かっていても、何となく、気に障ります。 そういう事を言い出すと、マープル物は、楽しめなくなってしまうのですが。

  犯人と被害者の関係が、謎解きの段になって、初耳的に語られて、大いに、後出しっぽいです。 やはり、クリスティーさんは、短編を、軽く考えていたようですねえ。


【申し分のないメイド】 約28ページ

  言いがかりのような理由で、メイドを解雇した、姉妹の雇い主。 なかなか、後釜が見つからないだろう、という村の噂に反して、すぐに、申し分のないメイドが応募して来た。 ところが、そのメイドは、ある日、姿をくらましてしまい、同じ建物に住んでいる人達の貴重品が、ごっそり盗まれていた。 マープルは、引っ越して行った姉妹を追うように、警察に申し入れ・・・、という話。

  一人二役物。 二人の人物が、同時に人前に現れる事がない、という、アレですな。 短編で、さらっと書かれると、何だか、テキトーに、はぐらかされたような気分になります。 どうも、あまり、よい出来とは言えませんねえ。


【管理人事件】 約28ページ

  ヘイドック医師が、自分で書いた小説を、マープルに読ませ、謎解きをしてみるように求める。 金持ちの娘が、元不良青年と結婚して、青年の故郷にあった古い屋敷を建て替えて、住み始める。 元管理人だった老婆が、屋敷を建て替えて、自分達夫婦を追い出したのが気に入らないのか、顔を合わせるたびに、呪いの言葉を口にし・・・、という話。

  ノン・シリーズの長編、【終りなき夜に生まれつく】(1967年)の元になった作品。 入れ子式にして、強引に、マープル物に仕立ててありますが、マープル物にする必然性は、別段ありません。 犯人も同じなので、先にこちらを読めば、長編の方も分かってしまいますが、そういう人は、ほとんど、いないでしょう。


【四階のフラット】 約38ページ

  一緒に遊びに出た男女四人の若者達。 夜、女の一人の部屋に戻って来たが、鍵が見つからない。 やむなく、石炭用のリフトに、男二人が乗り込み、地下室から、上へ上がったが、階数を数え間違えて、一つ下の階の部屋に出てしまった。 その部屋で、死体が発見され、二つ上の階の住人、ポワロが登場し・・・、という話。

  全く偶然、死体を発見しただけなら、この面子では、推理物になりませんから、偶然ではないという事なり、となると、最初に死体のある階の台所に踏み込んだ時、電灯を点けなかったのはなぜか、という点が、問題になり、そこから、謎が解かれて行きます。 鍵はともかく、動機を示す手紙が、その場で発見されてしまうのは、些か、御都合主義ですが、ポワロのやり方が鮮やかなので、あまり、気になりません。


【ジョニー・ウェイバリーの冒険】 約28ページ

  誘拐予告があった後、警察が警備していたにも拘らず、予告日時通りに、あっさり、子供が誘拐されてしまった。 事件を持ち込まれ、現場の屋敷に乗り込んだポワロは、自信満々で、子供が無事である事を断言し・・・、という話。

  2サスで、よくあるパターン。 よくあり過ぎて、メインの事件ではなく、前座の事件に使われる方が多いほどです。 しかし、この作品は、書かれた時代も古いし、短編だから、めくじら立てる事もありますまい。 だけど、現代の読者が、こういう作品で、ゾクゾクするのは、無理な相談ですな。

  ちなみに、タイトルの、「ジョニー・ウェイバリー」とは、誘拐された子供の名前ですが、面白い事に、この少年、一回も顔を出しません。 このタイトル自体が、洒落なんでしょう。


【愛の探偵たち】 約44ページ

  サタースウェイトが、警察関係者の友人の家にいる時に、殺人事件の一報が入り、共に、現場へ向かう。 途中、軽い交通事故があり、相手の車に乗っていたのは、クィン氏だった。 三人で、殺人があった屋敷に行くと、屋敷の主が撲殺されていた。 妻は、「自分が撃ち殺した」と自白し、駆けつけた妻の友人の男は、「自分が刺し殺した」と自白した。 互いに、相手を庇っていると思われたが、クィン氏は、首を傾げて・・・、という話。

  大岡越前に、頻繁に出て来る、親子や夫婦で、互いを庇って、嘘の自白をするパターンは、イギリスでも、よく使われているようで、そのパロディーです。 普通は、庇い合っているだけだから、どちらも、犯人ではないわけですが、この作品では、もう一捻りしてあります。 クィン氏は、通常、危機にある恋人たちを救う為に登場するのですが、この作品は例外かというと、そうではなく、ちゃんと、救っています。




≪教会で死んだ男≫

クリスティー文庫 62
早川書房 2003年11月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
宇野輝雄 訳

  沼津図書館にあった文庫本です。 短編、13作を収録。 【教会で死んだ男】は、元は、二つの短編集、【負け犬・他】(1951年)、と、【二重の罪・他】(1961年)から選んで、早川書房で再編集したもの。 本全体のページ数は、約446ページ。 ポワロ物、マープル物、他、の寄せ集め。


【戦勝記念舞踏会事件】 約36ページ

  本格的な舞踏会で、貴族の男が殺され、その後、被害者と婚約の噂があった女が、自宅で、コカイン中毒で死んでいるのが発見された。 ポワロは、被害者の仮装した服から、糸玉が取れていた事や、死体が、死亡推定時刻よりも、硬直が進んでいた事などから、犯人による、すり変わりが行なわれたと見抜く話。

  結構、複雑な話でして、この程度の梗概では、説明できません。 36ページの短編に詰め込むには、内容が多過ぎ。 複雑過ぎて、トリックが捉え難く、読者の推理による謎解きなど、とても、無理です。 子供騙しは、すぐに分かってしまう一方で、この手の作品は、複雑過ぎて、分かり難く、どうも、クリスティーさんの短編は、バランス的に、問題が多いです。


【潜水艦の設計図】 約36ページ

  イギリスの国運がかかった、最新潜水艦の設計図が、大臣の屋敷から盗まれた。 依頼を受けたポワロは、屋敷にいた客や、大臣の家族に聞き取り調査をし、大臣の妻と、少し話をすると、さっさと帰ってしまった。 後日、大臣から、感謝の手紙が届く話。

  ホームズ物に出て来そうな、失せ物がモチーフの話ですが、なくなった思われたが、実は、なくなっていなかった、というパターンで、ポワロが、発見するわけではないです。 設計図の現物は、一回も出て来ません。 盗まれた事にしたのには、事情があったわけですが、その辺りに、どうも、政治家の事を、悪く書きたくない意識が感じられます。


【クラブのキング】 約38ページ

  演劇興業主の別荘から、隣家に駆け込んだ、女ダンサーが、「浮浪者が襲って来て、興業主が殺された」と訴えた。 ポワロは、殺人があった別荘と、隣家を行き来して、聞き取りや観察を行ない、事件当時、隣家の家族がやっていたブリッジの手を見て、異常に気づく話。

  カードの枚数が、一枚足りなかった事から、何時間もブリッジをやっていたというのが、嘘だと知れるわけですが、そこはまあ、いいとして、たまたま、隣に住んでいた家族が、別荘に来ていた人物と、濃厚な関係があった、というのは、偶然が過ぎるか。 言うまでもない事ですが、推理物に於いて、実際には起こり得ないような偶然が出て来ると、アンフェアどころの話ではなく、御伽噺になってしまいます。


【マーケット・ベイジングの怪事件】 約22ページ

  ポワロ、ヘイスティングス、ジャップ警部の三人が、田舎で休暇を過ごしていた時、地元の警官から、自殺か殺人か分からない事件が起きたと聞かされ、捜査に引きずり込まれてしまう。 自殺にしては、拳銃を持った手の位置が、傷口に合わず、ごく最近、その家に滞在を始めた夫婦者にも、怪しいところがあり・・・、という話。

  殺人事件と見せかけて、実は・・・、というパターンですが、尻すぼみな話になるので、普通、推理物では使われません。 しかし、さすが、クリスティーさん、うまく、話を成り立たせています。 見せかけた人物の動機が、巧みに工夫されていて、面白いです。


【二重の手がかり】 約26ページ

  宝石蒐集家が開いたパーティーで、宝石が盗まれる。 宝石が保管されていた金庫がある部屋に入ったのは、4人だけで、金庫には、手袋の片方と、「BP」と入ったシガレット・ケースが落とされていた。 ロサコフ伯爵夫人に目をつけたポワロは、ロシア語のテキストを勉強し始め・・・、という話。

  キリル文字と、ローマ字では、同じ形の文字でも、違う発音になるものがある、という、割とよく使われる謎です。 書かれた当時はいざ知らず、今となっては、2サス・ネタのレベルでして、どうにも、安直。 ロサコフ夫人のお陰で、何とか、格好がついている観あり。 この夫人は、ポワロ物に出て来るキャラクターの中では、変わり種で、罪を犯しても、ポワロが許してしまう事が多いです。


【呪われた相続人】 約30ページ

  先祖が残虐行為をしたのが原因で、「長男は、相続できずに、死ぬ」という呪いがかかっていると言い伝えられている一族。 現代になっても、長男に当たる者が、続々と死んで行く。 現当主の妻から、まだ、子供である長男を守ってくれと依頼されたポワロは、ヘイスティングスと共に、屋敷に乗り込んで行き・・・、という話。

  こういう呪いの言い伝えがあると、遺産を狙っている者達には、好都合で、代々、長男を殺しまくって来たんでしょうな。 ポワロが解決した件に関しては、犯人が、精神異常だった事になっていて、動機的には、確かに、ありえないような事をしています。 こういう異常者でも、殺人計画は立てられるのだから、怖い事です。


【コーンウォールの毒殺事件】 約34ページ

 歯科医の夫から毒を盛られているのではないかと疑っている夫人が、ポワロの下に相談に来る。 翌日、夫人の家を訪ねたポワロ達は、夫人が亡くなったと聞いて、驚く。 夫には、仲を疑われている看護師がおり、一応、夫人を殺す動機があった。 一方で、夫人の姪と、その婚約者がいて・・・、という話。

  真犯人の、「期する所の利益」が入り組んでいて、理解できると、「ああ、なるほどねえ」と、頷かされます。 デビッド・スーシェさんのドラマでも、この話は、印象に残っていました。 短編の中では、よく出来ている部類。 謎解き・犯人指名の場面での、ポワロと犯人のやりとりも、気が利いています。 ほんとに、よく、出来ているなあ。


【プリマス行き急行列車】 約36ページ

  プリマス行きの急行に乗っていた人物が、座席の下から、女の死体を発見する。 被害者は、富豪の娘で、賭け事好きの夫とは不仲。 昔の恋人と、近づきつつあった。 夫人は、当初の予定を変更し、乗り換え駅で、メイドを待たせ、先へ向かったとの事だった。 メイドの証言では、最後に、夫人と一緒にいる背の高い男を見たという事だったが・・・、という話。

  ポワロ物の長編、【青列車の秘密】(1928年)の原形短編。 ストーリーは、ほぼ、同じ。 短編としては、設定が細か過ぎるように感じられますが、こちらを書いていた時から、いろいろなアイデアが湧いて、いずれ、長編に書き直そうと思っていたのかも知れませんな。

  ヴァン・ダインの二十則に反しますが、こういう出来のいい作品を読んでいると、ヴァン・ダインの二十則の方がおかしいような気がして来ますねえ。 「この人物が犯人で、何が問題なのだ?」と、ほぼすべての読者が思うはず。 ポワロが、共犯者の事を、「小柄な男」と推測して、ジャップ警部を驚かせる場面は、痛快。 なぜ、小柄と分かったかというと、メイドの証言と正反対だから、というのが、明快で、素晴らしい。


【料理人の失踪】 約34ページ

  個人宅で雇っていた料理人の女が、突然いなくなってしまった。 女のトランクを取りに来る者がいて、辞めたようだが、あまりにも、急である。 その家の夫人から依頼を受けたポワロは、つまらない事件に、馬鹿馬鹿しいと思いつつも、調べて行く内に、その家に、有価証券を持ち逃げしてニュースになっている銀行員の同僚が、下宿していると分かり・・・、という話。

  デビッド・スーシェさんのドラマでは、この話が第一作でした。 タイトルは、「コックを捜せ」になっていましたが。 ドラマの製作者は、粋な選択をしたものですな。

  ホームズ物の【赤毛連盟】と同じで、犯罪をするのに邪魔になる人間を追っ払ったわけですが、この作品の場合、大掛かりな嘘の相続話をデッチ上げて、料理人を追っ払い、手に入れたかったものが、あまりにも、つまらないものなので、大いに驚かされます。 クリスティーさん一流の、パロディーなんでしょうな。 凄い洒落。


【二重の罪】 約36ページ

  列車の替わりに、バスで、保養地へ向かう事になった、ポワロとヘイスティングス。 車中で出会った若い女性は、叔母が営む骨董商で働いていて、高価な細密画を、客の所に運ぶ途中だった。 ところが、彼女のトランクから、細密画が盗まれ、別人の手によって、客の元へ届けられて、代金が支払われてしまった。 盗品なので、客は、骨董品店に、細密画を返さなければならなくなったが・・・、という話。

  犯罪のアイデアが、妙に凝っています。 こんな事を思いつくのは、本物の犯罪者だけなのでは? これは、実際に起きた、同類の事件があって、そこから、頂いたんじゃないですかねえ。 ただ、どんなに巧緻な犯罪アイデアであっても、こんな事を繰り返していれば、店は、信用を失って、すぐに潰れてしまうでしょうな。


【スズメ蜂の巣】 約24ページ

  知人の家へ、ふらりとやって来たポワロ。 殺人事件の捜査に来たが、まだ起こっていない事件で、未然に防げれば、それに越した事はないと、奇妙な事を言う。 知人の家の庭には、スズメ蜂の巣があり、知人は、恋敵の男に、駆除を依頼していた。 知人は、駆除に、ガソリンを使うべきだと主張していたが、その男は、薬局で、青酸カリを買う様子が目撃されており・・・、という話。

  犯人がしようとしているのは、殺人そのものではなく、犯人によって陥れられた人物が、死刑になる事によって、殺人が行なわれるという、凝った計画です。 クリスティーさんは、読者に目晦ましを仕掛ける技術に、図抜けた才能を発揮する時がありますな。 この作品が、正にそれで、短編とは思えないほど、よく練られています。 素晴らしい。


【洋裁店の人形】 約46ページ

  経営者のほか、数人が働いている洋裁店。 いつからか、ぐんにゃりと締まりがないが、妙に存在感がある人形が置かれるようになった。 ソファの上に置いておくと、誰も触っていないのに、他の場所へ移動している。 部屋に鍵をかけたが、やはり、移動は止まらない。 経営者は、気味が悪くなって・・・、という話。

  これは、推理物ではなく、オカルトです。 怪奇小説と言えば、怪奇小説ですが、ラストでは、純文学的な余韻が残ります。 店の者が、誰一人、この人形を可愛がろうとしなかったというのは、人形側からすれば、残酷な話。 最終的には、外部の者の手に渡りますが、たぶん、そちらでは、普通の人形として扱われ、怪奇現象も起こらないのでしょう。


【教会で死んだ男】 約48ページ

  教会の敷地内で、銃撃を受けた男が発見され、手当ての甲斐もなく、絶命する。 いまはの際に「サンクチュアリ」、「ジュリアン」という言葉を遺していた。 男の親族と名乗る夫婦が、遺品を取りに来るが、男が着ていた背広に拘る様子を奇妙に思った牧師の妻は、背広を渡す前に調べ、隠してあった手荷物預り証を抜き取っておいた。 それを、マープルの所へ持ち込んだところ・・・、という話。

  田舎の教会で死体、というのは、いかにも、マープル物的な舞台設定で、嬉しくなってしまいますな。 ただし、この村は、マープルの住んでいる村ではありません。 また、この作品でのマープルは、ロンドンに滞在しています。

  ちょっと、死んだ男の遺した言葉や物が、多過ぎる感あり。 これだけ、手がかりがあれば、マープルでなくても、解決できるでしょう。 舞台設定は良いけれど、謎の練りが、今一つ。 ちょっとしたアクション場面があるのは、足りないところを補おうとしたのかも知れません。




≪クリスマス・プディングの冒険≫

クリスティー文庫 63
早川書房 2004年11月30日/初版
アガサ・クリスティー 著
橋本福夫・他 訳

  沼津図書館にあった文庫本です。 短・中編、6作を収録。 【クリスマス・プディングの冒険】は、コピー・ライトが、1960年になっています。 本全体のページ数は、約400ページ。 ポワロ物、マープル物の寄せ集め。


【クリスマス・プディングの冒険】 約96ページ

  ある国の王子がイギリスに持ち込んだ宝石が、遊び相手の女に持ち逃げされた。 その女が正体を隠して潜んでいると思われる屋敷に乗り込んだポワロ。 クリスマスの夕食に、皆に分けられたプディングの中から出て来た宝石を、こっそりと、ポケットに入れた。 夜半、ある男が、ポワロの部屋に忍び込んで来て・・・、という話。

  ある国の王子というのは、話の箱に過ぎません。 ポワロに、失せ物探しをやらせるには、のっぴきならない理由が必要だから、つけただけ。 デビッド・スーシェさんのドラマでは、その王子が印象的でしたが、本来は、話の中心とは、関係がないです。

  プディングの中に、いろいろな物を入れて、それが当った人は、それ特有の運命が待っている、という余興でして、この頃のイギリスでは、そういうクリスマスの風習が一部に残っていたようです。 「ベルギーでは、クリスマスは、子供の為のもの」という情報が、興味深い。 同じヨーロッパでも、違いがあるんですな。

  屋敷にいる子供達が、ポワロに一杯食わせようと、偽の殺人事件を計画するところが、面白いです。 まんまと騙されたポワロが、その後、余裕で逆転するところも、痛快。 しかし、この被害者役の女の子、後で、他の子達から、裏切り者扱いされてしまうんじゃないでしょうか。


【スペイン櫃の秘密】 約90ページ

  ある夫妻が、パーティーに招かれたが、夫が急に行けなくなり、妻だけが出席した。 翌朝、夫が、パーティーがあった家の客間に置かれた、大櫃の中で、刺し殺されているのが発見され、その家の主が逮捕された。 主は、被害者の妻と、いい仲になっていた。 ポワロが、乗り出して、解決に当たる話。

  この作品は、短編集、≪黄色いアイリス≫に入っている、【バグダッド大櫃の謎】を増幅して、書き改めたものです。 ヘイスティングスが出て来ないにも拘らず、3倍弱の長さになっています。 デビット・スーシェさん主演のドラマでは、こちらが原作だったんですな。 主な部分は、共通してますけど。


【負け犬】 約124ページ

  貴族の事業家が別荘で殺され、前の晩に口論をしていた、甥が逮捕される。 秘書が犯人だと主張する被害者の妻から依頼を受けたポワロが、別荘に長期滞在し、犯人を追い込んで行く話。

  短編と言うには長過ぎで、明らかに、中編。 フー・ダニット物で、真犯人以外にも、怪しい人間が、数人 出て来ます。 ちょっと書き足せば、長編にも出来たと思いますが、あまり、出来がいい話ではないので、書き改める対象にならなかったのかも知れませんな。 特に、結末が悪い。 ヴァン・ダインの二十則に抵触している点に目を瞑っても、この犯人では、捻りが足りません。

  登場する面々に、怒りっぽい人物が多い中で、最も怒りっぽくない人物を、ポワロが捜していたというのが、大きなヒントになります。 その点は、この作品独自のアイデアなのですが、どうも、ストーリーに巧く当て嵌まっていない、もどかしさがありますねえ。

  面白いのは、催眠術が聞き取りに使われている事で、この作品、1926年の作だそうですが、その頃だからこそ、使えた手ですな。 催眠術で、真相が分かるなら、その後の推理小説は、みーんな、催眠術ネタになってしまったでしょう。


【二十四羽の黒つぐみ】 約32ページ

  長年、同じレストランで、同じメニューを注文していた高齢の人物が、ある時、それまで食べなかった物を、三種類も注文し、食べて行った。 その後、彼が、転落死した事が分かる。 彼には、双子の兄と、甥がおり、兄は長く患っていたが、先に死んだ妻の遺産があって・・・、という話。

  ポワロは、知人と、そのレストランで食事をしていて、会話の中で、たまたま、その人物の話題が出たという導入部。 その後は、依頼者なしの捜査です。 金に困っているわけではないから、そういう事もやるわけだ。

  クリスティーさんお得意の、なりすまし物ですが、男の場合、長期間、なりすますのではなく、ほんの短時間、一回だけ、化けるというパターンが多いですな。 何を注文すべきかまで考えていなかったのは、犯人の粗忽さを表しています。 気の利いた話で、ホームズ物に出て来ても、いいようなアイデア。


【夢】 約52ページ

  富豪の要請で、屋敷を訪れた、ポワロ。 相談内容は、自室で、ピストル自殺する夢を、繰り返し見るというものだった。 ポワロが、現場になる部屋を見せて欲しいというと、それは叶わず、帰されてしまう。 一週間後、富豪がピストル自殺したという連絡が入る。 ポワロは、生前の会見で感じた、不可解な点に引っ掛かり・・・、という話。

  気が利いた話です。 短編用のアイデアとうのは、あるものなんですな。 長さとアイデアのバランスが絶妙。 容疑者を追加し、心理描写で水増しすれば、どんな短編でも、長編にできますが、アイデアは、水増しが利かないから、違和感が出てしまいます。 短編として、完成度が高いから、書き改めるような事をしなかったのでしょう。

  これ話でも、ポワロは、タダ働き。 警察は、ポワロが絡んでくれれば、確実に解決するから、楽でいいですな。 犯人は、ポワロを、証人として利用したわけですが、実力を知っていれば、それが、どれだけ危険な事か、分かったでしょうに。 無知とは、怖いものです。


【グリーンショウ氏の阿房宮】 約60ページ

  ある男が、一代で財を成し、驚くような豪邸を建てたが、その後、零落し、今は、子孫の女主人が、僅かな使用人達と住んでいる。 女主人は、建物に興味があって訪れたマープルの甥、レイモンド達を、遺言書の立会人にした。 その後、日記を整理する為に雇われた、マープルの親戚の女性が見ている前で、矢で射られて、殺され・・・、という話。

  なりすまし物。 なりすまし物に、うんざりしている人達を除き、大抵の読者は、良く出来た話だと思うと思います。 レイモンド達が会った女主人と、その後に出て来る女主人が、別人という点が、ゾクゾクしますな。

  「阿房宮」は、秦の始皇帝の宮殿ですが、原題では、「Folly」となっていて、「馬鹿げた大建築」の意味があるそうです。 阿房宮自体は、超大国の天下人の宮殿なので、大きくて、当たり前。 別に、馬鹿げているわけではありませんが。



  ≪クリスマス・プディングの冒険≫の総括ですが、【負け犬】はさておき、他の5話は、よく出来ています。 ≪ポワロ登場≫あたりと比べると、同じ作者の手とは思えないほど、レベルが高い。 短い、【二十四羽の黒つぐみ】でも、完成度は高いです。




  以上、四冊です。 読んだ期間は、2023年の、

≪魔性の月光≫が、7月12日から、13日。
≪愛の探偵たち≫が、7月18日から、20日。
≪教会で死んだ男≫が、7月20日から、23日。
≪クリスマス・プディングの冒険≫が、8月2日から、6日。

  短編というのは、感想なんか書かずに、夜、眠る前に、横になってから、一作だけ読むというのが、本来の楽しみ方なんでしょうなあ。 図書館の本を、寝床で読む気にはならないので、買うよりも借りる方が圧倒的に多い私には、なかなか、できない事です。